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春 諦められない気持ち 3



 ペリクレス貴族学院では、6年生になると『係』を持てるようになる。


 まぁ、何も係をしない人も多いんだけど、係をやった方がやっぱり色々と勉強になる。だから、私はやり直しの前の世界でも係をやっていた。




 やり直しの前の世界では、私は『図書係』になった。


 元々、本が好きなこともあって、図書係としての活動はやりがいがあった。 本を読んでいるときだけは、嫌なことやストレスがあることを忘れられるから。





 ――そう。フランツとのうまくいっていないことを忘れられるのだ。





 ちなみに、フランツの魔法研究室を担当係もある。


 やり直しの前の世界で、私がフランツに嫌われてなければ、本当に入りたかったのは、この『魔法研究係』だ。

 魔法研究係になれば、教師として頑張るフランツをこんな私でも手助けできるからね。



 でも、やり直し前の世界で魔法研究係をしていたのは、私の友人で、将来フランツと結婚することになる――――()()()だった。







 でも、今は、このやり直しの世界では、諦めずにフランツがいる魔法研究係をしたい。


 フランツにこれ以上嫌われるのは嫌だけど、でも、やっぱりフランツのそばにいたい。

 矛盾してる行動だし、子どもだって言われるかもだけど、私だってフランツの役に立ちたい。







 ――親友のメアリアの協力のおかげで、ペリクレス王国の王女様の()()を受けた私は『魔法研究係』になった。


 ただ、ナラノはメアリアのおかげだと勘違いしているが、そもそもメアリアや周りからしたら、魔法研究においても成績優秀なナラノの『魔法研究係』になるのを反対する理由なんてないのだ。

 むしろ、ナラノが魔法研究係になるのならば、両手を上げて大賛成!、といった状態だったのだが、ナラノはメアリアのおかげだと勘違いしたままだ。


 そして、なぜかやり直しの前の世界と同じで、係のペアの男子はアロイスになった。

 アロイスからは、

「ナラノとは腐れ縁だからな、しゃーないな。まぁ、一緒にやってやるから安心しろよ」

と、なんだか(けな)されてるんだか、喜んでいいんだかわからないお言葉をいただいた。



(まぁ、アロイスがペアの男子なのは気を遣わなくていいから安心なのは本当なんだけどね。)










 ベネット公爵家の私と、マーティン公爵家のアロイス、ペリクレス王国の王女メアリアは、護衛のクレイグは幼馴染4人組だ。


 でも、メアリアの護衛のクレイグも幼馴染のはずなのに、

「私はメアリア様の護衛ですから、メアリア様の幼馴染など恐れ多いです」

と、固辞されてしまっているんだけどね。



(なんでだよ、クレイグ!寂しいじゃないか!君も同じ幼馴染仲間だろー!?)


 その話題になる度に、私は「クレイグも幼馴染だよ」と言ってクレイグに固辞されるという、お決まりのパターンを繰り返している。










 魔法研究係が私に決まった後、マリアから「メアリア王女から推薦をもらうなんて、ナラノはずるいですわ! 実力だけなら、私が選ばれたの思うのに、そういうのは良くないと思う!」と言われた。

 さらに、恨みがましい目で睨まれたような気がする。


 でも、きっと私の見間違いだと思う。


 だって、やり直しの前の世界でのマリアと違いすぎるんだよね。





(あの、マリアが睨んだりするわけないよね……?)









 マリアとは、6年生になってから初めて一緒のクラスになった。


 マリアは今年ようやくクラスが一緒になる前から、友達だった。


 それは、そこに身分差があるとかは気にせずに、「ベネット公爵家だとかは関係ないよ!」と言って、私に気軽に声をかけてきてくれた優しい女の子だったからだ。


 だから私には、やり直しの前の世界のマリアがそんな睨んだりするような子のイメージがなかったのだ。



(睨むなんて、まさか…………ね?)





 ―――――






 放課後、魔法研究係の挨拶に私とペアのアロイスは、行くことになった。


「うう〜、キンチョーする〜」


「はぁ?何ビビってんだよ。ただ、『よろしくお願いしまーす』って言えばいいだけだろ?」


「うん、そうなんだけど、そうじゃない〜。アロイスはわかってないよ〜」


「ん? そうかぁ?」


「そうだよぉ〜。あー、キンチョーする〜。」


「あー、へいへい。精々、キンチョーでもなんでもしてろ〜!」


「あっ、アロイスが冷たい! ひっど〜」


「へいへい、なんとでも言ってらぁ」


 私とアロイスは軽口をたたきあいながら、教室からフランツのいる魔法研究室まで向かった。


 アロイスとのこんな気の遣わないやりとりは私の心を軽くしてくれる。






 ――でも、アロイスにはやり直しの前の世界の記憶がない。ここでは、私だけが記憶を持っている。






 少し寂しい気はするけど、仕方がないことだ。


 やり直しの世界で、やり直しの前の世界を知ってるのは私だけなんだから……


 だけど、私はフランツとマリアとの結婚式後に慰めてくれたアロイスの優しさに、とてつもなく救われたことを覚えてる。


 気づくのが遅すぎるけど、その時にアロイスの優しさを再確認したというか、なんというか、なんだよね。

 アロイスの良さに気がついたんだよね。



 だから、やり直しの前の世界よりも私はアロイスに気を許していて、前よりもアロイスと仲良くなってるような気がするのだ。



(まぁ、それでも私が好きなのはフランツなんだけどね。嫌われてるんだから、「良い加減、諦めろよ!」って感じだけどね)



「――おい、ナラノ。大丈夫か?」


「へ?……あ、ごめん、もう大丈夫だよ!」


 おっと、考え事をしている間に、フランツの魔法研究室に到着していたみたいだ。


「ん。それならいい。ほんじゃ、まぁ行くか!」


「うん!」





 ――――コンコン。

 アロイスが、フランツの魔法研究室のドアをノックした。







 ―――――






 放課後。


 教室から、足取り軽くナラノとアロイスが魔法研究係の挨拶に向かったあと、メアリアはマリアに声をかけに行った。


「マリア様、少しよろしいかしら?」


「え、えぇ……っ、め、め、メアリア様っ!?? 私に何かご用でしょうか?」



 護衛のクレイグを引き連れた、ペリクレス王国の王女メアリア=ペリクレスに話しかけられて、マリアは驚いているようだ。




 さもありなん、だ。




(わたくしから、マリア様に話しかけるなんてこと、そうそうないでしょうから、驚いているようですわね。)








 ナラノは誤解してるところがあるが、メアリアは誰にでも優しい王女様ではない。それはあくまで、メアリアの一面だ。


 ペリクレス貴族学院が身分差が関係ないとはいえ、それは建前だ。


 メアリアは幼馴染とナラノ以外とも、将来のことを考えて交流を持つが、それはあくまで適度な交流に留めている。

 礼儀を重んじた交流なのだ。







 ――――そして、ペリクレス貴族学院とはいえ、ペリクレス王国の王女のメアリアに無礼を働けば、それは貴族社会での失態にもなりうるのだ。マリアも今はそれを理解しているようだけど、ナラノへの態度はいただけない。






 メアリア自身も、大切な幼馴染で親友のナラノと仲の良いアロイスやクレイグなどの幼馴染や、気の許した者には許しているが、それ以外の者には気安い態度を許していない。


 いや、メアリアの場合、一見誰に対しても丁寧に接しているのだが、明らかにナラノのように気を許された者以外の場合だと、メアリアの瞳の奥に、冷たい冷酷な王女としての側面が見えているので、恐れられている存在なのだった。



 もちろん、メアリアは器用にも、大好きな幼馴染のナラノにはそんな自分の怖い側面はなるべく見せないようにしているので、ナラノは『メアリアは優しい』と勘違いして思っているようだが。


 それは、それで良いのだ。


 大好きなナラノには、メアリアは優しいと勘違いしてもらったままでいいからだ。




「少し、お話がしたいと思いまして。よろしいかしら?」


 良くない、なんてナラノのようにメアリアに気に入られた者以外なら、言うことは許されないだろう。


 ここの答えは、『はい』以外、ありえないのだ。


「っ!! ……い、え、えぇ。わかりました。…………なんでしょうか?」



(まぁ、マリアはわたしくがナラノのように優しくないとわかって警戒しているようですわね。

……いいですわ、その判断は正しいですもの。わたくしは、あなたの味方ではないでしょうからね。)








 メアリアは、ナラノに黙って、ペリクレス貴族学院の中である組織をトップに君臨している。






 ――――その組織の名前は、『ナラノの恋愛を応援する会』だ。ナラノが知ったら、ドン引きするような名前を堂々と掲げている。


 もちろん、ナラノに知られるようなヘマをメアリアがするわけがないが。






 ナラノが元々メアリアにはバレバレだったが、フランツへの恋心を教えてくれたことで、その組織『ナラノの恋愛を応援する会』は、

『ナラノと(()()()()())恋愛を応援する会』へと、ナラノが嫌がりそうな名前へとさらに変貌を遂げたのだ。


 もちろん、メアリアの指揮のもとで。





 おそらく、ナラノがその組織の存在を知れば、

『メアリア、やめてぇえええええっ!! そんな恥ずかしい組織は解散してぇええええっ!!』と、泣き叫んででも存続を止めようとしただろう。


 それは、メアリアもわかっているので、メアリアとメアリアの組織しているメンバー達は、ナラノにバレないようにこっそりしつつも、影からはがっつりとナラノの様子を見守ってきているのだ。








 ペリクレス貴族学院だけでも、ほとんどの学生は『ナラノと(フランツの)恋愛を応援する会』に属していると言っても、過言ではない。


 それは、ひとえにナラノが魅力的だからだ。


 ナラノは自覚がないようだが、ナラノはペリクレス王国でも可愛くて美少女であることを鑑みれば、王国一、といっても過言ではないほど美しく可愛らしい美少女なのだ。


 なぜか本人は、『平凡』などと勘違いをしているが、そんなわけはない。

 光り輝く金の髪も、空の瞳のような青い瞳も、整った顔、スタイルの良さも素晴らしいのだが、全ては内面が性格の良さが人を魅了して惹きつけるのだ。






 ――――まさに、女神だ。






 誰かが、ナラノをそう呼んだことがあった。



 その時、メアリアはそれは正しい表現だな、思ったのだった。






 ――ナラノ=ベネットはまさに、地上に降り立った()()と言っても過言ではないくらい心も優しい、美しい美少女なのだから。









 ペリクレス貴族学院にナラノが入学して、あっという間にナラノのファンクラブは形成された。

 そして、その組織の頂点は、誰よりもナラノを愛し、王女として権力を持つメアリアが最適なのだ。


 というか、メアリアが大切なナラノが傷つかないように、ナラノのファン達をコントロールするために組織を創設したのだが。




 まぁ、とにかく、『ナラノと(フランツの)恋愛を応援する会』のトップはペリクレス王国のメアリア王女である。

 そして、今、メアリアはその会員メンバー達を引き連れて、マリアを個室へと招いて、()()をしている最中なのだ。




 異様だが、ペリクレス貴族学院のナラノ以外の生徒は受け入れている光景でもある。

 この組織は、ペリクレス貴族学院では、ナラノにさえ気づかれないようにコソコソとしているが、ナラノがいない所では割と普通に活動している組織なのだ。

 ペリクレス貴族学院の生徒からも疑問もなく、肯定的に受け入れられているのだった。




 ここにナラノがいれば、『いや、やめてっ。それ、おかしいからぁあああああっ!!!!』と叫んでいただろうが。そこはこの際考えない。





「マリア様、本日ナラノに『メアリア王女から推薦をもらうなんて、ナラノはずるいですわ!』と言っていましたよね?」


「うっ…………」


「あれは、どういうことですか?」


 にっこりと、メアリアはマリアに微笑みかける。だが、それは見る人によれば、背筋が凍えるような恐怖を与える微笑みだった。


「………………そ」


「……そ? なんでしょう?聞き取れませんわ」


「……そのままの意味です!」


 マリアはメアリアの微笑みに怯えながらも、叫ぶようにして答えた。


 まぁ、通常ならペリクレス貴族学院とはいえ、メアリア王女にこんな態度を取るのは無礼だが。


 優しいナラノは、マリアの無礼な態度も許しているようだが、あれは特例である。高位の貴族が無礼を許しているから、タメ口だとか、失礼な態度が許されているだけだ。


 メアリアはもちろんマリアに無礼を許してもいないので、マリアがメアリアにこんな態度は失礼でしかない。


 それでも、メアリアが咎めないのは、ただの優しさでしかない。



(やはり、この女はわたくしのナラノにとって危険な存在ですわね。その場にいてわかりきったことを、悪意を持って事実を歪曲してナラノに伝えるなんて……!)



「まぁまぁ、それはおかしなことを言いますのね!」


「なっ……!」


 マリアは怒りで顔が赤くなったが、メアリアの前ということで怒りを抑えようとしているようだ。


「ナラノは、自分の実力で魔法研究係になったんですのよ?ナラノは、『わたくしが推薦したから魔法研究係になれた』、とでも勘違いして思っていそうですけど、そんなわけはありませんわ。」


「ですが、メアリア様がナラノの推薦をなさったのは事実です!」


 憎しみのこもった挑戦的な目でマリアが見つめてくる。



(……あぁ、嫌ですこと。こんな簡単なことも本当にわかっていませんのね。)



「ええ。わたくしはナラノに賛成して推薦しましたわ」


「ほら、やっぱりっ!」


 マリアが勝ち誇ったような声をあげた。


「ええ、あなた以外のクラスメイト全員がナラノに推薦をした後に、わたくしもナラノに推薦をしましたわよね?」


「…………」



(あら、自分の都合の悪い話になりましたら、ダンマリですか?)



「わたくしは自分の権力はわかっていますもの。


 クラスメイト全員の推薦が終わってからしか、わたくし自身は推薦しませんでしたので、わたくしの推薦で他のクラスメイトの推薦に影響はしていませんわよ?


 そして、わたくしの推薦が影響しなかったことは、わたくしの推薦があった後も、ただ1人ナラノに推薦を入れなかったあなたが1番わかっているんじゃないんですこと?」


「…………そ、それは……」


 マリアは、言い淀んだ。



(わたくしの推薦でクラスメイトが左右されるなら、わたくしがナラノに推薦した後にもナラノを推薦しなかったあなたがいる限り、おかしいではないですか。)



「どうですか、マリア様?」


「私は、私自身を推薦したかったので、ナラノのときは無投票だっただけです!」


「あら? アロイスも自分を推薦したようですけど、ナラノに投票して推薦していましたわよ?」


「ゔっ……」



(まぁ、正論を突かれて、言い返すこともできないようですわね)



 メアリアは、呆れたように軽くため息をついた。



「お門違いにも、ナラノに『メアリア王女から推薦をもらうなんて、ナラノはずるいですわ!』なんて、二度と言わないでくださいませね?


 それは、言いがかりですから。


 ナラノは、ナラノの実力で、あなた以外のクラスメイトの推薦を受けたのですから。


…………二度目は許しませんことよ?」


「…………」


 メアリアが、にっこりと微笑むと、マリアは顔を青褪めさせて言葉を失っていた。



(ナラノを傷つけておいて、これくらいで済まされているのは、ナラノに配慮してのことですのに。ナラノは優しいですからね。マリアのことも労りそうですから。


 けれども、わたくしの微笑みだけで怯えるなんて、最初からナラノに見当違いの言いがかりをつけなければよろしかっただけでしょうに。)



「いいですこと?……二度としないでくださいね?」


「っ!! は、はぃいっっ!!」


 マリアは怯えて声が裏返りながら、壊れた首振り人形のように縦にコクコクと何度も頷いていた。



 その様子を見て、メアリアは凍えるような微笑みを浮かべて頷くと、護衛騎士のクレイグと、『ナラノと(フランツの)恋愛を応援する会』のメンバー達を引き連れて、マリアのいる部屋を後にしたのだった。







 室内に残されたマリアは、青褪めた顔で地面に座り込んだまま、呆然としていたのだった。




 これで、マリアのナラノに対する行動が、この件だけでなく収まってくれたら良いのだが。それは、どうなのだろうか。

 





 メアリアは、『ナラノの恋愛を応援する会』は、ナラノには無許可ですが、ベネット公爵家にはナラノを守るためと大義名分を語って許可をもらっています。


 ナラノのファン達は、『ナラノと(フランツの)恋愛を応援する会』に変貌を遂げて、さらにやる気を出して、ナラノを恋を応援する意欲が高まっています。


 ちなみに、ペリクレス王国の国王も公認だったりする、ナラノとしては恐怖ものの組織でもあります。


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