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 若い冒険者が多い乗り合い馬車の停留所で、僕は転た寝半分で人を待っていた。

 ダンジョンを主戦場にするタイプの冒険者に昼夜の概念は薄い。だいたいの人は一般の人と生活時間を合わせたいから朝昼に働いて夜に休むけど、ダンジョン内は昼夜の概念がない場合もあるから、夜に潜ってる人も普通にいる。

 単純に夜型の人だったり、人の多い昼間を嫌う人だったり、兼業だったり。訳なしからわけありまで多いのが夜のダンジョン。

 僕もこの頃は夜の活動がメインだった。夜型パーティーにポーターとして混ざったり、ソロで入り込んだりと、自分の分のノルマはノルマできっちりこなそうと頑張っている。

 お陰でちょっと寝不足……人より体力に自信はあるけど、僕のためにちょっとお休み作ろうかなあ……ぐったり寝したい……


「聞いたか? B級の冒険者が移籍してくるらしい」


「ああ、聞いた聞いた。氷鉄のフリード……前衛のビッグネームだってな」


 …………ひ ょ う て つ の フ リ ー ド

 え、あいつそんな風に呼ばれてるの? なにそれ面白い。運び屋エルフの立場から言ったら笑えるかっこよさで頬が緩む。しかもビッグネームなんだ。笑う。

 やめろよ若いの……笑って寝れないだろそういう会話。


 そのうちに、ガタガタ車輪の音と、馬の蹄の音が聞こえてくる。そして反応するエルフセンサー。ああ、来ちゃったんだなあ……もうちょい寝てたかった。氷鉄のフリード君のせいだ。


 そして、停留した乗り合い馬車から次々と人が降りる中、護衛も予てか、単純に荷物の節約のためか、その二つ名に恥じない氷鉄の全身装備に身を包んだ長身の男がカツンと不思議に澄んだ金属音を鳴らしながら姿を現した。


「やあ、氷鉄のフリード! ……老けた?」


「そういうお前は全く変わってねえな、エルフ」


 最後に会った時よりもずっと低いドスの効いた声。老けたと皮肉ってはみたものの、樹齢を重ねた大樹のように力強い年月を感じさせる風貌を身に付けた同期の親友との、十年来の再会だった。








「んで、お前まだC級やってんの?」


「うん。あの街に思い入れあるし……必要に迫るまでこのままで良いかなって」


 最近見つけたお気に入りの食堂で、少し遅めの昼食を取る。本当にビッグネームらしいフリードとC級エルフの組み合わせは奇特なのか視線を集めている気がするけど、あえて無視した。


「名前だけはよく聞くけどな。運び屋エルフ。フルメーラで万年C級やってる優秀な本物エルフって。お前B級パーティーの勧誘どころか最王手レギオンも蹴ったんだって?」


「うん。あそこで後輩たち見てるのが楽しくて」


「まあこの歳になったからな。言わんとしてることはわかる。あの新鋭大手レギオンのラウンズクインテットもお前がC級に押し上げたんだってな。たまに噂で聞く」


「あの子達はなにもしなくても勝手に今みたいになってるよ。でも困ったなあ……あんまり噂とかになると同世代のフリできないんだけど」


「本物エルフって聞いたって本物だって思わねえからそこは心配要らねえよ。ベテランはフルメーラなんざ行かねえし。お前もさっさと出てこいよ。なんなら俺と組むか?」


「久しぶりに? 良いね。暇ができたらここのダンジョンでガチろうよ。最近あんまりガチって無いから」


「はっ、乗り気かよ」


「あはは」


 だってねえ……


「やっぱなんかお前に階級で劣ってると屈辱感じるし……」


「お前マジで変わってねえのな。俺のことはどこまでも見下して良いと思ってるだろ」


「見下してないよ。友達だと思ってるよ。ただファーストコンタクトを死ぬまで根に持ってるだけで」


 忘れないからな巣を潰す感覚でマイホーム潰したこと。お陰で人の文明を取り戻したとは言え苦労して作ったツリーハウスを木ごと切り倒されると思わないからな普通。


「樹上で暮らす珍しいゴブリンの巣だと思ってなあ……つか悔しいならさっさとB級来いよ。いっくら成長しにくいとは言え、お前十年前の時点でB級いけただろ。今だからこそわかるけどよ」


「うん、いけたと思うよ」


 今いけるんだし十年前もいけたよそりゃ。


「ま? その辺の腕前は追々見せて貰うとして……俺に弟子取れってどういう了見だ?」


「うん。かくかくしかじかでね?」


 かいつまんでミスティン兄妹のことを話す。見ない間にすっかり兄貴分みたいな大人の余裕を会得したフリードは、ふむふむと頷きながら黙ってそれを聞いていた。


「それでB級呼び出すってお前成金貴族かよ」


「B級じゃなくて君を呼び出したんだよなあ……」


 確かに、金に物を言わせて階級の高い師匠をつけたがるのは、金の価値を勘違いした貴族のやりがちなことだ。冒険者を基本的に見下してるくせに浪漫だけ信じ込んで三男辺りを冒険者に仕立てあげようとしてよくやる。

 そんな仕事まともな頭してればC級でも受けない。やっぱり親が頭悪いと子供もアレなこと多いから。


「何か忙しかったりした? どうしてもアレなら断ってくれても構わないよ。元々君は上に行くためにフルメーラを出たんだし」


「来た時点で断るつもりはねえよ。レギオンには一時期所属してたが今はフリーだ。A級は目指してるが昔ほど焦ってねえ。代わりにお前これ終わったらしばらく俺とパーティー組めよ」


「しばらくってどれくらい? 僕、フルメーラに帰る約束しちゃってるんだけど……フルメーラにB級二人なんて置いて貰えないだろうし一回帰ってから五年とかそのくらいで良いなら」


「お前ほんっとにその辺の感覚雑だよな。だからあの時ああなったんだが」


 B級に最速でなりたかったフリードと、別に十年二十年C級でも良くないってスタイルだった僕とで、意見が割れた。それがケンカ別れの真相だ。フリードはB級になるためにもっと難易度の高いダンジョンのある街に行って、僕はC級のままフルメーラに残った。


「五年もありゃ充分だ。お前とならA級も目指せる。……つか冷静にエルフってぱねえわ。俺もB級として何年もやって来たがB級でもお前より頼りになるポーターいねえし」


「あはは。当たり前だろ僕を誰だと思ってるよ」


「そのポーターに対するプライドに一切のブレはねえのな」


 運び屋エルフだぞ。B級とかお話にならないんだよなあ。


「ちなみに成長しにくいとは言っても地味に成長はしてるんだよ? 君がいなくなってからソロで潜ることも増えたし、実力的に格下の子のリカバリーとかで経験積んだし、君といた時よりは前衛としても中衛としても、もちろんポーターとしても実力は上がってる」


「そうか……C級だと一切生かせねえなそれ」


「部分的に生かせるよ」


 ガチることはほぼ無いけれど。


「オーケイ。なんにせよ取引は成立だ。そのライドったか? 会ってとりあえず打ち合い確認してみる。極大剣はあんまり扱わねえがまあジョブは近いんだ。問題ねえよ」


「え、使えるの極大剣!?」


「まあな。つかC級だと腕力足りなくて取り回せる奴いねえだけでB級前衛ジョブだとたまにいる。っても持ち運びやらなんやらの都合で使ってねえだけで、ボス攻略の時だけ持ち変えるってのがほとんどだけどな」


 だからあんな剣が巷に転がってたのか……てっきり巨人系の魔物が持ってる武器が流れてたものかと……


「十五でそれを取り回せるんなら見込みはあるな。お前が面倒見たがるのもわかる。んで、その妹の方だが……どんな風だ? 聞くに若すぎる気がしてな。俺もお前も十五くらいだったろ? それよりも若いってのは……」


「うーん……結局、基礎的なこと全部教え込んで本格的にダンジョン攻略しますって頃には十三十四になってると思うんだよね。あと、魔法系ってある程度の歳になるとある程度までは年齢関係なく伸ばせるんだ。女の子とか特に。水属性の子は自己強化得意だしね」


 魔力による自己強化、近接系魔法使いの必須スキルだ。

 前衛系は魔力に生成するまでもなく高い生命力をそのまま身体能力に変換できるけど、魔法使いにそれはちょっと厳しい。だから前衛系よりも効率的に、生命力から生成した魔力で底上げをしなきゃいけない。

 そしてその自己強化には男女で大きな違いがある。

 自己強化をするために、全身の魔力線に魔力を巡らせるんだけど、男性は本数が少ないけど太くて、女性は細い魔力線がいっぱいあるイメージなのだ。

 これによって、男性の魔力強化は安定した持続性、女性は瞬発力の高さという性質の違いが出る。要は、最大出力は男性の方が上だけど、スピード感では女性が上回っていると思って良い。


「あー、言われてみれば魔法系の奴って若いの多いな……お前もその口か」


「まあそうだね」


 エルフの魔力線は、基本的に女性型で、細くいっぱいある。けれど、注ぎ込まれる魔力に応じて勝手に拡大するから、安定性と持続性を兼ね備えている。生物としてちょっとズルいのだ。

 代わりに無理に拡大繰り返すと全身筋肉痛で死ぬんだけど。


「今やってる修行もそんな感じ。見てる限りは放出系より体内感覚が良いみたいだから、近接魔法と接近遊撃の立ち回りを教え込もうかなって」


「お前にしろってのは無謀か」


「弓は向いてないと思う。反射神経は並みだし、目が良いって訳でも無いし」


 あと、僕の立ち回りを教え込むと場合によっては死ぬ。エルフ特有の魔法的な才覚で問答無用で四属性扱えるからどんな状況でも対応できるのが僕の強みであって、それがない子にその立ち回り教え込むと対応できない盤面で自殺行為に走りかねない。


「こっちは心配しないでよ。才能は充分……人に教える経験は、たくさん詰んでるからさ。君はそういうのやった経験は?」


「……まあ、ねえことはねえよ。レギオン所属時代に下を引っ張ることはあったからな。だが弟子ってよりか部下だからその辺はなあ……ぶっちゃけ、そんな余裕ができたのもここ数年の話だ」


「へえ、聞きたーい」


「ちっ、わかりきった顔でニヤニヤしやがって。ああそうだよ。お前と別れてからちょっと苦労した」


 フリードは、今思えば実力はあった。だけど、逆に言えばそれしか無かった。

 僕みたいになんでもできる訳じゃない。競争率の低いポーターの役ができる訳でもないし、純物理型の前衛っていう……言うなれば代えも多いポジションだ。B級を目指すには、相当数のライバルがいただろう。

 僕の精神は成長しないけれど、里での地獄のせいか同世代よりやや達観していて、当時でも充分それを理解できていた。


「後ろの支援って大事だよなあ……パーティー組んで、普通お前くらいできるもんだと思い込んで勝手に裏切られて……今でも俺とは口利かねえってくらい仲の悪い奴もいる。魔法使いとかポーターとかは特にな。お陰でソロ歴もなげえ」


「それでもB級になれたんだね」


「ははっ、まあな。もう六年も前か……運がよかったよ」


「…………ごめんね。僕もちょっと意地張ったかも。ほら……お前の言う通りにしたら負けかなって……」


「お前ほんとに俺のこと心の底から見下してる瞬間あるよな」


 対等だと思ってるから罵倒できるんだよなあ……下の子にはこんなこと言わないし、先輩には礼儀を払うし罵倒するくらい嫌いな奴とは関わらないし。


「そんなことないよー?」


 悔しいから絶対言わないけど。


「どうだか。ま、こっからまた長い付き合いになるんだ。改めてよろしくな、エルフ」


「……うん、よろしくね、フリード。……やっぱり君もそうやって僕より大人になってくんだね」


 差し出された手を握って、僕より大きくなったその手に少し悲しくなる。

 僕の知っているフリードはこんな大人じゃなかった。からかったらキレるしこんな飄々となんてしてない。僕より全然よわっちかったはずなのに……今では、こんなに力強い手をしている。


「……僕より年下のくせに」


「お前エルフのくせにいっっように歳の上下気にするよな! 年下っても二ヶ月しか変わんねえじゃねえか!」


「やーいやーい三十代未婚~。左手の寂しさが物語ってる~ふぅ!」


「っくっそが……! お前にそれ言い返せねえのを良いことに……!」


 はっはっは! 故郷に帰ればいつでも地獄(ハーレム)だからね! 言い返せないよね! ……自慢にしても虚しいけど。


「と言うかなんで未婚なの?」


「美人局二回結婚詐欺一回」


「奢るから食べなよ……」


 くそ……なんか悲しみ背負ってた……と言うかよく三回も引っ掛かったなお前……

フリード

 エルフの相棒枠。筋肉モリモリマッチョメン。HPと防御力がカンストしてる。

 エルフが魔法使いのスタンダードだと思っていたので、若い頃は魔法使いはみんな手抜きをする嫌なやつだと思っていた。

 そのせいでパーティ組めなくてソロ活増えた結果、盾持ちパリィガン待ちスタイルに落ち着いた。

 盾は鈍器。奥義【砕】は竜の鱗さえ砕き内部を破壊する。

 若い頃は女に弱く、お姉さんに誘われてホイホイ付いていって毟り取られ、一回で学習したつもりになって、ちょっと狡猾だっただけの二回目に引っ掛かり、もう女は信じないと決めた心を慰めてくれた優しい女性と結婚の約束をして財産持ち逃げされた。

 彼は修羅となった。

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