カタツムリの火葬
窓を閉めていても雨音が聞こえる。
昨日の夜のうちに捨てておけばよかったと後悔した。
ゴミステーションまでは少し歩かねばならない。
週に2度の可燃ゴミの回収日。鼻呼吸は控えめに、ゴミ袋の結び目を握り持ち、玄関戸を開けた。
外はザァーザァー降りのうえ、一歩進む度に肌に水滴が付着するような、そんな湿度。
傘とゴミ袋と自分。傘の下に収まりきらないゴミ袋に跳ねた雨粒が、ゴミ袋を持つ右手を濡らす。
三軒先の、ドングリの木がある曲がり角の家のブロック壁。
あぁ、またこの季節がやって来た。
ぱっと見ただけでも、カタツムリは大小合わせて7匹。
ナメクジは2匹。
昔、祖母が言っていた。
「カタツムリの殻の中には魂が入っている」と。
ナメクジは畑の野菜を食べてしまうから、家の敷地で見つけたナメクジは靴でしっかりと踏み潰していた。慣れてはいても、ぬるっとした感触に毎度ぞっとして、日向があるなら日向へ放り投げていた。幸いにして、我が家にはカタツムリは現れない。毎年この時期この場所に、雨の日の朝、現れる。
祖母は言った。
「人は死んでも霊魂は残る。死んで、体から抜け出た魂がカタツムリの殻に宿る」
右手のゴミ袋を見つめた。雨粒が袋に当たり、流れ落ちる。途中でゴミが落ちていても拾って捨てれるよう、結び目は弛い。
カタツムリを一匹ずつ、壁から剥ぎ取り、結び目の隙間から袋の中へ落とした。
ゴミステーションにゴミを捨て、両手で傘の柄を握り同じ道を戻る。
曲がり角のブロック壁のナメクジを横目に、家に戻った。