ボーン
ボーンに到着した。
ひとまず目的地は冒険者ギルド。その次は宿…拠点の確保だろう。
街並みは意外と綺麗で、中世ヨーロッパ風…詳しくはないけど…に近い気がする。
石造りやレンガ、土壁っぽいものから、ぱっと見コンクリートに見える建物まで様々だ。
門からメインストリートが続いていて、屋台がたくさん並んでいる。旨そうな匂いが漂っていて、空腹を自覚した。後で買おう。
そしてすれ違う人々の髪の毛の色がカラフルだ!ファンタジーって感じがする!
黒髪もたくさんいるから、自分が目立つこともないしそこは安心した。
「でっかー…」
数分歩いたところで、冒険者ギルドっぽい、確かにどでかい建物があった。入り辛いぞ。
コンクリートのような硬そうな建材で、5階建くらいはありそう。周りにこんな高い建物はない。
常識さんに聞いてみると、この建物含め頑丈な建物は土魔法の魔法を使って建てられているらしい。
科学技術は進んでいないけど、決して文化も中世レベルという訳ではなく、メインストリートは清潔で、魔法の技術によって文化的な生活をしているように感じる。
「おじゃましまーす…」
冒険者ギルドの門を開くと、思ったより閑散としているようだった。
昼過ぎなのでもう仕事に出ていて、ギルドに用はないのかな。
ひとまず冒険者登録だ。
「すみません、冒険者登録をしたいのですが…」
「承知いたしました。こちらの記入をお願いします。代筆は必要でしょうか?」
識字率はそこまで高くないのだろう、よく冒険者登録に来る農家の次男は、文字なんて必要ないから分からないなんてこともあるらしい。
今回は、スキルに感謝。
「いえ、必要ありません。」
氏名欄、苗字はいらないな。キンジ、と。
出身…どう書けばいい?と悩んでいると、
「農村出身の方や諸事情がある方など、未記入の方もたくさんおられますので、空欄でもよろしいですよ。その他技能欄も、周囲へのアピールにもなりますが、情報を秘匿すべきとも言えますので、受けたい仕事関連の技能だけを書くことをお勧め致します」
「なるほど…」
自分のスキルを全部書いたら、丸裸になるようなもんだよね。ならばここは、戦闘できますアピールのために剣とだけ書いておくことにしよう。
魔法は貴重らしいので、あまり見せない方針で。
「これでお願いします」
「はい、ありがとうございます。綺麗な字ですね、教養がある方と言うのが伝わります。登録料の100ベルを頂けますか」
袋から1枚の銀貨を差し出す。
「ありがとうございます。これがギルドカードとなります。身分証明書としても使えますので、無くさないよう、管理は厳重にお願い致します。またキンジ様はFランクからのスタートになりますがよろしいですか?」
「あれ、Gからではないのですか?」
常識さんから聞いていた話と違う!
「通常Gからなのですが、キンジ様は成人されているであろうことと、既に戦闘技術があるように思われますので、Fからとさせて頂きました。Gは子どものお使いや、街の便利屋としての依頼ばかりで戦闘はありませんのて」
「なるほど、ではFからでよろしくお願いします」
「承知致しました。依頼をこなしたり、納品実績がある程度溜まりましたらランクが上がります。頑張ってくださいね」
異世界に…きたー!って感じだ。テンション上がる!
宿もついでに聞いてしまおう。
「はい、ありがとうございます!ついでと言ってはあれですが、おすすめの宿ってありますか?あまり手持ちはないもので…」
「ギルドといくつか提携している宿屋がありますので、そちらを紹介させて頂きますね。Fランクの方は主に東の森を主戦場にされますので、その方面にある『小鳥の囀り』という宿屋が、個室ありで値段も控えめ、現在空室がありますのでおすすめです」
「ではそこにしますね」
「はい、では場所ですが、ここを出て右手に進んで…」
場所は案外分かりやすかった。というのも、ボーンは碁盤の目のような街の作りになっているからだ。
街の中心部には領主の館があり、近辺には商会や金持ちエリアになっている。その少し南に冒険者ギルドがある。
「何から何まで助かります。今後ともよろしくお願いします」
「はい、困ったことがあったらいつでも聞いてくださいね」
無事に冒険者登録が出来たようだ。
これからまだ夜までには時間があるから、宿を見つけたら周囲を少し探索してみよう。
割とすぐに『小鳥の囀り』を見つけた。庶民的だけど雰囲気の良さそうな宿だ。
その近辺には食堂や屋台、武具屋、食材、薬草、貴金属、本…本当にいろいろなお店が軒を連ねていた。
屋台からはいい匂いが漂っていて、既に酒を飲んでいる冒険者らしき人もいた。
驚いたのが洋服購入した時だ。一般的な麻の服と、少し荷物の入るリュックサック、靴を合わせて3ベルで購入しようとしていてのだが、パジャマとルームシューズの素材が良いようで高く買い取ってくれるらしい。
であれば、買う衣類も良いものに出来るだろう。歩くことが多いだろうから走れる靴を2足購入した。それと替えの服2セットと合わせて交換で良いと言われ、上機嫌で交換して着替えた。これで怪訝な視線を受けなくて済む。
「これから、ここで生活するのか…」
生活感があふれる街並みを歩いていると、異世界生活に実感が湧いてくる。
その一歩として、拠点となる宿に入ってみよう。
「いらっしゃいませー!」
看板娘?の心地良い掛け声が聞こえた。
どうやら一回が受付兼食堂となっていて、既に食事をしている人が多数いた。
「泊まりたいのだけど…」
「ご宿泊ですね!ありがとうございます!食事はどうされますか?お一人様でしたら、朝夜付き個室で一泊25ベルとなります。水浴びは井戸が中庭にあるので、そこでご自由にしてください!」
風呂はないか…。水浴びは今はいいけど、冬はしんどそうだ。
1ベル=100円くらいの感覚だったから、安い気がする。
収入がなくなるとヤバイな、残金800ベルだから早く安定して稼がないと…。パジャマが売れたのは僥倖だ。
「とりあえず2泊で」
1枚銀貨を差し出す。お釣りに銅貨を貰う。
「ありがとうございます!ではお部屋に案内しますね!こちらにどうぞー!」
二階の角部屋に案内された。
ベッドはなく、敷布団とクローゼットが一つあるだけの4畳程度の部屋だが、清潔感があるので特に不満はない。
「こちら鍵になります!無くさないようにしてくださいね」
「ああ、ありがとう」
「夕飯はもう食べますか?」
「食べることにするよ」
マザーに来てからまだ何も食べていない…言われるとお腹が空いて来た。
「では1階のお好きな席に座っていてください!すぐにお持ちしますねー!」
と言って走り去ってしまった。
荷物は剣くらいだから、置いて鍵を掛けて食堂に向かうことにした。
出てきた夕飯は、パンとスープだった。スープは日替わりで市場で安かった肉と野菜を使っているらしい。
パンもお手製で、硬い黒パンなんてことはなく、外はカリカリ中はモチモチ、そのままとても美味しいパンだった。塩味がない塩パンみたいなものだろうか。
これで1泊25ベル。他の宿は知らないが、鍵付き個室に加え、食事目当てに来ている客がたくさんいることから、きっとお得な宿屋なのだろう。
食後は明日はどうしようか、と硬い布団の上で考えていたが、異世界転移の疲れがどっときたのか、気付いたら眠っていた。