きっと大丈夫
リティアさんがやさしくて涙が止まらなくて、ゲームの中なのに目が腫れてしまいそうだった。ちょっと目が腫れぼったい気がする。沢山泣いたからか頭がちょっとぼーっとする。泣くのって結構体力を使うよね。どんな涙を流した後でも泣いた日はよく眠れる。
「濡れタオルをどうぞ」
「ありがとうございます」
泣いた後の熱い目に冷たいタオルが気持ちいい。
こんなところはリアルにしなくていいのにとか考えてしまう。
ゲームのなかだけど、目がパンパンになったらどうしよう。ちょっと出歩けないな。
「お水もどうぞ」
至れり尽くせりすぎる・・・。
ちょっと申し訳なく感じるけど、ありがたく受け取る。
・・・あ、この水美味しい。
「・・・ラクトは」
ぽつりとリティアさんが呟く。
水を飲むのをやめて、リティアさんの顔を見る。悲しそうな顔をしてリティアさんは語る。
「悪い子じゃないの。犯罪とか街の人に何かしたわけじゃない。でも、ラクトは街の人に嫌われてる。『太陽に嫌われた忌み子』なんて言われてるけど違う。ラクトは月の女神様の、ルナリス様の寵愛を受けて生まれたの」
ルナリス様の寵愛。
そうか、太陽に嫌われたってそういう・・・。でも、月って太陽の光を反射してるから別に嫌われたことにはならないような・・・?
「この街では太陽神への信仰が厚いの。だから、シャイン様の寵愛を受けて生まれた私は街の人に祭り上げられてきたの。・・・シャイン様とルナリス様は双子神だから仲が悪いなんてことはないのに、ルナリス様への信仰がなくなってしまった。そして、近年起こっている事件にルナリス様が関わってると思われているの。だから、ルナリス様の寵愛を受けたラクトは忌み嫌われてる。ラクトは何もしてないのに。どれだけ家族が街の人に怒っても、一部の街の人は聞き入れることなく、ラクトに心無い言葉を浴びせ続けた。」
持って生まれたもので嫌うとか最悪の所業だわ。持って生まれたことに悪いことも罪もないのに。
人と違うものを持って生まれたからと言って、忌み嫌うのはおかしいと思う。
「街の人がどんなことを言おうと、私たち家族はラクトを愛している。それをきちんと伝えてきた。それは、ラクトにも伝わってるって思ってる。ラクトがぐれて非行に走ることなんてなかったし、お父さんたちのお手伝いもよくする優しい子だった。だけど、街の人の心無い言葉はラクトの心を傷つけた。どんなに、家族が愛しても傷つくものは傷つくの」
知らない人の心無い言葉は心に傷をつける。
しかも本人に傷つけた自覚がない時があって、たちが悪い。
もちろん、身内も傷つく。どんな相手でも見えない傷をつけられてしまう。
某アニメの名探偵も言っていた、「言葉は刃物なんだ」という言葉。
本当にそうだと思う。だから、口に出す言葉には気を付けないといけない。
「あの日、ラクトは感情の整理がつかなかっただけなの。心無い言葉に耐え切れなくなって、家を飛び出してしまった。家を飛び出して、街の外に行ってしまった。年頃の男の子だしこういうこともあるだろう、1人になりたいだろうと思って私たちは追いかけなかったの。だけど、夜になってもラクトは戻ってこなかった。心配した父と母が、街の外に探しに行った。しばらくして、ラクトは帰ってきた。でもそこに父と母はいなかった。朝になっても、昼になってまた夜になって日付が変わっても二人は戻ってこなかった」
どういうこと・・・?
魔獣に襲われたとかそういう話かな。
始まりの街で増えた魔獣がこっちにも来てたのかもしれない。
でも、街の人は魔獣が増えたとかそんな話はしてなかった。
「両親は薬師だったの。国が頼るほどの凄腕で誇りだった。街の人も同じように思ってた。本人たちはそれを鼻にかけることなんてなく、困った人を助けるの。街の人は父と母のことが大好きだった。だからこそ、ラクトを追いかけていなくなったことが許せないらしいの。きっと父と母はラクトのせいだなんて思ってない。だけど、街の人はすべてラクトが悪いかのように扱ってるの。否定したいのだけれど、不満が爆発しそうで下手に刺激できない。両親がいない今、ラクトを守れるのは私だけなのに何もできなくてすごく悔しいの」
膝の上で手をぎゅっと握りしめて、唇を噛みしめる。
大切な人のために何もできないことほど悔しいことはない。
何もできないことに後悔して、何もしなかったことに後悔することしかできない。
「どうしたらいいのか分からないの」
リティアさんも私と同じなんだ。
どうしたらいいのか分からなくてもがいてる。
「でも、お母さんが言ったの。『今はどうしたらいいのか分からなくてもきっと大丈夫。答えはすぐにわかるものではない。だから、今できる最善をするのよ。それに、気づかない
だけで答えは既に出てるの』って。だからどうしたらいいか分からなくても、家族を守るために最善の行動するって決めてるの」
答えは出てるけど気づいてないだけ、か。
お兄ちゃんのこともまだどうしたらいいのかわからない。私が思う最善の行動をするしかないんだ。
リティアさんが一つ息をつく。
「だから、チェリーさんも今はどうしたらいいのか分からなくてもきっと大丈夫です」
「はい」
「・・・両親がいなくなってまだ一か月もたっていませんが、街の人の不満は高まるばかりです。異世界からの旅人の人がこの街に来るようになって市場に流れるポーションの量は増えました。ですが、質の高いポーションはまだ少ないです。それが作れたのは両親でしたから」
私が思う最善はラクトを全然守れていないですね、ぽつりとこぼされた言葉は悲しそうだった。
読んでいただきありがとうございます。
これからものんびり更新で頑張りますので、温かく見守ってください。よろしくお願いします。




