死闘
南の洞窟9F 隠し部屋 大広間。
学校の運動場程度の大きさで正方形。
ど真ん中の宝箱を開けたら、無数のゴブリン・オーク・リザードマンが、入って来た通路以外の3方向から雪崩れ込んできた。
「逃げろー!!」
慌てて4人とも逃げ始めるが既に囲まれつつある。
鉄の床のためストーンウォールも使えない。
…倒して道を切り開くしかないか。
足の速さは俺が一番早かった。食糧とかの荷物持ちも兼ねていたため最後尾にいるバランが追いつかれかけている。援護しよう。
「ファイアボール!」
「助かる!」
「タイト、バラン!荷物になる食糧とかは捨てて!」
「まずい、囲まれたぞ!」
来た道に行くにも、オークとリザードマンの群れを倒さなければ。
既に全体で何匹いるかなんて数えられない。探知も反応が多過ぎてまともに働かない。
「キンジ!逃げ道確保のために全力で殲滅を!バランとタイトはキンジの背中を守って!」
「「「了解!」」」
出し惜しみは不要だ。道を切り開くぞ!
「ファイアボール!」
すぐに打てる限界の3発、正面のオークを焼く!
「アイスボルト!!」
左前方から迫ってくる2匹のリザードマンを貫く!
「サンダーエンハンス!」
右手から接近して来たゴブリンとオークを斬る!斬る!
「くっ!」
「負けないぞっ!」
後ろでは必死にバランとタイトがオークとリザードマンの猛攻を堪えている。
「ファイアボール!!」
前方の魔物たちを蹴散らす。しかし、蹴散らした倍の魔物が雪崩れ込んでくる。ジリ貧だ。
複合魔法で一気に行くしかない。
「大技を出す!10秒稼いでくれ!打ったら駆け抜けるぞ!」
「「「了解!!」」」
頼もしい返事が聞こえた。
よし。魔力を残り半分くらいぶち込んでやる。
オークリーダーを倒した時を思い出せ。やれる。
さぁ、準備はできた。まだ複合魔法は瞬時に出せるほど習熟度が高くない。
ノーカーズが必死に稼いでくれた10秒という時間、とても長い。後ろからたまに弓や魔法も飛んでくるのだ。身体を張ってバランが守ってくれた。
それを無駄にしてはいけない。いくぞ!
「ファイアブレスッ!!!」
ゴォォォォォォ!!!
オークリーダーの時よりも広範囲、高火力だ。このために風魔法も磨いてきたからな!
3,40匹の魔物を焼き尽くした!幅3mくらい、まだ煙が立っているが…ゴールへの道が、見えた!
「走るぞ!」
「「「おう!!!」」」
大広間にやってきた通路目掛けて走る!50mくらいなのだが、左右後ろから迫ってくる魔物たちのせいで、非常に長く感じた。
そして、その長い距離を走っているときに、一つの絶望的な事実を認識した。
「通路が塞がっている…」
「おい!ここから来たんだよな!間違いないよな!」
「あっているぞ!」
「落ち着いて!落ち着いてください!後ろから魔物が迫っています!!」
そんな馬鹿な。
こんなことが…こんなことがあっていいのか。
目の前には100匹ほどの魔物が迫っている。倒しきるしか、生き残るすべはない。
「大丈夫!逃げ場はないですが、背後の心配もいりません!落ち着いて1匹ずつ対処しましょう!」
そうだ。やるしかないのだ。異世界に来て、こんな序盤のチュートリアルダンジョンで死ぬなんて、ありえない。
「やるぞ。俺はこんなところで死んでたまるか」
スキルポイントを確認。先ほどのファイアブレスで大量に倒したからか、55まで増えている。
ここで取るのは第六感。40ポイントは重たいし闇魔法が欲しかったが、こんな状況で取ってすぐ使いこなせるわけがない。
魔法で対処できる数じゃないんだ。接近戦ならこちらを取る他ないだろう。
【技能スキル】
火魔法 Lv.4
水魔法 Lv.3
風魔法 Lv.3
土魔法 Lv.2
雷魔法 Lv.3
光魔法 Lv.2
剣術 Lv.4
隠密行動 Lv.3
鑑定 Lv.2
生命探知 Lv.2
罠探知 Lv.2
【固有スキル】
魔法適正
第六感
マニュアル化
異世界の常識
異世界言語
【スキルポイント】
15
固有スキルに追加されたか。よし。やるぞ。
ジョーが壁際で弓を構えている。
その前で俺が叫ぶ。左右にバランとタイトが構えている。
「生き残るぞ!かかってこい雑魚共!サンダーエンハンス!」
まずはゴブリンとオークが同時に襲い掛かってくる。
両方素手なら怖くない。一歩踏み込み、ゴブリンを斬り捨て、続いてオークに突き刺す。
サンダーエンハンスの効果で痺れている間に剣を抜き、オークを斬り捨てる。
そのオークの後ろからリザードマンが斬りかかってくる。剣でガードし、アイスボルトを頭にぶち込む。
一瞬余裕ができたので、オークがたくさんいるバランの方に、ファイアボールを打つ。威力重視の1発だ。ど派手に燃え上がることで、オークとゴブリンが突っ込むのを躊躇する。
「助かる!」
タイトは攻め込むよりも、槍で敵の攻撃をうまく受け流しながら、確実に相手にダメージを与えている。
しかしそれも、今の相手に武装したリザードマンがいないから出来ること。長くは持たないだろう。
それに、弓持ちやリザードマンウィザードも後ろに控えている。不意打ちされる可能性もある。
俺に出来ることは、1匹でも多く倒すこと。待っていてもだめだ。突っ込む。
「おらぁ!」
火柱にビビるオークを斬り捨てる。近くにいたリザードマンにアイスボルトをぶち込む。ゴブリンを斬る、斬る。
リザードマンが2匹で襲い掛かってくる。片方が剣を振り上げたところにジョーの矢が突き刺さる。怯んだ隙に袈裟斬りをお見舞いし、もう片方にアイスボルト。
後ろもあまり見ていないし、全ての敵を観察する余裕もないのだが、何となくこうすれば切り抜けられそう、という直感に従って行動している。第六感が活きているのだろう、取ってよかった。
ゴブリンが5匹まとめて襲い掛かってくるが、もう敵ではない。魔法を使わず、剣のみで斬り捨てる。
5分ほど経った。俺とジョーはまだ無傷。
しかし、バランとタイトは致命傷こそないものの、傷が少しずつ増えてきたみたいだ。
ヒーリングする余裕があればいいのだが、あれは意外と集中力を使うため、その余裕がない。
そして襲ってくる魔物だが、ゴブリンは大体いなくなったようだ。
リザードマンも増えてきているし、オークも何か武器を持っている個体が増えてきた。
こちらは消耗する一方なのに、敵は強くなっていく。理不尽だ。
「フッ!せいっ!」
オークの槍を回避し、斬る。
リザードマンが掴みかかってくるのを回避し、斬る。
そうしていると、そしてついに、アレが来てしまった。
「矢が飛んでくる!気を付けろ!!」
魔物の数も残り30匹ほどになっただろうか。
そのせいで後ろの方にいた遠距離攻撃持ちの魔物の射程に入ってしまったようだ。
矢が2本、山なりに飛んでくる。それと同時にリザードマンが斬りかかってくる。
受けてはいけない、後ろに回避するしかない。
矢が地面にあたると同時に2匹のリザードマンが襲い掛かってくる。
そこに、ここしかないという最高のタイミングでのジョーの援護があり、怯んだ隙に斬り捨てることができた。
チラッとジョーの様子を伺うと、披露している様子だった。それはそうだろう、俺だけじゃなくバランとタイトの援護もして、かつ全体の状況把握にも努めているのだ。
「複数のウィザードから魔法が来るよ!受けずに回避して!」
ついに来てしまった。魔法は受けることが出来ない。矢は最後尾から打つ都合上、山なりの威力が低いものしか飛んでこないため、盾持ちのバランと獲物が大きいタイトはまだ防ぐことが出来た。
しかし魔法は無理だ。どんなものが飛んでくるのかもわからない。
「ファイアボール、11時から1つ、正面から2つ!」
ジョーが的確な情報をくれた。正面から俺に向かって2つ来た。壁際まで下がって回避。
2mほど先に着弾、燃え上がった。中々の威力だ。これは空中で撃ち落とそうなんて考えてはいけなさそうだ。
そして燃え上がっているところに突っ込んで来られては困る!対処せねば!
「ウォータージェット!」
普段、飲み水くらいしか生成しない水魔法だが、大量の水を噴射する魔法がある。
燃費の割に殺傷能力が低いため使わないのだが、消火には役立ったようだ。
合わせてバランの目の前の火柱にも使っておく。
「サンキュ!」
「おう!」
すぐに消火して前進したが、じわじわと魔物たちが迫ってきていたため、かなり壁際まで追い込まれてしまった。
「残りの魔力は2割くらいだ」
ウィザードがあとどれくらい魔法を打ってくるのか。持つのだろうか。
サンダーエンハンスを切って持久戦の方が良いのか、どうしようかと試案していると、
「キンジ、合間を縫って後方のウィザード、やれる?」
それは考えた。しかし、3人は持ちこたえられるのか。
「自分の身は自分で守る。後ろの敵を頼む」
「頼むぞ!」
既に全身傷だらけ、満身創痍の2人からも言われてしまった。やるしかない。
「任せろ!エアウィンド!」
目の前に突風を放つ。殺傷能力は皆無だが、そこそこの突風のため、後方の敵まで一瞬怯ませることが出来た。
その合間を縫って、途中の敵をサンダーエンハンスが掛かった剣で斬りつけながら敵後方まで進み、ちょうど通り道にいたウィザードは仕留めることが出来た。
確認できたウィザードは仕留めたのを含めて3匹。先ほどファイアボールを放ったのと同じ数だ。
残りの2匹にも斬りかかったのだが、周囲のリザードマンがガードするように位置取りして受けてくる。いやらしい。
攻めあぐねていると魔法を打たれる。出し惜しみは出来ない。
「アイスボルト!」
斬りかかると同時にアイスボルトをリザードマンに叩き込み、確実にガードの1匹を仕留める。
しかし補充と言わんばかりに別のリザードマンが間に入ってくる。
その間にもウィザードは魔法を準備している。
「エアウィンド!アイスボルト!」
二種類の魔法を組み合わせてみる。
よろけたガードを斬り捨て、アイスボルトを奥のウィザードに打つ。
多重展開かつ速攻で放ったので威力が足りず仕留めれなかったが、接近することができたため、袈裟斬り、倒すことが出来た。…が。
「すまない!ファイアボールがいく!」
あと1匹、間に合わなかった。耐えてくれと、願う。
魔法を打った隙に、最後のウィザードとガードをアイスボルトで仕留めることが出来た。
残りはもうリザードマンだけ、20匹を切っただろう、終わりが見えてきた。
しかし魔力ももう残り少ない。サンダーエンハンスの維持も、もうできない。
とにかく弓を持ったリザードマンを探して最優先で倒す。その後は手当たり次第に斬る。
しかし、第六感を入手したおかげか、囲まれていない状況でこの数のリザードマンと接近戦をしても死ぬ気はしない。
あとは、なるべく早く、倒すだけだ。
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現在のステータス
【技能スキル】
火魔法 Lv.4
水魔法 Lv.3
風魔法 Lv.2
土魔法 Lv.2
雷魔法 Lv.3
光魔法 Lv.2
剣術 Lv.4
隠密行動 Lv.3
鑑定 Lv.2
生命探知 Lv.2
罠探知 Lv.2
【固有スキル】
魔法適正
マニュアル化
第六感
異世界の常識
異世界言語
【スキルポイント】
30
【装備】
鉄の剣 +10
鉄の軽鎧
革の帽子
革のブーツ
魔力増強のミサンガ




