76章:遠い約束
闘った跡だけが残されたフロアの中央で、リサは消えた二人が昇っていった場所を、ずっと見つめていた。
「二人はさ」
彼女は上空を見上げ、僕に背を向けたまま呟いた。
「優しかった。私にとっては、掛け替えのない……大切な人たちだった。私の想い出……陽だまり、そのものだから」
「……うん」
僕は小さくうなずく。
「私をあの時に還してくれる人は……もういない」
彼女の言葉には、いつもの猛々しさはない。哀しみだけが、彼女を覆い尽くしている。
「残るは、樹だけだね」
リサは僕の方に振り向き、微笑みながらそう言った。
「ああ」
「……もう少しで、私たちの願いは達せられる。樹は――上にいる」
彼女は再び、天井を見上げた。
「約束の刻……それは、もうすぐ。星の遺産が微笑む、その瞬間に……あんたは、その場にいなきゃならない」
「……リサ?」
彼女はなぜか、首を振った。
「だから…………ちぇっ、悔しいな」
リサは微笑んだかと思えば、ゆっくりとその場に仰向けになるように倒れた。
「リサ!」
僕は彼女の頭を支えて、顔を起こした。さっきとは全然違う。顔色が一瞬にして悪くなっていた。他のみんなも、足早に駆け寄っていた。
「リサ、しっかりしろ! おいこら!!」
「いて……」
僕はペシペシと彼女のほほを叩いた。すると、彼女の拳が瞬時に僕の顔面にめり込んだ。
「いちいち叩くな。意識はあるわよ」
い、痛い。僕は眉間をさすりながら、
「ど、どうしたんだ?」
と訊ねる。すると、彼女は小さくため息を漏らした。
「わかってるでしょ? 馬鹿ね」
その言葉で、全てを悟った。
――乖離だ。
「ウソ……だろ?」
「こんな時に、ウソ付く馬鹿がどこにいるってのよ?」
そう言って、彼女は僕を再び殴った。げ、元気じゃねぇかと言ってやりたいが、彼女の顔を見ればそうも言ってられない。
「……マジかよ……」
想像もしなかった。けれど、冷静に考えてみれば当たり前だ。シュヴァルツと同じように、『ビッグバン』を使用したのだから。
「何とかならないのか!?」
僕はすぐさま言った。そうとしか、言えなかった。
「ならない。当たり前でしょ? 私は……」
「言うな! お前を助ける。絶対にだ!!」
彼女の言葉を消し去るかのように、僕は矢継ぎ早に言った。彼女はそんな僕を、嬉しいのか微笑んで見つめている。
「……ありがたいけど、無理なもんな無理」
「お前……」
彼女は、自分自身が良く理解しているんだ。何をしたって、どうにもならないことを。
「空ちゃん、こっちに来てくれる?」
「え……?」
リサは手招きをし、空は彼女の言うとおり傍にしゃがんだ。空の顔には、すでに涙が流れていた。
「リ、リサさん」
涙声で、彼女はうまくしゃべれない状態だ。そんな彼女を見て、リサは思わず苦笑する。
「ほーら、泣かないの。手、出してくれる?」
「は、はい」
空が左手を差し出すと、リサは両手でその手を優しく包み込んだ。すると、彼女は僕に顔を向けた。
「空、覚えてる? 以前、私が言ったこと」
「え?」
「あれよ。空ちゃんを助ける、別の方法」
「あ、ああ……あれか」
けど、彼女の様子から察するに、それは無理なものなのだろうと思っていた。だから、ほぼ忘れかけていたのだが……。
「そんなのがあったのか?」
デルゲンが言った。そう、僕以外にそのことを知っている人はいなかったのだ。
「ごめんね、黙ってた。今から、それをやるから……」
と、彼女は申し訳なさそうにうなずき、握りしめている空の手を見つめた。
「リサ?」
リサは再びまぶたを閉じ、大きく息を吐いた。
「私の体……あと少しだけ、もって頂戴ね……」
彼女がそう唱えると、身体が青っぽく光り始めた。その光はリサを包む薄い膜となり、そこから多くの青い光の粒子が飛び出してきた。
「これは……?」
それらはフワフワと空中に浮かび、目の前で漂う。そして、それらは空の身体へゆっくりと、吸い込まれるように入っていった。空の身体に当たった瞬間、水面のように波紋が広がる。次々に青い光の粒子は浮かび上がり、どんどん空の体内へと入ってゆく。雨粒が横向きに落ちているみたいだった。
数分の間、僕たちは呆然とその光景を見つめていた。すると、ようやく光は収まった。
「空ちゃん、何ともない?」
まぶたを開け、リサは空の顔を見つめた。
「え、えぇ。ただ、すごく温かくて……なんだか、軽くなったような……」
空がそう言うと、リサは安心したのか、ゆっくりと息を吐いて微笑んだ。
「よかった……これで、もう大丈夫だね」
彼女は納得しながら、休むかのように目を瞑った。僕たちは訳がわからず、ただ頭をかしげていた。
「リサ……お前、何を?」
そう訊ねると、彼女はまぶたを開けずに答える。
「――私の元素を分け与えたの」
「!!」
そんなことができるのかという驚きの前に、乖離しかけているリサがそれをしたということに衝撃を受けた。
「お前の元素を!?」
「そんなことをしたら、リサさんの元素が……!」
空の言葉に、リサは顔を振りつつ空の手を握り締める。
「いいの……もう、いいの」
「ちょ、ちょっと待て!」
割って入るかのように、レンドが言った。
「元素を分け与えるって言っても……先天属性と違う元素を入れたら、拒否反応を起こして人体に影響が出るんじゃないのか?」
そう、彼の言うとおりだ。元素は言うなれば血液型と一緒のようなもの。別の元素を入れると、細胞崩壊を引き起こしてしまう。
「大丈夫。空ちゃんの持つ〈紺碧〉のエレメンタル……あれは、星の元素。私の〈時空〉は、それを模して創られた太古の元素。理論上では、可能よ」
「そ、そうなのか?」
思わず、そう言ってしまった。
「……もう、空ちゃんの命を心配しなくてもいい」
リサは顔を振り、僕たちを見渡す。
「もしかしたら、順応するのに時間がかかるかもしれないけど……これで、普通に生き続けることができるから……」
疲れ切った表情で、彼女は微笑んだ。
「リサ……さん?」
彼女の中に、疑問めいた何かが浮かんでいたようだった。それを知ることは、この時の僕にはできなかった。
「リサ、死んじゃうの?」
シェリアはぽろぽろと涙を流しながら言った。
「うん……私、もうダメみたい……」
今更どう繕うこともできない。リサは間接的にではあるが、「死ぬ」と言ったのだ。
「なんで……」
自然と、言葉が漏れた。
「なんで、こんなことをしたんだよ!」
僕は震えを隠すかのように、大きな声で言った。そんな僕を、リサは首をかしげて見つめる。
「空……何よ? 文句で――」
「あるに決まってんだろ!!」
彼女の言葉を遮り、僕は叫んだ。
「自分を犠牲にするみたいなこと、どうしてしたんだよ! 元素が少ないのに、こんな……」
「あんたね、馬鹿?」
「! おまっ―」
言いかけた瞬間、彼女は大きなため息をついた。そのせいか、自分の言葉が止まってしまった。
「言ったでしょ? 私は自分を犠牲にするとか、そんな立派なことは考えてない。どうせ消えるなら、今できる精一杯のことをする。……それをしたまでよ」
「だけど……」
その時、リサは僕の額にデコピンをしてきた。
「いいの。これは、私が選んだことだからさ」
よろめいた僕に対し、リサは微笑む。
――誇りを持って、そう言えるよ――
彼女は、後悔の無い瞳を輝かせていた。
けど、言いようのない虚無感が広がっていく。まるで、心という湖に水が無くなっていくかのようだ。
「……これはさ、私にできる〈贖罪〉なの」
彼女は視線を天井に向け、呟くかのように言った。
「全部、私のせい」
その言葉の意味が、すぐにはわからなかった。
「それって、どういう……?」
思わず、問い返した。すると、リサは徐々に顔を歪めていった。それは体が痛いからではない。心が痛いからだ。
「空ちゃんが犠牲になったのは、私のせい」
「えっ……?」
自分のせい。
最初は、自分の責任っていう意味なのだと思った。だけど、本当は違う。
「私は、インドラが空ちゃんをさらうことを知っていた。それを知っていて、防がなかった」
「……!!」
僕は、言葉を失った。
「なぜだと思う?」
その問いに、誰も答えなかった。まだ、さっきの言葉が耳に残っているのだ。
「……それは、聖魔の力を……本当の意味で未来を変える権利を持つ調停者を、レイディアントへ連れて来るため。幼馴染の彼女がさらわれれば……少なくとも、あなたはこちらへ来ると確信していたから……」
罪の意識に囚われ、彼女は僕と空に視線を向けることができず、震えていた。
「あなたの……調停者としての力があれば、インドラに対抗できる。神々の力があれば、2人に復讐できる。そう、考えた…………だから……!」
リサは唇を噛みしめ、その瞳から一つの雫を零した。
「ごめんなさい」
かすれる声で、彼女は言った。
「わた……私のせいで……全部、私が……!!」
リサ……。
顔を覆って、彼女は声を殺しながら泣き始めた。手で隠しても、涙は溢れて来る。指と指との少しの隙間から、それはほほを伝う。
「お前だって……馬鹿じゃないか」
「……え?」
罪悪感で震える体が止まり、彼女は僕を見た。エメラルドグリーンの瞳には、涙でぬれている。
「空がさらわれることは……しょうがなかった。いや、たしかに……お前が防ごうとしたのなら、あの時さらわれることは無かったかもしれない。でも……」
僕は涙で濡れているリサの手を握った。
「きっと、あいつらは何度も空をさらおうとしただろう。もし、そうじゃなかったとしても……別の誰かが、空の代わりとしてさらわれたはずだ」
それを良しとするか?
誰かが犠牲になって空が救われるなら、それでいいと思うか?
……違うんだよ、結局さ……
「でも、私は……」
彼女が言いかけた時、僕は首を振った。
「お前がいたから、僕はここまで来れた。知るべきことを、知れた。リサと出逢えたから……」
リサが叱咤し、支えてくれたからこそ、大切な人を取り戻せたんだ。自分を取り戻すことができたんだ。
「だから……謝んなよ。お前に出逢えて……嬉しかったんだから」
「……空……」
リサに逢えて良かった。
彼女と出逢えなければ、今の僕はいない。
「ありがとう」
微笑むリサ。
涙を浮かべて微笑むその顔を、僕は知っている。それが、少しずつ確信へと変貌していく。
その時、リサの身体が白く霞み始めてきた。小さな粒子がほつれ、少しずつ彼女から抜け出してゆく。
――命の欠片が……元素の粒が。
「リサさん、お願いですから死なないで……」
ずっと彼女の手を握りしめていた空は、懇願するかのように言った。
「空ちゃん……ごめんね、許して……」
「嫌ですよ! 謝らないで下さいよ! 私、私……!!」
空は震えながら、リサを何度も揺する。すでに抑えることのできない想いが、彼女の双眸から溢れだしている。
「リサ」
レンドとデルゲンは僕たちの後ろに立ち、彼女の名を呼んだ。そこへ、リサはゆっくりと視線を向ける。
「……レンド、デルゲン。今まで、ありがとね」
彼女がそう言うと、レンドは自分の鼻をさすった。
「へっ、それはこっちのセリフだよ」
「今まで、何度も助けてくれたな。何もできないのが悔しいが……ありがとう」
二人は一番の大人だからか、素直に現実を受け止めていた。彼女が死ぬという現実を、僕は素直に受け取れない。こんな時だから……。
リサはアンナの方に顔を向けた。
「アンナ、ヴァルバを死なせて……ごめんね。あんたには、辛いことばかりさせちゃってさ……」
「…………」
アンナはすでに、涙で声がおぼつかない状態だった。彼女は顔を俯かせて、リサを抱きしめる。
「……元気でね」
「リサさん……」
すると、リサを包む白い光が一層輝きを増し始めた。
「リサ!!」
僕は咄嗟に、両手で彼女の手を握り締めた。生きる温かさを失いかけたそれは、ひどく冷たくなっていた。
「空、あのね……」
虚ろになりつつ瞳を向け、彼女は震える声で言う。
「言ってくれたよね? 『私たちが見る夢は、まだ終わらない』って……」
「? あ、あぁ……」
彼女は小さくうなずき、続けた。
「私が死んでも……夢は終わらない。だってさ、この世にある全てのものは……永遠っていう名の夢を、見続けてる」
彼女は微笑みながら、再び涙を薄らと浮かべる。
「私たちは、ずっとその夢の中で生き続けるの……」
夢の中でずっと、永遠に。
死ぬことは終わりではない。
夢が途絶える時こそが、終わり。
彼女の夢を辿る限り、彼女は生き続ける。僕たちの中に、息衝いている。
「だから……」
リサは小さく顔を振った。それと同時に、宝石の瞳が水面のように揺れる。
「泣かないで……」
泣く……?
ああ……そっか。
言われて、初めて気が付いた。自分の中から溢れ出る、熱い……願い。
僕は、いつの間にか泣いていた。
リサは優しく微笑む。
エメラルドグリーンの瞳は輝き、多くの雫を流す。
――信じてるから――
誰かの姿が浮かぶ。
「リサ……!!」
僕は彼女の手を強く握りしめた。彼女が冷たくならないように。彼女の温もりが逃げていかないように、自分の温もりを与える。
「死ぬなよ! 僕と……僕たちと一緒に、新しい未来を生きるんだろ……!」
僕のぽろぽろと流れ出る涙が、ほほを伝って握りしめている彼女の手に滴る。彼女の涙も、ほほを伝って床へと落ちてゆく。
「だから……今度こそ、今度こそ……」
自分で、何を言っているのか意味がわからなかった。
理解していないのに、言葉が出てくる。まるで、昔から知っていたかのように。
「一緒に生きよう」
「そ、ら……」
リサは小さく顔を振った。そこには、笑顔が浮かんでいた。全ての苦悩が浄化され、そこには喜びだけが存在する。
彼女の笑顔には、そういった意味が込められている。
「そう……だったんだ。そっか……私は……」
笑顔を浮かべながら、彼女はまぶたを閉じて何かを呟いている。何かを悟った彼女は、再び僕を見つめる。優しい眼差しは、僕の心を包み込む。
「そ……ら……」
彼女の弱弱しく震える手が、僕のほほに触れた。
――冷たい指先。
「約束……し、て……」
彼女の指が、僕のほほを優しくなでる。
「生き……てね。ずっと、ずっ……と……」
生きてほしい。
その想いが、指を伝って流れ込んでくる。
「約束する! 絶対に、生き続けてやるから……!」
「約束……だよ……」
そう言うと、リサは指先で僕のほほを突っついた。けど、あまりにも弱弱しく、ただ触れただけのようにも感じた。そうされる度に、涙が溢れて来る。
「ねぇ……泣かな、い……で……」
途切れそうな声で、彼女は優しく微笑む。
泣くな?
無理だよ――そう思いながら、僕は顔を振った。
「おねが、い……。私に、笑顔……見せ、て……あなた、の……えが、お……」
エメラルドグリーンの瞳は優しく囁く。僕の涙をその指先に乗せ、ゆっくりとなでる。
こんな時に、どうやって笑顔をしろってんだ? 涙ばかりが出て、自分ではコントロールできっこないのに。
「バーカ! こんな顔で、どうやって笑えってんだよ……!」
笑えるはずがない。笑顔になれるはずがない。
……そう思っていたのに、なぜかはわからないけど――僕は、自然だと思えるほど笑顔になっていた。こんなに、涙を流しているのに。人生で一番、涙を流しているのに。
それを見たリサは、天使のように微笑んだ。白く輝くためか、彼女のほほが透き通っているように見える。
「うん……で、も……いい……えが、お……だよ……」
そして、彼女は指先を僕の唇の先端に持ってきた。
「そらぁ……私、さ……あなたに言い……たかった、ことが……ある、の……」
ゆっくりと点滅するリサ。僕は崩れ落ちそうな彼女の手を、ぎゅっと握りしめた。消えないでくれ、消えないでくれと願いながら。
「リサ……リサ」
彼女の名前を呼ぶ度に、彼女の瞳から涙がこぼれ出る。小さく、口を動かす。そこから出てくる言葉は、遠い日々から知っていた言霊。
その微笑みは、あらゆるものを癒す。
――あの頃から、僕の中に息衝いている調。
拭い去ることのできない、遥遠なる日々。
「……わた、し……さ……あなたの……を……――、てるよ……」
――ええ。あなたと一緒なら……どこへでも――
「どこ……ても……――……続け、る……か…………」
ゆっくりと、ゆっくりと彼女のまぶたが閉じた。微笑んだまま、僕に触れていた指先はパタリと落ちていった。
「リ……サ?」
すると、彼女の身体から光の粒子が浮かび始め、少しずつ彼女の身体が崩れていく。徐々に、削れてゆく。
「リサ!」
名前を呼んでも、白い粒子が更に浮かぶだけ。
彼女の白い肌が、どんどん白くなっていく。
握り締める彼女の手の感覚が、薄れてゆく。どんどん消えていく。
「リサ、リサ!」
何度呼びかけても、彼女の薄くなった微笑みは動かなかった。
「リサ……リサ! 逝かないでくれ!!」
そして、握り締めた手が消えた。
足が消えた。
身体が消えた。
顔が消えた。
きれいな長い金色の髪が、粒子を巻き上げて消えた。
「リサ……逝くなよ。逝くな!!」
リサの姿は完全に消え、白い光の粒子だけが上空に漂っていた。その粒子を掴もうと、僕は必死に両手でもがく。けれど、掌の中に収まることは無かった。決して。
それらはフワフワと漂い、僕たちを一瞥すると、粒子はさらに上空へと昇っていった。まるで、天使が還っていくかのように。
最後の粒子が、光となって消え去った。
彼女の姿は、どこにも見当たらなくなった。
「リサァァァー!!」
彼女の名前を叫んでも、何も帰って来ない。帰ってくるのは、沈黙だけだった。
わかっているのに。
何もかも、わかっているのに。
「う……」
彼女の笑顔がそこには無い。いつも見た怒った顔や、笑った顔が、どこにも見当たらない。
「わああぁぁぁーー!!!」
僕はその場に泣き崩れた。
リサ……リサ……!!
彼女の表情が、脳裏に浮かぶ。鮮明に。
彼女の声が、耳の奥底で聴こえる。鮮明に。
掴もうとしても、掴めない。
何をしても、その笑顔を見ることができない。
どうして、彼女はいないのだろうか。
見えない。
彼女の美しく、太陽のように明るい笑顔が。
「もしかしたら遠い昔、私とあんたは知り合ってて……今のように、何かを話していたのかもしれないね……。そう考えたら、人と人の出逢いがどれほど大事なものかがわかる気がする。……本当のことには、程遠いのだろうけれど……」
そう言って、彼女は暁の門の前で微笑んでいた。金色の髪を輝かせて。
「わかる? ヒトってのは、誰しもがどこかで繋がり合ってるの。それは絶対に断ち切れるものじゃない。だって、遠い過去から紡がれていた約束だもの。誰にも、それを断ち切る権利なんて存在しない。でしょ?」
遠い陽だまりの中で、彼女は少し照れながら言っていた。あの、銀色の髪を輝かせて。
「行こ、空」
「約束だよ」
約束だからね
ずっと
ずっと……