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049 最善の剣

「ボクも治癒魔術には自信があるんだ。……キミほどではないけれどね」


 全身に呪文を巻き付けながら、フリエはぽつりとつぶやいた。

 噛み千切られる、という対人間とは思えない損傷を受けて血だらけの彼女だが、アルフェよりはずいぶんとマシだ。


 彼女はフリエよりも厳重な呪文を傷に巻き付け、ベルのふさふさの毛皮に包まれて横たわっている。


 内臓が逝くようなヘマをするフリエではないが、骨くらいなら割と景気よくへし折っていた。


「身体強化くらい使えばよかったのに」

「実践剣術では使えませんので」

「……それでボクを打倒するつもりだったと」

「いえ。……これまで戦ってきたのは私も同じですから」

「だったらどうして……」


 頭を抱えるフリエ。


 アルフェは勝てるなどと思っていなかった。

 それだけの実力差を、実感できる程度の実力はある。


 だが挑んだ。


 勝つつもりで。

 全力で。


 そして負けた。

 全力で。


「ねえ。……まだ、目指すのかい」

「当然です」

「ボクにさえ勝てないキミが?」

「指標がひとつできました」

「そこまでくると妄執だね……」


 呆れるフリエにアルフェは笑う。

 なんと呼ばれようと関係はない、揺るがない。

 そうと決めたのだ、だからそれをやるだけだ。


「これだけ痛めつけたからもう二度と襲ってこないなんて、期待してもいいかい」

「どうぞご自由に」

「……キミも自由にするから?」

「ええ」

「風紀委員会が聞いて呆れるね」

「では通報でもなんなりと」

「キミって最悪だよ」


 顔をゆがめるフリエ。

 この期に及んでもまだいけしゃあしゃあと言ってのけるその胆力がいっそ恐ろしい。


「……それはボクも同じか」


 この期に及んでまだ通報なんて考えていないのは自分もまた同じだ。

 アルフェはそれを見透かして、利用している。

 目的のためならば……自分のためならば他人のことなど意に介さないその盲目的な熱意は―――ああ、少しだけ、似ている。


「ボクはね……」


 だからフリエは、こぼす。

 それはどこか懇願にも似ている。


 お願いだからボクの目の前で、


 また苦しんだりしないでくれ。


「友人をひとり、壊してしまったことがある」


 ふらりと突き出す手。

 広がった術域に呪文が描かれる。

 それはアルフェをして見覚えのまったくない呪文。


 現実するは―――剣。


 揺らめくオーロラのような、七色の剣。

 この世界のすべての人間が思い描く剣というイメージのどれにも似ていて、一目見ればきっと、次からはそれを真っ先に想起する。


 それはまるで、剣という概念がそこに実体しているかのようだった。


「ボクは旧王国第一貴族―――『()()()()』ソルダ家が長子。フリエ=ファス=ソルダ」


 ボクは天才だった。


 彼女の過去は、そんな一言から始まった。

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