臨時パーティー
…軽く二日酔いだ。マザーに来てから初めて飲んだ酒が、あんなことになるとは。
ビールが思ったより美味かった。こっちにもエールとラガー、しっかりあるんだな。そして冷蔵庫なんて科学の力がなくても、魔法の力でキンキンに冷えて出てくるからな!日本人はキンキンのビールが大好きなのです!
ノーカーズの身の上話も、面白かった。
小さい頃から無茶するバラン、それに乗っかるタイトと他の奴ら、危ないところに入りそうになったら手段を選ばず止めに入るジョー。
バランスがいいんだろうな、この3人は。そんな中に入ってもいいのだろうか、とも思ったが、向こうも田舎から出て半年、若干の伸び悩みを感じているところだったので新しい風を吹かせたいと、そう思っていたところに現れた天才ルーキー!という扱いらしい。
レイバンとノーカーズは割と仲が良く、たまに師事してもらっているらしい。斧や槍、弓の使い方から、ジョーには後衛目線での参謀の役割、バランにはタンクとしての戦い方。
タイトは槍だけ教えて放っているらしいが、センスがいいので勝手に伸びるだろ、とのこと。そんなもんなんだな。
この中に入って俺が担当するのは索敵と中後衛からの魔法の砲台だ。
バランがタンクで敵を抑えている間に魔法を準備。完了次第前に出て放つ。終わったら下がって、を繰り返し、が基本プラン。
雑魚多数の場合は遊撃になって魔法剣士をやるし、ケースバイケースではあるが、基本形をキッチリこなせている間は安定しているのだから、ダンジョンでその階層を安定攻略できる地力があると判断できるのだそうだ。
水生成と回復魔法は軽く使えるが、得意ではないので過度な期待しないでくれとだけ伝えた。レイバンも何も言わなかったし、いいのだろう。
そしてこんな戦略的な話まで初対面の俺と、酒を飲みつつもしっかりやれるあたり、ノーカーズもプロなのだろう。
ランクは同じEとは言え、2週間と半年、経験の差は色々なところで出てくるだろう。勉強させてもらおう。
…そしてなんと、今日から早速ダンジョンアタックをするとのことだ。水がいらない分荷物が軽いし助かる。特に用意するものは無いからいつもの装備で来てくれ、と言われてしまったら、行くしか無いだろう。罠探知はそのうち取る。なくてもやれてるんだから、まだ大丈夫なはずだ。
なのでダンジョンに行くので数日帰らないかもしれないとマリーちゃんに伝えたのだが…半泣きで…
「え!ついこの前冒険者になったばかりなのに、ダンジョンなんて早過ぎるよ!行かない方がいいって!!」
「いや、その、一人じゃ無いし大丈夫…」
「いや!だめ!私が許しません!」
「あのー…」
どうすれば?
「そこまでだ、マリー。キンジだって策も無しに行くわけじゃ無いだろう?そもそも誰と行くんだい」
「あぁ、ノーカーズです」
「ほら!なら安心だ。あいつらは1ヶ月以上ダンジョンに潜っているみたいからな。臨時パーティーだろう?頑張れよっ!」
助かった。そしてどこ情報…?女将の情報網、たまに怖い。
「ありがとうございます。ご馳走様でした、行ってきます。大丈夫だよ、マリーちゃん、必ず帰るから」
「ほんと…?じゃあ、待ってるからね!」
うーあざとい!涙目で美少女が上目遣いで、待ってるからね、だなんて!さすが看板娘!
「うん、行ってきます」
「ほれ、こんなもんでいいだろう?」
鍛冶屋だ。防具の修理も無事に完了している。うん、付けた感じも以前と変わらない。
剣は…おぉ、見違えたな。ピカピカだし、切れ味も鋭そう。それでいて程よい感じの重量感。
「手入れはもう少ししてやれ。まぁ今の反応を見ると元の姿も知らんかっただろうが…。小まめに血を拭く、軽く研ぐ、それだけでだいぶ違う」
「なるほど、ありがとうございます」
水で流してドライヤーで乾かそう。…魔法万歳。
「おはよう、待たせたかな?」
「おはよう。俺らも今来たところだ」
ノーカーズと合流。
これから、南の洞窟に挑戦するぞ。
「魔力は十分にある。喉が渇いた時は言ってくれ」
「ありがとう、助かるよ。では行こうか」
「「「「よろしくお願いします(するぞ)」」」」
臨時パーティー、出発!
南の洞窟についた。道中、ダンジョンや南の洞窟についての情報をノーカーズと常識さんに教えてもらった。
・全10階層からなるEランクダンジョン。Eランクだけど、8F以降、特にボスはDランクの実力がないと厳しいらしい(道中の敵や罠でランク付けがされる。そのランクで挑戦は数階層ならできるが、踏破できるとは言っていない、とのこと)。
・ダンジョンは新月の日に内部構造が入れ替わる。難易度や基本構造は変わらないが、道が変わったり宝箱が復活したりする。新月の日にダンジョンに入っていると、外に弾き出される…らしい。
・新月の日以降にノーカーズが潜ってマッピング済みとのこと。
・名前の通り全階層が洞窟。ダンジョン摩訶不思議の、降りたら森でした、とかはない。環境が変わらないので初心者向け。
・罠に致死性のものはなく、判別も簡単とのこと。でも油断すると痛い目を見る。そういう意味でも初心者向け。
…チュートリアルかよ、というような内容だった。8F以降の下層は、Dランク相当の戦闘力がないと厳しく、そこで足踏みをしているとのことだった。
なので、7Fまではお互いのスタイルの確認や、俺を入れてのフォーメーションを確認しながら進むこととなる。
3Fまではオークも出ない、東の森相当の敵しか出ないので、キンジのソロと、ノーカーズ、それぞれの戦闘スタイルのお披露目。
4Fからは南の森相当になるため、4人での戦闘を行う。
という方針となった。




