閑話 受付嬢の日常
冒険者ギルド 受付嬢視点です。
「すみません、冒険者登録をしたいのですが…」
「承知いたしました。こちらの記入をお願いします。代筆は必要でしょうか?」
あら、新しい冒険者志望の子ね。変なモコモコの服装だけど、大丈夫かしら…?
「いえ、必要ありません。」
へぇ、農村の子はほとんど字が書けないから、貴族のお忍びかしらね?顔もよくみたら整っているし。
キンジくんって言うんだ。覚えとこーっと。
「農村出身の方や諸事情がある方など、未記入の方もたくさんおられますので、空欄でもよろしいですよ。その他技能欄も、周囲へのアピールにもなりますが、情報を秘匿すべきとも言えますので、受けたい仕事関連の技能だけを書くことをお勧め致します」
「なるほど…」
ぱっと見は戦えそうにないと思ったんだけど、剣は錆びたらとはいえなかなかの業物っぽいし、意外と才能ありそうな気がするのよね。
根拠はないけど、長年人を見続けているからか当たるのよ。
「これでお願いします」
「はい、ありがとうございます。綺麗な字ですね、教養がある方と言うのが伝わります。登録料の100ベルを頂けますか」
これは本音。貴族でもミミズの張ったような汚い字を書く奴もいるのだけど、この子はとても綺麗。受け答えからも嫌な貴族な感じを一切させない。大切にしなきゃね。Fからで全く問題ないわ。
「ありがとうございます。これがギルドカードとなります。身分証明書としても使えますので、無くさないよう、管理は厳重にお願い致します。またキンジ様はFランクからのスタートになりますがよろしいですか?」
「あれ、Gからではないのですか?」
「通常Gからなのですが、キンジ様は成人されているであろうことと、既に戦闘技術があるように思われますので、Fからとさせて頂きました。Gは子どものお使いや、街の便利屋としての依頼ばかりで戦闘はありませんのて」
「なるほど、ではFからでよろしくお願いします」
「承知致しました。依頼をこなしたり、納品実績がある程度溜まりましたらランクが上がります。頑張ってくださいね」
テンション上がってるわね。やっぱり冒険者に憧れたどこかの貴族の子かしら。それっぽいお守りの方はいらっしゃらないようだけど。
「はい、ありがとうございます!ついでと言ってはあれですが、おすすめの宿ってありますか?あまり手持ちはないもので…」
あ、あれ?貴族?手持ちがなくておすすめの宿って…。この子が急にわからなくなってきたわ。
「ギルドといくつか提携している宿屋がありますので、そちらを紹介させて頂きますね。Fランクの方は主に東の森を主戦場にされますので、その方面にある『小鳥の囀り』という宿屋が、個室ありで値段も控えめ、現在空室がありますのでおすすめです」
「ではそこにしますね」
「はい、では場所ですが、ここを出て右手に進んで…」
「何から何まで助かります。今後ともよろしくお願いします」
「はい、困ったことがあったらいつでも聞いてくださいね」
これが大型新人との出会いだった。
ーー
翌日。
「常時依頼のゴブリンとヒール草です」
「これを1人で!すごいですね。確認します…。ゴブリン14匹、ヒール草はこの量だと30ベルですね。現在ゴブリンは1匹3ベルですので、合わせて72ベルをお渡しします」
いやいやいや!初日でしょ!まともな身なりになったとはいえ、これは…?!
しかも1人で狩って来たみたい。どんな無茶したらこんなに?
しかもヒール草も1つもミスなく採取してる。似たような葉っぱはいくらでもあるんだから、見間違ってもおかしくないでしょうに。
これはとんでもない人が来たのかもしれない…。
ーー
1週間後。
「ゴブリンを…75匹、ヒール草も…60ベル分ありますね。合わせて275ベルです。そして、おめでとうございます。Eランクに昇格致します」
「もうですか?」
やっぱり、自覚ないのよね。この子。
誰にも師事されず、このスピードで成果を上げるルーキーなんていないのよ。
ここ数日急にゴブリンの数も増えたし…何を掴んだのかしら。
「はい、この成果を1日で挙げられる冒険者がFランクだなんてありえませんからね」
「へー、そうなんですね」
大体は世話好きの多いボーンの先輩冒険者にくっ付いて、色々教えてもらって、それでもこんな成果は上げられないと言うのに。
誰かに師事されている様子もないし、天然だな。貴重な人材だわ。
「では、ありがとうございましたー」
カランカラン。
「…それでいて毎日サボることなく成果を上げ、酒を浴びることなく宿に帰る。宿でも夜はすぐ寝て、朝早く起きて狩りに出る。…出来過ぎじゃないかしら…?」
「ホントだよなぁ。冒険者なんて飲んでなんぼだってのによぉ」
「あなたは飲み過ぎです」
「ガッバッハッ!ちげぇねぇ」
レイバン。Cランクの冒険者で、新人の世話好きの1人。
昔はBランクも目指せる有望株だったが、脚の怪我をきっかけに第一線から離脱。今はボーンで後進の指導…と酒を喰らう日々。
「でもアイツはもっともっとやるようになると思うぜ。昨日ちょっと尾行してみたんだが、俺に気付いたとは言わないが何か気配を察知していた。あの嗅覚があればソロでもそこそこやれるはずだ」
そう、ソロは不意打ちにどうしても弱くなる。それは魔物相手でも、人相手でも。
泊まりの際は見張り番がいないから無防備になるし、ダンジョンに何日も潜るならパーティー必須だろう。
「そんなことしてたんですか!不審者と間違われたらどうするんですか!?」
「いやぁ流石にルーキーにバレる程に腕は衰えちゃいねぇさ。これでも元Cランクで、隠密行動を主体にしていたんだしな。それを少し違和感を感じ取れるアイツは異常なんだ。伸びるぞ。一時的にあてがうパーティーを見繕うのもありかもしれねぇな」
「確かにそうですね…ダンジョンにも興味があるように言っていましたし…。そこはこちらでも探しておきます」
「おう、任せたぜ。貴重な有望なルーキーだからな。俺としちゃ、農村三人衆のノーカーズなんかいいと思うがな」
「彼らもここ半年では有力な子達ですね…D手前のEランクパーティーですし。馬が合えば良いのですが」
そんな感じで、ギルドの冒険者と本人がいない間に、有望なルーキーの話題で盛り上がることも良くあるのです。
娯楽が少ない世の中ですからね。