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夜道

作者: SPECIAL BAY

今日は散歩に出かけた。



夕暮れ時。

桜桃色の世界が徐々に闇に包まれていく。

その中を僕はただ歩いている。



しばらく歩けばすっかり陽は沈んだ。

田舎の夜道はとても暗い。

人通りの少ない道を街灯の明かりだけが照らしている。



僕の名は灯雫ピダ

ただ夜道を歩いている。

あてもなく歩きたい気分になって、彷徨うように足を進めている。



ふと、立ち止まって進路を右の方へうつす。

吸い込まれるように街灯のある通りから細い道に入った。

その道の先はまるで暗黒の世界へと続くように灯りのひとつもない。

そんな道の上を好奇心で突き進んだ。



僕は方向感覚があまり良くない。

知らない道に入れば、すぐにどこにいるのか分からなくなる。

近所であっても。

しかし、それが逆におもしろい。

どんなに近所であっても知らない道に入れば、迷い道。

冒険をしているようなわくわくした気持ちになれるのだ。

どこに続いているのかが気になって歩いていた。



今は夜。

街灯のない道は足元がほとんど見えない。

ちょっと気を抜けば転びそうである。

靴にあたる荒れたアスファルトが痛い。

とても歩きづらい。



星は綺麗である。

今日は晴れていて星がたくさん輝いている。

なんて美しい夜空だろう。

知っている星座の形が瞳で切り取られる。

中でもオリオン座はものすごい存在感で

こちらに堂々とアピールしているみたいだった。



当然、あれらの星はこの宇宙にある星のほんの一部だ。

見えない星ばかり。

宇宙には無数の星がある。

まるで悲しみの数のように。

誰にも見えない無発光の星に生命が宿るのだから、

悲しみはもっと多くあるに違いない。

見えない悲しみばかり。



こんなに暗い世界では月の明るさを強く感じる。

月明かりに照らされて周りの景色がぼんやりと薄暗く見える。

しかし、月自体が照らしているわけではない。

月が自ら光を放つことはない。

太陽に照らされた月が世界を照らしている。

もしかしたら誰かを優しく照らす光は

必ずしも自分の光とは限らないのかもしれない。




少し過去のことを考える。

味のなくなったガムのような現在。

それに飽きてしまったのか味が残っていた過去を思い返す。

日々、走馬灯のように。



あれは小学生の頃。

誰にも理解されないと逃げ出した。

一人で泣くことの悲しみを感じていた。



それなのに

僕は最低だ。



あの子を傷つけてしまった。

あの子は行き場もなく泣いていた。

しかし謝ることすらできなかった。

自分さえ悲しみから遠ざかればいいと思っていたんだ。

僕は最低だ。



あれは中学生の頃。

消しゴムを拾ってくれた子が微笑んだ。

その輝く笑顔が心から離れなくって。

恋心を消しゴムで消すことができなかった。

誰かと話すあの子を見るたびに嫉妬していた。



しかし、

僕は臆病だ。



結局、想いを伝えることはできなかった。



初恋の淡い想い出。

青春の少し愛おしいときめき。

僕は臆病だ。



今。

夢も希望もなくして田舎の暗い夜道を歩く。

まさに先の見えない暗闇の中にいる。

僕は絶望だ。



あの日にあったはずの熱量は冷めてしまった。

冷えきった心で凍えながら生きている。

温まる術を知ろうとするが、知れば知るほど意味を見失う。



不器用な僕は何もできないだろうと思うと

何もできなくなった。

中途半端な僕は完璧からは程遠いだろうと思うと

何もかもが中途半端になった。



僕はそんな風にどうすればいいのか分からない状態なので、

とりあえず歩いている。

僕は絶望だ。



つまり。

最低で、臆病で、絶望的な自分。



そう思うと笑えてしまう。

なんて一喜一憂の繰り返しなのだろう。

自分をまた正当化したみたいだ。

幸いにも誰もいない暗闇の中だったため、

誰からもその笑みは見えなかっただろう。




道の向こうに小さな街の明かりが見える。

周りが真っ暗なのでとても輝いて見える。

こんなに光は美しいのだなと思った。



絶望の暗闇の中から

希望の光へ向かうには

自分で歩くしかない。

希望の光を信じて歩くしかない。

歩き出すことが大切だ。



地獄に堕ちたなら、堕ちたなりに

そこから冒険だと思って歩き出さなければならない。

むしろ、楽しむくらいに進んでいかなければならない。



そうだ、歩き出そう!

今から変わるんだ!



そう思って僕は暗い気持ちを入れ替えて、

力強く次の一歩を踏み出す。

これが人生の大きな一歩になるようにと。

きっとこれで新しく変われるんだ。



そう思った瞬間、汗が溢れ出した。

体が思ってもいない方向に前のめりになる。

倒れたくないと体勢を立て直す。

なんとか持ち直した。

何が起きたのだろう。

すぐに普通通りに歩けるようになった。



ただそれは転びそうになっただけだった。

暗闇の先の段差につまずいただけだった。

気分が乗ってきたのにどうもうまくいかない。

この道は危険がたくさんだと思って、

それからは足元に注意して歩くようにした。




僕はふと歩き疲れて立ち止まった。

どこに続くのか分からない夜道の途中で。

自分の好奇心で暗い夜道を歩き始めたのに疲れてしまった。

まだ夜は始まったばかり。

立ち止まって夜空を見上げた。

目に見えない悲しみが涙とともに溢れていた。



いつか、この暗闇を抜けられるだろうか?

どこまでも続く暗闇。



早く帰りたい―


読んでくださってありがとうございます!

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