エピローグ:カーネーションをあなたに
聖霊様視点です。
今回はとっても長いです。そして、とっても読みづらいと思います。
sideソフィア
私は聖霊と呼ばれる存在。
世界に神々しか存在しなかったくらい昔。
私は、偉大なる<創造の女神>ステラ様の御力から生まれた存在だ。迂闊に地上に降りれない女神様たちの代わりに降り立つ代行者だ。
そして永くて短い時が過ぎ、私はとある帝国__エマンダ帝国__を女神様たちの代わりに見守る存在となっていた。エマンダ帝国は、女神様たちの加護にあふれた土地で美しい景色、おいしい食べ物・・・とてもとても恵まれた土地だった。
私は、何があっても見守ってきた。「必要以上に人間に介入しない」・・・それが、女神様たちの言いつけだった。大きな力を持つものが介入しすぎると良くないから。私は、その言いつけをずっと守っていた。
目の前で誰かが傷ついても、困っていても。私が介入することで人間のバランスが崩れるのは良くないことだから。私はなんて無慈悲なんだろうと思う。
けれど、いたずらされても何もしなかったから逆に慈悲深く母性がある存在として扱われていた。
実際、目の前に本当に困った人が来る方が少なかったから、みな気づいていなかったのだと思う。私の残酷さに。
それでも、別に構わなかった。私には関係ないことだと思っていたから。
そんな中のある日、私は出会った。まだ幼い第一皇子__フレーベル__に。
会った当初の私は、とても冷たい態度をとっていたと思う。だけど、そんな私にフレーベルは毎日話しかけていた。最初は無視していた。だけど、話しかけられていくうちに心がぽかぽかしていった。そしていつしか、私はフレーベルの話を聞くのを楽しみにしていた。
フレーベルの母親は私に出会う前に亡くなっていた。きっと、フレーベルは私のことを母親のように思っていたのだろう。・・・私も、いつからかフレーベルのことを本当の子供のように思っていた。
フレーベルは私の中でとてつもなく、大切な存在になっていた。なにものにも変えられないほどに。
ある日、フレーベルは私に花をくれた。赤くてふりふりした花だった。カーネーションという花だった。フレーベルから初めてもらった花は私の宝物になって、一番大好きな花になった。
フレーベルは、毎年赤いカーネーションを送ってくれた。私がフレーベルに渡すプレゼントも赤いカーネーションだった。渡すときはいつも、苦笑いをしていたけれど必ず受け取ってくれた。笑ってありがとうって言ってくれた。私は穏やかなこの時間が、今まで生きてきた中で一番好きな時間だった。なぜだか、胸がきゅうっとなった。どうしてだかはわからなかったけど。
だけど、そんな幸せな時間はあっという間に消え去ってしまった。フレーベルが隣国に留学に行き、そして何者かに襲われて帰らぬ人になってしまった。留学に行くのも本当は嫌だった。だけど、必要以上に介入ができないから何もできなかった。私は、後悔した。留学に行くのを止めさせればよかった、もっとたくさん話しておけばよかった、もっと一緒にいたかった・・・。
何をする気にもなれなくて、ただただ無気力な日々を過ごしていた。留学に行かせた王たちを見るのが嫌で、フレーベルをいじめていた者たちを見るのも嫌で、訪ねてきても追い返していた。だから、気づかなかった。訪れるものの中に見知らぬ者が増えていたことに、 王宮の使用人がどんどん減っていったことに、王の様子に、この国の変化に。気づかなかった私はとても愚かだった。
フレーベルが亡くなってから、初めての誕生日。私は、王宮の使用人にとびっきりのカーネーションを用意するように頼んだ。どうしても、欲しかった。前日に、王が訪ねてきてフレーベルの誕生日をお祝いしたい、そして力を貸してほしいと頼まれたことがあったからかもしれない。今までの態度を叱り、承諾したがその選択は正しかったのだろうか。介入どうこうではなく、陛下の隣にいた男のことが気にかかった。あのようなものはいただろうか。
そう思ったが、それよりもフレーベルの誕生日を祝いたかった。そのことを後から後悔するとも知らずに。
そして、その日の夜。王が来た。積もる話があるといわれ、しばらく話していた。謎の男とともに。そして、話してるうちに気づいた。王は自分の意志で話していないことに。話すことすべて隣にいる男に操作されているのだ。そのことを問い詰めようとしたとき、男が立ち上がり、手を広げる。そして、後ろにあった紫色に光る大きな水晶が一際大きな光を放つ。
気づかなかった。どうして、あんなに目立つものに気づかなったのか。おそらく、高度な精神干渉の魔法を使われていたのだろう。普段の私なら効かなかったかもしれないが、フレーベルが亡くなったことから、私の精神はボロボロだった。そこを狙われたのだろう。
そして、私はそこから動けなくなっていた。まるで、何かに力を奪われているようだった。
おそらくは水晶に。そして、その水晶から、黒い靄があふれ出し魔獣が生まれた。呆然とする私に、男はご丁寧にも語ってくれた。フレーベルを殺したのは、私だ、と。
その言葉を聞いた瞬間に、何も考えられなくなった。そして、憎しみと怒りと悲しみがあふれ出した。そして力が入らない中、無理やり力を放出した・・・・・。
**
それからのことは、あまり覚えていない。おそらく、あの紫水晶の力と暴走する私の力が融合してしまったのかもしれない。
ただただ、あの男が憎くて、憎くてたまらなかった。
怒りが、悲しみが、すべてが抑えられなかった。
女神様たちに封印されていたときは、緩い眠りについているようだった。
その間も、感情が収まることなんてなかった。
封印が解けた後も、暴れる感情に支配されたまま魔獣を生み続けて、攻撃し続けた。
だけど、そんな私をあの子たちは必死にぶつかって助けてくれた。
そして、私にフレーベルの思いを届けて、正気に戻してくれた。
なんにも特別じゃない子が特別なことをするのは、きっととっても大変だったでしょう。
たくさんたくさん悩んで、たくさんたくさん心が折れそうになりそうになって、それでも、私の前に立ってくれた。
ありがとう。この言葉じゃ言い切れないほど、感謝しているの。
あの子たちに困ったことがあったら、こっそり助けましょう。
あふれるほどの感謝を、あの子たちに少しずつ返しましょう。
**
あの子たちと別れた後に女神様たちにも、たくさん怒られ、たくさん泣かれた。
ぎゅうぎゅうに抱きしめられて、たくさんたくさんなでなでされて、とても恥ずかしかったけど、とってもうれしかった。涙が止まらなかった。心がぽっかり開いてしまったみたいだった。
役目がまた与えられると思ったけれど、しばらくは自由にしていいよと女神様たちに言われ、一番に向かったのは、フレーベルが最後まで過ごした場所。私を想ってくれていた証みたいなものだと思った。とても小さくて、温かいなと思った。そう思うと涙が止まらなかった。
「あれ?お客様ですか?」
顔をあげると、メイド服をきた少女が立っていた。人間・・・にそっくりだけど人間が作った存在だった。
「あれ、お姉さん泣いてるんですか?良かったら、このハンカチをぉおお!」
人間がつくったのだから、転ぶという概念はないとおもうのだけれど・・・。
「あなた、大丈夫?」
「はい!ありがとうございます。・・・お姉さんは、大丈夫ですか?」
大丈夫じゃなかったけれど、あなたを見ていたらとても気が抜けたわ。
・・・さすがに失礼かしら。
「ええ。もう大丈夫ですよ」
「・・・良かったら、お茶を飲んでいきませんか?」
「いいの?」
「もちろん!」
「お言葉に甘えさせてもらうわね」
メイドの形をした、機械に案内されて家に入る。
ここが・・・
「椅子に座ってゆっくりしていてくださいね」
「ええ。ありがとう」
「ふんふふーん!」
ご機嫌ね。ふふふ、お言葉に甘えてしまおう。
「あ」
ガッシャ―ン!パリンパリン!
前言撤回だわ。
「あの、手伝うわ」
「≪修復≫」
まあ、機械がスキルを・・・。
「あ、どうかされましたか?」
「・・・やっぱり手伝おうかしら」
「え、でも」
「私、何もすることがなくって」
直せるとはいえ、これ以上フレーベルの家の物を壊されてたまるものですか。
**
「ふわ―!この紅茶ってこんなにおいしいんですね!」
このメイドの機械はモイラというらしい。モイラは恐ろしくドジだった。
何もないところで躓いたり、お皿を手から落としそうになったり。
私がいなかったら、大惨事だっただろう。
「すごいですね。・・・えっと」
「ソフィアよ」
「ソフィアさんは!」
まっすぐな笑顔でほめられる。
その笑顔は、フレーベルに似ていた。顔も声も性格も全然似ていないのに。
なぜだか、あの子に似ていた。
そう思うと、涙があふれ出した。
「ソ、ソフィアさん!?」
目を閉じると思い出す。あの子との思い出を。
でも、とっくに過去のことになってしまった。
ぽつりぽつりと、モイラに話す。
私が聖霊と呼ばれる存在で、フレーベルを大切に思っていて、暴走したこと、正気を取り戻したこと。全部全部。
その間、モイラはずっと黙って聞いていた。
「それは、大変でしたねえ・・・」
その言葉を聞いて、カッとなってしまった。
そして、かなり酷い言葉をぶつけてしまった。あなたは機械だから私に気持ちなんて分からないでしょうと。
それでも、モイラはその言葉を受け止めた。
「誰だって、他人の心を正確に読み取ることなんてできないんです。自分の心さえも分からないことだってあるんです」
「それがどうしたの!?」
「私は、機械です。人間と同じ心は持っていません。だけど、知りたいと考えたいと思っています。そして、できる限り考えています」
「・・・」
「だけど、やっぱり他人の心を理解するのは難しくて、簡単に頑張ったねとかえらいねとか言えないんです」
「・・・」
「だから、だから・・・!」
なんとなく、言いたいことは分かる気がした。
うまく言葉には言い表せないけど、その気持ちをなんとなく理解できた気がする。
「・・・ごめんなさい。言い過ぎたわ」
「私こそ、すみません。無責任な発言をしてしまいました」
モイラは機械のはずなのに、どうしてか本当の人間のように見えた。
不思議な気持ちだった。
心が少しだけ、少しだけ軽くなったような気がした。ほんのすこしだけだけど。
「ソフィアさんは、これからどうするんですか?」
「・・・まだ、決めてないわ」
「だったら、この家で一緒にすみませんか?」
「え?」
「ご主人様もきっと喜びます!」
私は、モイラの言葉に甘えることにした。
フレーベルを感じたかったから。過ごした時を知りたかったから。
思いを知りたかったから。そして、モイラと一緒にいたかったから。
ただただのんびりとした時間が流れた。
そして、雑談の中で私は赤いカーネーションの意味を知ったのだ。
「母への愛」という花言葉があることを。
それを知った時、涙が止まらなかった。
おそらく、フレーベルは知っていたのだろう。私が渡したとき、苦笑いしていたのもこの花言葉が理由だったのだろうと今ならそう思える。
そして、そのことをモイラと笑顔で話せる今の時間が心地よくて、愛おしい。
**
フレーベル。あなたの墓前に私の大好きな花を。
あなたからの初めての贈り物を。
私の宝物を。
カーネーションをあなたに。
読んでいただきありがとうございます。
皆さんに、読んでいただき、無事に一章を完結させることができました。
皆様が読んでくださったおかげです。
ブックマークの登録や、評価をしてくださりとてもうれしく思います。
私の文が下手なせいで、きっと嫌な思いをした方もいらっしゃると思います。
これからも、もっともっと頑張ります。こんな稚拙な言葉でしか表現できなくて本当にすみません。
すぐにはうまくはならないと思いますが、みなさま温かい目で見守ってくださるとうれしいです。
一章を完結させるのに、一年以上かかってしまいましたが、読んでくださって本当にうれしいです。
これからものんびり更新で頑張りますので、温かく見守ってください。よろしくお願いします。
二章も考えています。
あと、ここで質問なのですが、もしこれからこのEWOをアップデートさせるならどこが改善点になると思いますか。
使われていない機能や、宿屋については変更していきたいとは思っていますが、ほかに何かあると教えてくださると幸いです。
では、また会える日まで。