お城のお庭で
トランプ兵たちを追って、ハートの女王のお城に踏み入る。
お城の周りを囲むように赤い薔薇が植わっている。
血のように紅い薔薇の花。作り物めいている美しさ。
これもきっと…
「ペンキ…」
「ハートの女王の城の赤薔薇はペンキで塗られたものなんだっけ」
赤いペンキの入ったバケツ。
ペンキのついたハケ。
赤いペンキが塗り掛けの白い薔薇。
そして何も塗られていない白い薔薇がちらほらと。これからペンキを塗られるところだったのだろう。
白い薔薇も美しいのに。どうしてペンキで塗りつぶすのか。赤い薔薇も美しいけれど白い薔薇には白い薔薇の美しさがあるというのにね。
「わたしはそのままが好き、だなぁ」
「…まぁ、確かにそのままも素敵だけど、作り物には作り物の良さがあるんだよ」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
「…むう、わかんない」
「そのうちわかるさ」
ヴァイスさんはそう言うけど、いつかわかるようになるかな。なれたらいいな。
自分とは違う価値観はなかなか受け入れ難いけど、それを知れるということは素敵なことだもんね。
今は分からなくても、いつかは分かる時がくるよね。
赤く塗られた薔薇と、白い薔薇、塗り途中の薔薇が咲き乱れる庭園をどんどん進んでいく。
進めど進めど、森で見かけたトランプ兵も、きっとこの庭園にいたであろうトランプ兵たちも見当たらない。
どこにいったんだろう。
「…向こうのほうで声が聞こえるわね」
「え、そうか?」
「んー、私には聞こえないかな」
「微かだけどね、聞こえるのよ」
向こうのほうとカリンさんが指す方に向かう。
確かに進むにつれて声が聞こえてくる。
女の人の声かな。何か叫んでるみたいな。
他にも声は聞こえるけど、その女の人の声の方が大きくて分かんないや。
「どうしてお茶会の時間に遅れたの!?この時間はお茶会の時間だって決まってるのに!」
「いやそれは…」
「言い訳はいらないわ!あなたは、あたしの命令に逆らったの!それは変わらない事実でしょ!」
はっきりと声が聞こえる距離まで近づいた。会話の内容をちらりと聞いた感じだと、女の人が癇癪を起こしてるみたい。
そっと物陰に隠れて、声がする方を覗き込む。
そこには私より少し小さな女の子と、たくさんのトランプ兵がいた。
きらきらした金髪の少女の近くのテーブルの上にはティーカップと美味しそうなお菓子がたくさん!
甘い匂いに思わずヨダレが垂れそうになる。…垂らしてないからセーフセーフ。
「どうしてあたしの言うことを聞かないの!?ひどいわ!」
「ま、まあまあ…」
「落ち着いてください」
「我々にもやることが……」
「そんなの知らないわ!」
考え事をする頭を現実に戻すように大きな声が聞こえる
癇癪を起こした子供のように叫ぶ、大きなリボンが付いた赤いドレスを着た少女。
それを宥めるように声をかけるトランプ兵たち。
「それになあに、これ」
「えっと……」
「このお茶。あたしこのお茶嫌いって前に言ったわ!」
「いや、このお茶が好きって……」
「嫌いって言ったわ」
肩までくらいの髪を揺らしながら少女は、はっきりと答える。
口には出さないけど、えぇ……って思った。
同じことをトランプ兵たちも思ったのかそんな顔をしてた。
そのことに気づいてないのか、少女は続ける。
「それにこのお菓子」
「女王様のお好きなお菓子ですよね」
「そう。このお菓子は好きよ」
「…何か問題がありましたか?」
「おおありよ」
自信満々に答える“女王様”
頭に小さな王冠を載せた少女はにっこりと笑う。
「あたし、今日はこのお菓子の気分じゃないの」
百点満点の笑顔で告げたその言葉。
同時にテーブルの上に用意されていたお菓子を全て地面にばら撒いた。
読んでいただきありがとうございます。
これからものんびり更新で頑張りますので、温かく見守ってください。
よろしくお願いします。
12/12
Twitterチャレンジ終了
遅くなりましたが更新!
1月と2月はそれぞれ別の用事でバタバタしてました。
ひと段落ついたので、またのんびり書いていきます。
2023.3.1
ハートの女王の一人称統一
「あたし」




