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親友に裏切られた侯爵令嬢は、兄の護衛騎士から熱烈な愛を押し付けられる  作者: 当麻月菜
気付かないフリをしたままでいたい【夏】前編
26/69

7★

 マリアンヌとクリスが2曲目のダンスを踊っている頃、ウィレイムは第一王子の元にいた。


 クリスの言う通り、一刻も早くその場を去りたいのに捕まっていた。……物理的に。





「離してくださいっ、宰相殿!!」

「無理だ。それに私に言うな。離して欲しければ、王子に言え」

「王子ぃー!!」

「うーん……ちょっと聞こえないなぁ」

「嘘はおやめください!!この筋肉お化けに今すぐ、拘束を解くように命じてください!!」

「誰が筋肉お化けだっ。本気で首を絞めるぞ」

「ぅぐぅっ……お、王子ぃ……」

「あー……シドレイ殿、首は反則。息できるように、捕まえててくれ」

「御意に」


 絢爛豪華な舞踏会会場にある王族だけが使えるサロンでは、こんな会話が繰り広げられていた。


 ただ和やかとは言い難い。


 ウィレイムはシドレイに羽交い締めにされているし、すぐ傍の豪奢な椅子にはこの舞踏会の主役である第一王子ガーウィンが腰かけて足を組み、ニヤニヤとその二人を眺めている。


 王子の隣には、もう一人の主役である王子の婚約者───ティフル国王女サリタナが微笑みを浮かべながら、これまた豪奢な椅子に腰かけていた。どうやらこの様子を楽しんでおられるようで。


 ただ今すぐ妹の元に戻りたくて仕方がないウィレイムは、この状況をどうやっても楽しめるわけがなかった。


「だいたい何で、クリストファー王子はあんな恰好してるんですか?!礼服着るなら、我が国のものを着て然るべきでしょう?!」

「そうとも言えるな」

「そうしか言えませんっ」


 王族しか使えないサロンといえど、ここは会場内である。そして扉ではなく分厚いカーテンのようなもので遮られている。


 もちろん信頼の置ける衛兵がカーテンの向こうで警護にあたっているので、ここに他の人が立ち入ることはできない。


 できないのだが、大きすぎる声は外に漏れてしまう危険性がある。


 そんなわけでシドレイは、意識を失わない程度にウィレイムの首を軽く締めた。所謂スリーパーホールドと呼ばれるヤツである。


 すぐさまウィレイムから、悲痛なうめき声が聞こえた。


 ちなみにシドレイは宰相という職には就いているが、もともとは王宮騎士。文武両道と言えば聞こえは良いが、要は大変力持ちなのである。


 体術を最も得意としていたシドレイが本気の力を出したら、そこそこ鍛えているウィレイムとて叶うわけがない。そして苦しい。


「まぁまぁ落ち着きなよ、ウィレイム君。弟だって考えがあってのことだよ?……あとシドレイ殿、心遣いは嬉しいが、ウィレイム君の顔色が赤紫色になってきてるから、腕を緩めてあげてね」

「御意に」


 ガーウィンの一言でシドレイはすぐに、ウィレイムの首から腕を離す。すぐさま、ケホッ、ゴホッと咳き込む声が聞こえてくる。


 なのにサリタナは、ウィレイムに対して心配するどころか、がっかりしているご様子だ。完璧な形の眉が少し下がってる。


 余談であるが、サリタナの母国ティフルは格闘技が盛んな国なのだ。

 そして銀色の髪に、深紫の瞳。月下のライラックと称される美しい王女サリタナの最上の娯楽は、格闘技場に足を運ぶことだったりもする。

 

 ……ということは置いておいて。


 やっとまともな呼吸ができるようになったウィレイムは、半目になってガーウィンに向かい口を開く。


 先に言っておくが、一番落ち着きを取り戻したいと思っているのは、他でもないウィレイムである。


「恐れながら、クリストファー王子の考えがどんなものかはわかりかねます。が、サリタナ様のお立場が悪くなる可能性があることだけは理解しております」


 第二王子であるのに、兄の婚約披露の舞踏会に欠席した挙句、ちゃっかりティフル国の礼服を着て貴族令嬢とダンスを踊っている。しかもクリスと言う名で。 


 このことが公になってしまえば、良からぬ噂が立ってしまうかもしれない。


 考えすぎだとはわかっている。それにクリストファーとして大々的に、マリアンヌとダンスを踊られるよりは、まだマシではある。が、それでも褒められることではない。


 そんな宰相補佐という立場と兄の心情をごちゃまぜにしたウィレイムの発言に、ガーウィンは少し耳が痛かったのであろう。


 そっと肩まで伸びた深緑色の髪で、耳を隠す。

 ただ次期国王となる身。そうやすやすと家臣に言い負かされる気はない。


「いやさぁ……引きこもりの弟におねだりをされたら、ついつい叶えてやりたくなるのが兄というものじゃないかい?ウィレイム君」

「はっ、何かねだる前に、良いとこ取りをしようとするその腐った根性を、今すぐ叩き直せと言いますよ」


 すぐさまウィレイムは、鼻で笑いながら厳しい口調でそう吐き捨てた。

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