常闇の夜 3
常闇の夜編終わり!
前話でも書きましたが、この話はリティア目線です。
ぼろぼろと涙が溢れる。拭うことすら億劫で、涙が服を、地面を濡らす。何もできなかったこと、守れなかったこと、守られてたことに気づけなかったこと。全てに涙が溢れる。
ごめんなさいって叫びたかった。だけど。
「チェリーさん…」
頭に手をやる。指先にかさりと触れる感覚。私は1人じゃ何もできないの。今だって守られてる。
今、動けるのは私しかいない。行動しないでどうするの。後悔はしたくない。
「行かなくちゃ」
今度はちゃんと話さないと。さっきはなにも話せなかった。
私の気持ちを伝えたい。ラクトを止めないと。
まだ時間は経っていないからラクトはまだ神殿にいるはず。
街中よりも密度が濃い靄で周りが見えないから何度もこける。前が見えないから歩いてなんて言ってられないから走って探すから余計に転ぶ。ぼろぼろになってすごく痛い。でも泣き言なんて言わない。
「ラクト!!」
言うとしても全部終わってから。
…やっと見つけたラクトは神殿の上にいた。何回も落ちて登った甲斐がある。骨が折れてないのは奇跡だと思う。
私の声に振り返ったラクトが目を見張る。
「姉さん…。待っててって言ったのに。どうして待っててくれないの?…こんなに怪我をして」
「あのね、ラクト。私、ラクトに言いたいことがあって」
「大丈夫だよ、姉さん」
「ラクト、私の話を…!」
「すぐ終わらせるからね」
「ラクト!」
にこりと笑うラクトに背筋がゾッとする。
こんなところでは引き下がれない。
なのに、私は何もできない。ラクトの手に黒い靄が凝縮してすごい力が生まれていくのを見ることしかできない。…声が出ない。大きな力の前で、恐怖で体がガチガチに固まってしまった。こんなのを放ったら、神殿だけじゃなくて街も…。
「きゅきゅうー!!」
黒い靄から目が離せずにいた、その時声が響いた。気が抜けそうな、それでいて鋭い声が。
その瞬間に、ラクトの手に集まっていた靄が消えた。大きな力が消えて体の緊張が解ける。
変化はそれだけではなかった。
「月が…」
靄に覆われて見えなくなってしまっていた月が私とラクトのところだけ見えるようになっていた。優しく清らかな月の光が私とラクトを包み込む。
ラクトから溢れる黒い靄が消える。
その瞬間に今しかないって思った。
「ラクト!」
「ね、姉さん?」
今じゃないと話せない。離したくないから抱きしめた。
私の気持ちをちゃんと伝えたい。
「ラクト。今まで、私のこと守ってくれてありがとう。すごく嬉しい。ずっと気づかなくてごめんね」
「そ、それは気づかないように隠してたからで…」
「自分のことなのに何も気づけなかった。私、あなたのこと守ってるつもりだったのに、全然守れなかった」
「そんなことない!僕は姉さんにすごく守ってもらった!」
「ずっと考えてたの。何が一番大切かって。私、街の人よりもラクトの方が大切。ラクトと街の人が魔獣に襲われてたら絶対ラクトを助ける」
「姉さん…?」
「だからね、ラクト。私と…」
ずっと前から考えてて、言えなかったことを今こそ告げる。街の人より何よりもあなたが大事。誰よりも幸せになってほしいから。だから。
私の言葉にラクトは笑う。街に溢れていた靄はいつのまにか消えていた。
明るくて優しい月の光が、私とラクトを、街を静かに包み込んでいた。
常闇の夜は、終わった。
読んでいただきありがとうございます。
これからものんびり更新で頑張りますので、温かく見守ってください。
よろしくお願いします。




