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自警団の手によって連行されたレイドリックとエリーゼは、そのまま警護本部にて厳しい取り調べを受けることになった。もちろんアラバも同じく。
アラバは麻薬の栽培をしていたわけではない。
だが、精製された麻薬を入手して、自身が営む娼館で売りさばいていたことが判明した。また、娼婦に対して強制的に使用していたこともわかった。
この国において麻薬は、栽培も密売も重い罪となる。そのため、アラバは弁明の機会すら与えられることなく、断頭台に送られる日を待つ身となった。
対してレイドリックとエリーゼはというと、未だ刑が確定していない。
二人は麻薬の栽培については肯定した。誰の指示でそうしたかも素直に答え、継続している捜査に協力する態度を取っている。
けれど一つだけ二人は嘘の供述をしている。それはとても厄介なもの。
【マリアンヌも麻薬の栽培に協力していた】と、口を揃えて主張をしているのだった。
そのためマリアンヌは、被害者でありながら容疑者となってしまい、連日警護本部にて取り調べを受けることになってしまった。
けれどマリアンヌは、真実を語ることはせず始終黙秘を続けた。
麻薬に関わるすべては犯罪であり、それは重い罪となる。
だが、さすがに名門侯爵家の令嬢に対して、真偽を確かめないまま刑を執行することはできない。
その結果マリアンヌは、罪を犯した貴族の為に建てられた”茨の塔”に幽閉されることになってしまった。
初冬の冷たく清潔な空気が、爽かな陽光を含んで窓に映る空を彩っている。
マリアンヌは窓辺に足を向け、空を見上げた。
罪を犯した貴族が幽閉されるここは高い位置にあるせいで、窓に鉄格子はない。落下すれば即死だからだ。そもそも鍵穴は潰されているので、窓を開けることは叶わないけれど。
そのおかげで、ガラス越しに見える景色を遮るものは何もない。濃い青を独り占めしているような気持ちになる。
けれど浮かれることは無かった。それどころか、広々とした空がロゼット家が統治する領地を思い出させる。後ろめたさに胸が締め付けられるように痛んだ。
───……もう両親の耳に入ってしまっているのだろうか。
マリアンヌは、窓ガラスに額を当て、深く息を吐いた。
兄であるウィレイムが家督を継いだのは、20歳の頃だった。
妻を娶ったわけでも、前当主が死去したわけでもないのに、その若さで当主となるのは異例だと、当時は随分社交界で話題になった。
もちろんウィレイムが優秀で、前当主だった父が後を継がせても問題ないと判断した結果だから、後ろ指を差される筋合いは無い。
ただ急いだのは事実で、そうしなければならない理由があった。
マリアンヌの母親は病弱であり、また精神的に強い人間ではなかった。そのため、王都で生活することが難しくなってしまったのだ。
だからウィレイムが早々に家督を継いだ。そして現在マリアンヌの両親は、ロゼット家の領地で隠遁生活を送っている。
手紙を交わす頻度は多いが、滅多に会うことができない両親が、今の自分を知ったらさぞや嘆くだろう。母は心労のあまり寝込んでしまうかもしれない。
それに兄に対しても、迷惑をかけていることはわかっている。こうして黙秘を続けることは、兄の立場を悪くしているということも。
「……ごめんなさい」
マリアンヌは、強く目を閉じて謝罪した。
でも、申し訳ないという気持ちと同じくらい、まだ無言を貫きたいという想いもある。
それが単なるワガママで、子供が駄々をこねているのと同じだとわかっている。それでもマリアンヌは、自分の無罪を主張する気にはなれなかった。
──……ギィ
窓辺で立ちすくむマリアンヌの背後の扉が開く。
この部屋は一応やんごとなき身分の者が使う部屋として認識されているので、出入口は鉄格子ではなく扉となっている。
マリアンヌは、視線をずっと窓の外に向けたままでいたかった。けれど、そうはいかない。
ここに立ち入ることができる人間は限られている。食事を運んでくる衛兵と、いい加減無実だと主張しろと訴える警護団の偉い人。そして、兄。
ただ今はまだ午前中であり、マリアンヌは既に朝食を終えている。昼食にはまだまだ時間がある。
と、なると、この部屋に足を踏み入れる人物は残りの2名のどちらかか。
そんなことをぼんやりと考えながら、マリアンヌは振り返った。
けれど、入ってきた人物はマリアンヌの予想とは違った。そして一人ではなく、二人いた。
この国で尊き存在である御仁と、この国でもっとも大きな権力を握る官僚であった。




