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春 諦められない気持ち 8

 


 ――6月になった。

 私とフランツの関係は進んでいない。いや、むしろ悪化していた。






 あの日から、マリアは週に1、2回程度で、フランツの魔法研究室に訪ねてくるようになった。


 初めのうちは、アロイスと騒がしくやってきた最初の時みたいに、フランツから依頼されたアロイスと共に図書室から図書係のマリアがやってくるだけだった。



 でも、次第にフランツは図書室への依頼をアロイスにあまりしなくなった。もしかしたら、アロイスへの依頼をしたら、そのままマリアが突撃してきたこととも関係しているのかもしれないけど、それはわからない。


 やり直しの前の世界のように、魔法道具を使ってカシミール先生と依頼した本のやりとりをやるようになっていったのだ。


 そのとき、私は『やっぱり、アロイスを図書室まで使いに出さなくても、やり直しの前の世界と同じように、魔法道具で依頼ができたんじゃない』と思ったりしていた。


 そして、これで、マリアがフランツの魔法研究室に来ることはなくなるんじゃないかと、安心もしていた。






 ――ただし、それでも、マリアがフランツの魔法研究室にやってくる回数は減らなかった。






 そして、良くないことに前よりもマリアが魔法研究室に来る頻度は増えていった。



 ――今では、もうマリアは毎日と言っていいくらいフランツの魔法研究室に来ている。



 図書係のマリアが、フランツの依頼された本なしになんの用事があるのだろうと私も最初は思った。


 でも、マリアはペリクレス貴族学院の学生らしく、

「フランツ先生、私、ここがどうしてもわからなくってぇ」と、甘ったれた可愛らしい声を出して、フランツの担当科目である魔法研究のことで質問に来ていたのだ。





 ――これでは、仕事に忠実でなんだかんだ言って優しいフランツがマリアに勉強を教えないわけがない。





(……そうだった。 フランツって冷たく見られがちだけど、意外と面倒見がいいんだった。

 私がフランツに魔法研究の質問をしても冷たくあしらわれてしまうから忘れがちだけど、元々のフランツはこういう優しい人だったよね……)



 フランツの性格も、勉強熱心なマリアのことも、わかっているはずなのに、なぜか私の胸はモヤモヤとしていた。


 ペリクレス貴族学院の教師であるフランツが、勉強がわからないというマリアに勉強を教えるのは何もおかしいことではない。


 そんな当たり前のことは誰だってわかるし、私だってわかっているはずなんだ。



(なのに、なんでこんなにフランツとマリアが一緒にいるのを見るのが、辛いんだろう……)







「フランツ先生〜、今日も質問があってきちゃいました〜!」

 今日も、マリアは当たり前のようにフランツの魔法研究室に会いに来た。


「………………あぁ、また来たのか。今日はどこがわからない?」

 フランツは慣れた様子で、マリアを迎え入れていた。


「はい、えっとぉ〜。ここなんですけどぉ。」


「ふむ、これか。これはな、――――」




(……やめて、見たくない……!!)




 いつもより甘えた話し方のマリアも、そんなマリアに優しく勉強を教えているフランツも、私は2人とも見たくなかった。



「あ、あのっ! 私、これ……図書室に依頼出しに行ってきますねっ!」


「っ! それは、あとで、魔法道具でカシミールに依頼しようと思っていた物だ。

 急いでいるものでもないし、なかなか資料も集まりにくい物だ……君がわざわざ行く必要はないし、部屋にいれば良い。」


 私は、フランツと、フランツのやり直しの前の世界の妻だったマリアのやりとりをもう見たくなかった。


 だから私は、咄嗟にフランツがあとで図書室のカシミール先生に依頼しようとしていた本のリストを、その手に取ったのだった。


「大丈夫です! 私もちょうど図書室に用事があったので、ちょうど良いんです。カシミール先生に依頼を伝えに行くだけなので、気にしないで下さい。」


「……そ、そうか」


「はいっ! では今日はこれで失礼します。 アロイス、あとはまかせてもいい?」


「ん? まっ、しゃーないな〜。ナラノの頼みってことなら、俺は引き受けんわけにはいかんよな〜」


 やれやれといった様子でアロイスが私がいなくなった後の魔法研究係の仕事を引き受けてくれた。


 私はアロイスが引き受けてくれたことに安心すると、足早にフランツの魔法研究を後にした。



(カシミール先生にフランツの依頼を渡したら、早くベネット公爵家に帰ろう。あぁ、最悪の気分だよ。早く、帰って、カロルが淹れてくれた温かいお茶が飲みたいな。)



 私はそんなことを思いながら、フランツの魔法研究のドアを閉めようとした。



 ――でも、私が魔法研究室のドアを閉める時、フランツに甘えながら勉強を教えてもらっているマリアが、私のことを勝ち誇った嬉しそうに眺めていたのが妙に印象に残った。



 そして、そのときに、なんだか嫌な予感がした。





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