1
私は23歳になっても恋愛経験が皆無だった。女友達とプールやキャンプ、バーベキュー、テーマパーク、海外旅行に行くことが楽しかったのだ。
「鈴は彼氏ほしいとか思わないの？」
そう訊かれたこともあったけれど、なにしろ女友達と遊ぶのが楽しすぎて、恋人なんていらないと思っていた。
大学卒業後は家電量販店に就職する。販売員として、いかにお客様に家電を買ってもらうかということを意識しながら接客していた。入社して3ヶ月が経ち、私に仕事を教えてくださる教育係の大室博之さんからある誘いを受けたのだ。
「村岡さんと2人で話したいこともあるし、仕事終わりに飲みに行かない？」
私は大室さんが独身で特定の彼女はいないことは知っていたし、12歳離れていたものの、嫌いではなかったので誘いを了承した。
仕事終わりに大室さんと飲みに行くことになる。お酒の勢いもあり、大室さんは自分の過去について話し始めた。子どもはいないが、離婚歴があること。元奥さんと価値観が合わず、2年で離婚したこと。
大室さんと元奥さんはお互いに子どもがほしくて結婚したはずだった。しかし元奥さんは「不妊治療に高いお金や莫大な時間を費やしても良いので子どもがほしい」という想いがあったのに対し、大室さんは「自然妊娠できなければ仕方がない。子どもができなかったらできなかったで、2人で過ごすのもありではないか」という考え方の違いがあったのだそう。今まで問題なく過ごしていたのに、子どもへの考え方の違いで喧嘩が絶えなくなったという。それで痺れを切らした元奥さんが離婚を切り出し、実家に帰ってしまったそう。
私は大室さんの話を聞いて「大変だったんですね……」と同情した。他にも元奥さんの悪口が出てくるかと思っていたけれど、大室さんは「元奥さんに寄り添ってあげられなかった俺も悪いと思う」と過去の離婚を反省している様子だ。
「こんな若い子に離婚の話とかしてもわからないよな……。俺の話に付き合ってくれてありがとう。ところで村岡さんは彼氏とかいるの？」
話のターンが私に回ってくる。
「実は彼氏いたことないんです。学生時代は女の子と遊ぶのが楽しかったので、別に彼氏はいらないかなって思ってて」
私が打ち明けると、大室さんはすごく驚いていた。
「村岡さん可愛いのに、彼氏いたことないの？」
「はい、いない歴イコール年齢です」
大室さんは私が今までに彼氏がいたことないと知ると、どこか嬉しそうに見える。近々告白されそうだなと悟った。私も大室さんのことは嫌いではないし、付き合っても良いかなという気持ちがあったのだ。
