休日
昨日のオークリーダーとの死闘、夢に出てきた。本当に酷い目にあった…。石橋は叩いて渡らないとダメだな、うん。
そして全然疲労が取れていない。流石に今日は休暇日でもいいだろう。
オークリーダーを倒したおかげか、スキルポイントが17に増えていた。…いや増え過ぎ…。
それだけの相手を倒したということだろう。死線を潜り抜ければたくさん稼げるが、何度もやってては命がいくつあっても足りない。リアルなのだから、いのちだいじに。安全に狩れるレベルで数を稼ごう。
防具も少し損傷しているし、そのついでに剣を研いでもらうのもありかなと思う。
お金は割と溜まってきている。1600ベルほどの手持ちがある。比較的レアなラビットホーンも探知して仕留めているから、効率が良いのだ。
以前防具を購入した鍛冶屋に出向く。馴染みってほど通ってはいないが、防具とかをチューニングしてくれたり、装備について解説してくれたりいいオヤジさんだ。愛想は悪いけど。
「おはようございます。修理などを頼みたいのですが、よろしいですか?」
「おう。どれだ?」
「この防具の左肩あたりと、剣の錆び取りをお願いしたいです」
「おー…こりゃ派手に殴られたな。怪我は残ってないのか?その様子じゃ回復魔法でも掛けてもらったか。剣の錆び取りか。…剣の方が重症だな、併せて500ベルでいいぞ」
やっぱりこのサビは頑固らしい。まぁ余裕あるし頼んでしまおう。
そして分かる人は分かるんだな、回復魔法。誰が掛けたかまでは掘られなかったが、そのうち気付かれてもおかしくないな。受付嬢とか周りの冒険者に聡い人がいれば既にバレていそうだ。
「よろしくお願いします」
「おう、明日取りに来い」
そういってオヤジは奥に行って、作業にかかってしまった。こうなるともう会話できない。明日取りに来よう。
…さて、鍛冶屋を出たもののまだまだ昼にもなっていないり異世界で暇をつぶす方法がわからない。娼館は聞いたことはあるけど、興味は少しだけ、少しだけあるけど、リスクがなー…。光魔法で治せるのかな?性病って。分からないうちはやめておこう。
やることもないのでとりあえずギルドに来てみた。
よく考えると自分の強化…レベルがあるのかは分からないけど、異世界に来た当初より身体能力が上がった気がする…を優先していたけど、依頼を見てみるのもありだよな。
とはいえこれから活動する冒険者も多く、結構ごった返している。あの中に行くのは嫌だなぁ。
昼間から酒でも飲んでみるか。どうせ今日は働かないんだ。
そう思って併設のバーに腰を下ろすと、先輩冒険者さんが相席してきた。
「よう、隣いいか、レイバンっちゅうもんだ。Cランクだな」
「どうぞ、キンジです。Eランクの新人ですが、どうぞよろしくお願いします」
「おー、本当に礼儀正しいボウズだな。昨日は大変だったんだってな?まぁ死にかけるこたぁ冒険者やってりゃいくらでもあるさ。大事なのは死なねぇことだけだ」
情報が流れるの早くないか…?昨日の受付嬢とのやり取りを見られていたのかな。
「ははぁ、ありがとうございます。オークリーダーがあんなに強いとは思いませんでした。ギリギリで倒せて良かったですよ」
「そりゃそうだ。そもそも本来Eランク冒険者がソロでオークの村を殲滅しようなんて考えないんだよ」
ん?なんでそれを知っている?
「レイバンさん、ひょっとして昨日の俺の行動を把握しています?」
「あ…まずったな。あぁそうだ。昨日の途中からだがな。ノーカーズがギルドに帰ってきて、オーク15匹に囲まれて危なくなったところに、キンジに助けられたと聞いてな。どの規模のオークがいるか調査するために出向いたら、お前が村を焼き討ちしているのを見つけてな。見守っていたわけだ。本当に死にそうになったら助けに入ってたぞ」
「なるほど、そうだったのか…。ということは気絶した後に何も被害が無かったのも…」
「それはまぁ運だわ。俺が見張っていたから、手を出そうとした魔物や輩がいたら、しばいてたがな」
「そうか…感謝する。無事に帰れたのはレイバンさんのおかげだろう」
夕方に目が覚めたはずで数時間寝ていたことになるが、その間何もなかったのは運だけじゃないはずだ。恩人だな。
「がっはっは!ならば、次はもうちょっとうまくやることだ。あとやり方はわからねぇが魔物を遠くから見つけているだろ?でも上手に隠れた奴は見つけれてねぇはずだ。昨日も俺が近くにいたのに気づかなかったのであれば、その力を過信しすぎないようにすることだ」
「なるほど。忠告ありがとう」
ここ2週間、たまに付けられている?と直感的に感じることはあったが、街の外でノーカーズ以外の連中と鉢合わせることもなかったし、監視に気付いたことはなかった。
村襲撃前も探知しているが、レイバンは反応がなかったのだから、その通りだろう。隠密行動が上がるか、生命探知が上がるか、そのどちらも必要かは分からないが、成長が必要だ。
「昼間から飲むのもいかがなものかと思っていたけど、こうやって知らない情報が手に入るのであれば、たまに交流するのも、悪くないですね」
「ここにいるやつらの大半が、そんなこたぁ考えてねぇだろうがな!」
それでも、だ。繋がりは冒険者稼業に必須なのだろう。マニュアル化で多彩な技を繰り出せて、他人と足並みを合わせるのに不安はあるが、臨時パーティーなんかは考えてみてもいいかもしれないな。
「あ…キンジさん!昨日はありがとうございました!」
「お?」
ノーカーズだ。
「キンジ!昨日は助かったぞ!おかげで怪我もなくピンピンしてるぞ!」
「昨日はありがとな、助かったぜ」
「いやいや、困った時はお互い様だ」
これは紛れもない本音。常識さんも万能ではない。受け答えはスキルとしてしてくれているが、その常識は聞かなきゃ答えてくれない。思い込んでいたら意味もないし、こうやって肌で冒険者を感じられる機会はあった方が良いと思った。
つまり、お互いWin-Winな関係を築きたい。
「そういえばキンジは、南の洞窟…ダンジョンには手を出した事はあるのか?」
とレイバン。渡りに船な質問だ。
「いや、ない。野外と勝手が違うし、ソロだし、まだ不慣れなうちは手を出さないでおこうと思っていた」
「なら、こいつらと臨時パーティーでも組んでみたらどうだ?魔法で後衛も出来る、前衛もできる。バランスは悪くねぇはずだ。まぁキンジ次第だがな」
「俺らはいつでも歓迎だ(です)(ぞ!)」
息ピッタリだな、おい。
「俺としてもありがたい申し出だ、是非次にダンジョンに行く際は、よろしく頼むよ」
「よっしゃ!将来有望なルーキー達の新規パーティー…臨時だがな!結成に乾杯!今日は奢りだ、飲め飲め!」
「「「よし来た!いただきまーーす!!」」」
いい展開になった!そして、これは楽しむべきだ。全力で仲良くなろう。




