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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆4部:運命に抗いし者ども
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58章:決意の先へ 意志と遺志を引き継いで

 翌日、ヴァルバの葬式がひっそりと行われた。僕たちと皇帝……そして数名の大臣ほどだけで。

 本来、皇室の者であり、宰相である者の葬儀は国葬とし、盛大に行うのが通例だという。しかし、ヴァルバは宰相でありながら民衆の前に現れたことが無く、スパイ活動をしていた人物なので、こうしてひっそりと葬儀を行ったのである。宰相が殺された――と民衆に伝われば、今の状況を考えると、混乱を深くしてしまうだけなのだ。



「ベオウルフ殿下は、先帝陛下の腹違いの弟でな」



 白いひげのアヴェン老は、花を添えている皇帝の傍で言った。

 帝城の深部に、一つの中庭がある。ここは影で帝国を支えてきた者たちの墓がある場所で、ヴァルバはここに眠っている。

「腹違い……ですか?」

 そう言うと、アヴェン老は小さくうなずいた。

「異母兄弟なのじゃ。……ベオウルフ殿下の母は、イデアの部族長の娘だったかの」

 あの黒髪、そして日焼けをしたような肌。あれは、イデア人特有のものだったんだ。母親から、それを受け継いだんだ……。

「殿下の父――ベルセリオス6世陛下は、皇室の髪を持たぬ殿下を忌み嫌ったのじゃ」

 いつだったか、ヴァルバは両親のことを語ってくれた。「父親は父親で、仕事ばかりでかまってくれない。母親は体が弱く、かまうことなんてできなかった」……と。

「叔父上の母……クラン様は、叔父上が10歳の頃に亡くなったんだ。体が弱いと聞いたかな……」

 皇帝はゆっくりと立ち上がり、周囲の花たちを見渡した。

「……先帝は、孤独だった殿下を一番かわいがったのじゃ。だからこそ、殿下は……」

 アヴェン老はそう言って、俯いてしまった。

 兄のため。

 自分を孤独から掬い上げてくれた兄のために、ヴァルバは自分の全てを捧げたんだな……。その想いが、どれほど大きいのか僕にはわからなかった。

「叔父上は、父が早くに亡くなってしまった私を護り、導いてくれた……」

 瞳に涙を浮かべ、皇帝は顔を振った。たしか……彼は7歳で即位したんだったな。親代わりとして自分を支えてくれたヴァルバが、こんなにも早く亡くなってしまうとは……どれほど、辛いものなのか想像できない。


「陛下、そろそろ参りましょう」

「あっ……うん」

 アヴェン老によって促され、皇帝は小さくうなずいた。

「僕たちは、先に失礼させてもらうよ。……君たちは、ゆっくりしていってくれ……」

 優しく、どこか哀しく皇帝は微笑んだ。そこに、12歳としての少年っぽさが現れていた。

 僕と空は、突っ立ったまま足元にある墓を見つめていた。この中庭に広がる草原の中に、いくつもの平面の墓がきれいに並んでいる。

 リノアンさんと共に、新しい人生を切り開こうとした矢先、兄である皇帝が亡くなってしまった。……その時、ヴァルバはどんな気持ちだったんだろう。……迷ったに違いない。一人で、悩み、葛藤したんだ……。

 皇室の皇子であるが故に、その責務を背負って国民を護らなければならない……か。どうして、そんな考え方を持つ人に限って早くに逝ってしまうんだろうか。神様がいるなら、ホントに理不尽だよな……。






ベオウルフ=ヴォルガンフ=フリードリヒ=カール=ペンドラゴン

新暦1969〜新暦2002


碧き瞳を持つ、我らが主の子よ

眠れ  永久に






「……まったく、貴族を超えて皇子だなんて。さすがに、そこまで想像できなかったよ」

 僕はヴァルバの墓の前でしゃがみ、その石に触れた。つるつるのお墓。きれいに、文字が刻まれている。

「……ヴァルバさん……」

 空も同じように、僕の横でしゃがんだ。

「まさか、こんなことになるなんてな……」

 思いもしなかった。誰が想像できただろう。こんなところで、ヴァルバが死んでしまうということを。最後の最後まで、樹を倒す時まで一緒にいてくれるって思っていたのにさ。

「……お前が死ぬなんてなぁ……」

 お前がいなくなってしまうなんて、想像できるはずが無い。だって……お前は、僕の……僕たちの、大切な仲間だったんだから。誰も、仲間が死ぬことなんて想像しないから。

「まさか、お前がな……」

 僕は目を手で押さえた。

今頃になって、実感が湧いてきた。お前はもういないということを。お前は、もう死んでしまったんだということを。

 この世界へ降り立ち、初めてできた友達であり、仲間だった。この世界について無知に近い僕に、いろいろ教えてくれた。僕の質問に対し、文句を言いつつも答えてくれた。まるで、先生みたいだったよ。

「……いつもふざけているのかと思えば、そうじゃなかった時もあったよな。あれは……宰相としての、お前だったんだな」

 いつも見てるお前らしからぬ、お前の姿。何度も驚かされた。

「そういえば、まだ教えてもらってなかったな。港町アルフィナへ行く途中に、教えてくれた言葉の主のこと」



 ――諦めるな。自分が諦めた時が、すべてが終わる時なのだから……



「ま、もう教えてくれなくても、わかっちゃったけどな」

 僕は再び、彼の墓に触れた。ちょんちょんと、突くように。

「あれ、リノアンさんの言葉だろ? そうとしか考えられないもんな」

 大切な人、か。護ることができなかったお前の気持ち、ほんの少しだけなら、わかるかもしれなかったのに……。

「まったく……騙してたことを悪く思うなら、死ぬなよなぁ……」

「空さん……」

 空は、心配そうに僕を見上げた。

「こんなに辛いなんてな……」

 それでも、僕たちは前に進まなければならない。僕たちは、生きているのだから。


「空さん……無理をしなくても、いいんですよ?」


 彼女はそっと、僕の膝に手を置いた。電流が走ったかのように、思わず僕の体が小さく反応した。

「泣きたいなら、泣けばいいじゃないですか。恥ずかしがることじゃ、無いんですから……」

 悲しそうに見つめる、空色の双眸。水面のように揺れている。

 僕は目を瞑り、顔を振った。

「空、だけどな……僕は……」

 僕は口をつぐんだ。

 泣けれないよ、人前では。……悲しいのは、みんな同じなんだ。僕が泣けば、アンナや皇帝が余計に悲しむ。自責の念に駆られて。

「……空さんって、いつも無理してます。……ううん、こういう時だけ、空さんは自分の心を押し殺しています」

 彼女は俯く僕に続けた。

「泣いて、当たり前じゃないですか……。無理をしなくて、いいんです」

 空は今にも泣きそうな顔で、僕に肩を寄せた。

「……お前は、泣かないのか?」

 墓を見つめながら、僕は呟くかのように言った。

「……私は皆さんのように、ヴァルバさんと付き合いが長いわけではないですから……泣くと、なんだか悪いようで……」

「なんだよ、お前も無理をしてるんじゃないか」

 僕は思わず、苦笑した。

「けど……」

「無理するなって。お前は、泣き虫なんだから」

 いつもいつも泣いて、僕を困らせていた。幼い頃から、ずっとそうだった。

「なんですか、それ」

 ため息混じれに、彼女は笑った。

「お前は、そういう奴だったんだよ」

「……知っている人が亡くなれば、泣いちゃいますよ。だって……」

 彼女が震えているということが、寄り添っている肩から伝わって来た。言葉を詰まらせている彼女のほほに、僕は指先で触れた。



「――悲しいですもん」



 その指先に、涙が触れた。彼女の瞳から流れた涙が、僕の手を伝ってきた。

「……ごめんなさい……」

「なんで謝るんだよ? ……お前は、なんもしてないのにさ」

 僕は彼女のほほから指を離し、軽く頭を撫でてやった。

「空さん……」

 僕は立ち上がり、刻まれている彼の名を見た。



 ――ベオウルフ――



 お前は、ヴァルバでもあるんだよな。

「ヴァルバ、言ってたよな? 生きていることに、何の意味があるんだって……」

 あの時は何の気なしに答えたけど、今度は真面目に言うよ。

「……意味なんか、求める必要はないんだ。だって、生きてることが幸せだと思える日々が存在したんだからさ」

 リノアンさんと共にいた時、そうだったんだろ? 未来に希望を抱けるってことは、それだけで今を生きたいって願ってるんだから。

「ただ、生きてるってだけでいいんだよ。端っから答えなんて知ってるのに、さ……」

 僕は上空に顔を向けた。じゃないと、溢れ出てくるものを抑えられなかった。けど、それは無意味だった。震える心と共に、温かく、懐かしいものが溢れ出てきた。



「空さん……泣いて……るんですか?」

 震える声で、彼女は言った。

「……さあな。どうだろ……」










 次の日、僕たちは皇帝に呼び出された。大切な話があるらしい。

 僕たちはボロボロの謁見の間で、6人で並んだ。玉座にゼナン皇帝。両脇に、カザランという人とアヴェン老が立っていた。

「まず、そなたたちに謝罪しなければならない。……すまない」

 皇帝は玉座から降りて、僕たちと同じ目線の高さのところまで来て、なんと片膝をついて謝罪したのだ。あまりのことに、僕たちは慌ててしまった。

「へ、陛下……そこまでしなくても……」

 そう言うと、皇帝は顔を振った。

「いや、これでも謝罪にはならないと、重々承知している。だが、余にはこうする他無いのだ……」

 皇帝はもう一度、頭を下げた。12歳の皇帝がここまでなるには、相当強靭な精神が必要だ。それに、この態度……今は亡きルテティアのルーファス8世とは、雲泥の差がある。どうして、こうも人間とは違うのだろうか。

 国の長によって、国そのもの本質が変わる――そういうことなのかもしれない。


「陛下、お顔をお上げ下さい」


 リサは皇帝の肩に触れ、言った。

「陛下のお気持ちは、十分伝わりました。……ね?」

 そして、リサは僕たちにウィンクをした。もちろん、と僕はうなずいた。アンナも、レンドもそうだった。みんな、そうだった。本当は、謝ってもらう必要なんて無いのだから。

「……それよりも、これからのことについてお話しましょう。陛下が私たちを呼んだのは、そのことだと思うのですが?」

 皇帝は少し驚いた様子だったが、すぐに「そのとおりだ」と言って、為政者の顔つきになった。

 彼は立ち上がり、僕たちを見渡した。


「……もう知っていると思うが、インドラにより各国の首脳陣のほとんどが殲滅させられた。インドラを倒そうにも、当然のごとく各国は兵を出すことができぬ。我が国も帝都は焼き尽くされ、叔父上を始めとする諸大臣の悉くが殺された」

 古書を手に入れるためのついでに、ゼテギネアの首脳陣を殲滅させようとしていたのだろう。そうすれば、追ってくるのは僕たちしかいない。

「今、我が国も諸国も朝廷の編成に大忙しだ。そなたたちに協力しようにも、あまり力になってやれないのが現状だ」

 小さく息を漏らし、皇帝は申し訳なさそうに言った。

「……だが、そなたたちが求めていた装甲船、あれなら準備をしてやれる」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、もちろんだ」

 皇帝は大きくうなずき、カザランを呼んだ。彼から証書のようなものを受け取り、僕に渡した。

「我が国最大の装甲船――『ガルガンチュア』をお貸ししよう。あの船ならば、北の大陸の周りを覆っている氷河も、ものともしないはずだ」

「ガルガンチュア……マジかよ……!」

 レンドは驚きと喜びが入り混じった顔で、言葉を漏らしていた。すると、だんだん表情に喜びの笑顔だけが表面化してきた。

「知ってるのか?」

「ガルガンチュアっていや、ゼテギネア最大の装甲船なんだよ。2大陸に存在する船の中で、最も巨大で丈夫な船だ! あれに乗れるのか……まったく、信じられねぇ!」

 いやっほーい、とレンドははしゃぎにはしゃぎまくっていた。さ、さすがに、これは僕たちとしてもうれしいのだが……レンドの行動が恥ずかしい……。

「だが、ガルガンチュアを操作するのに、俺たちの仲間だけで操作できるのか?」

 腕を組みながら、デルゲンは言った。

「デルゲン、そこは何とかすんだよ」

「レンド……さすがに無理があると思うぞ?」

 彼の笑顔に、デルゲンは苦笑していた。

「そこは大丈夫だ。我が国の操船者たちをお貸し致す」

「……陛下、そこまでしてくれるのですか?」

 僕がそう言うと、皇帝は微笑んだ。

「今、インドラの連中を食い止めれるのはそなたたちしかいないようだ。我々は、できる限りのサポートをするしかない」

「陛下……」

「世界を守りたいという気持ちは、私たちも同じだ。……国の元首でもないそなたたちに頼むのは、誠に勝手だが……この世界を、頼む」

 皇帝は、再び頭を下げた。どうにかしたいが、皇帝であるためにこの国を離れるわけにはいかない。混乱した朝廷を建て直し、民衆のための政治を行うためにも、皇帝はこの国を……『護らなければならない』んだ。

 それこそが、ヴァルバの願いだったのだから。そして、彼のもう一つの願い……空を救い、世界を守る。それは、僕たちがするべきこと。

「……ありがとうございます、陛下」

 僕たちは、気持ちを込めて一礼した。

 後ろへ振り返ろうとしたその時、後ろの扉が勢いよく開かれた。




「陛下! 急報でございます!!」




 一人の兵士が、息を切らせて走ってきた。

「どうした?」

 皇帝がそう言っても、兵士は息が切れているのか、なかなか言葉を出すことができない。そして、彼は大きく深呼吸をして言葉を放った。





「ル…ルテティアが………滅ぼされました!!」





「な、なんだと!!?」

 皇帝は驚きと共に、言葉を発した。

 ルテティアが……滅んだ!?

「どういうことだ? まさか、イデアが攻め込んだわけではあるまい」

「い、いえ……インドラの仕業だと思われます!」

「インドラだと!?」

 インドラの奴らが、ルテティアを滅ぼした? こんな短期間に!?


 兵士の報告によると、聖都での惨殺によりルーファス8世及び宰相・主要な大臣たちが殺され、ルテティアの中央政府は混乱に陥ったという。第1王子のクレイン王子が即位し、臨時政府を結成した。しかし、それでも朝廷の混乱を収拾することはできず、そこをインドラに突かれた。王都はインドラの軍隊に攻め込まれ、クレイン王や弟のカーン王子は戦死し、臨時政府も崩壊した。

「王都ルテティアは制圧され、ヴィンラント、クテシフォン、ドゥアザ……主要都市のほとんどが奴らに制圧されたとのことです!」

「……混乱に陥っているとはいえ、ルテティアがこうも簡単に破れるとは……インドラめ、かなりの軍事力を持っておるということじゃな」

 アヴェン老が、口をもごもごさせながら言った。

「ただ、第3王子のアルベルト王子が各地の兵をランディアナに集結させ、必死に抗戦しているとのことです!」

「アルベルト王子!? よかった、あの人は無事だったんだ!」

 王都が制圧されたと聞いたから、王族は全員殺されたのかと思った。

「ランディアナ、か……。あそこは、水のエレメンタルで守られた要塞都市。簡単には陥落しないだろうな」

 デルゲンは落ち着いた声で言った。海にある無限のエレメンタルを使い、半永久的に巨大な滝の壁を作り出している海上都市。戦の歴史の中で、あそこだけ陥落したことが無いという。

「よし……我が国も、ルテティアを援護しよう」

「陛下、本気でございますか?」

 どこか嬉しそうに、カザランは言った。

「カザラン、世界に危機が迫っているのだ。そんな時に、敵国も何も無い。今こそ共に協力し合い、共に歩む時だ!」

 12歳とは思えないほど、立派な言葉だった。これほど、自我を固めている少年はいまい。

「カーレル大将軍! ランスロット将軍! ガウェイン将軍!」

「ハッ!!」

 後ろの扉から、3人の男性が入って来た。

「カーレル将軍、そなたに5万の兵を与える。カパトギア王と共に、海を渡ってランディアナへ向かい、アルベルト王子の救援へ向かえ! その後、王都を解放するのだ!」

「御意!」

 紅い長髪の男性がひざまずいた。大将軍ということは、帝国の軍事的地位が最も上の人っていうことだ。

「ランスロット将軍、そなたには2万の兵を与える。ロンバルディア大陸西方の貿易都市群ミレトスへ向かえ! あそこは、重要な補給点となる」

「かしこまりました」

 美形の男性が、ひざまずいた。この人も、帝国将軍の中ではかなり上の人なのだろう。

「ガウェイン将軍、そなたには3万の兵を与える。まずはランスロット将軍と共にミレトスに向かい、その後に北上、ヴィンラントなどの主要都市を開放するのだ!」

「ハッ!」

 巨大な剣を背負った、金髪の将軍がひざまずいた。まだ20代後半のように見え、最も将軍らしいといえば将軍らしい。

「諸国に伝令を飛ばせ! イデアはガウェイン将軍と共に、各都市の解放協力を打診せよ! そしてシュレジエンは、救援物資をランディアナへ送るなどの支援対策を打診、ソフィアは自国を固め、我が国の支援を要請せよ!」

「かしこまりました!」

 皇帝は言葉のスピードを緩めることもなく、命令を発した。その堂々たる様は、まさに皇帝といったところだ。一瞬だけ、インドラがここに攻め込んだ時のヴァルバの姿が重なる。


 ――やはり、血は同じってことだな。


 そして、将軍たちと共に兵士も走りながらこの広間を出て行った。皇帝は僕たちの方に振り向いた。

「……どうやら、とうとうインドラも表舞台へ完全に現れたようだ。我々は、この2大陸の地にて奴らと戦う。そなたたちは……」

 あの碧い瞳が、僕を見つめていた。

 大丈夫。僕たちは、僕たちのできることをする。

「もちろん、グラン大陸へ行って首領ユグドラシルを……樹を食い止めます!」

 皇帝は微笑み、手を差し出した。僕は彼と握手を交わし、共にうなずいた。









「とうとう行くのかぁ〜……ハハ、腕が鳴るぜ!」

「ま、今回はレンドと同じ心境だな、俺も」

「おっ? いつもならもっと冷静に……なんて言いそうだからな、お前は」

「ハハハ、御尤もな意見だ」

 デルゲンとレンドは、顔を見せ合って笑った。

「相手はかなり強大……ラグナロク一族最強の戦士たちと、ロキの力を統べる闇の調停者。下手をしなくても死ぬかもしれない……。覚悟できてる?」

 リサは脅すようなことを言っておきながら、少しだけ微笑んでいる。みんなの答えは、訊かなくてもわかってるからだ。

「当たり前だろーが。僕たちをなめんなよ?」

「あったぼうよ」

「もちろんだ。ここで逃げたら、男の名が廃るってもんだ」

「ヴァルバさんのためにも……!」

 アンナは祈るように手を合わせ、うなずいた。それに応えるように、僕は彼女に向って微笑んだ。

「……そうだな。きっと、あいつが力を貸してくれる」

 見ていてくれよ、ヴァルバ。お前が築こうとした〈夢の形〉を、未来へと導いてやっからさ!

「よーし! いっちょやりますか!!」

「……やかましいにもほどがあるっての……」

 気合を入れている僕に対し、リサはため息で応えた。

「こんくらいの方が、逆にちょうどいいんだっての」

「そうですね」

 空はクスクス笑いながら、僕を見ていた。



 ――この笑顔を護るためにも、僕は負けない。



「行きましょう。グラン大陸へ……!」

「ああ!」

 空はそっと、僕の手を握った。

小さな手。絶対に救ってみせる。お前も、世界も。

 世界と生命が見るべき夢を……未来を、この手に掴むために……僕たちは、最後の闘いへ向かおうとしていた。









 遥か古に忘れられた、永遠への約束――

 それを紡ごうと、幾多の夢が交叉した。



 僕たちがこの旅の終わりに見るものとは?


 

 グラン大陸――

 穿たれた空が眠りし、天帝たちの墓場へ……




 僕たちの旅路の終わりが、そこにある。
































 ……とうとう、お前たちはあそこに行くんだな。

 これで、お前たちは引き戻すことはできない。

 あの陽だまりの中に、還ることはできない……



 遥か彼方を夢見続けた命たち……

 それらの墓場で、お前たちは何を見るのだろうか……




 セヴェス、シャルフィル




 所詮、お前たちも憎んでいるものと同じように、

 殺し合うことでしかわかりあえないんだな……

 所詮、ヒトだから、か。




 さて……見せてもらおうか。

 お前たちのどちらが星に愛され、

 「約束の刻」に相見えるのかを……



 

 さあ、見せてくれ。

 お前たちが、どんな「夢の形」を築くのかを。








第4部「運命の空」――――Fin


第5部へ続く。





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