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春 諦められない気持ち 12

 


 ――私の大好きなフランツに抱きしめられたマリアが、フランツに告白しているのを目撃してしまった、最悪な日。




 そのあとの私は、その2人の愛の現場を目撃してしまった後の記憶が曖昧になってしまっていた。



(フランツはマリアを抱きしめていたわ。マリアもフランツに告白をしていた。

……それは、つまり……、もうフランツはマリアを好きになったということなんだよね?)



 もう、ゲームオーバーなのか。


 確かそんなことを考えていた筈だ。だが、その後の記憶が曖昧で思い出せそうにない。





―――






 翌朝目覚めた私は、カロルから事情を聞いた。


 カロルによると、なんと急に慌てだした兄ホワイトがベネット公爵家を馬車で飛び出したと思ったら、そのあとなぜか呆然としたままの私を連れて帰ってきたらしいのだ。



 訳がわからなかったそうだ。



「あのときは、お嬢様の様子を見た人達は驚き、『何事か!』と、ベネット公爵家は騒ぎになりましたわ! わたくしもあんな思いはもうしたくありません!」


 と、目覚めた私は泣きながらカロルに泣かれてしまったのだった。



(悪かったわ、カロル。でもあの光景を見たあとから、どうしてだか私には記憶がないのよね……それでも、みんなにはだいぶ迷惑をかけちゃったのは反省しなくちゃだわ)



「ご、ごめんね、カロル。もう、大丈夫だから、泣き止んで?」


 私は出来るだけカロルが安心できるように、優しい声で言った。


「ゔぅっ、はい。お嬢様、……約束ですよ?」


「ええ」


カロルは可愛く私を睨みながら、泣き止んでくれた。


「――あ、そうだ。お嬢様、わたくしはこれで許しましたけど、ホワイト様にはちゃんとお礼を言った方がいいですよ?」


「ホワイトお兄様に?」


「そうです。あのとき、ベネット公爵家で1番お嬢様を心配していらしたのは、ホワイト様でしたから……」



(あの兄も私を心配してくれていたのか……そうか、それは確かに悪いことをしてしまったよね)



「そうね、カロル。お兄様にもちゃんとお礼を言っておくわ。ありがとう」


「はい、お嬢様」


 そう言って屈託なく笑ったカロルは、私の朝の支度に取り掛かってくれたのだった。






 ―――――






 私が朝食を取りに行くと、すでに私以外の家族は勢揃いで席に座っていた。



(あ、あれ? 私、いつも通りの時間に来たはずなんだけど、なんで全員揃ってるの……?)



 兄ホワイトが私より早く朝食の席に座っているのはわかる。


 でも、朝が弱い母や、朝食までの間もギリギリまで仕事をしている父まで揃っているなんて珍しいこともあるものだと、ナラノは疑問に思った。


「――――ナリィ、もう大丈夫なのか?」


 ナラノが席に座ると、父ストーンがナラノに訊ねてきた。



(父と朝から話すなんて、やっぱり珍しいわ)




 ――父は、ベネット公爵として、仕事一筋な人だ。




 他の家族からは、ベネット公爵というだけで、『恐ろしい』と思われていたりするくらい、頭が切れる貴族で、貴族社会の重鎮でもある。



(父にも話がいったのね。私のせいで、父にも心配をかけさせちゃったみたいね)



「お父様……心配をかけてごめんなさい。でも、もう大丈夫だよ。」


 出来るだけ、明るい笑顔で私は言った。


「――そうか。ナリィがそういうならば、私からは何も言うことはない。」


 父は視線をお皿に戻して、朝食を食べ出した。



(よかった、これで少しは誤魔化せたはず……)



 ――だって、きっと私に甘い父なら、私がペリクレス貴族学院で辛いことがあったなんて言ったら、

『ならば、ペリクレス貴族学院には行かなくてもいい』

って言ってくれそうなんだもん。


 それは、困る。



(でも、公爵令嬢としてペリクレス貴族学院を卒業しないなんて、私の、ベネット公爵家の暇疵(かし)になっちゃうわ。私のせいで、ベネット公爵家の名前を貶めたくない……!)





 ――それに、私の気持ち的にも、まだフランツから離れくもないのよ





「ナリィ、本当に大丈夫なの? わたくしとしては、ナラノさえ行きたくないのなら、ペリクレス貴族学院には行かなくてもいいと思ってるのよ? わたくしは、あなたがどんな決断をしても応援するわよ?」


「は、母上! それは僕も同じ気持ちです。抜け駆けはずるいですよ!」


兄ホワイトが、母キャサリンの発言に焦ったように言った。



(おや? 抜け駆けとはなんの話だ?)



「あら、ホワイト。 何を甘いことを言っているのかしら? それでも、ベネット公爵家の次期当主なの?」


「?」


「欲しいものがあるなら、抜け駆けでもなんでもして、奪い取らなくっちゃっだめよ?


――――わたくしはそうして、ストーンと結ばれて、あなたとナリィを授かったのだから。…………ね? そうは思わなくて? 


ほら、ストーンをご覧なさい? ストーンは素敵でしょう? ストーンみたいなかっこよくて、頭が良い人をつかまえるには、頭を使わなくっちゃだめなのよ?」


 母キャサリンは、未だに20代でも通じそうな可愛らしい笑顔で無邪気にうふふっ、と笑いながら恐ろしいことを言った。



(お母様は笑顔でなに、恐ろしいことを言ってるんだ。確かにお父様は、娘の私から見てもカッコいいし、頭も賢いけどさ……そんな可愛らしい笑顔で恐ろしいことを言わないでくれ〜!!)


 到底、ナラノにはそんなことしたくもないし、できそうにない。



 ナラノは1人母キャサリンの恐ろしさに震えて、心の中で叫んだ。





それなのに。


「キャサリン……」


「ストーン……」


 なぜか、父ストーンは、母キャサリンの名を愛おしそうに呼んでいたのだ。


 そして、母キャサリンも、何年経っても父ストーンを愛しているのか、まんざらでもない顔で、父ストーンを愛おしそうな顔で見つめていた。


 2人からはお互いだけしかいないような甘〜い雰囲気が漂ってきている。



(……なんだこれ。朝っぱらから、アツアツだな! この夫婦は!)



 でも、この流れはやばい。


 親が仲がいいのは嬉しいけど、あんまり知りたくない所には首を突っ込みたくない。



「母上、父上……」「お母様、お父様……」



 そんないつまで経ってもお互いしか視界に入らないような両親を見て、ナラノは思わず言葉が漏れた。

 同時に、兄ホワイトからも同様の声が聞こえてくる。



(夫婦仲がいいのは、娘としても良いことなんだろう、とはわかっている。でも、この両親は今2人だけの愛の世界に浸っており、私を含めた人間の存在を忘れているだろうなーーはぁ。)


 そう思うと、不満なわけじゃないんだけど、ナラノはなんとなくお腹がいっぱいになった。



 この両親のアツアツな場所で場違いな私と兄ホワイトは、父ストーンと母キャサリンのなんとも言えない雰囲気に思わず、2人揃って目を合わせて「「はぁ〜〜っ……!!」」とため息を吐いた。






 ベネット公爵家としては、いつまでも夫婦の仲が良いのは良いことだ。



(でも、両親が息子と娘の前でもイチャつかれるのは、なんとも言えない気持ちになるのでやめてほしいと思うときもあるのだ)



「――ナリィ、父上と母上はこのまま2人にしてあげて、僕たちは別の部屋で食べよう?」


「そ、そう、そうだね! ホワイトお兄様。」


 お年頃な私は、なんとなく気まずくて動揺してしまい、声が裏返ってしまいながら、兄ホワイトに返事をした。


「クスッ……声がおかしくなってるよ、ナリィ?」


 私をサラッとエスコートしながら、兄は苦笑いをした。



 なんとなく、兄に照れて恥ずかしがっていることを知られたくなくて、ナラノは下手くそな嘘で誤魔化そうとした。


「え、そ、そうかな? 普通だよ」


「はは、うん、そうだね。まぁ、そんなナラノも可愛いんだけどね?」


「もうっ、お兄様ったら、からかわないで下さいと、あれほど言っているのに。」


 兄ホワイトはこうやって、思ってないを平気な顔で言って、私の反応を楽しむのが好きなところがある。



(――私をからかって、何が楽しいんだか……)


 




 ナラノは気付いていないが、美少女が照れている姿はなかなか眼福なのである。それに、兄フランツはかなりのシスコンだったりもする。

 可愛い妹のナラノでさえあれば、どんな姿だろうと肯定して、受け入れられるのだ。


 まぁ、そんなナラノに引かれそうなことは、無駄に賢い兄フランツが言う訳がないのだが。


「あ、いや、私はからかってるわけではないんだけれどな……いや、まいったな……ナラノはかわいいな」


 兄フランツの呟きは、ナラノの耳には届かなかった。

 









 そのあと、朝からお熱い父ストーンと母キャサリンはそのままそっとしておいて、私と兄ホワイトは別室で2人で朝食を摂った。


 朝食の終わりに、兄ホワイトから、「――ナリィ、本当にもう大丈夫なのか?」と真剣な様子で聞かれた。



 ――ナラノは、そんな兄の優しさが嬉しかった。



(それに、お父様も、お母様も、きっといつもより早く朝食の席にいたのは私を心配してくれたんだろうなぁ。 兄も、不器用ながら、きっと今も私を心配してくれてる…… )



 ――私、どうしようもなく家族が好きだな。あぁ、良かった。本当に、私、ベネット公爵家に生まれてきて良かった――



(幸せだな)



 だから私は「うん、もう大丈夫だよっ。ホワイトお兄様、ありがとう‼︎」と、心の底からの笑顔で返事をしたのだった。





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