初めてのハーブティー
何もしないよりも何かして後悔したほうがいい。
だから、ログアウトしてお兄ちゃんと会ったら逃げずに話そうと思う。
お兄ちゃんが何を考えているのかは私にはわからないけど、ちゃんと話したい。
「あ、チェリーさん。お茶はいかがですか?」
「ご迷惑でなければ、ぜひ」
「ハーブティーなんですけど、苦手とかありますか?」
「飲んだことないのでよくわからないです」
「じゃあ、なるべく癖の少ないものがいいですかね」
ハーブティー、飲んだことがないからちょっとドキドキ。
紅茶は飲んだことあるけど、結構違うのかな。苦手な味じゃないといいな。
ふわりとレモンみたいないい匂いが広がる。なんかリラックスする香り。
「どうぞ〜。レモンバームティーです」
「いただきます」
一口飲んでみる。
レモンみたいな匂いがするけど、酸っぱくない。ちょっと甘いかも。
凄く飲みやすい。美味しくて一杯をあっという間に飲み切ってしまった。
「このお茶、すごくおいしいです!」
「お口に合ってよかったです」
「レモンバームなんて初めて聞きました」
「レモンバームにはリラックスさせる効能があるんですよ」
「そうなんですね。私、飲んだことはないけどハーブティーはカモミールくらいしか知らなかったので勉強になります」
「・・・カモミールティーは特別なので」
「え?」
カモミールティーが特別?
うちにもあったし、珍しいものでもない気がするけど・・・。
「カモミールティーは仲直りの時に飲む、特別なお茶なんです」
「仲直りの時に・・・」
「喧嘩して、仲直りしたくなったらなんとなく淹れるんです。お茶を飲んでたらぽつりぽつり話すんです。そうしたら、いつの間にか仲直りしてるんです。だからうちではカモミールティーは、仲直りの時以外に飲まない特別なお茶なんですよね」
「そうなんですね」
仲直りのきっかけなのか。
そういうものが私にもあったら、お兄ちゃんと喧嘩したまま会えなくなることもなかったのかな。・・・たらればを考えても仕方ないけどね。今まで仲良しで喧嘩なんかしたことなかったからこういう時どうしたらいいのかわからない。これからのことが不安で、暗い顔をしてしまう。仲直り、できるかな。
「それに、カモミールの花言葉には『仲直り』があるんですよ」
「え」
「仲直りには、ピッタリのお茶ですよね」
リティアさんがふわりと笑う。ちょっとだけ、不安が和らぐ。
まだちょっと怖いけど、一歩踏み出さないと何も変わらない。
ログアウトしたらお兄ちゃんと話さないと。
また話せないまま離れ離れになるのは良くない。
「・・・リティアさん。私、そろそろお暇しますね」
「泊っていっても大丈夫ですよ」
「そこまでご迷惑をおかけするわけにはいかないです」
それに、このお店はリティアさんのお父さんとお母さんのお店なんだと思う。
大切な場所のはずだから、赤の他人が入り込むのはあんまり良くない気がする。
古い付き合いならいいのかもしれないけど、まだ出逢って数日だし。
お泊りはすごくしたいけど・・・。我慢だ。
「残念です。また今度、お泊り会しましょうか」
「ぜひ。・・・では」
「宿屋まで送りますよ。一人で帰るのは危ないですよ」
「・・・でも、送ってもらったらリティアさんが帰りに一人になっちゃいます・・・」
「大丈夫です。・・・実は、これからちょっと衛兵の詰め所に行くんですよ。チェリーさんを送ったら衛兵さんのお世話になるので大丈夫ですよ」
「そうだったんですね。・・・急に押しかけてしまってすみません」
「いいえ。大丈夫ですよ。話せてうれしいですから。では、遅くならないうちに行きましょうか」
のんびり歩いて、宿屋に向かう。
ぽつぽつ話しながら、歩く道のりはとても穏やかでずっと続いてほしかった。
そんな時間ほどあっという間で、宿屋についてリティアさんと別れる。
賑やかな食堂とは打って変わって静かな部屋に戻る。
ベッドに横になってログアウトする。お兄ちゃんと話さないと。
・・・あと、お風呂とか入らないとね。
読んでいただきありがとうございます。
これからものんびり更新で頑張りますので、温かく見守ってください。よろしくお願いします。




