春 諦められない気持ち 6
「……あ、ぁアロイス……?」
アロイスは私を抱きしめ、私の肩に顔をうずめていた。
(こんなアロイスを、私は知らない。どうしたら、いいの……?)
パチンっ!
「い、いったぁ〜」
「ばぁーか。そんな顔、すんなって。ナラノと俺は、腐れ縁の友達だろぉ〜?」
戸惑う私のおでこを、アロイスが軽くデコピンをした。
アロイスに抱きしめられていたのは、たぶん一瞬だ。
でも、私にはまるで長い時間、アロイスに抱きしめられていたように感じた。
(そ、そっか。アロイスは腐れ縁の幼馴染だもんね。そうだよ、どうして私は、…………一瞬アロイスが男の人に見えたのだろう?)
「うぇぇ。アロイス、ひどいよ〜。いきなり抱きついてくるんだもん、私、びっくりしちゃったよ〜!」
「へへへっ。わるいわるい。いやさ〜、早足って疲れるんよな〜
疲れたな、って思った時に、ちょうどいい高さの花があったからさ〜。ついっ、な? あー、ナラノ、お前、俺の花の適正ありだぜ?」
(あ、そっか。そういうことか。……私ったら、変な勘違いをしちゃうところだった)
「えー。それじゃ、私、アロイスの花ってこと〜?」
「おぅ! そうだぜ! アロイス様の花になれるなんて、他の女子からお前妬まれんなぁ〜?」
「えー、そんなの嬉しくないよ〜。」
「照れるな、照れるな〜」
「照れてないよ〜。はぁ……、もう勝手に言ってなさいよ。」
「へへっ、あんがとさんっ! じゃ、ナラノは俺の花に決定な‼︎」
「もー、はいはい、勝手に言ってなさい、ばかアロイス。」
「おぅよ!」
アロイスは嬉しそうに笑っていた。
そう私といいあうアロイスには、さっき私が抱きついてきたような男らしい雰囲気はもうなかった。
(……やっぱり、さっきのアロイスは私の見間違いなのかも。)
普段の腐れ縁の幼馴染に戻ったアロイスと、私は冗談を言い合いながら、花畑の花を見て楽しんだのだった。
―――――
翌日。
「――――で? フランツ先生とは、どうなりましたの?」
メアリアが私に抱きつきながら、聞いてくる。
「メアリア、抱きつきすぎ。ちょっ、変なとこに手が当たってるから!」
「まぁっ、女同士でしょ? それに、ナラノの大きすぎる胸が悪いのですわ! この、このっ!」
「ん、んんっ!……って、メアリア、いい加減にしなさーいっ!」
私の胸を揉み始めたメアリアを私は嗜めた。
――たしかに私の胸はメアリアより育っていて大きい方だと思う。
そして、メアリアが自分の胸のサイズが小さいかも、と気にしているのも知っている。
でも、私から言わせてみれば、胸が大きくても肩が凝るだけだ。
それに、メアリアも平均的な胸の大きさはあるんだから、そんなに気にしなくてもいいと思う。
メアリアは、私が持っていないような魅力が他にも沢山あるし、とてもスタイルが良くて美人なのだから、気にしなくてもいいと思う。
私たちが少し過激に戯れている間、メアリアの護衛で、私の幼馴染でもあるクレイグは、ほんのりと顔を赤らめながらちょっと激しめのスキンシップをするメアリアと私からそっと視線を外してくれていた。
(クレイグぅー! あなた、メアリアの護衛なら、主人のいきすぎたスキンシップを止めてよ〜‼︎)
「はーい、メアリア。スト〜ップ!」
メアリアを止めてくれたのは、クレイグじゃなくて、アロイスだった。
「なっ……、また邪魔するんですの、アロイス! わたくしとナラノのいちゃいちゃタイムをまた邪魔するなんて……!許せませんことよ?」
同じクラスのアロイスが、暴走気味の王女メアリアを止めてくれた。
「んー。 しゃーねーだろぉ? メアリアが暴走しちまって止められるのは、俺くらいだろ? ……クレイグは、照れて役に立たなさそうだしな。」
「んまぁっ! アロイス、あなたわたくしの幼馴染だからって、ナラノとの時間を邪魔するのはだめだって、いつも言っているでしょうっ!?」
「ん〜、そうだったっけなぁ?」
わかりやすくアロイスがとぼけた。
「んまぁっ! これだから、アロイスはっ!
――もうっ、ナラノ、お馬鹿なアロイスはほっておいて、2人であっちに行きましょっ!」
ペリクレス貴族学院とはいえ、メアリアがアロイスにここまでの無礼を許してるのは、アロイスが幼馴染でメアリアがなんだかんだと許しているからだからだ。
いくら、ペリクレス貴族学院が、『学院にいる間は身分に関係なく接することが許される』といっても、やはりメアリアは特別だし、身分差はあるものだからね。
さすがに、ペリクレス王国の王女であるメアリアにここまで気安く接して許されるのは、幼馴染の私とアロイス、そして幼馴染のくせに護衛だと言い切るクレイグくらいなものだけど。
――まぁ、そもそもクレイグがメアリアにそんな無礼をするとは思えないけどね。
「――――なるほど、そんなことがありましたのね。……へぇ、あのアロイスが……」
「あ、アロイスはただ早足をして疲れただけで、私を花と勘違いしただけみたいなんだよ。だから、アロイスは何も悪くないからね?」
メアリアに、ペリクレス貴族学院の人気のない所に連れて行かれた私は、フランツの魔法研究室に行った時のことを洗いざらい話した。
「まぁまぁっ! ナラノのその様子では、アロイスも報われませんわねぇ。 けれど、わたくしとしましては、そのままナラノはわたくしだけのナラノでいてほしいので良いんですけれど……」
「へ? メアリア?」
「だから、わたくしがナラノを愛してる、ということですわ!」
「えぇっ。じゃあ、フランツとのこと、応援してくれないの?」
「あら、それはもちろん応援しますわよ。でも、それはそれ。わたくしの気持ちの話では、親友のナラノにはずぅーっとわたくしだけのナラノでいてほしいって話ですの!」
ほんの少し寂しげに話すメアリア。
「え? そんなの、当たり前だよ? ずっと、メアリアと私は親友だし、私もメアリアが好きだよ!」
「っ!! まぁっ! 嬉しいですわっ! ナラノ!」
「っ! うわぁっ、メアリアっ!」
メアリアがまた私に抱きついてきた。
嬉しそうに抱きついてくるメアリアは、いつもより抱きつく力が強めだった。
(うっ……ちょっと、苦しい。けど、私もメアリアが好きだから、嫌じゃない。)
やり直しの前の世界もメアリアは好きだった。
でも、やり直しの世界でも、メアリアはメアリアで、私の大好きな親友なんだよね。