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あなたと私のさようなら 2

 


 ――やり直しの前の世界。

 マリアとフランツの結婚式に、なぜか私は参加していた。



 というのも、マリアから、


『ナラノ! 私たち友達でしょ。 結婚式にはもちろん来てくれるよね!』


 という、なんとも断りにくい招待を受けてしまったからだ。



 ちなみに私の元家庭教師だったフランツからは、招待はなかった。


(フランツのばか。


私だって、いまだに大好きなフランツとマリアの結婚式なんて、もちろん行きたくないよ。


だけどね。無視されて招待されないのも、違うんだよ。フランツに無視されるのは、それはそれで、寂しいんだよ! いまだに未練タラタラだけど仕方がないんだよ、このやろう!)


 ちなみにフランツは、父ベネット公爵と母キャサリン、兄ホワイトには招待状を送ったようだ。やっぱり、私にだけは招待状すら送ってくれなかったようだ。


( へぇ〜、知らない仲じゃないのに、随分あからさまなことをしてくれるわ。


そんなに嫌がらなくても、私だってあなたの奥さんになるマリアから強引に誘われなかったら、行かなかったよっ!)





 しかも、なぜかフランツとマリアの結婚を知った、私の兄ホワイトは、


『フランツ、あいつ弄びやがって。絶対に許さない……!』


と怒り狂っていた。



(兄よ。どうして、フランツに恋をしていた私よりも怒っているのだ?)


意味がわからない。



 どういう意味なのかわからなかったが、兄は結婚式にお祝いではなく、『一言文句を言ってやる!』、と言って憤っていた。



(――私の知らないところで、兄ホワイトとフランツの間には何かあったのだろうか?


…………うん、いくら考えてもわかんないや。もういいわ)




 それから、他にもおかしなことがあった。 


 私のフランツへの失恋してしまった恋心なんて知らないはずのに、どうしてか兄ホワイトやメイドのカロルから、


『行きたくなければ、結婚式になんて参加しなくて良い‼︎』


と何度も引き止められたのだ。



 …………なぜだ。



(うん、私も行きたくないんだよ。でも、行きたくないけど、マリアに誘われて行くって返事もしちゃったし、もう断れないんだよね


……ああ、嫌だ。)




 私は、出来る限り悲しみを隠しながら笑顔で、

『大丈夫。ベネット公爵家の令嬢として、しっかりと社交をしてくるから!』、と結婚式に向かったのだ。


 でも、私は出来る限り気丈に振る舞ったはずなのに、私の笑顔を見た兄ホワイトと、メイドのカロルは、2人とも辛そうな顔をしていた。



(……どうしたのだろうか。


 まぁ、私の演技は完璧だから、フランツに失恋して、結婚式に行きたくないと思ってるなんてことは、バレてないと思うけど。)



 ストーンお父様にも、フランツとマリアの結婚式に参加すると伝えたときは、

「――そうか。無理はしないでくれ。」


と、まるで私がフランツに失恋したことを知っているかのようなことを言われた。


(反応がイマイチおかしい気がする。


 ――でも、まさかね。まさか知ってるはずがない。


 ……だって、私がフランツを好きだってことは、誰にも伝えたことがないんだから。フランツへの初恋は私以外は知らないはずだ。)


 ナラノは気づいていない。


 ナラノの初恋は周りにバレバレなのだ。しかも、ナラノがフランツの結婚式に行きたくないのに、頑張って過剰に振る舞う下手くそな演技ですら、ベネット公爵家のみんなにはバレバレだってことに。







 来なければいいのに、と何度も思ったけどあっという間にきてしまったフランツの結婚式の日。


 結婚式会場で、満面の笑みを浮かべたマリアをエスコートするフランツの姿を見た。


(胸が痛い)


 いつもさらさらの銀の髪は固められていて、大人の男らしい雰囲気が出ていた。光沢のある白色のモーニングコートをきたフランツは、180cmは超えるスタイルの良さでカッコ良さが際立っていた。



(フランツ、やっぱりカッコいい…………あ、やだ、失恋したのに、また私ったらフランツに見張れてたなんて、重い女だわ)




 そのフランツにエスコートされる新婦のマリアは、ふんだんに布とレースが使われた豪華な衣装を身に纏っていた。

 派手な赤毛のマリアに、そのドレスはとてもよく似合っていた。



(ん、あれ?

 マリアが着てるドレスって物凄く高そうだけど……男爵令嬢で、あまりお金がないと言っていたマリアがあんな豪華なドレスを準備できるとは思えない……


きっと、フランツが愛しいマリアのためにドレス代を奮発してプレゼントしたんだね。


……うーん、ただ、結婚式にしては、着飾り過ぎな気もするけど。 まぁ、フランツのロバーツ公爵家は財力はふんだんにあるから、問題ないんだよね。)


 マリアが着る服は場違いに華やかすぎて、華やかな結婚式とはいえ、過剰な装飾は浮いていた。


『憧れたフランツの隣を歩くマリアが羨ましいな』という思いが湧き、ナラノの心は小さな痛みを覚えた。


 それでも、頑張って貼り付けた笑顔を浮かべながら、ナラノは入場するフランツとマリアに向けて笑顔をむけた。



 ――そのとき、ふいに入場してくるフランツとナラノの目があってしまった……



 ナラノにだけわかる程度に驚きに見開かれるフランツの金の瞳。




(……まぁ、驚くよね。

 だって、フランツは私になんて来てほしくなくて、ベネット公爵家では私だけに結婚式の招待を送らなかったんだから。


  でも、私がここにいるのは、あなたの新妻マリアの希望なんだからね? わたしだって、ほんとは来たくなかったんだから!)



 私がそんなことを考えていると、フランツの顔がみるみるうちに嫌そうな顔に変わっていった。



(……そんなに、あからさまに嫌そうな顔はしないでほしいな。いくらなんでも、やっぱり、私だって傷つくんだからね?)


 このフランツの表情も、長年付き合いのある私くらいしか気づかないくらいの些細な変化にとどめているところがフランツの器用な所だ。


 ナラノ以外の人からは、なんとも思われないような顔をしているだろうと思われているだろう。





 この顔は前にも見たことがある。

 ペリクレス貴族学院に入学した後、フランツに魔法研究の質問に行ったときと同じ顔だ。私を嫌う顔だ。



(そんっなに、私のことが嫌いなんだね…………私の顔を見ただけでそんな反応をするのは、『もう私の顔すら見たくない!』、ってことだよね。)


 フランツの表情に気がついた私は、頑張って張り付けていた、笑顔が崩れるのがわかった。


 きっと、もう笑顔なんかじゃないと思う。



(…………来るんじゃなかった)



 もう、帰りたい。そんなに私のことが嫌いなのか。



(でも。 でも、私はフランツのことが今でも好きなのに……!! あなたのことが忘れられなくて、もしかしたらマリアとの結婚なんてなかったことになるかも、なんてありもしない馬鹿な希望だって捨てきれないのに。


なんで、そんなに私を嫌うの? それなら、最初から私に優しくしないでほしかったのに。 それでも、やっぱりフランツを嫌いにならなくて、好きなのに……


ああ、だめ。 もう、泣きそう……)



 こんな所で泣きたくないし、泣き虫な女だなんて、思われたくない。


 それに、結婚式でフランツに迷惑をかけたら、()()()()()()()



(耐えなくちゃ……!)



 下を向いて必死で耐えるそんな私を嫌そうに見たフランツは、そのまま私の横を通り過ぎた。



(ああ、よかった……泣かずにすんだ。)



 この時のナラノは気づいてなかったけど、フランツはナラノの泣きそうな顔を見て、気にして慰め出さそうな顔になって、ナラノを見つめていた。


 もし、ナラノがその時下を向いてなくて、フランツの表情を見ていれば、フランツがナラノを嫌っていないことがわかっただろう。


 ナラノがフランツに気づくより前に、フランツはマリアに急かされてしまって、すれ違った2人の誤解は解けることがなかった。






 涙を堪えて進行を見守るナラノ。無常にも結婚式はスムーズに流れて行く。

 大好きなフランツが、私の友達のマリアと結ばれるための儀式がつつがなく執り行われていく。


(複雑すぎて、素直に祝えそうな気分じゃないわ)






 ――あとは、誓いの言葉とキスだけになった。


 そう。私がいまだに初恋を引きずるフランツと、友達のマリアの、誓いのキスだけだ。


 フランツは私に背を向けていて、私からはマリアの顔しか見えない。



「神、ジェラルド様に誓って、マリア=リバースはフランツ=ロバーツを生涯の伴侶とし、一生愛します。」

 マリアの可愛いらしい声が響く。


 チラリ、と心なしか幸せそうな笑顔のマリアが、勝ち誇ったような顔で私を見た気がした。そんなマリアな顔は今までで初めて見たものだった。


 でも、意地悪そうな表情だったけど、きっと見間違いだ。



(……だって、まさか。


 いくらフランツとマリアの結婚式が嫌だからって、友達のマリアを悪く思うなんて、やっぱり、今の私は意地悪になっているのかもしれない。)



「…………神、ジェラルド様に誓って、フランツ=ロバーツはマリア=リバースを生涯の伴侶とし、一生愛します。」


 フランツは、低く通る声でスラスラとマリアへの愛を誓った。



(そっか。フランツは、マリアとの愛を誓うんだね。……結婚式だもんね)



 フランツは私に背中を向けていたので顔は見えなくて、どんな表情をしているのかは見えなくて、わからなかった。


 でも、私から見えるマリアは幸せそうな顔をしていて、きっとフランツがマリアを優しい顔で見ていたんだろうな、ってわかった。


 でも、フランツは視線だけでマリアへ嫌悪感を込めた視線を送っていた。


 ただ、ナラノからは見えなかったので気づかなかった。




(……小さい頃は、フランツの優しい顔は私だけのものだって思ってたのにな。もう、フランツは私にその笑顔は向けてくれないし、マリアだけのものになったんだね……)




 ――そして、フランツはマリアに顔を近づけて、私の目の前でマリアとフランツは誓いのキスをした。




 ドクンッ!!!!と私の心臓が跳ねた。



(あぁ、だめだ。……もう我慢できない。もう限界だ。これ以上は無理だ。……耐えられない。わたし、泣いちゃいそうだ……)


 涙が溢れそうになって、咄嗟に私は俯いた。






「…………あ、あ〜、ナラノ? 悪いんだけど、……オレ、トイレに行きたくなっちまった。 お腹いてぇんだよなー。 あー、いたたたた。いたい、これは痛いなー。 けど、俺1人で立つのは恥ずかしいからさ! 悪いけど、ついてきてくれよな?」


 横から、場違いな呑気な声が聞こえてきた。


「……へ?」


 呆然とする私を、幼馴染のアロイスがグイッ!!と無理矢理私の腰を抱き寄せていた。そして、アロイスはそのまま私をつれて、結婚式場から出ていた。



 アロイスが私を連れて行ったのは、トイレでも何でもなくて、アロイスの実家のマーティン公爵家の馬車だった。

「出してくれ」、と言って、アロイスは私たちを乗せた馬車を出していた。


 そこまで、あっという間だった。


 泣きそうだった私は、何が何かわからない間に、アロイスと一緒に馬車に乗っていた。



(あ、れ? これは、一体どうなってるの?)



「……え、あの、アロイス? これは、 一体なんなの? あ、そうだ。アロイス、あなたトイレは?」


「あー悪い。 俺、トイレは自宅のトイレじゃないと嫌なんだよなー」


(……棒読みだ)


 明らかに、おかしい。アロイスは、うちのベネット公爵家でもトイレくらいしたことがあるし、アロイスの家じゃないとできないなんて、今まで聞いたことがないんだけど。


「……何言ってんの?」


「んー。 まぁ、言葉、かな?」


(おいおい。いきなり、アロイスは何を言ってるんだろうか。)


 私のベネット公爵家でも、ペリクレス貴族学院でも、普通にトイレなんてしていただろう!と思わずツッコミたくなる発言だ。



 けど、なんだか、それがおかしかった。


 アロイスの馬鹿らしいくらい、バレバレの嘘が。そんな嘘、どう考えたって、すぐに私にバレるってわかってるだろうに。


 なのに、なぜか、そこにアロイスの優しさを感じた気がした。それがわかった時、なんだか何もかもがおかしく思えた。



 あんなに嫌なことがあった後だからかわからないけど、なぜかアロイスのくだらない冗談がナラノにはおかしかった。


 辛くてたまらない時に、アロイスの優しさに触れたからかもしれない。とにかく、あんなに辛かったフランツとマリアの結婚式の後だっていうのに、私はおかしくってたまらなかった。



「あははっ。 もうっ、アロイスったら、何言ってるのよ。」


「おい、ナラノ。 笑うんじゃないぞぉ〜」


「あはは、ばかばか。 アロイスがおかしいこと言うからだよ。」


「へへっ、俺には笑いの神が憑いてるってことだな」


「もうっ! 調子に乗んないでよね!」


「へいへい。――――だからさ、」


 ――ナラノはそうやって笑っててくれ。



 アロイスが『だからさ』のあとに小さく言った言葉は、ガタガタと響く馬車の音でナラノには聞こえなかった。


 けれど、動揺して泣きそうになっていた私の気持ちは少しだけ落ち着いた。


「あれ? ねぇ、けどアロイス。 勝手に結婚式抜け出してきてよかったの?」


「ん? あぁ、問題ない、大丈夫だ。 抜け出す前に、お前の兄さんのホワイト様に目配せして合図送っといたから。」


「――合図? なにそれ?」


「あとは、全部任せた、って合図だよ」


(……なんだ、その合図。)


 その合図は本当に兄ホワイトに伝わっているのだろうか?

 それに、伝わっていたとして、それは私の兄に問題を放り投げたってやつなのではないだろうか?


(おおぅ、それは…………どんまい、我が兄よ。無事でいてくれ。だが、悪いけど、私はフランツとマリアがイチャイチャしている、あんな場所に戻るのはもう無理だから、許してほしい。)


 私としては、もうあんな場所には戻れそうにない。だから、あんな場所から連れ出してくれたアロイスには感謝しかない。



「まぁ、気にすんなって! 俺とドライブに行こうぜ! 適当に走らせるからさっ!」


「えぇ〜」


「ナラノが文句言ってもさ、俺、お前を馬車からおろしてあげないけどな!」


 陽気に、パチン、とキザったらしいウィンクをしてくるアロイス。その仕草は、私がフランツを好きじゃなかったら惹かれてしまいそうなくらい、いい笑顔でだった。



(かっこいいけど、私はフランツ以外ではときめかない。


まぁ、フランツはウィンクなんてことはしないし、嫌いな私にはそもそもそんなことしてくれないだろうけどね。


……おっと、いけない。フランツのことを考えたら、また凹んでしまいそうだ。)



「えぇ! アロイス、それはひどいよー!」



 私はフランツのことをごまかして忘れたようにわざと明るい声を出して、、アロイスとの会話を続けた。


(今はまだフランツのことは考えたら、また涙が出そうになるから、だめだ。アロイスの前だけでも、普通に見えるようにしたい)



「へへへっ。 まぁ、我慢しろって!」


「もー、しょうがないなぁ〜」


「あぁ、ありがとさんっ!」



 それから、アロイスは日が暮れるまで、私をどこへ行くわけでもなく馬車のドライブをさせてくれた。


 そのあとは、なんとなく2人ともずっと無言だった。


 いつもおしゃべりなアロイスがなぜか無言だし、トイレにも行く様子はなかった。


 アロイスは窓を見つめたままだったし、私もアロイスに話しかける余裕はなかった。


 初恋のフランツとマリアの結婚式のことで、感情がグチャグチャだったからだ。



 ガタガタと馬車の音が響く中、私はアロイスと反対の窓の外を見てるフリをしながら、静かに涙を流した。アロイスは反対の窓を見つめていたから、きっと私が泣いてるなんて気づいてなかったと思った。


 でも、泣き顔は見られたくなくて。この時ばかりは、アロイスが私の方を見ずに、不自然なくらい大人しくずっと反対の窓からみえる景色を見つめてくれていて助かった。



(――本当は、辛くて泣きたかったから。

 でも、泣く場所がなかった。)




 初恋のフランツがマリアをエスコートしているのが辛かった。


 まだ諦められないフランツが仕立てた服をマリアが着てると思うと羨ましくて、気持ちが荒れた。


 マリアとフランツがお互いに愛を誓い合っている声を聞くのが心が壊れそうで、苦しかった。



 そして。目の前で、まだ好きでたまらないフランツがマリアに誓いのキスをしたのが、――――たまらなく胸が苦しかった……!!


 耐えられなかった!



 きっと、私がこのまま泣きそうな顔でベネット公爵家に帰ったら、きっと兄やメイドのカロル達に心配をかけてしまう。

 かと言って、泣かずにベネット公爵家まで帰るのもできそうになかった。もう、涙は我慢できそうにない。


 アロイスがトイレと言って結婚式から私を馬車のドライブに連れ出してくれたおかげで、限界だった私はやっと泣いて気持ちを発散させることができた。






 そして、私が泣いてる間、なぜかお調子者のアロイスは珍しく何も言ってこなくて。ずっと、無言で窓の外の景色を見つめ続けていた。


 珍しいこともあるものだ。ただ、私はその方が助かったので、ありがたかったのだけど。


(ここが馬車の中でよかった。ちょっとくらい、鼻を啜っても、これくらいの音なら馬車の音でバレないから。えへへ、私ったら、人に気づかれないように、泣いたり鼻を啜れるなんて、演技力が上がったのかもしれないな。)



 私は持ってきたハンカチでこっそり涙を拭いながら、フランツへの失恋の涙を流し続けた。


 ナラノのバレバレの演技は、ナラノだけが気づいていない。


 もちろん、幼馴染のアロイスだって、ナラノの演技を見破っている。でも、あえてナラノの涙に気づかないふりをしてくれているのだ。


 ただ、ひとえに、ナラノが泣いてる姿を見られたくなさそうだから。そして、ナラノに泣ける場所を提供するために。


 ナラノの兄ホワイトも、自分がナラノとアロイスが抜けた穴を埋める代わりに、妹のナラノをあの場所から逃すために、アロイスからの無茶振りを引き受けたのだ。


 だが残念ながら、ナラノは兄ホワイトと幼馴染のアロイスの巧みな連携プレーには気づいていない。自分のヘタクソな演技力のおかげだなんて、見当違いなことを思っている。



 それに、ナラノが泣きそうでいたことに、兄ホワイトと幼馴染のアロイスが、心配そうな顔で心配していたことも気づいていない。


 ホワイトも、ナラノとアロイスの穴を埋めるために奔走しているのに、それに気づかれてもいないなんて、全く哀れなものだ。ただ、ホワイトはなかなかのシスコンなので、ナラノが笑顔ならばそれで良い!、という考えだったりするので、彼にとってはナラノの役に立てて最高の幸せなのだろうが…………それはそれで、シスコンがすぎる気もする、とアロイスは思った。











 そして、だいぶ時間が経って、日が暮れた頃、散々泣いて落ち着いた私をアロイスが、私のベネット公爵家まで馬車で送ってくれたのだった。


 出迎えてくれた兄は、いつもなら無茶振りをしたアロイスに文句の1つでも言いそうなものなのに、


「――――アロイス、悪かったな。本当に、助かった……」


と、なぜか感謝の言葉をかけたのだった。



(なんだか、今日は不思議なことが多い気がする。)



 とにかく、やり直し前の私のフランツへの恋は、こうして呆気なく終わった。


 ただし、初恋であるフランツへの恋を15年以上していた私が、それからすぐにすんなりフランツのことを忘れられるわけでもなく、私はその後フランツへの失恋を引きずりまくったのだった。





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