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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆5部:全ての約束が紡がれし時へ
85/149

74章:ラグナロク 終結せし軌跡の果て

「く………っそがぁぁああ!!!!」




 振り向くと、シュヴァルツが口から血を吐き出しながら立ち上がっていた。

「ワイが負けて……たまるかぃ!!」

 叫ぶと共に、彼の傷口から血が吹き出る。シュヴァルツの身体は、限界に見える。立っているのがやっとだ。

「それ以上、動かない方がいい」

 リサはゆっくりと立ち上がり、静かな声で言う。これ以上、手をかけるつもりはない。だからこそ、ここは大人しく引き下がってほしいのだ。

 しかし、シュヴァルツはそれを振り払うかのように、顔を振る。

「黙れ! ……みせたるわ。サリアの力をな……!」

 シュヴァルツはそう言うと、掌を前に出して印を結び始めた。

「シュ、シュヴァルツ……お前、まさか!」

 バルバロッサはやっとこさの状態で、上半身を上げることができた。震える体を動かし、シュヴァルツの所へ行こうとするが、立ち上がることさえままならない。

「や、やめぃ……それを、それをやったら、天都ごと……!」

「これをするしかないんや! だまっとれ!!」

 シュヴァルツは、両手を合わせた。光の粒子が彼を包み始め、周りの大気が歪み始めた。まるで、蜃気楼のようにゆらゆらしている。


「――天地、狭間に眠りし沈黙の波動……あらゆるものを創造せし、無に帰す忘却の光……」


 一瞬、彼周りの光の粒子らが四方へ散る。と思いきや、再び彼を包み込む。すると、このフロア全体が小刻みに震え始めた。

「この精霊の波動は……!!」

 小さく揺れるこのフロアで、リサは驚愕からか、一歩足を引いた。

「シュヴァルツ! あんた……」

「そうや……これは、『ビッグバン』や! この宮殿ごと、お前らを吹き飛ばしたるわ!!」

 シュヴァルツの手元に光が集結してゆく。彼は合わしていた両手を離し、右手で印を結び始める。

「な、なんだ? 『ビッグバン』って!?」

 こんな状況で訊いて申し訳ないが、わかんないんだからしょうがない。

「……ミランダよりも質が悪いよ」

 ため息を漏らし、リサは言った。

「どういうことだ?」

「止める術のない、禁断の聖魔術。『ミョルニール』を遥かに凌駕する、人類が創り出した最悪の魔法さ……」 

「なっ!?」

 リサは悔しさのあまり、歯ぎしりをしていた。

「奴の言ったとおり、この辺りは破壊される。この宮殿ごと、ただの塵にされる……!!」

「んな馬鹿な……!」

「じょ、冗談じゃねぇぞ!?」

 僕の後ろで、レンドが叫ぶ。

 それじゃあ、ここでみんな死ぬってのか!?

「ど、どうするんだ!?」

 レンドはリサの隣に駆け寄って来た。

「どうするも何も、止めるしかないだろ!?」

 僕はティルフィングを振り抜き、三日月の衝撃波を飛ばした。しかし、それはシュヴァルツに当たる前に、粉塵となって消えてしまった。奴の周りに、大きな膜が張っているかのようだ。

「!?」

「無駄よ。ミランダと同じで絶対障壁が展開してる。あいつの魔法自体が消えない限り、干渉することは一切できない」

「そ、そんな冷静に説明している場合か!」

「…………」

 こうしている間にも、シュヴァルツは詠唱を続けている。奴の手元の光の玉が、体から染み出している光の粒子を吸収し、大きくなっていっている。

 シュヴァルツのエレメンタル全てが……奴の手元に集結しているんだ!!

「星の怒り、ここに顕れよ……愚なる者どもに、煉獄へ通ずる黄泉の門を開かん……!!」

「シュヴァルツ! やめぃ!!」

 バルバロッサがそう言っても、止める気配はない。大気中に含まれるエレメンタルも具現化し、奴の手元に集まっていく。


「私がやります」


 その声の主は、空。彼女は僕たちの前に進み、前を見据える。

「私がもう一度、あの時みたいに……」

 あの時――ミランダの時と同じように、自分の力で防ごうっていうのか?

 僕は彼女の腕を掴み、僕の方へ体を向けさせた。

「馬鹿なこと言うな! そんなの絶対にダメだ!!」

「でも……」

「でもじゃない! そんなことしたら、今度こそ死ぬぞ!?」

 空は馬鹿だ。自分を犠牲にして、僕たちを守ろうとしてる。それは正しくなんかない。自分を犠牲にすることは、『護る』ことではない。

「けど、ここでみんなを死なせたくない。だから……」

「それは誰だって同じだ! これ以上、馬鹿なことは言うな!!」

「空……さん」

 だけど、どうする? この伝わってくる魔法の振動――いや、精霊の波動。今まで感じたことの無い、不快感と威圧感。絶対的な恐怖が、僕たちを塗り潰そうとしている。

 これを発動されたら、必ず死ぬ。それだけは確信していた。



「ふぅ……しょうがないな」



 リサは大きくため息をつき、手首と足首を動かし始めた。まるで、準備体操をするかのように。

「リサ?」

「こうなっちゃったら、やるしかないね」

 そう言って、彼女はストレッチを始める。

 やるしかないって……どういう意味だ?

「お、おい、リサ。何をするつもりなんだ?」

「ん? まぁ見てなって」

 リサは微笑みながら言った。まるで、今からマジックでも披露するかのようだ。

「ふぅー……」

 そして、リサは深呼吸をした。大きく息を吸い込み、体中に酸素を行き渡らせている。

「……来るべき時が、来たってわけか……」

 僕に背を向け、彼女はしゃがむ。

「ホントは、したくないんだけどね」

「え?」

 言葉が小さすぎて、聞き取れなかった。

「ううん、なんでもない」

 リサは立ち上がり、僕に笑顔を向けた。その笑顔が、どこか造りものに見えたのは、気のせいだろうか。

 妙な気配がよぎる。

「さて、と」

 すると、リサは印を結び始めた。彼女の指先に光が宿り、目の前に魔方陣を刻んでゆく。

「……天地、狭間に眠りし沈黙の波動。あらゆるものを創造せし、無に帰す忘却の光よ……」

「ん?」

 リサの手元に、無数の光が集結し始めた。シュヴァルツと同じように、彼女の体の節々から出てくる光の粒子が、白く輝く手先に集い始める。

 この詠唱、まさか……!

「リ、リサ! お前、何してんだよ!?」

 僕は咄嗟に、彼女の肩を掴んだ。

「しょうがないでしょ? これしか方法はないんだから」

 リサは僕に顔を向けず、詠唱を続ける。淡い光が円環となり、リサを包み込む。

「止めろ! そんなことをしたら、お前の身体が……!!」

 リサは連戦で、エレメンタルの量が少なくなっている。この状態では、危険なことになりかねない。

 すると、彼女は首を振った。

「そんなことは、考えなくていい」

「考えるに決まってるだろ! 自分を犠牲にだなんて考えるな! それは、間違って――」

 その時、リサは僕の言葉を止めるかのように、自分の指を僕の唇に乗せた。

「私は、自分を犠牲に――とかみたいな、立派なことは考えてないよ。自分のためにやるんだからさ」

「だけど!!」



「大丈夫。私は負けないから。……ね?」



 ニコッと、リサは微笑んだ。

 光を受ける彼女の顔は……誰よりも美しく、誰よりも気高く、誰よりも……強かった。

 彼女を止めたかった。「馬鹿を言うな!!」と叫んで。けど、この瞳に抗うことはできなかった。それに抗うことは、彼女を否定すること――そのものだと思った。それをすることは、彼女を裏切る。そう思ってしまった。

「ソラ、ここはリサに任せよう」

 デルゲンは僕の肩に手を置いた。

「リサは決意したんだ。自分にできることを」

「デルゲン……」

 僕は少しだけ俯き、すぐに顔を上げてリサを見つめた。彼女は僕の言葉を待っているのか、詠唱を停止させている。

「……わかったよ。リサ、お前に懸ける。思う存分……やってやれ!!」

 僕は彼女の肩から手を離し、笑顔で言った。そうするしかできなかった。それだけしか……。

「ありがとう、空……。あんたがそう言ってくれるだけで、私は頑張れるよ……」

 そう言って、リサは前を見据えて集中し始めた。己の全てを……そこにかき集めていた。

 見守ることしかできないのか。僕は、何もできないのか……!!

「馬鹿が! お前ごときに、ワイが負けるとでも思っとるんか!」

 口から血を吐き出しながら、シュヴァルツは叫んだ。奴の目は血走り、不敵な笑みを浮かべている。

「……ふん。私は自分が負けるなんて、これっぽっちも思って無いよ。あんたには負けない。ここで、みんなを死なせはしない!!」



     挿絵(By みてみん)



 そう言って、リサは自分の髪を結っている紐をほどいた。美しい長い金色の髪が、優しく揺れる。そして、手を素早く動かして魔方陣を創り上げていった。

「ククク……ここではっきりさせてやるわぃ!! どちらが、星の未来を掴むにふさわしいのかをなぁ!!!!」

 シュヴァルツは怒声のような声と共に、手を大きく掲げた。奴の両手が白く光り、円を描くようにして体を包み込む。

「……万物、今こそ生まれ出でた〈始まりの刻〉へと還るがいい……! 終焉の光よ、我が下へ堕ちろ!! フェリウ・ヴィレ……」





「ビッグバン!!」





 奴を中心にして、巨大な光が辺りを覆う。

「くっ……!」

 あまりの眩しさに、僕たちは目を手で覆った。

「死ねやぁ!!」

 すると、彼の手元から波紋のように光が広がり、一つの閃光がはじき出された。それは巨大な光。光は床の大理石の床を破壊し、塵にしながら僕たちの方へ向かってくる。

 その時、リサはずっと印を結んでいた右手を止め、シュヴァルツが解き放った光を睨みつけた。

「万物、今こそ生まれ出でた〈始まりの刻〉へと還るがいい。終焉の光、我が天使の歌声に触れよ! フェリウ・ヴィレ――」





「ビッグバン!!」





 リサを中心に、光の円環が周囲に広がる。それは風となり、彼女の長い髪を巻き上げる。

「いっけぇぇーー!!!」

 彼女の手元から放たれた小さな光は、一瞬にして巨大な光へと変貌した。それは驚異のスピードで進み、シュヴァルツの光とフロアの中央でぶつかった。

「!!」

その瞬間、衝撃と共に風が吹き起こり、僕たちを襲った。

「す、すごい! これは……本当に魔法か!?」

 あまりのすごさに、僕の口から言葉が漏れた。二つの光が電流や小爆発を引き起こしながら、フロアの中心で停滞している。そして、吹き抜ける風――いや、嵐。長く目を開いていられないほどだ。

「くっ……!!」

 2人の力は、拮抗していた。どちらの光も、前進したかと思えば後退するという、一進一退の攻防だ!

「リリーナ……なぜ、この世界を守ろうとする! この世界は、あまりにも薄汚れているとは思わんのか!? 守るほどの価値があると思うんか!?」

 苦しそうな顔をして、シュヴァルツは叫ぶ。

「……守る価値は、あるよ」

 リサは苦悶を浮かべながらも、言った。

「あんたには……あんたたちには見えていないだけさ。この世界の美しさや、すばらしさ。滅びると知りながらも、懸命に生きようとする生命の煌きをね」

 彼女は眉間にしわを寄せながら、小さく微笑む。まるで、それを知らないシュヴァルツに対して「残念ね」みたいに思いながら。

「星を救うためには、選びたくもない方法を選ばなあかん時だってあるんや! きれいごとばかりで、この星が救えるとでも思うんか!?」

 怒声を放つシュヴァルツに対し、リサは首を振る。

「ヒトの力をなめちゃダメよ? ヒト……ううん、命が紡ごうとする未来への希望の力は、計り知れない。『滅亡の未来』だって、絶対に回避することはできるんだ! 私たちには、そのための力が備わってる!!」

 彼女の、信じる心そのもの。その言葉の中に、彼女の想いが詰まっていた。

 それを払いのけようとしているのか、シュヴァルツは顔を振る。

「お前がそう思っていても、世界中の人間がそうするとは限らん! ほとんどの人間は、己の生が犠牲の上に成り立っとることも知らず、のうのうと生きとる……。星の命を喰らい続ける生命なんぞ、この星にはいらんのやぁ!!」

 ヒトに対する憎しみ? いや、違う。シュヴァルツにあるのは、もはやそうすることでしか未来を残せない――というものなのかもしれない。

 ヒトが、生命が滅んでも星が生き続ける限り、あらゆるものが一つの生命体として、終わりの時まで存続する。そうしなければ、ヒトは必ず世界を殺してしまう。

 ――それだけは、絶対にさせたくないのだ。



「ぬ……があぁぁぁあ!!!!!」

「くっ……ああぁぁ!!」



 シュヴァルツの光が、徐々にリサの光を押していく。彼女の顔に苦悶が広がり、悲鳴にも似た声が漏れた。それと同時に、彼女の両腕から血しぶきが舞う。

「リサ!!!」

 彼女の傍に行かなければ――

 その想いが僕を突き動かし、彼女の下へ駆け寄ろうとした瞬間、レンドが僕の腕を掴む。

「!? レンド!!」

「やめろって!!」

「だけど、このままじゃ……このままじゃ、リサが……!!」

 あいつは死んでしまう。理由はわからない。この緊迫感が、そう思わせているだけなのかもしれない。

 懇願するかのように言う僕に対し、レンドは首を振った。

「俺たちはリサに託したんだ。俺たちの全てを託したんだ! ……あいつは、それを背負って闘っている。自分の命と、俺たちの全てを懸けて闘ってんだ」

 そう言って、レンドはリサを指差す。

「お前はそんなあいつの想いを……誇りを傷つけるつもりか!?」

 レンドの叫びは、僕に衝撃を与える。

「仲間なら信じろ!! あいつが……ぜってぇ勝つってことを! お前が信じてやらなくて、どうすんだ!!?」

 僕を掴む腕に力を入れ、歯を食いしばるレンド。彼も……彼らもまた、歯がゆいんだ。それでも、リサにかけた。彼女を信じて。

「…………」

 何も言い返せなかった。彼の言うとおりだから。

 僕には何もできないのか? このバルドルの力がありながら、どうすることもできないってのか?

 ――じゃあ、一体何のために僕はいるんだ!!

「ふざけんな!!」

 僕はそう叫び、その場に拳を叩きつけた。床に、亀裂が走る。

「バルドル、教えてくれ! カインの……聖魔の力は、なんのためにあんだよ!」

 お前がくれたこの力は、あらゆるものを創造し、護るための力だろ? こういう時こそ、発揮するんだろ!?

「答えろよ…………バルドル!!」

 自分の心の中で叫ぶつもりが、現実世界に叫びとして放出されてしまった。何の反応も示さないバルドルに対し、僕は少なからず憤りを抱かせていた。

 その時、誰かの指先が僕に触れる。

「……空」

 彼女は何も言わずうなずき、そっと僕の手を握り締めた。彼女は、瞬きをせずに僕を見つめている。



 ――信じましょう。



 それだけ、聴こえてきたような気がした。彼女の優しくも、強い空色の瞳がそう告げているのかもしれない。

 いつだって、リサは前を向いていた。全てに打ちひしがれることなく、辛い事実につき当たっても、先にある未来を掴もうと、必死に抗っていた。

 そして、あそこで『運命』に抗っている。歯を食いしばり、血をまき散らしながらも、諦めずに。

 自分の全てを懸けて闘っている。

「…………」

 僕は俯いていた顔を上げ、彼女を見つめた。

「リサ!! 負けんなぁ!!」

 目一杯の力を込めて、僕は叫んだ。こんな爆音の中でも、彼女に届くように。

「お前の力はこんなもんじゃねぇだろ!!? 僕を蹴り倒した時のお前は……もっとつえぇだろーが!!!」

 そう叫ぶと、リサの苦しさの表情の上に微笑みが浮かんだ。

「うっさいわねぇ!! そんなくだらない時と一緒にすんな!!」

「要領は同じだ! あん時の怒りを思い出せ! 憤怒だ憤怒!!」

 ぬおりゃーと、僕は力こぶを作って見せた。

「なんだよ、それ!!」

 ハハッと、リサは笑う。

「まったく、お前はこんな時に体面でも気にしてんのか!!? お前はたしかに誰にも負けねぇくらいかわいいけど、僕を蹴り飛ばす時だけ凶暴だろーが!!!」

「なっ……!!? こ、こんな時に何言ってんのよ!!」

 リサは顔を少し赤くして、僕を睨みつける。

「い、いいから黙ってなさいっつの!」

「じゃあ黙っててやるから、さっさと終わらせろ!」

「んな簡単に言うなってば!!」

 ああ、わかってるさ。それでも言わせろよ。僕たちは――


「僕たちは……僕たちの見る夢は、こんな所で終わりやしないんだからな!!」


 僕は彼女にとびっきりの笑顔を向けた。それも、拳を握り、親指だけを突き出して。

「……空、あんた……」

 彼女の優しい瞳が、僕を捉える。エメラルドグリーンの瞳は、誰よりも美しい。どんな宝石よりも、輝いている。

 そう、僕たちの未来を紡ごうとする〈夢〉は終わらない……永遠に輝き続けるんだ。絶対に!!

「……よぉし!! 任しときなっ!! 全部背負って飛んでやるよ!!」

 リサの周りに光が一瞬、集ったように見えた。そして、押されていた彼女の光は、再び拮抗状態へと押し戻した。

「ぬぅ!! くそがぁ……!!!」

「なんやと!? リリーナのエレメンタルが……変異しとる……?」

 今度は、シュヴァルツの顔に苦悶が広がった。



「――シュヴァルツ!!」



 リサは光の先を見据え、彼を呼ぶ。

「あんたなんかに、全ての命を殺す権利なんてない! 存在する全てのものは、生き続ける権利を持ってんだ!」

 強風になびかれながらも、彼女は言葉に想いを宿らせ、言霊として彼に届けるのを止めない。

「これ以上、私の大事なもんを奪わせない!!」

 一つの光の円環が、彼女を包み込む。


「ハアアアァァァ!!」


 リサの身体の回りに、不思議なオーラが出現した。今まで見てきた、紫色のオーラじゃない。

 なんだ? これは……

「!? ま、まさか――〈発露〉したっつーんか? サリアの力が……!?」

 バルバロッサは立ち上がり、その光景を見つめていた。

「永遠の空へ…………星の果てまでぶっとべぇ!!!!」

 リサが叫んだ瞬間、彼女の周りの光はより一層大きくなり、全てを包み込んだような錯覚を引き起こした。



 これは――――虹?



「君は…………」



 僕の口から勝手に言葉が出てきた。

 懐かしい名。

 遠い日々、君を見ていた。

 君を見続けていた。

 僕は知っている。君を。

 その名を……








 「……………ユリ……ア……………?」








「ぬああぁぁ!!!」

 シュヴァルツも、負けじと魔力を注入する。光はいっそう巨大化し、触れているものすべてを破壊し尽くしている。

「次元の巫女を、なめんなぁぁ!!!!!」

「!!?」

 すると、彼女の体から発生している虹色のオーラが、2つの光を包み始めた。そして、幾多の発光を繰り返しながら、光の輝きを増してゆく。

 そして……すべてが真っ白になるくらいの光が、僕たちの視界を覆った。まったく何も見えなくなったのだ。

 白光の爆発――まさに、それだった。

「う――っ!!」



 キ――ン――…………



 耳鳴りがするような音が、フロアを突き抜けた。まだ、目を開くことはできない。だけど、あの光と光が押し合っている音は聞こえなくなっていた。

 そして、ようやく目を開くことができた。

「……えっ?」

 そこに、光の姿は無かった。あるのは、漂う砂煙と無数の瓦礫。そして、シュヴァルツとリサが立ち尽くしているだけ。

「ぐ……くっ……!」

 シュヴァルツは、構えたまま小さく震えていた。

「相殺、か……! くそ……」

 そう言うと、シュヴァルツは片膝を付き、顔を沈ませた。

「ど、どうなったんだ?」

 レンドはキョロキョロ辺りを見渡していた。

「……もう、大丈夫。もう……」

 リサは、僕たちの方に振り向き、優しい笑顔を浮かべた。





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