オーク村の死闘
ノーカーズと共に20匹のオークを始末。
その後ソロで7匹のオークを始末。
残りはおそらくオークの群れ…全部で22匹。流石にこの数は1人ではしんどい。
しかし、安全マージンを確実に取るだけで、この先生きていけるのか?冒険者をしていれば、危険な綱渡りをしないといけない時が来るのでは?
そう考えると、ここは挑んでみるのも良い気がする。
ただまだ突っ込まない。光魔法の回復魔法を試してみたいからだ。
使い方はイメージできている。剣で自分の腕を斬るのは少し嫌だが、検証のためには仕方ない。ぶっつけ本番はごめんだからな。
痛っ。
さて、ここからだ、光をイメージしろ…
「ヒーリング!」
すると、ついた傷が塞がり、血も問題なく止まった。これは便利だ。
これで準備は整った。風魔法も突風を出す魔法なら覚えたから、建造物とかがあれば火を打ってから使えるかもしれない。
22匹に動きはないようだ。あちらさんは深追いはしないことに決めたようだが、こちらは殲滅するぞ。
…近くまで来た。気付かれてはいない。
藁と木の枝で出来た粗末なテントのような建物がいくつかある。この中に食糧とかを置いているのだろうか?雨風を凌げるギリギリのもののような気がする。
そして、この中にも4匹のオークの反応がある。近くまで来て気付いたが、子供か?反応が弱い奴もいる。
まとめて倒すのも少し気が引けたが、成長したら結局ああなるのだし、まとめて倒してしまおう。
ファイアボールを2つ出し、少し遠くから2つのテントに着火する。そして合わせて突風!勢いよく燃え上がった。
「ギャー!」「ブォー!」
オークの叫び声が聞こえる。闇討ちのような形と、悲鳴により若干の罪悪感があるものの、堪えよう。
探知によると子供のオーク3匹が息絶えたようだが、他は怪我をしつつも生きている。そして村全体が警戒態勢に入った。
確実に戦力になる大人を仕留めた方が良かったか…?しかし、見張りも多くて中々近づけなさそうだったしな…。
ひとまず様子を見ることにした。
しばらくすると鎮火し、8匹のオークが村の外に出てきた。これを、迎え撃とう!
それぞれ周囲を警戒しているようだ。怒っているようにも見える。これを各個撃破できたら理想だな。
ファイアボールでは目立つから、もっと矢のように絞って、貫通力重視で行ってみよう。出来るはずだ。
「ファイアボルト!」
火の弾丸がオークの左胸に突き刺さる!
一瞬断末魔をあげるが、即死だったようで、そのまま倒れた。
よし、いけるぞ。ファイアボールより魔力消費も少ない。これでまずは7匹倒そう。
そして、耳を剥ぎつつ、木の影に隠れて隠密移動しつつ、7匹のオークを倒し切った。
探知によると後は9匹…いや待て、どういうことだ!?
仲間割れか!?
9匹あったオークの反応が、8,7,6...とどんどん減ってゆく。そして1つのオークの反応がどんどん大きくなっていく。
まさか…
ーー
オークの共食い
オークが窮地に陥ると、村の最上位個体が他の個体を共食いし、その数に応じて強くなる。
その数が多いとオークリーダー、オークキングと個体を変えていくこともある。
ーー
マジかよ…それなら9匹のオークの方が良かったぞ。逃げるか?
いや、無理だな、こちらに気付いているように見える。
鑑定をしてみよう。
ーー
オークリーダー
オークの上位個体。オークの群れの中心で、燃費が悪く、維持するためにオークを共食いする。
最低でもDランクパーティー推奨。ソロならCランクの魔物。
ーー
ひゃー、なってしまったか…。
しかもDランクのパーティー推奨ってことは、やばいぞ。
かといって逃げきれそうな感じもしない。腹を括ろう。
木の多いところまで一旦退避し、ファイアボールを3つ用意する。
探知ではもうすぐそこにいる…!?
ズドーン!
急にジャンプして目の前…3mほどに現れた!!
焦って2発のファイアボールを目の前のオークリーダーに叩き込むが、倒した気配はない。
残りの一発を打つと同時にこちらに殴りかかってきた!はやい!!
バキィッ!!…ゴロゴロ…
「グゥゥ…」
声にならない痛みが左肩に走る。思い切り殴られた。10m以上は転がった。
左腕は動かない。
慌ててヒーリングするも、痛みが少しおさまり掛けたところで、オークリーダーがこちらに追い付いてしまった。
「グヘヘヘ…ジュルッ…」
やばい、やばいぞ、体制も最悪まだ立てていない。あと5mくらい、たださっきの攻撃からするとあってないような距離。
どうする?一撃で仕留めるしかないか?どうやって?
ファイアボールは火力不足、ファイアボルトは論外。
なら、なら、…複合魔法しかないか。
ドライヤーはやれたんだ、ファイアストーム…いや、ファイアブレスだな、一直線上に火炎放射を打つようなイメージだ!やれる!俺ならやれる!
「グヘヘヘ…」
向こうは勝ったと思っているな。チャンスはここしかない。いけっ!ファイアブレス!
ゴォォォォォォーーーー…
「ギャアァアァアァァァ………」
やった…のか?
そこで俺の意識は途切れた。
ーー
若干日が傾き始めた頃、目が覚めた。幸いにも寝ている間、攻撃はされなかったようだ。
オークリーダーの死体が目の前にある。真っ黒に炭化していて、見る影もない。俺がやったんだな、ファイアブレスで。
切り札になるが、燃費は悪いな…。
「いてて…」
左肩は完治していなかった。腕も動かせない。とりあえず。
「ヒーリング」
じわじわと効いてきて、20秒ほどで痛みがなくなった。
おそらく骨も折れていただろうが、回してみても違和感なく治っているように感じる。
元々人体の構造を理解しているからか、この程度の骨折であれば治せるようだ。
「防具に助けられたな、無かったら粉砕していたかもしれない」
防具のおかげで衝撃を和らげられたのだろう。助かった。
もう、オークの村はこりごりだ、しばらくは小規模な群れだけ相手にすることにしよう…。
「おかえりなさい!ノーカーズを助けて頂いたようで、ありがとうございます。彼らも改めてお礼を言いたいと言っていましたよ」
「いや、大したことじゃないですよ。それより、オークって共食いするんですね…」
「はい、そうで…まさか!オークリーダーと戦ったのですか!?」
鑑定持ちはバレるとめんどいな。
「共食いしていたのでその可能性はあるかもしれません。こちらも必死でしたが、何とか新魔法で退治できました。ギリギリでした」
「ですよね…Eランクソロで倒す事で倒すのはほぼ不可能ですので、なりかけの強個体だったかもしれませんね。耳などお持ちではないですか?」
あー…炭化していたから諦めてた。
「真っ黒に炭化してしまったので持ってきていないですね…あとこれは通常のオークです」
「真っ黒に!?あ、すみません。いや必死だったんですね…無事で良かったです。こちらはオーク、16匹分ですね。オークリーダーだと魔石が心臓付近にあるはずなので、それがあれば討伐証明になりますが…」
初耳です!
「あ…そうだったんですね。知りませんでした、次回があれば探してみますね」
「しばらくは次回がないことを祈ります…あってもソロではなくて、ノーカーズとの臨時パーティーとかであれば、倒せるとは思うのですが…」
俺もまた明日戦いたい、などと酔狂なことを言うつもりはないです。
「分かりました、では失礼しますね」
カランカラン…
「…お主、どう思う」
「いやお主って…何言ってんですかレイバンさん。2週間のルーキーが、オークリーダーなんて、倒せるわけがないです…。オークは倒せても、あそこからは別の世界です。数メートルの距離なら一瞬で殴りかかってくるスピードも、木をも薙ぎ倒すようなパワーは、勝てませんよ…」
「しかし、キンジはオークリーダーについて知らないはずなのに、確かに共食いしていたと証言した。そして打撃痕には気づかなかったか?」
「左肩ですよね。防具に殴られた様な…オーク相手にあんな不覚を取るわけはないはず…まさか、本当に!?」
「そのまさかだ。事実ルーキーは、オークリーダーに殴られつつも、魔法でマルコゲにして返り討ちにした。そしてその後気絶したが、意識が回復したあと魔法で治療した」
「それこそ、まさか、ですよ…というか見ていたんですか…。というか火だけじゃなく、光魔法も使えるの?」
「それだけじゃあねぇ。水も使えるはずさ。水を買っているところを見た事がないからな。んでマルコゲにした魔法はひょっとしたら、火と風の複合魔法かもしれん」
「いやでもそうしたら4属性の魔法使いって…それならこの成績も少し納得出来ますが…」
「魔法だけじゃない、剣の使い方もルーキーにしちゃあ上出来だ。あまり近くに行くとバレちまうから遠くからしか見れねぇがな。あれは相当だぞ…」
受付嬢とレイバンの会話は、受付に来る冒険者が文句を言うまで続いたのであった。




