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それぞれの道


「…あれ、ここは」


南の洞窟での死闘でバランとタイトを亡くした。

ギルドで報告した後、ジョーは宿に戻った。

俺はレイバンとダンジョンでの出来事を話していて…。


「よう。目が覚めたか」


そうだ。みっともなく泣き叫んだんだ。その後のことは、覚えていない。


「おはよう。昨日はすみませんでした」


「気にするな。おめぇはまだ俺からすれば子どもでルーキーで、そんなお前には…重たすぎる」



本当に、だ。

異世界に来て、順調に成長して、オークリーダーとの戦いも乗り越え、ダンジョンも順調に攻略してボス直前。

1か月の成果としては上々だ。周りからも期待のルーキーとして注目されている。

俺はこの世界の冒険者としてやっていける、それも高いレベルで。

…そう思っていた矢先の、悲劇だった。


ゲーム感覚で戦闘してポイントを稼いでビルドを考えたりしてきたが、ここはゲームではなく現実なのだと、再認識させられた。



「一旦宿に戻って、すっきりしたらまた戻ってこい。ジョーも来るからな」


「あぁ、分かった」




『小鳥の囀り』に戻ってきた。

女将さんは何かを察したのか、何も言わずにいつもより豪華な朝食を出してくれた。


部屋に戻り防具を外し、ボロボロになった剣を魔法で綺麗にした。

しかし血糊だけではなく、刀身自体がだいぶボロボロになってしまった。

あれだけの敵の数を切って、打ち合ったんだ。魔剣でもなければこうなるか。修理か買い替えだな。



「行ってらっしゃい、無理はしないようにな」


「行ってきます」




ギルドに戻ってくると、ジョーが既に着いていた。レイバンとジョーと俺、3人でテーブル席に座る。

いつも酒を飲んでいるレイバンだが、今は珍しくお茶を飲んでいた。


「まずは昨日の魔石の清算です。1400ベルになりました」


思ったより少ない。普通にダンジョンで狩りをしていてもそのくらいにはなる。

まぁ探知して片っ端からサクサク倒していくのだから、普段の効率が良すぎるともいえる。


「そして…これですね。スキルの宝珠。これ、どうしましょうか」


「おい、これが例の宝か。こりゃ…鑑定はしたのか?」


「他言しないでくれると助かるが…実は鑑定スキルを持っている。俺が鑑定した。水魔法だった」


「おいおい何でもありかよおめぇ…。水魔法か、需要が大きい。10万ベルくらいにはなるんじゃねぇか」


「2人で割ると5万ベルですね。当面の生活費には困らないでしょう」


なんてことをジョーが言うが…ダメだろう?


「2人で割るな。これは4人で取った宝だ。それに今すぐ清算しなくてもいいだろう。それよりもこれからどうするかじゃないか?」


「そうだな…。おめぇらは、冒険者を続けるのか?」


冒険者をやめる選択肢はない。幸い転移者の特典としてマニュアル化を所持しているから、まだまだ自分が成長できるって分かっている。ここでやめるだなんてもったいない。


「俺は続ける」


「あぁ、その方がいい。おめぇさんならやれるよ」


「僕は…身を引こうと思います。バランとタイト以外の人とパーティーを組むのは考えられません。一旦村に帰って報告をして、それから今後のことを考えようかと思います」

「…冒険者になると決めたとき、死と隣り合わせの生活だって分かっていました。特に僕は武芸の才能もないから、きっと上に行くのも厳しいんだろう、脱落するなら僕だろうなって…覚悟もしてた。でも実際に生き残ったのは僕で…こんな結末は予想していませんでした…」


あぁ、みんな冒険者になるってことは、死ぬ覚悟もするってことなんだ。

でも実際に自分だけ生き残って、覚悟してたから大丈夫、なんてことはないんだよな…。


「…時間はいくらでもある。一旦落ち着いてから考えろ。ジョーは多才だからな、仕事はいくらでもあるだろうよ。ギルドの食堂で働いてもいいんじゃねぇか?将来自分の店を持っていたりしてな」


料理も美味いからな、店を出したら繁盛しそうだ、俺も通うぞ。


「はは…そうですね。実家は兄が継ぎますし、またこちらに戻ってきて職を探そうと思います」


「ジョー、待ってるぞ」


「うん、また会おう」




その後の話で、一旦スキルの宝珠はギルドの方で預かってもらうことにした。

普段そういったサービスは行っていないが、とても高級品であることと、こちらの事情を汲んで特別に預かってもらうことになった。

ジョーは遺品を持って、1人で生まれ故郷に向かった。近くまで馬車が出ているそうなので、問題ないそうだ。



俺は…今日は流石に狩りを行う気にはなれない。

何か気晴らしを、とも思ったが、何もする気が起きない。


ノーカーズとは臨時パーティーという形で組んでいただけだが、異世界に来て初めて組んだ仲間であり、初めての友人だった。

それを一気に2人も失ったのだ。思った以上に精神的なダメージが大きいようだ。

宿に戻って昼飯も食べずに、どうすればあの状況を、誰も失わずに切り抜けられたのか…考えていた。



答えは、出なかった。

俺がもっともっと強ければ出来ただろう、という答えになっていない答えしか。


でも、もう失わないためには、強くなるしかない。

実力も、知識も、経験も、たくさん積み重ねていく他ない。


そうやって、『冒険者』は成長していくんだな、と。





翌日、剣を見てもらうため、鍛冶屋に向かった。


「あー…こりゃダメだな。もう流石に研ぐだけじゃ無理だ。新しいのに買い替えるか、打ち直すかだな」


「そうですよね…。普段刀身に魔力を込めて戦っているのですが、それに耐えられる剣ってありますか?」


「そんなことして戦っていたのか。ちょっとやってみてくれ」


「了解。サンダーエンハンス!」


いつもの剣でやってみる。


「ほう…まるで魔剣だ。武器に補助魔法をかけて戦うやつはいるそうだが、大体魔法使いが他人の武器にかけるのが主流なんだ。自力でここまで出来る剣士はそういないだろう」


やっぱり異端っぽいな、魔法剣士って。普通はどっちかに特化するよな。


「補助魔法を前提に考えるなら、こんな剣はどうだ?」


鑑定してみる。

――

ミスリル合金の剣(ダンジョン産)

鉄とミスリルの合金。鉄6:ミスリル4の割合。

――

まさかのダンジョン産だった。鍛冶屋なのに。

鑑定は画しておこう。


「えぇと…これはどんな剣ですか?」


「見たところ鉄とミスリルの合金の剣だな。ダンジョン産らしい。ミスリルを鉄と混ぜるなんてもったいないことするやついるわけないからな。価値が駄々下がりだ。ミスリルは魔力電動性に優れているが、合金でもある程度その力は発揮できるだろう。試してみてくれ」


この世界のミスリルはとても高価だ。武器にすれば切れ味は鋭く、防具にすれば耐久性も魔法に対する力も優れている。かつ鉄より軽く丈夫だ。

そのミスリルと鉄の合金となると…。


「前の剣より威力が増している気がする」


「気のせいじゃないだろう、合金とはいえミスリルだ。代金だが…ミスリルに手を出す奴は、見栄も気にするからな、ダンジョン産の合金は人気がないんだ。このサイズのミスリル剣なら5万ベル以上はするだろうが…1万ベルでどうだ?」


ミスリル4割ということを考えると、お得だろう。手持ちギリギリだが、明日から狩りを再開すれば問題ないはずだ。


「購入する」


「毎度あり」


1万ベル…手痛い出費だが、今まで使ってこなかった分なんとかなった。

今朝貰った700ベルを合わせて、残り1500ベルほどの残金だ。



鍛冶屋を出たが、まだ時間は昼前だ。

この世界には当然スマホもゲームもない。今まで暇を潰す、ということはあまりしていなかった。

時間があれば狩りかビルドを考えるか魔法の訓練をしていた。

だが、今それらをする気力もない。流石に昨日の今日で狩りに行くのは、危険だろう。



…だらだらと考えていたのだけど、結局街を出て東の森に来てしまった。

この街に娯楽と言えるものは、酒と女くらいしかないようだ。王都には闘技場なんかがあるみたいだけど。

仕事が趣味になっているような人がこの世界では多いようだ。

ボードゲームとか作って売れば儲けれるかも…なんて考えたが、やめた。販売する伝手もないし経営とかは専門外だ。


で、俺の娯楽と言えば…魔法だと思った。異世界からきて色々な魔法を使えるようになって、戦闘力という意味でも嬉しいのだが、単純に魔法を扱えることが楽しいのだ。

自分のイメージが形になって、実用性のある魔法が出来上がった時は本当に満たされたような気持ちになる。

その為の実験台として、またゴブリンたちには犠牲になってもらおう。


現在のスキルポイントだが、34のようだ。第六感を取得して残ったのが15だから、あれだけの数の魔物を倒しても19しか増えなかった。

やはり数は多かったものの、個の力は大したことはない。それでも100匹と少し倒して19増えたと考えれば、安全マージンを取って狩りしていた頃よりは、死地の分のボーナスも入っているような気もする。

とはいえ闇魔法の50には届いていない。今今取得しないといけないスキルもないため、保留で良いだろう。

隠し部屋の時も、あの場で取った第六感が役に立った。ある程度キープしておいて、危ない時に場面に適したスキルに使えるようにしておいた方が良いかもしれない。



それから数時間、もっと早く、もっと鋭く、を目指して魔法の練度を上げるトレーニングを行った。

今までも簡単な魔法を瞬時に発動することは出来たが、ボルト系よりも威力の高いファイアボールなどを複数発動させるなど、もっと手札が必要だと感じた。

また今後ソロで活動するのであれば、逃げれない状況下での1対多対策として、高威力、広範囲の魔法が必要だ。

ファイアブレスをもっと素早く発動させること。

ファイアストームなど新しい複合魔法を覚えること。

これらも目標として、鍛錬していこう。


もう誰も失いたくない。

1人で誰も巻き込まずに頑張ることにしよう。

一人前の冒険者になったと、自信を持って言えるようになる日までは。


―――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

【技能スキル】

火魔法 Lv.4

水魔法 Lv.3

風魔法 Lv.3

土魔法 Lv.2

雷魔法 Lv.3

光魔法 Lv.2

剣術 Lv.4

隠密行動 Lv.3

鑑定 Lv.2

生命探知 Lv.3

罠探知 Lv.2


【固有スキル】

魔法適正

マニュアル化

第六感

異世界の常識

異世界言語


【スキルポイント】

34


【装備】

ミスリル合金の剣(ダンジョン産)

鉄の軽鎧

革の帽子

革のブーツ

魔力増強のミサンガ


これにて1章完結となります。

拙い文章ですが、読んでくれてありがとうございました。

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