常闇の夜 1
辺りは一面に黒いもやもやが充満している。
ラクトさんから黒い靄があふれて、闇に包まれてしまった。あれだけ明るくて綺麗だった月も見えなくなってしまった。
・・・ただ、一言だけ言わせて。なんか私、黒い靄に避けられてない?半径1メートルくらい。
気になることはいっぱいあるけど、とりあえずリティアさんを探さないと。
「リティアさん・・・どこにいますか?」
私が動くたびに靄が動いてやっぱり半径1メートルくらい距離を取られる。
私の周りだけ靄が晴れるからリティアさんを探しやすいけど、今の私は絶対何とも言えない顔してると思う。・・・こんなことを考えてる場合じゃない、しっかりしないと。
むやみに探し回るのも走るのも今の状態だと危険。音をよく聞いて、しずかに、ゆっくりと。焦りは禁物。
前に聖霊様と戦った時と今の状況は違う。あの時は頼れる仲間がいた。でも今は私一人。落ち着いて行動しないとやられてしまう。襲われたとき、私一人じゃ対処できない。リティアさんたちがどんな状況かわからないのに死ねない。
「・・・ラクトさん!?」
だというのに、ラクトさんに出逢ってしまった。緊張が走るけど、ラクトさんはこっちを見ない。
まるで私なんて見えてないかのようにどこかへ歩いていく。
思わずあげてしまった声にも無反応だった。もしかしたら私の声は聞こえてないのかもしれない。
ラクトさんが向かった先は黒い靄に包まれてどこに行ったか分からなくなってしまった。
・・・リティアさんを探さないと。私じゃあ、何もできない。
「・・・!リティアさん!」
「っうぅう・・・」
移動して新たに靄が晴れたところにリティアさんが倒れていた。
近づいて声をかけてみるけど、意識がなく苦しそうな声をあげるばかり。
顔色も悪い。それに、周りの靄は晴れたのにリティアさんの体に黒い靄がまとわりついている。≪鑑定≫で見てみる。
状態異常:常闇の夢
初めて見る状態異常。やっぱりこの黒い靄が原因だよね。
・・・この靄ってもしかして、穢れた闇なのかな。
気になって≪鑑定≫してみる
名:穢れた闇
説明:人体に様々な悪影響をもたらす
××によって生み出された
××××××××××××××××××××××××××××××
<レベルが足りないため閲覧できません>
・・・体に悪いことしかわかんない。レベルが足りないから見れない、とか初めてだ。
確かに≪鑑定≫のスキルレベルは高いとは言えないけど。
というか、やっぱりこの黒い靄は穢れた闇だった。なんとなく察してたけど。リティアさんの状態異常も穢れた闇が原因っぽいね。
でもなんで私の周りを避けるのか。そう、私の周りだけ。
「あ・・・」
そこまで考えてふと思い出した。
頭に手をやって、髪飾りを外す。淡く光っていた。確か、破邪の結界がついてた。
何のことか分からなかったけど、きっとこれが穢れた闇を近づけないでくれたんだ。聖霊様のおかげで助かった。
そして髪飾りを持ったまま、リティアさんの手を取る。
「っう・・・」
「リティアさん!」
「チェリーさん・・・?私は一体・・・」
リティアさんの体にまとわりついていた靄が消える。
靄が消えた瞬間、リティアさんの意識が戻る。
簡単に事情を説明する。
「そうなんですね・・・。チェリーさん、ありがとうございます。私のことはいいので、ラクトのことを頼みます。チェリーさんにしかできないんです」
「・・・リティアさん、この髪飾りをお貸しします」
「え?これはチェリーさんの大切なものですよね。それに私がラクトのところに行っても・・・。ラクトは私を恨んでるんです。だから、私には無理ですよ。チェリーさんならラクトを・・・」
「そんなことないです。二人ともちゃんと話してください!・・・今回のことは第三者である私が入ると解決しないと思うんです。・・・ちゃんと話して仲直りして、この髪飾りを私に返してください」
「チェリーさん・・・。ありがとうございます。必ずお返しします」
その言葉を聞いて笑う。
そして、リティアさんの手をパッと放す。その瞬間、辺りが暗闇に包まれてリティアさんのことも、何も見えなくなる。
音一つしない世界。こんなところにリティアさんはいたのか。
すごく怖い。背中がぞわぞわする。
「さくら」
声がして思わず振り返る。
この世界で聞こえるはずのない声。でも、よく知ってる。
「お兄ちゃん・・・」
読んでいただきありがとうございます。
これからものんびり更新で頑張りますので、温かく見守ってください。
よろしくお願いします。




