ダンジョンでの共闘
南の洞窟4F。ノーカーズとの臨時パーティー。
「このフロアは4人での戦闘を行う。移動についてだが、前衛は俺とタイト。後衛はジョー。中衛…主にジョーの護衛としてキンジ、よろしく頼む。探知に引っ掛かったら敵の数と種類を報告してくれ。ジョーはそれを受けて陣形の指示だ。まぁこのフロアもオークレベルの敵ばかりだから、色々試していこう」
「「「了解だ(です)(だぞ)」」」
こういう指示は本当に早い。そして恐らく正確だろう。バランもジョーも農村出身で教養がない、と言っているが、地頭はとても良い。
…タイトは、あれだ、野生児にしか見えん。ただ野性の勘?は侮れない。
「100m先、オーク5匹。こちらに気付いているようだ」
「ここ一直線だからなー…」
「10m程まで待機し、キンジはファイアボルトを確実に2匹に当てて下さい。発射されたらバランとタイトはとどめをさして下さい。キンジもその後に出て、各個撃破、で行ってみましょう」
まぁ全部魔法で倒してしまってもつまらないからね。共闘の意味もない。
さて、ファイアボルト準備完了。
10mまで来たところで前衛の2匹のオークに発射!と同時に2人が駆け出す。命中、からの斧と槍での攻撃で葬った。
そこから俺もダッシュで駆け出し、最後尾のオークにファイアボルトを打ち、剣でとどめを刺す。1匹ならこんなもんだな。
2人の様子を見ると、バランと対峙するオーク、地味にいい武器を持っていて、斧をガードしていた!そんなことあるのか!
タイトも仕留め終わりそれに気付いたようで、俺とタイトがオークの両端から斬りつけ(槍で突き)、後ろからジョーの放つ矢が飛んできた。
オークが叫び声を上げ、力が抜けたところにバランがとどめを刺した。
「こいつだけ強かったな。武器は改修されないのか」
鑑定してみよう。
ーー
鉄の槍(ダンジョン産)
ーー
…何の変哲もない、鉄の槍がドロップした。ちょっとマジックアイテムとか期待したじゃねぇか。
「ダンジョンの敵の装備品が消えないでドロップすることもあるんだな」
「ああ、たまにだがこういう敵がいる。そして、装備品を所持している敵は大体他の奴らより強い個体だ。ちなみに消える時もあるから、そこは運だな」
ここでも泥率との戦いがあるのかよ。
「…なら敵から奪い取って、そのまま逃げる、とかはダメなのか?」
「それは不可能です。以前試した方がいるそうなのですが、ダンジョンを出た時に消えてしまったそうです」
鑑定結果にもダンジョン産、というのがあったが、鍛冶屋で打った武器とは区別されているんだな。
ちゃんと敵を倒してドロップしたものか、宝箱で入手したものじゃないと持ち帰れないそうだ。
「そういえば1Fから気になっていたんだが、キンジの剣、戦闘終わりにしちゃ綺麗すぎねぇか?」
「あぁ、戦闘が終わったら魔法で血を流して、その後乾かしている」
「そんなんありかよ…。魔法ってそんな万能なもんじゃなかった気がするぞ」
「はい、本来必要なはずの詠唱を一切していませんし、同時に複数の魔法の展開と、それぞれをコントロールする、というのはとても高等技術であると聞いたことがあります。しれっとやっていたので突っ込みませんでしたが、キンジの魔法は常識外れです。…あ、いい意味で、ですよ」
常識外れとまで来たか!完全に独学だし、便利だなーとしか思っていなかったが…。
「僕達はキンジの魔法の詳細について口外しません。ですがペラペラと喋るロクデナシがいることも事実です。あまり人目のあるところで使わない方がいいかもしれませんね」
「それについては完全に同意だ。気を付けた方がいい」
「そうなんだな、忠告ありがとう。魔法も師匠がいれば、もっと良かったのかもしれないな」
「いや、多分独学で続けた方がいいですよ。変に教わると、早くに頭打ちになってしまうこともあるそうなので」
そうなんだ。これからも自分で色々開拓することにしよう。
それから5Fまで、特に問題なく潜る事が出来た。
初見の敵はリザードマン。体長2.5mほどある巨大で、剣と盾を装備していた。探知でもそこそこ大きい反応で、少しビックリした…のだが。
こいつは基本的に1匹でしか現れないらしい。なので、3人でもバランがタンクになり、後は適当にやるだけで問題ないらしい。
ただし8F以降は複数匹で出現する。リザードマンパーティーに対して安定攻略が出来れば、このダンジョンは卒業、次のステップに行く目安となるらしい。
6Fからはグレイトボアも出現した。こいつは猪突猛進するだけ、だが当たると痛いでは済まないこと、ダンジョンなので道で出会った場合は特に気を付けないといけない。
ファイアボールで一撃だったので、最悪それで行くことにする。
ちなみに部屋で会った時は魔法を使わずに倒した。こいつの肉は非常に美味いのだ。小鳥の囀りで食べたステーキ、美味かった…。しかし、ここはダンジョン。倒した魔物は消えていく。あぁ、俺のステーキ…。
「…あいつ、うまいよな。腹が減ったし、ここらで休憩を入れるか」
ダンジョン内での食事はもちろん初めてだ。外でも大体干し肉とか、宿屋のパンとか、そんなものしか食べていなかった。
飯の心配はするな、と言われてきたから何も持ってきていないが、何が出てくるのだろうか?
「キンジ、このボウル一杯に水を入れてくれないかい?」
調理担当のジョーから指令が来たので、水魔法で出しておく。この水は本当に美味いので、料理に使うのはアリだな。
「タイト、リュックの中身を見せて」
食材はタイトが担いでいたようだ。肉や芋、人参、キノコもある。食材を鑑定すると、驚きの結果に。
ーー
グレイトボアのバラ肉
じゃがいも
人参
マッシュルーム
ーー
いやいやこれカレーの具でしょ。そして異世界でも野菜は変わらないのね。八百屋はあったし、見覚えのある野菜がほとんどだったけど、地球のまんまだとは。
そして次に取り出したのは鍋と…カレールー!?
え、カレールーって、こっちにもあるの?鑑定結果も、カレールーだし。
「カレーはパンに合うし美味い。最高だ。ジョーの親父さんからジョーに受け継がれた、最高のカレー、病みつきになるぞ」
…スパイスの効いたいい香りが漂う。空気を読んで魔物も出てこない。
「村でもジョーの親父さんが作るカレーは大人気なんだ。香辛料は少し高く付くが、このカレーには必須だからと、村長が村の予算で行商人から買い付けるんだ。んで行商人もこのカレーが美味いことを知ってるから定期的に来て、食べる代わりに少し安くしてもらってた。ちなみにレシピは一子相伝らしい」
ツッコミどころが多過ぎて追い付かないぞ。
「うん、今回は肉を奮発したことと、キンジの水が美味しいから、美味しくできたよ」
もう出来たのか。楽しみで楽しみで、時間が過ぎるのも一瞬だったよ!
「「「「いただきます」」」」
まずはそのままルーだけいただくことにしよう。
「うまっ!まじか!!」
「ははっ、ありがとう」
「みんなそうなるんだ。本当に、このカレーは絶品だよ」
日本では中辛と辛口の中間くらいの辛さだが、とてもスパイスが効いている。市販のルーカレーよりずっと効いているが、丁度いい。
肉も上質なグレイトボアの肉を使用していて、臭みもなくカレーに味が滲み出ている。他の野菜も、農家の息子たちが選んだ品だ、不味いわけがない。
パンはノーカーズが泊まってる宿屋で買ったものらしい。小鳥の囀りに負けず劣らず美味い。味は薄めだが、そのまま食べても豊潤な小麦の香りを感じられる。カレーの邪魔をしない最高のパンだろう。
…米が欲しい。多分今まで食べたカレーの中で、一番美味しい。だからこそ、米が、米が欲しい…!!しかし、ボーンでは一度も見かけた事がない…。
「…なぁジョー、このあたりでは米は栽培しないのか…?」
「うん、聞いたことがないね。極東の方ではパンではなくて米が主食って聞いたことがあるけど…どうかした?」
そうなのか…常識さん?
ーー
極東のワクニではコメが主食として食べられている。ただし栽培が難しいこと、パンが主食であることから、ランス王国では栽培されていない。
ーー
ですよねー。
「このカレーは人生で食べたカレーの中で、圧倒的ナンバーワンだ。それは間違いない。ただ俺は普段、カレーライス…と言って、パンにつけてではなく、米とルーを一緒に食べていたんだ」
「ワクニのカレーライスは最高!国民食!とか言ってる奴を昔酒場で見かけたことがあるな」
「パンでも美味いからどっちでもいいぞ」
「うーん…確かに、米とルーはとても相性がいい気がするよ。行商人が売っていたら、米を買って試してみるのもいいかもしれないね」
分かってくれたようで何よりだ。カレーライスも期待しよう。とりあえずはこの目の前のカレーを楽しもう。
なんたって久しぶりなのだ。大好きだったカレーを一生食べれないと、勝手に思っていたが、杞憂に終わって本当に良かった。
カレーを食べ終わった。カレーは2食分使っていたようで、残りが入った鍋を持って、ダンジョン攻略を再開する。
6F、7Fもマッピング済みとのことで特に迷わずに踏破できた。しかし、8Fからはノーカーズもほぼ未知のエリアらしい。何度か挑戦したが、階段付近での戦闘を数度こなすか、逃げ帰るので精一杯だったのだとか。
緊張感が出て来た。頑張ろう。




