正解がわからない
ご飯を食べ終わったあと、私とカリンさんはそのまま食堂でのんびり食後のお茶を飲んでいた。デザートがあったらデザートも食べてたと思うんだよね、私。
夜も遅くなってきたからか、酔っぱらってきてる人も多くなってきた。
絡まれる前に部屋に退散するかな。あ、でもその前に女将さんに聞いてみたいことがあるんだった。
「あの、女将さん」
「ん?なんだい?」
「聞きたいことがあって・・・。耳を貸していただけませんか?」
女将さんの耳にぐっと近づいて、小声で話す。
あまり大きな声で聞きたいことではないから。
「この街で起こった『あんなこと』について教えてほしいんです」
「どこでそれを・・・」
「神殿近くの串焼き屋さんのおじさんから。ルミナス様の話を聞いた時に出てきたんです。教えてはもらえませんでしたが・・・」
「すまないが、言えないよ」
「そうですか。分かりました」
やっぱり教えてもらえなかったか。
女将さんもあの串焼き屋のおじさんみたいな顔をして言葉を詰まらせた。
怒ってるような、悲しそうな、何とも言い難い表情。
何があったんだろう。でも、踏み込みすぎてはいけない。
話を切り上げて、部屋に戻ろうとした。
「この街で起こった『あんなこと』ぉ~?」
後ろから、間延びした声が聞こえる。
振り返ると、顔を赤らめたおじさんが据わった目でこちらを見ている。
この人、凄い酔ってる。
「もしかして、ラクトのことかぁ~?」
「ラクト、さん?」
どうして、ラクトさんの名前が出てくるの?
「ラクト。そうラクトだ。太陽に嫌われた忌み子だよ!」
「太陽に、嫌われた・・・?」
「そうだ。あいつさえいなければ、あの人たちがいなくなることはなかったんだ。あいつがいたから、いなくなってしまったんだ」
「あの人たち・・・?」
「この街一番の薬師さ。俺たちの自慢だった。王家の方たちも頼られることがある凄い人たちだった。だけどいなくなってしまった」
「・・・・」
「あいつが全部悪いんだ。だってあの人たちはあいつを探しに行ってたんだからな。あの人たちはあいつの」
「もうおよし。あんた飲みすぎだよ。旅人さんたちに変なこと聞かせるんじゃないよ」
女将さんが酔っぱらったおじさんの話を止める。
それにすら反応できない。
言葉が出なかった。今日知り合った人の悪口を言われたのに。
そして、納得してしまった。カフェにいた時に感じた視線とひそひそ話。
すべてはラクトさんに対するものだったんだ。そして、ラクトさんにかかわる私へのもの。
美人さんへの憧れなんかの視線ではなく、悪意がこもったもの。
それに気づけなかった私に腹が立つ。
知れて良かったっていう気持ちと、止められなかったという気持ちで揺れる。
どうしたら良かったんだろう。
「あんたたちも、もう遅い。部屋に戻りな」
「・・・はい」
とぼとぼと部屋へと戻る。
考えても考えても答えは出ない。部屋に着いたのに、何も分からなかった。
もっと考えないと。
カリンさんに挨拶して、それから。
「ねえ、ちょっと部屋で話さない?」
「え?」
読んでいただきありがとうございます。
これからものんびり更新で頑張りますので、温かく見守ってください。よろしくお願いします。




