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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆5部:全ての約束が紡がれし時へ
75/149

64章:ゲルミナス遺跡 地の都への入り口



 翌日、僕たちはラヴィンさんからいろいろなものを頂き、お礼を言って北へ出発した。遥か北、まだまだ目的地までは遠そうだ。

 今日は曇り空。もう少ししたら雨が降ってきそうな感じだ。この雲のせいか、上空にある空中都市群は姿を隠してしまっている。


「ここから北東の方に進めば、遺跡みたいなところがあるからそこで雨宿りしようよ」


 いよいよ降ってきそうになり、シェリアは言った。数時間ほど歩いていると、雨が降ってきたので、先にあった小高い丘を登ると、その廃墟が見えた。草原の中にうずくまっている廃墟群。規模はそんなに大きくはないが、教会程度大きさの廃墟だ。ここから見るに、内部には入れるっぽい。

 外壁には草が生い茂り、長い月日を感じさせる。口を空けているような入り口の中に入ると、薄暗い部屋が広がっていた。天井はほとんど崩れ、雨の水が床へ降り注いでいる。瓦礫があたりに散らかり、人が住んでいたような形跡はまったく感じられない。

 部屋の奥に、ほとんどコケに覆われた鋼鉄の扉があった。シェリアが言うには、何をやっても開かない扉だという。

 その扉に近付き、コケを取り払ってみた。そこに、あるものが刻まれていた。

「これは……」

 あの紋章だ。ということは、封印が施されているんだ。つまり、僕が鍵を解けるってことか。

 僕は扉に近付き、言葉を放った。


「……ネシィエ・ミヒ……我は、調停者」


 紋章が輝き始め、扉は砂煙を出しながら横へスライドした。どうやら、この扉はちょっと進歩した扉なようだ。

「ね、ねぇ、ソラ、今のどうやってやったの!? 魔法かなんか!?」

 初めて目の当たりにし、シェリアは驚きのまま僕に訊ねてきた。

「魔法? 魔法じゃないんだけど……なんなんだ?」

「私に訊かれても……」

 リサは困った様子で苦笑した。

「じゃあなんなの!?」

 興奮気味のシェリア。人間の好奇心ってのは、年齢と反比例しているのかもしれないと思った。

「えっと……わかんね」

「えぇ!? なんなの、それぇ」

 シェリアは愕然とした顔で、大きくため息を漏らした。

 中へ進むと、暗闇の部屋があった。部屋のあちこちに、書物や機械が置かれている。本棚の中に入れられた本が、コケが生えた床へ無造作に散らばっていて、キッチンサイズのコンピューターも動力を失い、眠っていた。

「……転送装置じゃあないですね」

 コンピューターを眺め、アンナは軽く触れたりしている。

「動力が無いんだろうな」

 そういえば、廃墟だったダマスカスの転送装置で別の地上都市に繋げた時、どこかの都市の転送装置は『エレメントパワーが不足してます』とかって言ってたよな。つまり、そのエレメントパワーとやらが動力源なのだろう。

 そこらへんにあった厚めの書物を拾い、題名を見てみると、〈ティルナノグ地理〉と書かれてあった。本を開き、冒頭を見てみると、ズラリと並んだ地名が載せられている。中には、遺跡のコンピューターで見た天空都市の地名もある。どうやら、この本には天空都市だけ書かれてあるようだ。

 少し黄ばんだページ。地名の説明の中には、写真が含まれているものもあった。僕はその中で、『天空帝都』というものを発見した。



『天空帝都セレスティアル。天帝陛下のおわす都である。人口100万をほこり、ほとんどの貴族もここに住んでいる。天帝城の最上階に、浮遊大陸そのものを浮かばせている核である〈セレスティアル〉がある。空中都市群アトモスフィアの中心部に位置し、最も巨大な都市である。世界最先端の技術と共に、我が帝国の繁栄を示すそのものである』



 ということは、あの巨大な駒みたいなものが天空帝都なのだろうか。まあ、見るからにあれが中心部っぽいし。

「おい。これ、動くぞ」

 レンドの方へ向くと、彼は機械をいじっていた。

「どれどれ」

 僕はそのコンピューターを眺めた。画面が明るくなり、何かを映し出している。どうやら、どこかの映像を出しているようだ。

「………『土地検索』?」

 これは、土地名を検索できる装置なのだろうか? 以前の装置と同じようにキーボードを発見。ここで、土地名を打ち込めってことか。樹たちが目指しているのが天空帝都セレスティアルなら……

「セレスティアル……と」

 帝都の名を打つと、画面が移り変わり、あの上空の駒の都市が映し出された。やはり、あれが天空帝都だったか。

「なんて書いてあるんですか?」

 アンナも、他のみんなと同じように画面を覗き込んでいる。

「えぇっと……帝都への行き方……は、アースガルズ神殿の転送装置を用い、地上の都カナンへ行き、そこで天上装置を使用する……」

「アースガルズ神殿?」

 デルゲンは首をかしげた。

「たぶん、ゲルミナス遺跡のことだと思う。ティルナノグ時代にそう呼ばれていたけど、滅亡後はその名称が伝えられていなくて、違う名称が名付けられたんだと思うんだけど……」

「だが、違う可能性もあるんじゃないのか?」

「そりゃそうさ。ゲルミナス遺跡がアースガルズ神殿だといいんだけどね」

 そうじゃないと、本当にわからなくなってしまう。

 ……待てよ。この装置を使えば、そのアースガルズ神殿の行き方もわかるんじゃないのか?

 僕はキーボードを押し、画面を変えた。そして、今度は『アースガルズ神殿』と入力した。

 画面が変わり、神殿の姿が映し出された。白銀のギリシャ風の神殿。パルテノン神殿に代表されるあの支柱のようなもので、全体が支えられている。

「……ここより北、白き山脈のふもと」

 北……か。確実とは言えないが、ここのことだろう。

「ゲルミナス遺跡で間違いないようだな」

「っていうことは……ゲルミナス遺跡へ行って、転送装置で『カナン』という都市に行けば、アトモスフィアに行けれるはずか?」

 レンドの言葉に、僕はうなずいた。

 よし、これで確実に行けれる。確信めいたものが無かったので、少々不安だったし。

「……それにしても、地上の都カナンねぇ……なんかの因果かな?」

 リサは機械に映し出されている神殿を見つめ、言った。

 創世時代の遺産――聖地カナン。あそこは、当時の科学が集結した地。調停者としてのカインと、魔法が生まれた場所。

 そこと同じ名を持つ、カナン……地上の都と表記されているからには、巨大な都市であることは間違いないだろう。

「ティルナノグはカインが創った国だ。関連性があるのは当然だよ」

「……まぁ、ね」

 そう言っても、リサの顔には疑問が浮かんでいる。どうも、彼女には腑に落ちない点があるようだった。

「ともかく、雨が止んだら出発しよう。時間が無いしな」

 レンドは妙に張り切りながら言っていた。

 カナン……よく出てくる名だな。創世時代――1万年以上も昔の世界に取って、重要な意味を持つ名だったのかもしれない。リサの言うように、何かの『因果』があるのだろうか……。



 雨が止み、僕たちは再び歩き始めた。

 それから5日ほど進むと、ようやくカラハザンに辿り着いた。

 山のふもとにある、のどかな町。ヴァルハラよりも規模が大きい。レンガ造りの家々が立ち並び、ニワトリを育てている家屋が2,3軒あり、町を縦横に割くようにして敷かれている2つの道路が交差する所に、1つの塔みたいなものがあって、てっぺんには大きな鋼の鐘があった。さらには、山の斜面に沿って、3つの風車もあった。童話に出てくるような町――といったところか。

 太陽が沈みかけ、青空が茜色に染まってきた頃に到着したためか、町のいたる所にある店の前で、おばさんたちが夕飯の材料を選んでいた。片手には買い物袋。その中に大根でも入っていたら、昭和の下町みたいだ。

 この町の人々を見ていると、ヴァルハラの人たちの姿が浮かんでくる。そう、誰もが普通なんだ。それこそが、平和なんだ。

 分断された北と南……レイディアントとガイア。

 ガイアでは多種多様な国々があり、それらの国と民族の概念で物事を言い、争い合ってきた。

 ……レイディアントを救おうとした、太古の人間。結果として、世界を二つに分けてしまった。

 彼の願い……その中で誕生したガイア。そこもまた、彼の願いと希望を受け入れられなかった世界なのだろうか。

 彼の想いは、とうの昔に滅んでしまったのだろうか。



 この日、僕たちは宿屋で久しぶりにベッドで寝た。やっぱり、ふかふかのベッドで寝るのが一番。



 翌日、僕たちは町の人にゲルミナス遺跡の行き方を教えてもらい、出発した。

 町を出て長く続く緩やかな坂道を登ると、山道の入り口に到着した。木が一本も無く、緑のじゅうたんのように山は草に覆われている。所々、石灰岩のように白い岩が突き出ていて、遠くから見れば緑の絵に所々、白い斑点があるようなものだろう。こうした山と青い空っていうのは、風景画としてはありがちながらも、かなり美麗だ。

 山の斜面から柔らかな風が吹いてきて、僕たちを包む。そこまで高い山ではなく、標高は500メートル程度だと思われる。町の人が言うには、この山を回り込んで進んだほうが遺跡に早く着くのだという。

 1〜2時間程度、登ったり降りたりして、ようやく山のふもとへ辿り着いた。カラハザンの反対側に当たるという。

 目の前に広がっていたのは、遥か先まで広がる密林だった。アマゾンのような熱帯林ではなく、ドイツの森みたいな感じだろうか。森の奥は暗がりで、どこか妖しさを持ち、妖精の森のような雰囲気をかもし出している。何かが「おいで、おいで」と招いているような気さえする。きっと、その妖気に誘われ、この森へと足を進ませた人は少なくないだろう。


「シェリア、ここが光の森なのか?」

 僕がそう訊ねても、返事は返って来ない。シェリアはその森を見つめながら、少しだけ何かを考えているようだった。

「シェリア?」

 再度訊ねると、シェリアは我に返ったように、僕に顔を向けた。

「ご、ごめん。なんて言った?」

「ここが光の森なのかどうかってこと」

「う、うん。そうだよ。だけど……」

 シェリアは森の奥を見つめ、顔をこわばらせている。

「……どうしたんだ?」

「以前来た時と、なんだか雰囲気が違う気がする」

 少しだけ怖がっているのか、声が震えたように感じた。

「よくわかんないけど、何か……」

「……危険ってこと?」

 空がそう言うと、シェリアは小さくうなずく。

「そうなのかも、しれない。はっきりとは言えないけど……」

 この先に続く中で、何かが待ち受けている。そうなのだとしたら、そこには樹たちがいるってこと……。

 わざわざ、こんな中途半端な所にいるはずはないだろう。そう思った時、

「危険なことなんて、俺たちからしてみれば今に始まったことじゃないだろ?」

 レンドはシェリアの隣に立ち、言った

「ま、俺らが付いてんだ。心配すんなって」

 レンドはシェリアの頭をなで、髪の毛をクシャクシャにした。

「そ、そんなんじゃない!」

「おーお、ガキのくせに気を張っちゃってまぁ」

 シェリアの顔を見下ろしながら、レンドはケラケラ笑い始めた。

「こ、子供扱いするな!」

「いやいや、そりゃ無理な話ってもんだ。お前はガキ。それは事実だからな。ガキはガキらしく、守られる立場にいりゃいいんだよ」

 結局、言いたいのは守ってやるから安心しろ――ということなのかな。シェリアは終始ブスッとしていたが。

 そして、僕たちは光の森へ足を進めた。道らしい道は無く、周りは密集した林、足元にはうっそうと生い茂る草。どの草も葉っぱの一つ一つが膝元辺りまであり、進むのが少々めんどくさい。

 外からの様子どおり、上空も木の枝やら葉っぱやらで覆われ、太陽の光が差し込んでいないために、森の中は薄暗い。初めて『暁の門』を見に行く時に通った、小学校の裏山。あの山もこんな感じだった。昼間なのに暗く、どこからとも無く聞こえる虫の声や風によって揺れる草木の音が、変な緊張感と恐怖を湧き上がらせた。


「だー! 草が邪魔だぁ!!」

 レンドはイライラを我慢できず、前方の草を叩き始めた。

「レンドさん、我慢ですよ、我慢」

 それをアンナが優しく宥める。こういうのは、彼女の専門だな。

「俺はスムーズに物事が進まなくなるのが嫌なんだよ!」

「誰だって同じでしょーが」

 リサは呆れ顔で言った。

「それを行動に出すか、出さないか、だな」

「そうそう。デルゲンの仰るとおり。レンドって、カルシウムが足りてないんじゃないの?」

 僕はうなずきながら、草をかき分けて進んでいた。

「なんだ? カルシウムってのは」

 あ、そっか。この世界には、未だに成分とかが判明していないんだった。いや、判明していたとしても、名称がガイアと同じってことはほぼあり得ない話だった。

「えっと……まあ、栄養の一種だよ。牛乳とか小魚によく含まれてるやつ」

「?? そのカルシウムって言うのがあると、レンドはイライラしないわけ?」

「へっ?」

 リサが素朴な疑問をぶつけてきた。そういえば、科学的に判明しているかどうか、僕は知らないんだった。なんかの本で読んだんだよ、「イライラするのはカルシウム不足だから」だってさ。

「た、たぶんね」

 確証を得ることもできないので、とりあえずそう言った。

「ふーん。じゃあ、これからはレンドの主食は牛乳ね」

「はぁ? お前な、牛乳だけで生きていけれるかっての」

「冗談に決まってるでしょ? 馬鹿ね」

 冷やかな視線を送るやいなや、リサは怒りで震えてきそうなレンドを放って進み始めるた。

「ぬぬ……てめぇ……!」

「アハハハ! 変な顔!」

 シェリアがレンドの顔を指差しながら笑い始めた。ほぅ、たしかに変な顔だ。ゴリラみたい。

「ゴリラだ! ゴリラ!」

「誰がゴリラだ! シェリア、てめぇには一回、お仕置きをしなきゃなんねぇようだなぁ」

 何をするつもりかと思ったら、レンドはビンタの仕草をした。いや、あの位置は……けつ叩きだな。お尻ペンペンという、古い技。昔、父さんにやられたような気がする。

しっかし、変なところで文化を共有しているもんなんだな……と、僕はしみじみと思った。

「な、何するつもりだよ!」

「黙らっしゃい!」

 なんでお母さん口調? そして、レンドはシェリアを担いだ。

「わ、わわ! お尻叩くつもり? 女の子のお尻を叩くのは変態なんだぞ!」

「うっせ! 僕口調のガキが何言ってんだ! 一度はこうやって、躾けしなきゃなんねぇんだよ!」

 ベチン。シェリアの叫び声が、暗がりの森の隅々に響き渡る。

「あ……いいのかな?」

 空が微笑みながら言った。

「まぁ……いいんじゃないの?」

まったく、先が思いやられるなぁ……なんて思いつつ、微笑ましかったり。




 草をかき分け、ひたすらシェリアが指した方向へ進むこと数十分、ある建造物を見つけた。

 ゲルミナス遺跡、なのだろうけれども、あの草原で見つけたコンピューターで見た映像とは、違うように見える。いや、似ていると言えば似ているんだけど、時の流れによって朽ちたといえようか。映像で見たような白銀の支柱は黄色く変色し、あるところは欠け、あるところはツタが巻きつき、さらには完全に崩れてしまっているものもある。屋根の角の部分も崩れ、地面に叩きつけられて粉々になってしまっていた。

「ボロボロだなぁ……大丈夫か? 内部」

 こんなんで、内部に入れるのだろうか。まあ、樹たちも来たんだとすれば入れるはずなんだけど。

「大丈夫だって。以前僕が来た時も、こんなんだったし」

「中に入ったのか?」

 レンドの問いに、シェリアは「うん」とうなずいた。

「中も崩れかかってたけど……たぶん大丈夫だよ」

「おいおい……」

「ともかく、行ってみようよ」

 リサが進みだすと、僕たちも同じように進みだした。

内部へと続く入り口へ、大きな階段を下りて行く。一段一段が30センチくらいあり、マヤ文明のピラミッド並みだ。

 大きな入り口の奥は、真っ暗だった。今までの遺跡には天空石があって、それが灯り代わりになっていたが、ここには無いようだ。僕たちはたいまつを取り出し、奥へと進んだ。

 幅の広い真っ直ぐな通路。両側の壁には、ひび割れたところからツタが侵入し、あちこちにはびこっていた。

 歩く音が、どこまでも続く暗い通路の奥へと響く。歩いていて気付いたが、どうやらこの通路、微妙に下り坂になっている。傾斜1〜2度程度だろうか。ほんの少しずつ、下へと向かっている。

「シェリア、奥に何があるのか知ってるのか?」

 そう訊ねると、シェリアはなぜか僕の背中に乗って来た。いわゆる、おんぶ状態。

「ずっと奥に行くと、通路が枝分かれしてるんだ。その先は1つを除いて、ガラクタが転がってる部屋だったかな」

 なぜ乗ってきたのか訊ねるのは置いておいて、

「そのもう一つってのは?」

「その通路の奥には階段があって、どんどん下へ行くようになってた。そんで、着いたかと思えば行き止まりだったんだ」

「行き止まり?」

「うん。それに、他に行けれるような道も無かったし」

 なるほど、怪しいな。たぶん、そこに秘密の通路でも隠されているんだろう。

「……つか、降りろよ。歩きにくいだろ?」

「えぇ? 疲れたんだもん。ちょっとぐらいいいじゃん」

 と、シェリアは僕の背中の上で暴れる。

「まったく……とんだお荷物だな」

 そんなことを呟きながら、僕は自分に年の離れた妹がいたら、こんな風になんのかなぁ〜などと考えていた。兄弟は、樹しかいなかったしさ。



 この通路を進んでゆくと、シェリアの言ったとおり、道が分かれていた。通路は4つに別れ、1つを除いて同じような通路だった。1つは、前述どおり階段だった。

 僕たちは階段へ進んだ。長い長い階段。かつては真っ白な大理石の階段だったのだろうが、今は見る影も無い。

 しばらくすると、階段を降り切り、平坦な通路の先には行き止まり。シェリアの言ったとおり、扉らしいものは何も無い。両側と同じ壁が、僕たちを囲んでいた。

「さて、どうしたもんかな」

 デルゲンはそんなことを言いながら、目の前の壁に触り始めた。さするようにして何か無いか探ったり、軽く叩いてみたりしていた。そうやって、奥に通路があるのかどうかを確認しているんだ。

「……うん? なんだ?」

 デルゲンが何かを発見し、壁にたいまつを近づける。

「これは……手形か?」

 壁のやや上部に、手形のように凹んだ部分があった。さらに、それとやや離れ、同じ高さの場所にこれも同じような手形の部分がある。よく見てみると、それは右手・左手となっていた。

「もしかして、ここに手をはめろってことなのか?」

 それをまじまじと眺めながら、デルゲンは言った。

「じゃあ、誰なんだ?」

 僕がそう訊ねると、彼は僕を指差した。

「もちろん、お前しか考えられないだろ?」

「……まぁ、そうだろうね」

 またもや調停者か。アイオーンも、ちょっとは違う仕掛けを施せよ。……なんて、自分のご先祖様に突っ込みを入れてみたり。

 僕は右の手形に右手を入れ、左の手形に左手を入れようとした。その時になって、ようやく気が付いた。……届かない。

「なんだよ、空がちっちゃいのか?」

「僕はレンドより背が高いと思うんだけど……」

「もしかして、調停者の手じゃないんじゃない?」

 リサが言った。ついさっき、アイオーンに突っ込みを入れたばかりなのに……なんだか恥ずかしくなってしまった。

「でも、そうだとしたら誰の手なんですかね?」

 アンナはそう言って、自分の手を伸ばした。彼女の場合、背伸びをしてなんとかその手形にはめることができる程度だ。

 調停者である僕じゃないとすると、もちろん樹たちもここで行けれなかったに違いない。だが、あいつらは先へ進んだ。ということは……他の人間の手で開いたということか?

 なら、答は容易だ。ラグナロクの血族であるシュヴァルツとバルバロッサ。きっと、この2人の手だったんだ。

 僕はそのことをみんなに話した。

「……なるほど。じゃあ、リサの手が必要ってことだな」

「じゃあ、もう一人は誰なんですか?」

 空がそう訊ねた瞬間、僕の頭の上に電球が出現。

「……そっか。2人必要なんだった」

「ソラ……もうちと、考えろよ」

 みんなはちょっと呆れ気味だった。

「でもさ、樹たちはきっとそうやって通れたんだよ。じゃないと、意味わからないじゃないか」

「そりゃ、そうだな。……片方は調停者だったとか?」

「…………」

 レンドの言ったことを試しにやってみた。片方が僕で、もう片方がリサ。

 ピタ。

「……何にも起きませんね」

 空がダメだしを言うと、

「ダメじゃん、レンド」

 ため息混じりに、リサは追い打ちをかけた。

「俺のせいかよ……」

「これじゃあ、先に進めないな。うーん……」

 念のため、僕とリサの手をはめる位置を変えてみてやったが、ダメだった。これこそ、まさに八方塞……と、そうみんなが思い始めてきた頃、リサの頭の上に電球が飛び出した。

「まさか……? まさかね……いや、もしかしたら……」

 リサはぶつぶつ言いながら、頭を抱えた。

「……空ちゃんと私の手なのかも」

「空とお前? 何でだよ?」

「なんとも言えない。正直、わからない。ただなんとなく……そんな気がしたから」

 と、彼女の顔にも疑問が浮かんでいる。直感――みたいなものなのかもしれない。

「とりあえず、やってみるよ」

 右側の手形に空、左手側はリサ。同時に、2人はそれぞれの対応する手をはめ込んだ。




 ――サリア――




 えっ?

 何かの声が聴こえたような気がした時、ひび割れていく音がした。ピシピシと、その音はだんだん感覚を狭くし、最終的には連続的に音が漏れ始めた。

 そして、音が消えた瞬間、青い光が壁の隙間から放たれ始めた。もしや、さっきの音は壁がひび割れていった音だったのかもしれない。

 青い閃光の噴射と共に、壁は小さく揺れ始めた。いや、この遺跡が地震に襲われているかのようだった。上下に、左右に激しく動き、立っているのもままならないほどになった。


 ゴゴゴゴゴ


 地響きが起こったと思った。だが、それは目の前の壁が、床に滑り込んでいく音だった。壁がどんどん、見えなくなってゆく。

 扉が完全に隠れると、広間が現れた。天井にシャンデリアのようなものが取り付けられ、白い光を降り注がせている。研究施設のような広間で、壁全体が白い。広間の中心にある機械――それは、転送装置。それを囲むようにして、コンピューターが並んでいる。

「動くんでしょうか?」

 僕の隣で、空は言った。他の遺跡と同じように、電源ボタンを押せば起動すると思うのだが……。

 ポチッとな。



 ヴ――――ン…………



 朱色のボタンを押すと、低音の起動音が聞こえ、同時にコンピューターに光が灯った。

 僕はコンピューターをいじり、転送装置で行けれる場所を検索した。すると、行けれる場所は1つしかなかった。



 『大都カナン』



 それだけ、表示されていた。

「どう?」

 リサは画面を覗き込んだ。そこに映し出されている文字を見ても読めないはずなのに。

「ああ、大丈夫なようだ。……行くか?」

「もちろん。躊躇ってる時間なんて無いしね」

「……そうだな」

 僕は『確定』を押した。


『……大都カナンに接続中……しばらくお待ち下さい…………接続完了。転送機にお乗り下さい。中止する場合、あるいは移動先を変更する場合は、『中止』を押して下さい』


「よし。みんな、転送装置の上に乗ってくれ」

 僕たちは転送装置の上に移動した。が、人数が一人増えたので、なんだか狭く感じる。

「まったく……余計なもんがいるから……」

 レンドはぶつぶつ文句を言っていたが、シェリアはそれが自分のことだとは気が付かず、はしゃぎにはしゃぎまくっていた。

「これって、ピューンとどっかへ移動する装置なんだよね? すごいなー。ワクワクしちゃう。ねぇ、これってホントに瞬間移動するの?」

 シェリアは目を輝かせながら、訊ねてくる。子供の好奇心って、ある意味すごいと思ってしまった瞬間だった。


『転送を開始します……転送中に、転送機から出ないで下さい。…………移動先、大都カナン……』


 転送装置が作動中の音を出しながら、光を発した。その白い光に僕たちは包まれ、目の前が真っ白になった。





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