74章:ラグナロク 終結せし軌跡の果て
「く………っそがぁぁああ!!!!」
振り向くと、シュヴァルツが口から血を吐き出しながら立ち上がっていた。
「ワイが負けて……たまるかぃ!!」
叫ぶと共に、彼の傷口から血が吹き出る。シュヴァルツの身体は、限界に見える。立っているのがやっとだ。
「それ以上、動かない方がいい」
リサはゆっくりと立ち上がり、静かな声で言う。これ以上、手をかけるつもりはない。だからこそ、ここは大人しく引き下がってほしいのだ。
しかし、シュヴァルツはそれを振り払うかのように、顔を振る。
「黙れ! ……みせたるわ。サリアの力をな……!」
シュヴァルツはそう言うと、掌を前に出して印を結び始めた。
「シュ、シュヴァルツ……お前、まさか!」
バルバロッサはやっとこさの状態で、上半身を上げることができた。震える体を動かし、シュヴァルツの所へ行こうとするが、立ち上がることさえままならない。
「や、やめぃ……それを、それをやったら、天都ごと……!」
「これをするしかないんや! だまっとれ!!」
シュヴァルツは、両手を合わせた。光の粒子が彼を包み始め、周りの大気が歪み始めた。まるで、蜃気楼のようにゆらゆらしている。
「――天地、狭間に眠りし沈黙の波動……あらゆるものを創造せし、無に帰す忘却の光……」
一瞬、彼周りの光の粒子らが四方へ散る。と思いきや、再び彼を包み込む。すると、このフロア全体が小刻みに震え始めた。
「この精霊の波動は……!!」
小さく揺れるこのフロアで、リサは驚愕からか、一歩足を引いた。
「シュヴァルツ! あんた……」
「そうや……これは、『ビッグバン』や! この宮殿ごと、お前らを吹き飛ばしたるわ!!」
シュヴァルツの手元に光が集結してゆく。彼は合わしていた両手を離し、右手で印を結び始める。
「な、なんだ? 『ビッグバン』って!?」
こんな状況で訊いて申し訳ないが、わかんないんだからしょうがない。
「……ミランダよりも質が悪いよ」
ため息を漏らし、リサは言った。
「どういうことだ?」
「止める術のない、禁断の聖魔術。『ミョルニール』を遥かに凌駕する、人類が創り出した最悪の魔法さ……」
「なっ!?」
リサは悔しさのあまり、歯ぎしりをしていた。
「奴の言ったとおり、この辺りは破壊される。この宮殿ごと、ただの塵にされる……!!」
「んな馬鹿な……!」
「じょ、冗談じゃねぇぞ!?」
僕の後ろで、レンドが叫ぶ。
それじゃあ、ここでみんな死ぬってのか!?
「ど、どうするんだ!?」
レンドはリサの隣に駆け寄って来た。
「どうするも何も、止めるしかないだろ!?」
僕はティルフィングを振り抜き、三日月の衝撃波を飛ばした。しかし、それはシュヴァルツに当たる前に、粉塵となって消えてしまった。奴の周りに、大きな膜が張っているかのようだ。
「!?」
「無駄よ。ミランダと同じで絶対障壁が展開してる。あいつの魔法自体が消えない限り、干渉することは一切できない」
「そ、そんな冷静に説明している場合か!」
「…………」
こうしている間にも、シュヴァルツは詠唱を続けている。奴の手元の光の玉が、体から染み出している光の粒子を吸収し、大きくなっていっている。
シュヴァルツのエレメンタル全てが……奴の手元に集結しているんだ!!
「星の怒り、ここに顕れよ……愚なる者どもに、煉獄へ通ずる黄泉の門を開かん……!!」
「シュヴァルツ! やめぃ!!」
バルバロッサがそう言っても、止める気配はない。大気中に含まれるエレメンタルも具現化し、奴の手元に集まっていく。
「私がやります」
その声の主は、空。彼女は僕たちの前に進み、前を見据える。
「私がもう一度、あの時みたいに……」
あの時――ミランダの時と同じように、自分の力で防ごうっていうのか?
僕は彼女の腕を掴み、僕の方へ体を向けさせた。
「馬鹿なこと言うな! そんなの絶対にダメだ!!」
「でも……」
「でもじゃない! そんなことしたら、今度こそ死ぬぞ!?」
空は馬鹿だ。自分を犠牲にして、僕たちを守ろうとしてる。それは正しくなんかない。自分を犠牲にすることは、『護る』ことではない。
「けど、ここでみんなを死なせたくない。だから……」
「それは誰だって同じだ! これ以上、馬鹿なことは言うな!!」
「空……さん」
だけど、どうする? この伝わってくる魔法の振動――いや、精霊の波動。今まで感じたことの無い、不快感と威圧感。絶対的な恐怖が、僕たちを塗り潰そうとしている。
これを発動されたら、必ず死ぬ。それだけは確信していた。
「ふぅ……しょうがないな」
リサは大きくため息をつき、手首と足首を動かし始めた。まるで、準備体操をするかのように。
「リサ?」
「こうなっちゃったら、やるしかないね」
そう言って、彼女はストレッチを始める。
やるしかないって……どういう意味だ?
「お、おい、リサ。何をするつもりなんだ?」
「ん? まぁ見てなって」
リサは微笑みながら言った。まるで、今からマジックでも披露するかのようだ。
「ふぅー……」
そして、リサは深呼吸をした。大きく息を吸い込み、体中に酸素を行き渡らせている。
「……来るべき時が、来たってわけか……」
僕に背を向け、彼女はしゃがむ。
「ホントは、したくないんだけどね」
「え?」
言葉が小さすぎて、聞き取れなかった。
「ううん、なんでもない」
リサは立ち上がり、僕に笑顔を向けた。その笑顔が、どこか造りものに見えたのは、気のせいだろうか。
妙な気配がよぎる。
「さて、と」
すると、リサは印を結び始めた。彼女の指先に光が宿り、目の前に魔方陣を刻んでゆく。
「……天地、狭間に眠りし沈黙の波動。あらゆるものを創造せし、無に帰す忘却の光よ……」
「ん?」
リサの手元に、無数の光が集結し始めた。シュヴァルツと同じように、彼女の体の節々から出てくる光の粒子が、白く輝く手先に集い始める。
この詠唱、まさか……!
「リ、リサ! お前、何してんだよ!?」
僕は咄嗟に、彼女の肩を掴んだ。
「しょうがないでしょ? これしか方法はないんだから」
リサは僕に顔を向けず、詠唱を続ける。淡い光が円環となり、リサを包み込む。
「止めろ! そんなことをしたら、お前の身体が……!!」
リサは連戦で、エレメンタルの量が少なくなっている。この状態では、危険なことになりかねない。
すると、彼女は首を振った。
「そんなことは、考えなくていい」
「考えるに決まってるだろ! 自分を犠牲にだなんて考えるな! それは、間違って――」
その時、リサは僕の言葉を止めるかのように、自分の指を僕の唇に乗せた。
「私は、自分を犠牲に――とかみたいな、立派なことは考えてないよ。自分のためにやるんだからさ」
「だけど!!」
「大丈夫。私は負けないから。……ね?」
ニコッと、リサは微笑んだ。
光を受ける彼女の顔は……誰よりも美しく、誰よりも気高く、誰よりも……強かった。
彼女を止めたかった。「馬鹿を言うな!!」と叫んで。けど、この瞳に抗うことはできなかった。それに抗うことは、彼女を否定すること――そのものだと思った。それをすることは、彼女を裏切る。そう思ってしまった。
「ソラ、ここはリサに任せよう」
デルゲンは僕の肩に手を置いた。
「リサは決意したんだ。自分にできることを」
「デルゲン……」
僕は少しだけ俯き、すぐに顔を上げてリサを見つめた。彼女は僕の言葉を待っているのか、詠唱を停止させている。
「……わかったよ。リサ、お前に懸ける。思う存分……やってやれ!!」
僕は彼女の肩から手を離し、笑顔で言った。そうするしかできなかった。それだけしか……。
「ありがとう、空……。あんたがそう言ってくれるだけで、私は頑張れるよ……」
そう言って、リサは前を見据えて集中し始めた。己の全てを……そこにかき集めていた。
見守ることしかできないのか。僕は、何もできないのか……!!
「馬鹿が! お前ごときに、ワイが負けるとでも思っとるんか!」
口から血を吐き出しながら、シュヴァルツは叫んだ。奴の目は血走り、不敵な笑みを浮かべている。
「……ふん。私は自分が負けるなんて、これっぽっちも思って無いよ。あんたには負けない。ここで、みんなを死なせはしない!!」
そう言って、リサは自分の髪を結っている紐をほどいた。美しい長い金色の髪が、優しく揺れる。そして、手を素早く動かして魔方陣を創り上げていった。
「ククク……ここではっきりさせてやるわぃ!! どちらが、星の未来を掴むにふさわしいのかをなぁ!!!!」
シュヴァルツは怒声のような声と共に、手を大きく掲げた。奴の両手が白く光り、円を描くようにして体を包み込む。
「……万物、今こそ生まれ出でた〈始まりの刻〉へと還るがいい……! 終焉の光よ、我が下へ堕ちろ!! フェリウ・ヴィレ……」
「ビッグバン!!」
奴を中心にして、巨大な光が辺りを覆う。
「くっ……!」
あまりの眩しさに、僕たちは目を手で覆った。
「死ねやぁ!!」
すると、彼の手元から波紋のように光が広がり、一つの閃光がはじき出された。それは巨大な光。光は床の大理石の床を破壊し、塵にしながら僕たちの方へ向かってくる。
その時、リサはずっと印を結んでいた右手を止め、シュヴァルツが解き放った光を睨みつけた。
「万物、今こそ生まれ出でた〈始まりの刻〉へと還るがいい。終焉の光、我が天使の歌声に触れよ! フェリウ・ヴィレ――」
「ビッグバン!!」
リサを中心に、光の円環が周囲に広がる。それは風となり、彼女の長い髪を巻き上げる。
「いっけぇぇーー!!!」
彼女の手元から放たれた小さな光は、一瞬にして巨大な光へと変貌した。それは驚異のスピードで進み、シュヴァルツの光とフロアの中央でぶつかった。
「!!」
その瞬間、衝撃と共に風が吹き起こり、僕たちを襲った。
「す、すごい! これは……本当に魔法か!?」
あまりのすごさに、僕の口から言葉が漏れた。二つの光が電流や小爆発を引き起こしながら、フロアの中心で停滞している。そして、吹き抜ける風――いや、嵐。長く目を開いていられないほどだ。
「くっ……!!」
2人の力は、拮抗していた。どちらの光も、前進したかと思えば後退するという、一進一退の攻防だ!
「リリーナ……なぜ、この世界を守ろうとする! この世界は、あまりにも薄汚れているとは思わんのか!? 守るほどの価値があると思うんか!?」
苦しそうな顔をして、シュヴァルツは叫ぶ。
「……守る価値は、あるよ」
リサは苦悶を浮かべながらも、言った。
「あんたには……あんたたちには見えていないだけさ。この世界の美しさや、すばらしさ。滅びると知りながらも、懸命に生きようとする生命の煌きをね」
彼女は眉間にしわを寄せながら、小さく微笑む。まるで、それを知らないシュヴァルツに対して「残念ね」みたいに思いながら。
「星を救うためには、選びたくもない方法を選ばなあかん時だってあるんや! きれいごとばかりで、この星が救えるとでも思うんか!?」
怒声を放つシュヴァルツに対し、リサは首を振る。
「ヒトの力をなめちゃダメよ? ヒト……ううん、命が紡ごうとする未来への希望の力は、計り知れない。『滅亡の未来』だって、絶対に回避することはできるんだ! 私たちには、そのための力が備わってる!!」
彼女の、信じる心そのもの。その言葉の中に、彼女の想いが詰まっていた。
それを払いのけようとしているのか、シュヴァルツは顔を振る。
「お前がそう思っていても、世界中の人間がそうするとは限らん! ほとんどの人間は、己の生が犠牲の上に成り立っとることも知らず、のうのうと生きとる……。星の命を喰らい続ける生命なんぞ、この星にはいらんのやぁ!!」
ヒトに対する憎しみ? いや、違う。シュヴァルツにあるのは、もはやそうすることでしか未来を残せない――というものなのかもしれない。
ヒトが、生命が滅んでも星が生き続ける限り、あらゆるものが一つの生命体として、終わりの時まで存続する。そうしなければ、ヒトは必ず世界を殺してしまう。
――それだけは、絶対にさせたくないのだ。
「ぬ……があぁぁぁあ!!!!!」
「くっ……ああぁぁ!!」
シュヴァルツの光が、徐々にリサの光を押していく。彼女の顔に苦悶が広がり、悲鳴にも似た声が漏れた。それと同時に、彼女の両腕から血しぶきが舞う。
「リサ!!!」
彼女の傍に行かなければ――
その想いが僕を突き動かし、彼女の下へ駆け寄ろうとした瞬間、レンドが僕の腕を掴む。
「!? レンド!!」
「やめろって!!」
「だけど、このままじゃ……このままじゃ、リサが……!!」
あいつは死んでしまう。理由はわからない。この緊迫感が、そう思わせているだけなのかもしれない。
懇願するかのように言う僕に対し、レンドは首を振った。
「俺たちはリサに託したんだ。俺たちの全てを託したんだ! ……あいつは、それを背負って闘っている。自分の命と、俺たちの全てを懸けて闘ってんだ」
そう言って、レンドはリサを指差す。
「お前はそんなあいつの想いを……誇りを傷つけるつもりか!?」
レンドの叫びは、僕に衝撃を与える。
「仲間なら信じろ!! あいつが……ぜってぇ勝つってことを! お前が信じてやらなくて、どうすんだ!!?」
僕を掴む腕に力を入れ、歯を食いしばるレンド。彼も……彼らもまた、歯がゆいんだ。それでも、リサにかけた。彼女を信じて。
「…………」
何も言い返せなかった。彼の言うとおりだから。
僕には何もできないのか? このバルドルの力がありながら、どうすることもできないってのか?
――じゃあ、一体何のために僕はいるんだ!!
「ふざけんな!!」
僕はそう叫び、その場に拳を叩きつけた。床に、亀裂が走る。
「バルドル、教えてくれ! カインの……聖魔の力は、なんのためにあんだよ!」
お前がくれたこの力は、あらゆるものを創造し、護るための力だろ? こういう時こそ、発揮するんだろ!?
「答えろよ…………バルドル!!」
自分の心の中で叫ぶつもりが、現実世界に叫びとして放出されてしまった。何の反応も示さないバルドルに対し、僕は少なからず憤りを抱かせていた。
その時、誰かの指先が僕に触れる。
「……空」
彼女は何も言わずうなずき、そっと僕の手を握り締めた。彼女は、瞬きをせずに僕を見つめている。
――信じましょう。
それだけ、聴こえてきたような気がした。彼女の優しくも、強い空色の瞳がそう告げているのかもしれない。
いつだって、リサは前を向いていた。全てに打ちひしがれることなく、辛い事実につき当たっても、先にある未来を掴もうと、必死に抗っていた。
そして、あそこで『運命』に抗っている。歯を食いしばり、血をまき散らしながらも、諦めずに。
自分の全てを懸けて闘っている。
「…………」
僕は俯いていた顔を上げ、彼女を見つめた。
「リサ!! 負けんなぁ!!」
目一杯の力を込めて、僕は叫んだ。こんな爆音の中でも、彼女に届くように。
「お前の力はこんなもんじゃねぇだろ!!? 僕を蹴り倒した時のお前は……もっとつえぇだろーが!!!」
そう叫ぶと、リサの苦しさの表情の上に微笑みが浮かんだ。
「うっさいわねぇ!! そんなくだらない時と一緒にすんな!!」
「要領は同じだ! あん時の怒りを思い出せ! 憤怒だ憤怒!!」
ぬおりゃーと、僕は力こぶを作って見せた。
「なんだよ、それ!!」
ハハッと、リサは笑う。
「まったく、お前はこんな時に体面でも気にしてんのか!!? お前はたしかに誰にも負けねぇくらいかわいいけど、僕を蹴り飛ばす時だけ凶暴だろーが!!!」
「なっ……!!? こ、こんな時に何言ってんのよ!!」
リサは顔を少し赤くして、僕を睨みつける。
「い、いいから黙ってなさいっつの!」
「じゃあ黙っててやるから、さっさと終わらせろ!」
「んな簡単に言うなってば!!」
ああ、わかってるさ。それでも言わせろよ。僕たちは――
「僕たちは……僕たちの見る夢は、こんな所で終わりやしないんだからな!!」
僕は彼女にとびっきりの笑顔を向けた。それも、拳を握り、親指だけを突き出して。
「……空、あんた……」
彼女の優しい瞳が、僕を捉える。エメラルドグリーンの瞳は、誰よりも美しい。どんな宝石よりも、輝いている。
そう、僕たちの未来を紡ごうとする〈夢〉は終わらない……永遠に輝き続けるんだ。絶対に!!
「……よぉし!! 任しときなっ!! 全部背負って飛んでやるよ!!」
リサの周りに光が一瞬、集ったように見えた。そして、押されていた彼女の光は、再び拮抗状態へと押し戻した。
「ぬぅ!! くそがぁ……!!!」
「なんやと!? リリーナのエレメンタルが……変異しとる……?」
今度は、シュヴァルツの顔に苦悶が広がった。
「――シュヴァルツ!!」
リサは光の先を見据え、彼を呼ぶ。
「あんたなんかに、全ての命を殺す権利なんてない! 存在する全てのものは、生き続ける権利を持ってんだ!」
強風になびかれながらも、彼女は言葉に想いを宿らせ、言霊として彼に届けるのを止めない。
「これ以上、私の大事なもんを奪わせない!!」
一つの光の円環が、彼女を包み込む。
「ハアアアァァァ!!」
リサの身体の回りに、不思議なオーラが出現した。今まで見てきた、紫色のオーラじゃない。
なんだ? これは……
「!? ま、まさか――〈発露〉したっつーんか? サリアの力が……!?」
バルバロッサは立ち上がり、その光景を見つめていた。
「永遠の空へ…………星の果てまでぶっとべぇ!!!!」
リサが叫んだ瞬間、彼女の周りの光はより一層大きくなり、全てを包み込んだような錯覚を引き起こした。
これは――――虹?
「君は…………」
僕の口から勝手に言葉が出てきた。
懐かしい名。
遠い日々、君を見ていた。
君を見続けていた。
僕は知っている。君を。
その名を……
「……………ユリ……ア……………?」
「ぬああぁぁ!!!」
シュヴァルツも、負けじと魔力を注入する。光はいっそう巨大化し、触れているものすべてを破壊し尽くしている。
「次元の巫女を、なめんなぁぁ!!!!!」
「!!?」
すると、彼女の体から発生している虹色のオーラが、2つの光を包み始めた。そして、幾多の発光を繰り返しながら、光の輝きを増してゆく。
そして……すべてが真っ白になるくらいの光が、僕たちの視界を覆った。まったく何も見えなくなったのだ。
白光の爆発――まさに、それだった。
「う――っ!!」
キ――ン――…………
耳鳴りがするような音が、フロアを突き抜けた。まだ、目を開くことはできない。だけど、あの光と光が押し合っている音は聞こえなくなっていた。
そして、ようやく目を開くことができた。
「……えっ?」
そこに、光の姿は無かった。あるのは、漂う砂煙と無数の瓦礫。そして、シュヴァルツとリサが立ち尽くしているだけ。
「ぐ……くっ……!」
シュヴァルツは、構えたまま小さく震えていた。
「相殺、か……! くそ……」
そう言うと、シュヴァルツは片膝を付き、顔を沈ませた。
「ど、どうなったんだ?」
レンドはキョロキョロ辺りを見渡していた。
「……もう、大丈夫。もう……」
リサは、僕たちの方に振り向き、優しい笑顔を浮かべた。