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「三ヶ月ご苦労様。頑張ったね、二人とも」


 あれから三ヶ月……すっかり作業着が板についたライド君と、幼い分成長が早いのか、少しハキハキしてきたクラーラちゃんをそういって労う。

 二人とも、三ヶ月の苦労を思い出したのか、兄妹らしく二人同じ姿勢で机に肘をついて顔を覆った。


「エルフさん、ってことは……」


「うん。明日からダンジョンの攻略……戦いかたを教えて上げる」


 ガタン!と椅子が倒れる勢いでライド君が立ち上がった。


「っしゃあっ! っ! ……すみません……!」


 しゅんと小さくなって座るライド君に、横でクラーラちゃんが肩を撫でていた。

 うん、三ヶ月頑張ったよね。体力や根気も増したけど、その上で押し潰すくらいに仕事振られてたからね。知ってるよ。

 でも大丈夫。全部報われてるから。ギルドからの信頼は新人にしてはとても厚い。期待されていると言っても良いだろう。この子達を育て上げるための手続きが驚くほどスムーズになっているんだから。


「エルフさんも、三ヶ月……ありがとうございます」


「ああ、そうだなクラーラ。エルフさん、本当に何から何まで……飯も家も、全部用意してもらって……本当にありがとうございます。今の自分に何を返せるのか見当もつきません……」


「うーん。そこについてはお礼は要らないかなあ。僕は楽しんでるよ? 遊んでる訳じゃないけど、趣味だし」


 この家は、三ヶ月前に用意してもらったアパートじゃない。流石にトイレも共同のアパートはクラーラちゃんに酷すぎる。ライド君には内緒にしてるけど、一回危ない目にもあってる。それもあって、今はギルドに手配してもらった賃貸の一軒家に三人で住んでいる。広くないけど庭もあって、剣を振る程度の修行はできるだろう。

 その分家賃もお安く無いけど、基本的に物理生理的欲求の薄い僕の貯金は多い。合間合間で自分の稼ぎにも出ているし、負担は少ない。今はギルドも二人の面倒を見る僕のノルマを軽減してくれているから、ただただ負担という訳でもないのだ。


「何かを返すっていうなら、B級になってからね。僕、自分と同じ階級の子に施されるほど落ちぶれるつもりはないし」


 そう言いながら、僕はテーブルにカードを並べた。

 五枚五列の、合計で二十五枚のカードだ。


「これは……?」


「色んな模様がありますけど……」


「ジーニアスカードっていうカードだよ。ジョブの見極めに使うの。……ギルドが管理する物なんだけど、縁があって持ってたんだ」


 今はないギルドで使われていた物だ。ダンジョンの魔物が溢れて、潰されてしまったあまり大きくない、村に毛が生えた程度みたいな場所の。

 掃討作戦のどさくさ紛れて拾った道具。別に返還義務も無いし、戦果としてもらったのだ。


「さて、二人とも、いっせーので一番濃く模様が見えるカードを指差して?」


「はい……いくぞ、クラーラ。せーの!」


 ライド君が指したのは、本人から見て最下段の右から二番目、クラーラちゃんが指したのは同じく本人から見て上から二段目の左から二番目だった。

 あれ? ちょっと意外だな……クラーラちゃんはてっきり左端だと思ったんだけど……でも、面白い位置だ。


「「え?」」


「不思議そうな顔してるね」


「だって……クラーラ、それ白紙だろ?(・・・・・・・)


「お兄ちゃんこそ、何も書かれて(・・・・・・)無いんじゃ(・・・・・)……」


 期待どおりの反応に、くすくすと笑いが溢れた。


「僕はどちらかって言ったらクラーラちゃん側かな? ライド君が指したカードの周辺はほとんど見えない。でも、ライド君がおかしい訳じゃないよ。これは、そういう物なんだ」


 ジーニアスカード。これは、その人のジョブによって見え方が変わってくるカードなのだ。

 右にいけばいくほど重装戦士や重装騎士なんかの重量級の装備を扱う力強い前衛の適性の高いジョブで、上にいけばいくほど魔法的な性質の強いジョブになる。

 最下段の右が一番濃く見えたライド君は、魔法的な適性は皆無だけど、力強い前衛系のジョブなんだろう。純戦士系って奴だ。

 逆に上から二段目の左から二番目が見えたクラーラちゃんは、魔法的な適性を持つ軽量系の遊撃手、魔法戦士系と呼ばれるジョブだ。

 ここからさらにジョブごとの特徴を自分で見つけてジョブを特定するんだけど、だいたいの方向性はこれでわかる。


「ちなみに僕はここが一番濃いよ」


 二人から見て最上段の左から二番目、クラーラちゃんの上だ。魔法的な適性最大の軽量戦士。器用で目が良く瞬発性の高い自然と一体化した狩りが得意な森霊狩人っていうジョブ。つまるところエルフだ。


「じゃあ俺は魔法的な物は使えなくて……クラーラは、魔法も使えて前衛に立てる……?」


「うんとね、どちらかと言ったら中衛よりかな? 真ん中より左にいったら単独で前衛張るのは厳しいかも。ソロとか遊撃だね。で、極端に下なのも悪いことじゃないんだ。確かに魔法的な耐性も感覚もしょっぼいけど、スキルへの適性もきちんと尖ってくれるから、ライド君の場合は剣や槍みたいな基本武器、槌や長槍みたいな大型武器のスキルが伸びやすいと思う。あと盾とかだね。お互いを助け合える、いい兄妹だと僕は思うな」


 クラーラちゃんは器用だけど尖り切れない。力押しに押し負けてしまうこともあるだろう。そこをきっちりライド君が守り相手を抑え込んで、お互いの強みを最大限生かせるいい組み合わせだ。


「そうなんですか……魔法……」


「そうなんだよね。僕てっきりクラーラちゃんはもう一個左だと思ったんだよ」


 純魔ってやつだね。魔法に特化した最軽量のジョブ。けど一個ズレたってことは……ちゃんとその方向に育てて上げれば、ライド君の言うとおり前衛に割り込むこともできるようになっても不思議はない。


「ちなみにクラーラちゃん、これはどう見えるかな?」


 ネックレスを外して、シャツの下からアクセサリーになっている四枚のメダルをクラーラちゃんに見せる。


「どう……えっと、これが一番、綺麗です」


 と言って選んだのは、青く透き通るメダルだった。


「そっか。明るく透き通って見える? それとも深くて暗い? もしくは透明度も無いべたっとした単色かな?」


「深い青……だと思います」


「じゃあ闇系の水属性の魔法使いだね。ライド君は?」


「正直全部石のメダルにしか……あ、でもこの赤いのは自分でも赤く……熱みたいのを感じます」


「え、ふーん?」


 これは、森羅の首飾りという僕の故郷、森羅一族の秘宝の一つだ。ご先祖様の身につけていたものらしくて、ジーニアスカードみたいに人によって見え方が違う。

 僕には全部キラキラ透き通った宝石みたいに見えるし、細かく確認してみると、クラーラちゃんには青が一番綺麗で、他は黄色が比較的に綺麗に見えるくらいで曇った風に見えるらしい。

 ライド君は赤以外灰色の石に見えるらしい。でも赤から熱みたいのを感じるあたり、適性は無いけどもしかしたら炎属性に縁のあるスキルがあるのかもしれない。


「あ、ジーニアスカードはともかく、こっちのメダルのことは内緒にしておいてね。お宝だから」


「はい。でも、本当に綺麗な青で……」


「ふふ、ダンジョンにはこういうのもあるらしいし、いつか手に入ると良いね」


 クラーラちゃんの得意な属性は水……次点で土。でも闇系ってことは法術に適性は薄い。けっこうチグハグな才能だ。少なくとも僕が睨んだように治癒の法術はメインにできない。

 攻撃性の高い水属性……あんまり僕が使わない魔法だ。できるけどね。エルフだし。故郷ではエルフらしく火属性以外の魔法はなんでもできるように教わってたし。

 ……まあ、今一番使うの火なんだけどね。一番殺意があるし……


「二人のジョブについてわかったし、明日は武器選びだね。得意な武器を見つけて、防具をそれに合わせて選ぶから。クラーラちゃんは僕と被ってるから僕ので試してみようか」


 僕のジョブは器用さの特徴的なジョブで、扱える武器種も豊富だ。軽量系の武器ならなんだって扱える。そんなジョブだから、持っている武器も多い。普段から使っているのはククリと弓くらいなんだけど、使えるから持っておいているのだ。

 たまに前衛張らなきゃいけなくてシミター持ち出すこともあるしね。


「武器……あの、エルフさん。クラーラは……」


「あー、お兄ちゃんとしてはクラーラちゃんにそういうことさせるの複雑?」


「お兄ちゃん……」


「……はい。自分が力不足なのは百も承知ですが、妹はまだこんなに幼い。それを手にするのは自分だけで充分……とは思います」


「でも、そうもいかないのはわかっているでしょ? 君が死んだら、クラーラちゃんは路頭に迷う。そのために、クラーラちゃんにも戦い方を教えるよ。僕はこれしか生き方知らないし」


 冒険者で死ぬやつなんて珍しくない。魔物は生物として不安定なのか、結構な頻度で変異種が生まれるし、その変異種が強力な個体だと、情報無しの不意打ち即死を食らうことだってある。

 僕は基本的に中衛後衛だからそういうことはあんまり無いけど、前衛の奴がそうやって死んだなんて話はよく聞く。


「お兄ちゃん……わたし、大丈夫だよ。エルフさんにね、色んなこと教えてもらったの。お兄ちゃんの役に立てるよ。まだ小さいけど、守られてばっかりの女の子じゃないから」


 そうあれは僕がまだ部族の肉奴隷(おうじさま)やってた時の話……お隣の山に住んでいた銀狼の部族の話だ。古き血の一つ、獣人の血を色濃く残した部族で、出生が女性に片寄る傾向があるせいかよく森羅の部族からお婿さん拉致ってエルフの古い血が混ざってるお陰でそこそこ近縁の山のお友達だ。

 女傑ばっかりで幼かろうが物理的に強い。僕が拉致られたら困るけど趣味の狩りの時に隠れて会って一緒に狩りをしたりしていたけど、ダッシュの初速で矢と比肩する。どういうことなの。


「クラーラ……」


「ちなみに前衛系のジョブって後衛系より大器晩成型だし、僕がそっち寄りだから一年二年後くらいにライド君よりクラーラちゃんの方が強くなってても不思議はないよ?」


「え」


 魔法系のジョブは伸び悩みや頭打ちがあるかわりに早熟型なのだ。クラーラちゃんみたいなジョブは魔法系を最速で伸び悩み期まで伸ばして、中衛系の立ち回りをそれに最適化して短期間に戦闘力をあげることができる。実際、エルフの最高クラスの魔法適性も併せ持って同期最強だった僕が言うんだから間違いない。


「そもそも魔法使いって前衛系より多くないし、中衛兼ねれるクラーラちゃんなら対応できるパーティー需要も広いから昇級も早いだろうし。あ、僕の昇級が遅いって悪口言ったらボッコボコにするから。剣術指導の名目で」


 自分で上げてないけど指摘されると普通にムカつく。特に年下に言われると。


「お、お兄ちゃん? わたしは全然そんなこと無いからね!? エルフさん!」


「あっはっは。クラーラちゃんを守れるくらいに強くならないとね。お兄ちゃん?」


「っ……はい! 明日からよろしくお願いします!」


 うん、君の指導、僕じゃないけどね。あいつから返事が来たから、たぶんそう遠くないうちに来るんじゃないかな……意外と会うの久し振りかも。C級に上がった時に喧嘩別れして……レベッカちゃんと会って以来会ってないから十年くらい?

 B級らしいしなー。さぞ強いんだろうなー。……なんだろう。異様に悔しい。舐めるなよ……僕だってガチればB級くらい!



ジョブ

 深く考えてはいけない。

 ざっくりと言えば、その人の才能の方向性を戦闘職に例えればどれかというだけの話。ジョブで補正がかかるのではなく、その補正があるからそのジョブになっている。


 エルフのジョブは魔法とか弓とかを扱うジョブ。投擲武器も得意で、ブーメランなんかを愛用している。

 ただエルフのブーメランは大火炎を纏ってたり雷速で飛んできたりと魔法バフのせいでちょっとおかしい。

 なお、種族的な魔法適正の都合、ジョブ補正が無かろうがあらゆる魔法使いより普通に強い。


 ライド君のジョブは『でかい! おもい! つよい!』と知性をぶん投げたジョブ。ダクソで言ったら生命筋力持久にひたすら振って特大ぶんぶんしてるタイプ。雑につよい。


 クラーラちゃんのジョブは魔法剣士。ただ、直接火力に繋がる炎や雷が使えないので、あくまでも魔法はサポート用。

 当たったら凍る水とかわりと相手からしたらうざい小技を連打してちょっとずつ削ってくる。

 遊戯王で例えたら手札誘発でめちゃくちゃ妨害しながら高くもない攻撃力で殴り殺そうとしてくるタイプ。

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[一言] 遊戯王での例えが秀逸…(笑)
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