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「っさぁああああああ!!」


 ()大剣をフルスイングし、樹木をぶったぎるライド君。

 僕は正直……それを見てドン引きしていた。あまりにも奇異で奇特な、はじめてのタイプのジョブに。

 腕ほどの長さの通常の剣でも、上半身ほどの長さの大剣でもない。人の背丈ほどもありそうな、横に構えるだけで壁になりそうな分厚く巨大な大剣。よくオーダーメイドもせずにこんな化け物武器が見付かったと思う。

 なんでこれ右下の端じゃないの?


「どうですエルフさん!?」


「あ、うん。基礎があったのが良いよね」


 あれから一ヶ月くらい……奴の到着を待ちながら、僕は二人に基本的な戦闘法を教えていた。役割分担や、ペース配分、味方を巻き込まない戦い方なんかをだ。

 そんななかで、最初は半身ほどの大剣を使っていたライド君なんだけど、もっと重さをって武器調整を繰り返すうちにどこで貰ってきたのかジョークグッズとしか思えないような武器を取り回し始めた。

 いやね、強いんだよ? 小手先のテクニックとか半端な防御とか全く無視する破壊力があるし、一撃必殺だから上位者を撃ち落とせる可能性もある。

 ただ……えぇ……これ準重量級(右二番目)かな? 重量級(左端)じゃなくて?


「でも武器の構造的にどうしても隙が多いから、将来的に仲間にカバーして貰った方が良いね。その武器だと予備の武器持ち歩く余裕は無いし……」


 この武器運ぶ専門のポーターが必要だよね。その兼ね合いまで考えればマジでボツなんだけど……本当に強いんだよね……ビックリしてる。まさかカイル君以上に脳筋だとは……結構クール系なのに……


「そうですか……」


「そこも含めて君達兄妹本当に相性良いね……アドバイスとしては、そのスタイルは決戦……ボス討伐なんかの時にして、平時は我慢してでも小さめの武器とり回した方が良いかも」


「そうですか……確かに、体力的にも連戦は厳しいかも知れません……軽めの……これなんかの方が良いですね」


 そう言って、半身ほどの大剣を片手で振るうライド君。

 軽くないけどね、大型剣(それ)。まあでも極大剣に比べれば軽いか……本当にどこで貰ってきたのそれ? 売ってる? 見たこと無いんだけど……ダンジョン産の明らかに人間使うこと想定してないタイプの武器かな……?

 どっちにせよ教えられること少ないなあ……あいつ早く来ないかなあ……僕、大剣扱えないんだけど……あのレベルの極大剣使いとか本当に初見なんだけど……


 狂戦士(バーサーク)……それが、ライド君のジョブなのだと、ギルドの知識人とか図書館の司書さんが頭を悩ませて結論を出していた。

 ぶっ飛んだ怪力と、強靭な体躯、不屈の生命力を持ち、重量武器で先手必勝(殺られる前に殺る)ジョブ。盾への適性は絶無で、とにかく攻撃力を重視する性質上、武器に対して防具に重さを割けない。下半身はともかく、取り回しに関わる上半身はレザー系みたいな軽量型になる……らしい。

 右から二番目なのは防具に対する性質のせいで、総重量で言えばやはり防具まで重装で固める重装戦士には及ばないらしい。マジか。


「馴染むまで振ってみなよ。目の前に常に自分より強い敵をイメージしながら。僕はクラーラちゃん見てくるから」


「はい」


 …………アーウィン君や、カイル君に比べればまだ弱い。隙のカバーまで意識が回ってないし、自分の攻撃でいっぱいいっぱいだから、相手を殺しきれなかった場合の反撃への備えまで対応できてない。

 けれど、それはある意味、ジョブの本質なんだろう。殺すから反撃なんて来ない。アーウィン君やカイル君……僕だって、直撃は即死だ。それはヒト型標準サイズの魔物全般がそうだろう。


「これ案外早く終わっちゃうかもなー……」


 僕がお役御免になる日も近そうだと……修練場にしている森の泉に足を運ぶ。そこでは、一糸纏わぬ姿のクラーラちゃんが、水面を床のように三角座りをしていた。

 魔法の教え方は、どうしてもエルフ式になってしまう。理屈よりも、感覚で感じて貰うのだ。

 眠るように目を閉じ、ひたすら穏やかに水面に佇むクラーラちゃん。それだけでも、膨大な情報を自分のなかでやり取りしているはずだ。

 三角座りっていう重心が不安定な姿勢を、自分が触れる水を操り、浮力の調整だけで支える。落ち着いた呼吸……自分の精力から魔力を生み出す練気法の呼吸を維持したまま、水を操るための魔力の生成を繰り返しているのだ。

 服を着ていないのは、最初は溺れることが多くて、濡れないようにするために。今はもっぱら別の目的のためだ。


「クラーラちゃーん? 調子はどー?」


 泉の半ばに浮かぶクラーラちゃんにそう声をかけると、クラーラちゃんはゆっくりと顔をあげて、自分の身体を見て恥ずかしそうに身を縮めた。

 うん、大丈夫だよ? 年下に興味ないし……十二歳はちょっと罪悪感と森羅の恐怖が強くて……


「悪くないです。……なんとなく、自分も半分水っていうのがわかった気がします」


 三角座りのまま、右手で水を掬うクラーラちゃん。

 手足のように手元の水を手繰れるようになれば、基本的な水の魔法の習得は飛躍的に早くなる。そして、水を身体に覚えさせて、魔力で『魔法的な水』を生み出せるようになってもらう。これができなきゃ、始まらないから。


「…………でもやっぱり、ちょっと恥ずかしいです……誰かに見られたらって」


「ダンジョンでトイレすることもあるし、それも一種の精神修行だよ」


 僕もゆっくりと水面に足を踏み入れる。沈みそうになる靴底を、生み出した浮力で持ち上げて、不安定なゲルの上を歩く感覚で一歩ずつクラーラちゃんに歩みよった。

 近づくにつれて、身体を強張らせるクラーラちゃん。この間襲われそうになったばっかりだからね……僕もアパートにいたから悲鳴に反応できたけど、本当にちょっと危なかった。


「君よりは年上だったけど、君みたいな女の子の面倒見たことあってね……ダンジョンでキャンプするとすぐに体調崩すなあって不思議だったの。そしたらその子、親しいとは言え、他人がいる同じ空間でトイレなんてできないって……恥の意識が強い上に凄まじい精神力でトイレ我慢しすぎて膀胱炎で入院しちゃったんだよね……」


 あれはそう最初のパーティーだ。お世話になった先輩冒険者の頼みで潜り込んでたD級のパーティーの。異性とパーティーキャンプするなんて初めてだったから、僕も気づくのが遅れた。


 充分に近づいたところでトンっと爪先で水面を叩いて、水中をかき混ぜる。不安定になる浮力を、縮こまったクラーラちゃんは首からぶら下げた青いメダルのアクセサリーを握り締めて、必死に制御する。


「ん、上手い上手い。大分コントロールが上手くなったね」


 裸の状況で近付かれて、羞恥心がマックスの状態でこれだけできれば充分かな。


「…………でも、その……人前でトイレは……」


「うん、そこはパーティーに別の女の子入れると解決したよ。女の子同士で察し合えるから、お互いにカバーできる。ほら、女子って集団行動の生き物だから。ちなみにそれでからかってくる奴がいたら男でも女でもパーティーから抜けて良い。クラーラちゃんなら居場所なんて幾らでも作れるし」


 デリカシーとモラルの無い奴なんて基本自己中なんだから信頼できない。すぐ見捨てるし諦めるしでただただ迷惑。ソロの方が楽。


「僕がいる内は僕が配慮はするよ。えっとね……子供の作り方知ってる前提で話すけど……」


 森羅の部族であった出来事を話すと、ドン引きされた。そして同情された……うん、ありがとう。立ち直ってないけど。


「女冒険者はね、よく女捨ててるとか言われるんだ。今言ってるみたいにデリケートな部分も晒していかなきゃいけないし、クラーラちゃんみたいな軽量魔法型ならともかく純戦士系のジョブなら筋肉も結構ゴリゴリになっちゃうし……」


「…………」


「でも、女性としての幸せを諦める必要は無いよ。意外と女冒険者って独身率低いんだよね。やっぱり続けられる人って人が良いし、信頼もできるから恋はできなくても愛せるし。あとね、女冒険者って女傑化が進行しがちだから、独り立ちしてる女は強い。これマジで」


 男の方もね、浮気とかできないんだよ。物理的にしばかれるし、なんならその気になったら男に頼らず生きていけるのわかってるから強く出れない。そして、女性本人もそれを理解してるから強さの魅力に引っ張られる男は一定数いる。そしてそういう男はだいたいマゾっ気があるから綺麗に尻に敷かれる。


「独り立ちしている女は強い……」


 男に捨てられて、男に狂った母親を知っているから思うところがあるんだろうか。何かを覚悟したような、そんな雰囲気をクラーラちゃんから感じた。


「お兄ちゃんより強く……なれますか?」


「してあげる。君のジョブは僕に近いし、エルフってね、おとぎ話ではこんな役割があるんだ」


 エルフは、神話の繋ぎ手である。かつて世界を暗闇が覆い、魔王が蝕む世界で、新しき英雄に、古くから伝わる力を授ける。ありがちで、大事な舞台装置。

 僕はほとんどエルフだから、それがわかる。


「……わたし、強い女になりたいです」


「うん」


「お兄ちゃんの後ろに隠れたりしないで、一緒にいられるような……」


「うん」


「色々、教えてください。わたし、なんでも頑張りますから」


「そうだね。一緒に頑張ろう」


 似た者兄妹だなあ……努力に対して、果てしなく前向きだ。ライド君も半分嫌がらせみたいな三ヶ月にきっちり耐えきったし、お互いがお互いを人質みたいに思い合ってる。

 良いなあこういう家族。僕もこういう妹欲しかった。


「じゃあもう上がろうか。基本的なコントロールはできるみたいだし、今度からは実際に使う魔法も平行して教えてあげる」


 見ないように配慮しつつ、クラーラちゃんに手を差し出す。

 クラーラちゃんはその手を取りつつ、慎重に浮力を制御して立ち上がった。

 そんなクラーラちゃんに外套を渡して、きちんと着れたところで僕はクラーラちゃんの両手を取った。


「じゃあちょっとずつ移動するから。歩いてきて」


 かかとを少し沈ませて、浮力を維持したまま水流を作ってスィーっと後退する。手を引かれたクラーラちゃんは、ゆっくりと一歩ずつ踏み出して、足場に浮力を生み出しながらそれに着いてこようと奮闘した。

 これが案外難しい。三角座りなら重心は低くお尻の広い面積で一度作り出した浮力を維持しておけば良いけれど、歩行となれば重心は高い上に動くし、足裏の狭い面積で浮力の維持と生成を同時に行わなきゃいけない。

 クラーラちゃんは気づくだろうか? 実は走った方が楽なことに。走れば軸足も踏み込みも一瞬だから維持を考えずに水面に魔力を叩きつけながら浮力で足裏を吹き飛ばす感覚で雑な制御で良くなる。

 まあ、それをさせないためにわざと手を取って誘導してるんだけど。ほれほれ~、この速度が一番キッツイでしょ?


「あ、エルフさんまっ!?」


 沈んだ。軸足の浮力の制御に失敗して、よろけてついた踏み込みに失敗してそのまま転ぶ感じで。僕が手を取ってるから下半身が沈むだけだったけど、外套にはグッショリと水が染み込んでいた。

 トンと爪先で水面を叩いて、浮力で身体を持ち上げてあげると、クラーラちゃんはすぐに自分で浮力を作り出して立ち直る。

 その時胸のメダルをギュッと握っていたけれど、それそういうアイテムじゃないんだけどなあ……返してって言いづらい。


「すみません、お願いします」


「じゃ、同じペースで行くから」


 結果的に言えば、ここから岸までクラーラちゃんは二回沈んだ。沈む度に外套が水を吸って重くなって沈みやすくなるトラップだ。まだしばらく補助つきだね。


メダルさん(青)

 海の力が秘められたメダル。属性の片寄った賢者の石的な何かでできてる。

 本来はエルフ(種族)が選んだ英雄に与える代物であり、エルフの故郷にある神樹を通じてリソースを受け取るバッテリー兼アンテナ。

 現在は神樹とのリンクは切れているので、エルフとリンクしてエルフの魔力やなんかを所持者に提供する物になっている。

 なお、貸してるだけなので今はただのちょっと意思があるだけのメダル。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すごく面白かったです。 続きも楽しみにしています。
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