聖霊様との闘い 5
やっぱり戦闘シーンは苦手です。
黒い靄が私を貫こうと襲い掛かる。
よけることも魔法で防御することもかなわなくて、目をつぶった。
「・・・?」
全然、体に衝撃が来ない。
目を開けると、光の壁に黒い靄が止められていた。
『・・・え?』
光の壁を作ったのは、女神様からもらったあの鍵―女神の寵愛の証―だった。
どうして、これが私を守ってくれたの?
呆然として見ていたら、鍵に罅が入っていきパリンとガラスが割れるように壊れて消えた。
ひとかけらの破片も残さずに。
聖霊様からあふれる靄が消え、動きが止まった。
『う・・あ・・・?』
今なら、声が届くかもしれない。
「聖霊様、どうか聞いてください」
『・・・・』
「皇子様は、殺されてなんかいませんでした。あの時、皇子様は殺されかけましたが生き延びていたんです。皇子様が知らせを聞いて戻ってきたときには、帝国は滅び、聖霊様は狂わされ封印された後だったんです。その後、皇子様は聖霊様が封印された森の近くに家を建てて、死ぬその時までそこで過ごしたんです」
『・・・・・・・・』
「皇子様は、聖霊様を忘れたことはなかったそうです。ずっと、ずっと聖霊様を想っていました。その気持ちは皇子様が死んだ今も消えてません!」
聖霊様は無言のままだった。
まだ、聖霊様を動かすには足りないんだ。
何か・・・
「皇子様は、自分が死んだあとに聖霊様の封印が解けた時のためにメッセージを街に残していたんだ」
この声は・・・。
「皇子様はメッセージを見つけた人たちに、手紙を残していた。聖霊様への言葉もそこに記されていたよ」
「ガンテツさん、ハナミズキ・・・」
「チェリー、大丈夫かい?」
「ヴァイスさん・・・。遅いですよぉ」
ほっとして涙が出てくる。
皆が慌ててる。だけど、そんなことかまってられないからスルーします。
私にはやることがあるんだから。
「聖霊様」
『・・・・』
「このカーネーションをあなたに」
私はインベントリからモイラさんからもらったカーネーションを取り出した。
聖霊様が目を瞠る。
「これは、皇子様が聖霊様にと」
『・・・っ・・・!』
「『私は幸せだったと。少しの間だったがあなたと過ごせてとても幸せだった』」
『・・・あ・・・うぁ・・・』
「皇子様からの手紙にはそう記されてました」
震える聖霊様の手が私の持つカーネーションへと伸びる。
その手がカーネーションに触れたとたん、カーネーションから光があふれる。
あたたかくて、泣きたくなるほどやさしい光だった。
『フレーベル・・・』
光に手を伸ばし、聖霊様はつぶやく。
聖霊様の体からは、黒い靄でできた鎧は跡形もなく消えていた。
真っ白い服を着た聖霊様がそこにはいた。
『フレーベル・・・。・・・っ。うぅ・・・。うああああああ」
聖霊様の泣き声が森の中に響き渡る。
その手にカーネーションを握りしめて。
読んでいただきありがとうございます。
これからものんびり更新で頑張りますので、温かく見守ってください。よろしくお願いします。