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自然界においてはメスの方がオスより強い。わりとよくあるそんな事象に従って、正直女王よりも弱かった蜘蛛の王を下し、密集していた下級の蜘蛛の殲滅作業を終える。
「霊石がうめえな。女王の方は爆散しちまったが……」
「まあいんじゃない? そこで欲張って下級の蜘蛛の抑え込み漏れから被害受けるよりマシだし。で、こっちは大方終わったとして……王が出てきた穴蔵見てきたんだけどさ」
隣のポーターの冒険者と頷き合って、結論を確認する。間違いは無いだろう。まだ、作戦終了の狼煙はあげられ無い。何故なら……
「下級の蜘蛛の何倍も大きい卵嚢の跡があった。たぶん、王族の直系だと思う」
女王の残滓は生き残っている。それは一体、どこに潜んでいるのだろうか──
「なんだこの霧……!? どこから……毒!?」
「なんで!? 解毒の法術が……! ぐっ……!?」
異変は一瞬で起こった。
瞬間に不気味な魔力を感じたと思ったら、瞬く間に周囲に紫色の霧が発生して、それを吸い込んだ先輩達が苦しみ始めた。
蜘蛛がお尻から出す毒霧じゃない……!? それに、前衛だけじゃなくて後衛も巻き込んでる! 何もないところから発生する毒だから……そういう魔物で言えば、たぶん、魔眼だ!
「……!? 風の魔法を使える者! 炎でも良い! 霧を押し流せ! 毒を受けた前衛は下がれ! 中衛は撤退支援! ポーターは魔力毒の治療薬を! 法術医は解毒の法術を用意しろ!」
指揮の先輩冒険者から指示が飛んで、わたしはヒーラーさんに解毒の法術をかけて貰ってから濡らしたマフラーで口を覆って霧に飛び込んでいく。
「ッチェストオオオォオオオオオオ!!」
大風が吹き荒れて、周囲の毒霧を吹き飛ばしていく。ちょっと後衛にも流れちゃったけど、後衛は既に解毒の準備は整っているし、今すぐ危ないのは前衛だ。それを打開してくれるのなら後衛の被害くらい軽い。
「良いよお兄ちゃん! その調子!」
今のをやったのは、お兄ちゃんだった。
たぶん、毒霧とか意識してなくて、単純に見えなくなったのが嫌だったから全部吹き飛ばしたんだと思う。
でも良い! そんなに吸ってないみたいだし、解毒剤を飲ませれば法術を受けなくてもこのまま前衛を張っておける! 前衛の薄さをカバーできる!
「クラーラ! ライドにそのまま抑え込ませろ! 射撃部隊! ライドを支援!」
「はい! お兄ちゃーん! 一瞬下がって!」
霧の前兆、怪しい魔力を警戒しながらお兄ちゃんに駆け寄る。巨大剣を薙ぎ払って正面の相手を纏めて押し返して下がったお兄ちゃんの隙を、後衛から放たれた矢の雨や魔法が埋めてくれる。
「お兄ちゃん! 飲んで!」
魔力毒の解毒剤を飲ませて、パン!と背中を叩く。お兄ちゃんの背中は固くてちょっと手が痛かったけど、お兄ちゃんはそうすると弾かれたみたいに前衛に走っていった。
「チィイイイアアアアアア!!」
前衛系のジョブがだいたい使えるスキル【咆哮】。わたしから見たら叫んでるようにしか見えないけれど、あれで力が強くなったり足が早くなったり、傷の治りも良くなるし、毒への耐性とか抵抗力も強くなるってエルフさんが言ってたのを思い出す。
大丈夫かな? お兄ちゃん正気に戻ってない? 戻ったらちょっと弱くなっちゃうから、そのまま、そのまま!
「毒霧の本体発見しました! 前衛二組正面! 来ます!」
「全たぁあああい! 二組正面に大型の蜘蛛出現! エルダークラス! B級を中心になんとしても抑え込めぇええええ!!」
そんな号令が耳を貫く。
エルダー……!? エルフさん達が倒してるんじゃ……!? ううん、中央から作戦信号の狼煙は上がってる! エルフさん達はきっちり予定どおり二匹とも確認してるはずで、だとしたら未確認の三匹目……!?
「クラーラ!」
「はい!?」
後ろから伝令役のポーターさんが他の冒険者さん達と一緒にやって来て、消耗品の類いと一緒に指示を伝えてきた。
「こっちは四組で対処する。ライドを二組に回せ。移動は支援する!」
「わかりました!」
この指示は、わかる。今の毒霧を発生させられる以上、その蜘蛛と戦うにはあの毒霧に対処できなきゃいけない。風の魔法を使える人の支援があっても、その場で攻撃しながら対処できるお兄ちゃんが行った方が、時間稼ぎにはなる。
B級の冒険者さんが準備するまで、お兄ちゃんで繋いで見せる!
「お兄ちゃん行こう! こっち!」
前衛に加わって、お兄ちゃんに飛びかかる蜘蛛やシャドーに鞭を浴びせる。一緒に来た冒険者さん達もお兄ちゃんの引きに合わせて前に出て、お兄ちゃんが戦っていた敵を引き受けて、押し込んでいく。
わたしもお兄ちゃんから巨大剣をポーターの人に渡して、お兄ちゃんの手を引いて駆け出した。
「っ……! クラーラ! 今の霧は!?」
「っ!? お兄ちゃん……! 二組の方で強いのが出たんだって! 毒の霧を広げる魔法があって! お兄ちゃんなら何とかできるから、そっちのお手伝い!」
剣を手放させたのが悪かったのかな……!? お兄ちゃんが正気に戻っちゃった……! でも仕方ない! 暴走してるお兄ちゃんに場所移動して戦ってなんて細かい指示効かないし!
「そうか……! クラーラは下がって!」
「馬鹿野郎! お前の操縦できんのクラーラちゃんだけだろうが! 今は妥協しろ!」
「っ! すみません! 行くぞクラーラ!」
「うん!」
ポーターさん……先輩のC級冒険者さんに走りながら怒られて、お兄ちゃんはわたしを追い抜くように手を引いて走り出す。
そして二組が担当する場所の中衛に入ると、待機していたヒーラーさんから念のための解毒の法術を受けて、ポーターさんから受け取った巨大剣の剣先で地面を削りながら前線に飛び込んでいった。
エルダーは……胴体から人間の上半身が生えたみたいな、蜘蛛だった。でもその半身はびっしり黒い体毛で覆われていて、目には毒々しい色の大きさ違いの複眼が規則性の無い配置で詰め込まれている。
腕も不安定に大きな鎌状で、鞭のように振り回して周囲を攻撃していた。
「エルダーの他にも細かい蜘蛛に魔眼持ちがいて……ああいうので。仮に今は魔眼の眷族って呼んでいて、あれも小規模な霧を発生させる。気を付けて」
「はい!」
ヒーラーさんから情報を受け取って、わたしも前線に加わる。エルダーの周囲にはシャドーや魔眼の眷族、大蜘蛛も多くいて、お兄ちゃんを支えてあげなきゃ押し負けてしまう。
エルダーの振り回す鎌に気を付けながら、鞭や水塊を繰り出して周囲の蜘蛛を牽制する。魔眼の眷族には特に集中して当たると凍る水をぶつけて、魔眼の発動を一回でも多く阻止する!
「ッチェイアアアアアアア!!!」
お兄ちゃんは嵐みたいに振り回した巨大剣で寄ってくる蜘蛛を蹴散らしながら、エルダーの鎌を弾き飛ばしたり、その体に傷を与えたりしていく。
後衛からも支援攻撃がたくさん飛んできて、エルダーの魔眼のある半身部分を再生よりも早く削り飛ばしている。
ただ、そんな時、また怪しい魔力の気配がした。
お兄ちゃんも何か察したのか、巨大剣を振り払って飛び退き、後退する。
半身は再生していない! けど魔力は感じる……!? 周囲の蜘蛛? ううん、違う。この強さは間違いなくエルダーの……! わからない……わからない、なら、止められない……! だったら……食らった後の先手を打っておく!!
「全員お兄ちゃんから離れて! お兄ちゃん! 剣風! フルパワーで準備ぃー! 霧よ覆え『ミストカーテン』!!」
「アァアアアアアア!!」
その瞬間、蜘蛛が振り向いた。
蜘蛛本来の頭部の顔面。半身と同じように、不規則な大きさで、乱雑に詰め込まれた夥しい数の複眼がわたし達を映して、ぼんやりと光っている。
そして──毒が放たれた。
ビリビリするほどの魔力を含んだ毒が霧となって発生し、視界を閉じる。解毒剤を飲んでいても、法術を受けていても、まともに吸えば当たってしまいそうなほど濃密な毒。
それが目に染みないように目を閉じた一瞬で、風が吹き荒れた。
髪が後ろに吹き薙がされる。砂ぼこりが鼻をくすぐって、出そうになるくしゃみを抑えながら……目を開いた。
巨大剣を振り抜いたお兄ちゃん。そんなお兄ちゃんに飛びかかろうとしていたのか、剣風で吹き飛ばされた蜘蛛がひっくり返っている。
そして咄嗟に周囲を確認すれば、ちゃんと毒霧は散らされている。中衛には……届いてない!
やった! ギリギリで後ろに霧で壁を作ったのが成功した! 魔眼だし、見えなければ届かないかもって一か八かだったけど、良かったぁ……!
……その分さっきより濃かったのかな? お兄ちゃんは大丈夫そうだけど……
「ってお兄ちゃん危ない! 下がって!」
エルダーの下からシャドーの腕が伸ばされていた。もしかしたら、霧で視界を閉ざした隙に影を掴もうとしていたのかも知れない。
まずい、フルパワーの剣風の反動で動けてない……! わたしが防ごうにも鞭じゃ間に合わない! こうなったら……!
シミターを上に放り投げて、メダルさんを胸元から取り出す。
目を閉じ、メダルさんの力に集中する。暖かくて、重くて、強い……けれど優しい、メダルさんの、海のような力を。
さっきと一緒だ。間に合わないなら、後出しで対処する。エルフさんも言っていた……結局最終的に無事に勝てばなんでも良い!
「選定者より預かりの力……行こう、メダルさん!」
巨大な水流を纏って、跳躍する。眼下では、エルダーや他の蜘蛛がお兄ちゃんに襲い掛かろうとしていた。
身体を捻って、水流にシミターを巻き込む。身体をシミターと垂直に、一直線に、エルダーに当たるように!
「『ダイダルネイルノッカー』ぁあああああ!!」
そのまま流れ星みたいに一直線に、水流と一体になってエルダーに突撃した。
エルダーの猟奇的な複眼に突き刺さるシミター。その束に垂直に飛び蹴りを叩き込んで、全身を使って水流の力をシミターに送り込んで、深く、深く深く打ち込んでいく。
さらに水流と一緒に身体を捻って回転。エルダーの血肉を抉りながらまっすぐに、そのまま──貫いた。
ぐしゃりとシミターがエルダーの中に埋もれて見えなくなるくらい刺さり込み、シミターを蹴っていた足首がエルダーの肉に埋まる。
だけど、メダルさんの力の勢いはそれで止まらず、水流はエルダーの巨体を押し流して、お兄ちゃんから強引に引き剥がした。
水流の勢いを利用して足を引き抜いて、着地する。
水流の余波はシャドーや他の蜘蛛も押し流していて、巨大剣を地面に突き刺して堪えていたお兄ちゃんの周囲は空白になっていた。
「お兄ちゃんいっけええええ!!」
エルフさんの言葉を、思い出す。あれは、お兄ちゃんを倒そうってなった時に、エルフさんがメダルさんの本当の力と一緒に教えてくれたこと。
『B級以上ってね、誰でも一個くらい必殺技を持ってるものなんだよ』
『今からクラーラちゃんに渡す力は、そんな必殺技をズルして前借りさせるモノ。君のお兄ちゃんは努力でこれを会得してるけど、君はまだまだ若いし、妹なんだから、お兄ちゃん相手にちょっとズルしたって許されるよ』
『ん? ライド君の必殺技? あー、君に使ってくることは無いと思うけど、フリードの直系だから、どこまでもありふれていて、誰にだって真似できて……けど、最強の攻撃だよ』
わたしの、メダルさんの必殺技は『ダイダルネイルノッカー』。
わたしは繋いだから、次はお兄ちゃんの番。誰も邪魔しないよ。わたしが開いたから。もう一直線に……叩き込んじゃえ!
「アアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
ドン!と、お兄ちゃんが地面が割れるほど深く踏み込む。
濡れた泥が波になって周囲に押し退けられて、そんな泥で波紋を描くように、重い重い一歩を重ねて、お兄ちゃんはエルダーに接近する。
「【山砕き】!!」
最後の一歩。衝撃は泥を抉り上げて、踏み込みと同時に振り上げられた巨大剣は剣先を空に直立する。
そして、それはまるで大きな塔が倒れるように、エルダーに叩きつけられた。
轟音、怒号。エルダーの体液が撒き散らされる。
地面が濡れていなかったら、今頃土ぼこりで何も見えなくなっていても不思議じゃないくらいの、衝撃。
けれど、『ダイダルネイルノッカー』の余波で重く濡れた地面ははっきりとお兄ちゃんの勇姿を讃えていた。
粉砕された蜘蛛の頭。前足二本も巻き込んで、地面にめり込み、体液が水溜まりを作るほどにぐちゃぐちゃに潰している。
こんなの、すぐに再生できる訳がない! 後は──!!
「よくやったミスティン兄妹! 後は我々が引き受けよう!」
「兄貴を下がらせな。ははっ! 美味いところはもらっていくよ! 一杯奢るから許しなぁ!」
「行くぞ兄者ぁ!」
「行くぞ兄弟ぃ!」
「フォルテさん! メゾさん! ビートさん! ライムさん……! お願いしますね!!」
両手に小盾を装備した変わった冒険者のフォルテさん。盾に炎を纏わせて、敵の攻撃を全て弾き逸らしながら当たると炸裂する拳を叩き込む。
中盾とアックス使いのメゾさん。盾で受けて斧で返して、的確に堅実に敵を倒す。
ビートさんとライムさんは二人で一組の槍使い。凄い連携で、瞬く間に敵を穴だらけにしてしまう。
とっても頼りになる、B級の先輩達が、本体を半分以上潰されてなお再生を続けるエルダーに最後の追撃を加えていく。
再生は追い付いてない! 足も半身も、驚異となる部位はすぐにでも潰されて、再生の芽さえ残さずに!
「やっぱり凄いや……」
「何感心してるの。ここで美味しいところ持っていかせたら悔しいでしょ」
「エルフさん!?」
しゅたっと、空から降りてきたエルフさんがちっちっちと指を振りながらそう言った。同時に、空から大量の光の矢が落ちてきて、周囲の蜘蛛を一斉に殲滅する。
「ライド君、まだ動けるよね? 君達の晴れ舞台だ。最後くらい華麗に決めないと」
「……っ! はい……!」
巨大剣を杖代わりにして、お兄ちゃんがよろよろと立ち上がる。
あんな大技の後なんだから、無理をしたら……あ、でもいい感じに疲労で目がイッてる! これならすぐにでも理性を失ってくれる……!
「行ってお兄ちゃん!」
「君も、だよクラーラちゃん」
エルフさんはそう言って微笑むと、わたしの首もとからメダルさんを取り出し、わたしの手に握らせると、上からぎゅっと手を握ってきた。
その瞬間、メダルさんに力が満たされたのがわかった。あと一回、もう一度だけ、メダルさんの魔法が使える……! 一回使ったら、日を置かないと使えないはずなのに……!
「このメダルはそのための物。僕が選んだ英雄に、僕の力を託すための物だから。ほら、行っておいで。兄妹二人で、華麗に決めてこよう!」
「はい!」
肩で息をするお兄ちゃんの耳元に、後ろから囁く。今のお兄ちゃんは暴走と理性の境目にいる。理性にお願いして、暴走を操ったら、もう理性はいらない。
「お兄ちゃん、もう何も考えなくて良いから。全部わたしが合わせるから。前に行って、潰す。それだけ……じゃあ、行こ?」
「…………アァ……」
返事のような、唸りのような。そんな音を溢すお兄ちゃん。
わたしはそんなお兄ちゃんの背中を、ブーツで思いっきり蹴り飛ばした。
「チィエイアァアアアアアアア!!」
お兄ちゃんが思いっきり剣を振り回す。わたしやエルフさんに当たろうがお構い成しに。咄嗟にエルフさんと二人で飛び退いて距離と取らなかったら、わたしは今頃お兄ちゃんに木っ端微塵にされていたと思う。
うん、これでいい。あとは全部わたしがやるから……!
「みんなー! でかいの行くからのーけーてー!」
「む、エルフか……やれやれ。お前達!」
「ああー? ちっ、エルフの奴かい! 良いとこ持ってけると思ったんだけどねぇ!」
「退くぞ兄弟!」
「致し方なし!」
エルフさんが号令をかけると、先に行っていたB級の先輩達がエルダーから離れて、お兄ちゃんの道を作る。
お兄ちゃんはそんな花道を、大気を巻き込んで回転しながら一直線に詰めて行く。
わたしはそんなお兄ちゃんの背を追って、メダルさんを握りながら駆け出した。
わたしの全霊で、お兄ちゃんの破壊力を底上げする! 水は、流れ。お兄ちゃんの力の流れを押して、操って、何倍にも引き上げて見せる!
「行くよメダルさん……!」
───
お兄ちゃんの鋼の竜巻に、水流が飲み込まれる。
鋼は水を纏って、より重く。回転は重さを得て、重さは回転力を増幅する。
それは、さながら蜷局を巻く蛇のように。メダルさんの紋様……天を衝く水の竜巻、海原の王の姿を描く。
一撃必殺。この必殺技は──!
「『ダイダルエンチャント──」
お兄ちゃんの巨大剣が、この僅かな時間に再生した蜘蛛の顔面に叩き込まれた。
吹き飛ぶよりも、速く。後ろに逃げる衝撃さえ追い抜いて、大剣は蜘蛛の顔面を粉砕しながらめり込んでいく。
そして、その剣に、お兄ちゃんの作り出した巨大な水流の力と重さを全て集め束ねたわたしの体で、最後の衝撃を加えた。
「──リヴァイアシュトローム』!!」
潮流の飛び蹴りが、剣を深く重く、打ち込んだ。
衝撃が弾ける。お兄ちゃんの剣と、メダルさんの力を受け止めるには、エルダーの体は柔らか過ぎる。
弾け飛び、砕け散る。水勢は衰えず、エルダーを貫き、周りの蜘蛛も全てを巻き込んで、この戦いに終止符を打った。
女王の残滓
女王が自分のエルダー化した際の反省を生かして産んだ次世代型の個体。
大型化し過ぎて小回りが効かず、ギュルスに苦戦(負けはしない)という事態が起こったため、一回り小さく。
その代わりに再生速度と知能を発達させ、『シャドーを統率する能力』『一般の蜘蛛を魔眼の眷族に変貌させる能力』『混乱と幻覚を引き起こす魔眼』というわりととんでもない能力を獲得していた。
足りなかった遠距離火力も、シャドーをぶん投げて足止めすることで接近できるようになり、眷族変貌能力により群れ全体の質を向上させることができるようになった。
……のだが、カタログスペック上の話であって、まだ孵ってから成体になりきれていないため、大きさも小さく、眷族化能力も発揮できていない。
それでも知能は完成していたので、偵察の蜘蛛を走らせて敵戦力を解析。同程度の戦力をぶつけ、戦力の消耗具合から一番脆い前線を割り出し、エルフ達本丸急襲部隊を把握した上で、女王を囮にエスケープを実行。ミスティン兄妹のいた前線を強行突破し、成体になるまで潜伏しようとしていた。
ただうっかりそこにいたミスティン兄妹との相性が致命的に悪かった。
せっかく精神汚染系の追加効果のある魔眼を持っていたのに、振り向いた時の一回しか使わせてもらえず、精神耐性の都合上ライドに効かず、中衛に対してもクラーラが張った霧の壁のせいで効果が及ばず、クラーラ本人に対してはメダルがオートレジストしたのでそんな能力があったことを誰にも気づいてもらえなかった。




