悪い虫
あんまりにも運命的な目の合い方をしたからラブソングでも流そうかな。なんて現実逃避をしたくなる。だって、ばちって音が鳴りそうなほどに目が合っちゃったんだもん。仕方ないよね。
「…あらぁ?」
少女がこちらをみてニコリと笑う。
可愛らしい笑顔。でも手に持ってるものが可愛くない。いや赤い扇子は可愛いけど、トランプ兵をすっぱり切っちゃったやつだよ。ていうかあれよく見たらレースの扇子だよ。よく壊れなかったな。
「あたしのお城に入り込んだ虫がいるようねぇ」
目が笑ってないんですけど。
虫ってどう考えても私たちのことじゃん。すっごいこっち見てるし。やだぁ、こわぁい。
…なんて、言ってる場合じゃないよ。どうしよう!!
「あなたたち、どうしてここにいるのかしら?」
にこやかに問いかけられる。
訳:お前ら、なんで私のお城に入り込んでるの?ってところかな。採点お願いします。そして、部分点ください。きっと高得点取れてると思います。
笑顔からの圧を感じる。うぅ…。こういう圧を感じる場面はすごく苦手。
ちらっとみんなの方を見る。首をふるふる横に振る。戦わないってことね。余計な戦闘は避けるべし。
「その、えっと…」
「……」
「ば、ばら!そう、薔薇!素敵な薔薇を見かけたのでつい、お城の中に入り込んでしまいました!」
うまく言い訳ができなくて目を泳がせた結果、目についた薔薇を言い訳にあげる。
ごめんね!嘘が下手なんだ私。すらすら嘘をつく頭も度胸もないの。心臓がバクバクする。
無理ありすぎるけど、どうかこれで誤魔化されて欲しい。無理ありすぎるけど!
視界の端で、みんなが諦めの境地みたいな顔してるけど、諦めなければ可能性はあると思う。
「…そう」
「…」
「そうなのね。あたしのお城の薔薇は最高だものね。仕方ないわ」
え?
いけた?いけたのでは?
勝ったかもしれない。何と戦ってたかはわからないけど。
思わぬ反応に警戒の意図を少し緩める。
でも、それはあの少女の前でしてはいけない。油断なんてしてはいけない。
なぜなら少女はハートの女王なのだから。
「でも、あたしのお庭に入る悪い虫はちゃんと始末しないとね」
わがままな女王様。
首狩りの女王様。
少女はこの城の女王様。
勝手に城に入り込む虫を許しはしない。
寄り付く虫は払い落とす。
赤いドレスの袖から覗く腕がすっと振るわれる。繊細なレースの扇子から出されたとは思えない攻撃が襲いかかる。
「あぅ…!!」
血のように紅い攻撃エフェクトが飛び散る。
その攻撃は一瞬で私を切り裂いた。
読んでいただきありがとうございます。
これからものんびり更新で頑張りますので、温かく見守ってください。
よろしくお願いします。
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遅い上に短い




