第一話「帰ってきた男」前編
前作、「暗黒竜王の娘を報酬に?異世界なめてんじゃねぇよっ!」
を書き終えて半年以上たちました。
今回はファンタジーでなくて現代ものです。
ちょっとラブコメっぽいものをと考えてますが……
どうでしょうか?( ̄。 ̄;)
よろしくお願いいたします。
第一話「帰ってきた男」前編
「成金の馬鹿息子がっ!下賤の出が我ら名家と同じ空気を吸うなよっ!」
ドカッ!ガスッ!
俺は豪快に”子供キック”を喰らってゴロゴロと地面に転がった。
「庶民の分際で!よりにもよって”さおり様”に近寄るなんてなっ!」
バキッ!
そしてなんとか膝立ちに起きた俺に今度は”子供パンチ”が唸りを上げて顔面にヒット、途端に視界に火花が散った!
――は、鼻が……痛くて熱い
患部を押さえた手のひらから伝った液体がパタパタと地面に落ちて、そこに赤い滴の花が咲く。
「ち、ちがうって……それは……ご、誤解で……」
たかが”子供キック”と”子供パンチ”だと侮る勿れ、そんな児戯でボロ雑巾のようになって半ベソをかくのは……
「黙れよ、庶民っ!!」
バキっ!
「ぐはっ!」
――それは俺も”子供”に他ならないからだ
ドサリッ!
子供らしいと言えば子供らしい無邪気なほど残酷で容赦無い責め、
地面に蹲ったままの俺を複数人で取り囲む悪魔の手によってその日の俺は……
――
―
散々にボコられた。
「ぅ……ぁぅ……」
何度も何度も殴られ、蹴り回され、そして無理矢理に全裸にされ、何に対しての懺悔なのか?意味不明で無様な土下座もさせられた。
そしてゴミ屑の様に地ベタにへばりついた俺、体も心も撃ち拉がれた俺に……
「さおり様、コイツこれからどうします?」
俺を殴っていた集団のリーダー格である少年が、少し離れた所で退屈そうな雰囲気でベンチに腰掛けた少女にお伺いをたてた。
「…………」
綺麗なリボンに装われた、艶のある美しい黒髪ロングヘアー、
美術品の域まで完成された西洋人形を連想わせる、白く白く輝く肌ともぎたての石榴の様に瑞々しい赤い唇。
――そして
「…………そう……ね」
彼女の双瞳はまるで夜闇の天蓋に鏤められし幾千の凍る銀光、
――天の川銀河、”銀光の流路”
一目で生粋のお嬢様だと理解させられる気品溢れる美少女は、退屈そうに腰掛けたままで、まるで今初めて”その事”に気づいたかのように此方を一瞥した。
「…………乗馬の時間だわ」
そして本当に興味なさげにそう言うと、希有な美少女はぴょんとベンチから降りて背を向ける。
「……」
眼中にないなんてものじゃない。
彼女にとって俺は同じ世界の住人でさえないようだった。
その時の俺は、遠ざかる小さい背を……
泥と血に塗れた俺は、ただ呆けて見送るだけだった。
――なんにしても、この場はこれでおわ……
「よぉぉしっ!じゃぁ次は”はりつけの刑”だぁっ!!」
「待てよ、それより、このまま女子達がお茶会してるテラスまで連行して笑いものにしようぜ!」
そんな希望が見えたのも束の間……
もう暫く、その日の俺の地獄は終わりそうに無かったのだった。
第一話「帰ってきた男」前編 END