56章:黒い魔狼 暴帝よ、紅き血潮を謳え
僕たちは、謁見の間へと急いだ。あそこに、まだ皇帝や重臣たちはいたはずだ。狙うなら、あそこだ。
謁見の間へ急行すると、そこには大勢のゼテギネア兵士と共に、グルヴィニア剣士や魔道士がいた。あちこちで戦いを繰り広げている。僕は床に倒れている空を発見した。
「空!!」
思わず、僕の心が凍り付いた。まさか、あいつ……!
しかし、声に反応したのか、空は体を起こして辺りを見渡した。彼女は僕を見つけると、
「空さん!」
僕の名を呼び、彼女はもたつく足をどうにかして、駆け寄ろうとしてきた。だが、彼女の背後に、剣を携えたグルヴィニアの姿があった。
「空! 伏せろ!!」
僕は空に向かって叫び、その方向に手を向けた。空はすぐに、頭を抱えながら床へ伏せた。
「――インフィニティ!」
かざした掌から、青い光線が飛び出した。それは彼女の上を通り過ぎ、グルヴィニアに直撃した。
「ギャアァァァァァ!!」
グルヴィニアは、そのまま後ろへ他のグルヴィニアを巻き込みながら吹き飛んでいった。
「空!!」
僕は空の所へ駆け寄った。
「大丈夫か!? 怪我は無いか!?」
「は、はい……」
空は怖かったのか、少しだけ震えている。どうやら、ただ単に転んでしまっただけだったのだろう。
「アンナ! こっちに!!」
戦場となった謁見の間で、逃げ場を失って縮こまっているアンナに叫んだ。彼女の周りでは、多くの戦闘が繰り広げられて来ることができないようだ。
「ちっ……リサ、空を頼む!」
「りょーかい!!」
僕はアンナの活路を切り開くため、近くにいるグルヴィニアたちを倒そうとした。体勢を低くし、素早く敵の首や脇を狙う。そこが、急所だ。
1人、2人、3人……そして、10人。僕は、次々と敵を斬り殺していった。それぞれの断末魔の叫びが、耳の奥へ響く。そして、ようやくアンナの元へ辿り着いた。
「アンナ! 大丈夫か!?」
「ソラ……さん……」
彼女は、すでに泣いてしまっていた。
「怪我は無いか? 立てるか?」
アンナは震える足を何とか立たせた。よほど怖かったのだろう。目の前で、大勢の人が殺し合いをしているのだから。
「ソラさん、奴らが……」
「奴ら? ―――!!?」
その時、後ろから何かがやってくる気配がした。僕はアンナを自分の後ろへどかせ、後ろに振り向いた。その瞬間、太い豪拳が襲い掛かってきた。僕はそれを、ティルフィングで防いだ。
「お前は――シュヴァルツ!?」
カナンの聖塔の時と、同じ服装。藍色の髪。うなじの辺りで、長い髪を結っている。
「よぉ、小僧……ふん!!」
彼のもう一つの拳から、強烈な一撃が繰り出された。それを僕はしゃがんで避け、そのまま剣を振り上げた。しかし、シュヴァルツはバック転でそれを避けやがった。そして、玉座のある所に着地した。そこには、同じ顔の人間――バルバロッサだ!
「襲撃して来たのは、やっぱりお前たちか!」
僕は大声で言った。じゃないと、この騒ぎでは聞こえない。
「なんや、生きとったんかい。………アホな残留思念に食い破られ、あの聖域の最果てで彷徨うとる思うたんやけどな」
バルバロッサが細目でそう言うと、奴らはカカカと、同じように笑い始めた。双子のため、余計に腹が立つ!
「残念だったな。僕は、お前らが思ってるほどやわじゃないってことさ!」
僕はティルフィングを構えた。それを見た奴らは、顔から一瞬だけ笑みを消した。
「ティルフィング……ほぅ、それを己の心中に喚び起こしたか」
「ま、バルドルの力を手に入れたかて、ワイらに勝てるとは限らへんけどな〜」
バルバロッサは首元まである黒いタイツに、茶色いベルトをしている。あの時と同じように、ポニーテールにしている。
――体が震えた。
ラグナロク最強の戦士。そんな奴らを、僕は倒せるのだろうか。生半可な力では、敵いっこない。けど……奴らを倒さないことには、樹の所に辿り着けない!!
「シュヴァルツ、バルバロッサ!!」
リサが僕の隣までやって来た。
「なんや、お前もおるんかい」
「決着を付けてやる! かかって来い!」
リサは武道家のように構え、叫んだ。シュヴァルツとバルバロッサは同じように笑った。
「決着を付けるやってぇ? アホか。お前が、ワイらに敵うはずあらへんやろ」
バルバロッサは腕を組み、笑顔で言う。それを、リサはけなすかのように鼻で笑った。
「やってみなくちゃわからない。私は、あんたたちを倒すため……いや、あんたたちを止めるために、修行を重ね、魔法を会得し、今まで生きてきたんだ!」
「ふん……女のお前に、ワイらを止めれるかっちゅーねん。生まれつき、お前とワイらには能力に差がある。それを、いくら努力しようとも埋められるわけあらへんやろ」
シュヴァルツは不敵な笑みを浮かべ、リサを睨んでいる。
「たとえ才能に差があったとしても、私はそれを埋めるために女を捨てて生きてきたんだ!!」
リサは手を合わせ、何かを呟き始めた。
「……我に眠る、聖魔の血よ……具現せよ! ――魔闘気!!」
禍々しい紫の光がリサを包み出し、そして発光した。
「魔闘気か……ま、それを使わんとワイらには勝てんやろうな」
「うるさい!」
リサは怒りを露にしながら、奴らに向かって行った。
「大気をも震わす、破壊の振動! 閃波・剛爆!!」
離れた場所から、リサは強力な衝撃波を繰り出した。
「……ふん」
シュヴァルツは前に手を出した。衝撃波を受け止めようとしているのか……と思った時、衝撃波はシュヴァルツの目の前で離散した。まるで、シュヴァルツの前に巨大な壁でもあるかのようだった。
「!!?」
「しょぼいのぉ……本物は、こうするんや! 破壊の振動――閃波・剛爆!!」
シュヴァルツの拳から繰り出された衝撃波が、リサに襲い掛かる。彼女は両腕をクロスさせて、それを防いだ。なのに、彼女は後ろへ少し吹き飛ばされてしまった。
「くっ……!!」
「ハハハ! 軟弱な女やなぁ!!」
今度は、シュヴァルツが攻めかかった。僕も奴の方へ向かおうとした。しかし、僕の前にバルバロッサが立ちはだかる!
「行かすかい、ボケェ!」
「バルバロッサ!!」
奴の攻撃を、後退しながら素早く避ける。しかし、バルバロッサもそれに付いて来る。
「果てしなき、魔狼の瞬撃――奥義! 皇狼閃剄脚!!」
バルバロッサの体が黒く光り、連続蹴りが繰り出された。
「ちっ!」
僕は防戦一方となった。リサや奴らがラグナ格闘術を使用した時、強力なソリッドプロテクトが発動し、さらにスピード・攻撃力も増しているようだ。ラグナロクの一族にだけ備わっている、何かが作用しているのかもしれない。だが、特技や奥義が終われば、そこがチャンスとなる。そこを狙う!
シュヴァルツの最後の蹴りをガードし、それを跳ね除け、僕はバルバロッサに切りかかった。今度は、僕の番だ!
素早く連続切りを繰り出すが、バルバロッサはそれを紙一重で避けていく。バルドルの力を使っても、あいつらはまだ避けれる範囲にいるというのか……!
「インフィニティ!」
奴が少し大きく距離を開けた瞬間、僕は手を奴に向けて広げた。青い光線が、バルバロッサを襲う。
「ぬ……!」
バルバロッサは、両腕をクロスさせて防御をした。光線はバルバロッサに当たり、爆音を立てて粉塵を巻き起こした。
「……なかなか、やるやないかぁ!」
バルバロッサの笑顔に、一筋の血が流れていた。
「死ねや! 獣牙閃!!」
「喰らうか!!」
リサはシュヴァルツの岩をも貫く豪拳を、左へ回転して避けた。
「宙に舞え、鮮麗なる不死鳥と共に! 奥義、華竜鳳凰閃!!」
紅きオーラを纏い、回し蹴り、さらに連続回転蹴り、そして連続パンチとアッパーカットを繰り出す。シュヴァルツはリサの攻撃の速さに、防御するしかなかった。
「この……うるあぁ!」
シュヴァルツの豪拳を、リサは後ろへステップし、軽やかに避けた。しかし、リサとの間合いが少しだけ離れた瞬間、彼はニヤリとした。
「大地を駆ける、魔狼の咆哮――死ね!! 奥義、魔翔爆霊波!!」
「早っ!!」
シュヴァルツの連続拳から繰り出された黒い衝撃波が、リサに襲い掛かる。巨大な弾丸の如く、10発もの衝撃波をリサは左右に避けていた。
全てが打ち終わったとき、シュヴァルツはリサに体勢を整える隙を与えないため、さらに連撃を繰り出した。
リサは最初のパンチをかわした後、蹴りを繰り出した。
「はぁっ!!」
「ぬん!!」
シュヴァルツも同じように、蹴りを繰り出し、それは両者の前でクロスするようにぶつかった。リサのほうが足が細いのに、両者の蹴りは拮抗していた。
「ほぅ……ワイの蹴りを受け止めれるとはな。せやけど、それはお前が魔闘気を纏っとるからやで!」
「黙れ!」
リサは上へ飛び上がり、空中蹴りを繰り出した。それはシュヴァルツの側頭部に直撃した。しかし――
「貧弱が!! んなの、痛くもかゆくもないわ!!」
「!?」
シュヴァルツはリサの攻撃してきた左足を掴んだ。
「砕けろ!!」
「きゃ――っ!!」
シュヴァルツは彼女を掴んだまま、地面へ叩きつけた。衝撃で、床は円形にへこみ、砕け散って上空へ浮かんだ。リサは、全身を強打した。
「うるあぁ!!!」
リサを振り上げ、再び床に叩きつける。
「が……かっ!!」
リサの骨が、軋む。
――まずい……魔闘気を使用しても、こんな様だなんて……! シュヴァルツの力は、尋常じゃない……!!
「安心しろ、こんなことで死なさんわぃ!」
シュヴァルツはそう言うと、リサを空中へ放るように投げた。
「荒れ狂う竜巻、切り刻め! 奥義――嵐龍烈襲閃!!」
シュヴァルツの繰り出したコークスクリューから、獰猛な竜巻が吹き飛んで行った。それは、ものすごいスピードでリサに襲い掛かる。ダメージを負っているリサでは避けることができず、防御するしかなかった。
「くっ……うあああぁぁ――!」
リサの体は切り刻まれて吹き飛び、壁に叩きつけられた。
僕の視界の中で、横向きの竜巻とともに誰かが吹き飛んで行くのが見えた。
――リサ!!?
「隙を見せたな!」
「!!!」
一瞬だけそこに目をやった時を、バルバロッサは見逃さなかった。奴のミドルキックが、僕の腹部に直撃した。
「ぐっ!!」
「まだや! 烈霊黄波!!」
バルバロッサは僕の近くに掌を広げ、そこから強烈な衝撃波を出した。僕はリサと同じように吹き飛ばされた。空中で体勢を整え、くるくると回転しながら、僕は床に着地した。
「ちっ……この、馬鹿力め……!」
ソリッドプロテクトのおかげで、アバラは折れてはいないけれど……結構なダメージを負ってしまった。
片膝を付いている僕の所へ、バルバロッサが不気味に微笑みながら近づいてくる。
「ククク……〈バルドル〉の力を得、調停者として認められた割には、大したことあらへんなぁ」
「……バルドルは、どちらかゆうたら戦闘には向いてないもんや。その程度じゃい」
シュヴァルツは吹き飛ばしたリサを放って、僕を見ていた。リサは……壁に打ち付けられ、腕を押さえながら立ち上がっているところだった。
「さて……終わりしちゃろうかぃ」
バルバロッサは、宙へ手を上げた。小さな光の粒たちが、弧を描きながら終結していく。それらは少しずつ、大きくなっていっている。……魔法なのか?
「シュヴァルツ! バルバロッサ!!」
彼らの隣に、光の柱が出現した。その中から、ミランダが出てきた。腕を手で押さえ、よろよろしている。
「なんや、お前の役目は外の奴らを足止めしとくことやろが」
「シュ、シュヴァルツ……漆黒の剣士が……」
「漆黒の剣士……? なるほど……」
バルバロッサは厳しい顔になり、光の玉を握りつぶした。
「せやったら、さっさと例のもん、もらわなぁな」
「せやな。これ以上、邪魔が入るのはめんどいわ」
2人はそう言うと、僕たちと反対の方向へ歩き出した。あっちには……アンナが!?
「ま、待て!!」
僕は立ち上がり、一気にそこまで行った。ティルフィングで斬りつけたが、シュヴァルツとバルバロッサは目にも止まらぬ速さで避けた。
「邪魔やぁ!!」
僕の背後に、バルバロッサが回っていた。
速い、速すぎる! けど、付いて行けれないスピードではない。奴が繰り出してきた豪拳を、ティルフィングで防いだ。僕たちは、そのまま硬直状態になった。
「キャアァ!!」
僕は、叫び声の方に顔を向けた。その時――
「でりゃあ!!」
バルバロッサのミドルキックが襲い掛かる。ティルフィングを盾のようにしてそれを防いだが、あまりにも衝撃が強く、僕は横へ数メートル吹き飛ばされた。
体勢を整え、顔を上げると、シュヴァルツがアンナの首を掴み、持ち上げていた。アンナは苦しそうにもがいているが、シュヴァルツの力が強すぎる。逃げ出すことができない。
「戦いはやめや! グルヴィニアらも、ゼテギネアの奴らも攻撃を止めろ。小僧……お前らもや。さもなくば、この女が死ぬで?」
「くっ……シュヴァルツ、てめぇ!!」
この光景……海の時と同じだ。あの時もシュヴァルツは……いや、バルバロッサは海の首を掴み、殺そうとした。
「ヴァルバ……いや、ベオウルフ。『アヴァロン創世記』を、知っちょるよな?」
「…何…………」
「知らんとは言わさへんぞ。アムナリアの子孫――ペンドラゴン家だけに受け継がれたはずや。あれをワイらに渡せ。そうすればワイらはここから撤退し、この女の命も助けたる」
シュヴァルツは、アンナの足が地面に付く所まで降ろした。あれなら、アンナは呼吸をすることができる。
「……そんなもの、俺は知らない」
ヴァルバは、いつでも飛び出せる体勢だった。
「ほう……知らん、か」
それを聞き、シュヴァルツはニヤリとした。その瞬間、アンナを再び宙に持ち上げた。
「あっ!! か………っ!」
再び、アンナの呼吸が止められてしまった。目を開き、呼吸をしようと口をパクパクさせている。
「アンナ!!」
僕とヴァルバは同時に叫んだ。
「はようあの古書をワイらに渡せ。……この娘が死んでもええんか?」
奴は絶対的な自信で、震えるヴァルバを見ている。そこにあるのは……不敵な笑みだった。
「き、貴様ァ…………! この、卑怯者がぁ!!」
「いちいち叫ぶなや。お前にかかっとんやで? この娘の命はな……」
「くっ……!!」
僕は怒りで震えていた。ヴァルバもまた、同じはず。助けたい。助けたいけど、何かをすればアンナは真っ先に殺される。それだけは阻止しないと……!
「……わかった。古書を、渡そう……」
大きく息を漏らし、彼は怒りで震える体を鎮めた。
「閣下! なりませぬ! あれは……ペンドラゴン家に古くから伝わる、神聖なる家宝! 逆賊などに渡してはなりませぬ!!」
床に倒れている大臣が叫んだ。さっきの……カブール卿だ。
「だが……人の命には代えられない……」
「閣下! 皇室の家宝を、なんと心得られるのですか!!?」
ヴァルバはキッとその大臣を睨んだ。
「家宝がなんだ!! こんなものなど、命よりも価値があるかぁ!!」
ヴァルバは僕が思っていることを言ってくれた。それが、普通の考え方。だけど、貴族の間では、きっとヴァルバの発言はおかしいと思われてしまうのだろう。
「……古書を渡す。アンナを、離してやってくれ……」
シュヴァルツは、小さく笑った。
「アホか。古書を早く出せ……それからや」
「……わかった」
そう言うと、ヴァルバは手を広げた。小さな光たちがヴァルバの掌に終結し、どんどん形を成していった。
あれは……本? あれが、『アヴァロン創世記』というものなのだろうか。
「……これだ」
ヴァルバはそれを手で掴んだ。
「よし、こっちに投げろ」
「…………」
ヴァルバはゆっくりと歩き、シュヴァルツから少し離れた所で、無言のまま彼の足元に本を投げた。それをバルバロッサが拾い、まじまじと眺めた。
「これが……アムナリアの聖典か。こんな簡単に手に入るなら、はよう来ときゃえかったわ」
「せやな。ま、無事に手に入ったんやから、よしとしようやないか」
2人はうれしいのか、声を上げて笑い始めた。
「……約束だ。アンナを離せ!」
「わかっとるわ。……約束どおり、離したるわぃ!!」
シュヴァルツがニヤリとした瞬間、奴は空中に彼女を放り投げた。
「なっ!!?」
「黒き淵より出でし、黄泉の大蛇よ。光を持ちし者どもに、溢れる血肉を捧げよう……」
黒い風がバルバロッサを包み込み、彼の上空に黒い光の玉が出現した。
「邪悪なる、混沌の呪縛を――ヨツムンガンド!!」
光の玉から、紫色の光線がうねるようにして空中へ舞い上がる。そして、その光たちは大蛇のような大きな闇となり、アンナへと襲い掛かった。
「!? やめてぇー!!!」
リサが叫んだ。何がダメなのか? それを悟る前に、僕は走り出していた。だが、頭の奥で理解していた。
――間に合わない。
闇の大蛇はその牙をむき出しにして、空中にいるアンナへ向かってゆく。もう、ダメだ!
当たると思った。そう、たしかに当たったんだ。だけど、アンナには当たっていなかった。
――ヴァルバだ! ヴァルバがジャンプして飛び込み、アンナを抱きかかえ、その魔法を食らってしまった。
「グアアアァァ!!」
「ヴァ、ヴァルバさん!!?」
そして、2人は床へと落ちた。闇色の炎が、ヴァルバの体を覆っていた。ヴァルバもまた、激しい痛みに襲われてもがき苦しんでいた。
「ヴァ、ヴァルバさん………ヴァルバさん!!」
アンナが体を起こし、ヴァルバを揺する。
「ちっ……当たらへんかったか」
「まぁええやろ。リオンの狙い通りになったんやし」
シュヴァルツはバルバロッサの所へ行き、古書を眺めた。そして、笑顔でそれを開いている。
――僕は怒りで震えた。もう、抑えられない!
気が付けば、奴らのもとへ突撃していた。
「うああぁ!!」
「小僧が……荒れ狂う竜巻、切り刻め! 奥義――嵐龍烈襲閃!!」
シュヴァルツは豪拳を繰り出し、そこから横向きの竜巻を発生させた。僕はそれを、顔面すれすれで避けた。僕も突撃、竜巻も突撃していたので、自分でも避けれたのが不思議だった。
シュヴァルツはそれに驚いていた。避けられるとは、思わなかったようだ。僕は、彼に斬りかかった。
「ぬあっ!!!」
シュヴァルツは僕の攻撃を避けれなかった。とはいえ、胸へ深さ1センチほどの切り傷しか与えられなかった。
「小僧風情が! 逆鱗に触れよ、大地の怒り! 奥義――地龍吼爆陣!!」
バルバロッサは自分の足元の床を殴った。いや、腕が床に食い込んでいる。その衝撃で謁見の間だけでなく、帝城が大きく揺れた。床が砕け、それが石つぶてとなって下から上へ吹き飛び始めた。まるで弾丸のように、僕の下から襲い掛かる。
「グッ!!」
僕はその石つぶてたちに当たり、空中へと吹き飛ばされた。
「ほとばしる闘気……我が破壊の衝撃と化せ! 奥義、閃牙顎翔波!!」
バルバロッサは、僕に向かって巨大な衝撃波を吹き飛ばした。とんでもないほど大きな衝撃が、僕の体を突き抜けた。そして、僕は天井にぶつかり、そのまま床へと跳ね返った。
「くっ……!」
「小僧が……ワイに傷を付けやがってぇ!!」
「もうええ、シュヴァルツ」
バルバロッサが、傷口を押さえているシュヴァルツを止めた。
「古書は手に入った。長居は無用や」
「……せやな」
すると、2人はミランダの所へ行った。
「帰還するで。ミランダ、お前は先に帰ってユグドラシルに報告せい」
「……わかった」
ミランダは傷付いた体に鞭を打ち、空間転移の魔法で消えた。
「……グルヴィニア! お前らも帰還や!」
バルバロッサの声と共に、グルヴィニアたちはぞろぞろと外へ出て行き始めた。そして、シュヴァルツとバルバロッサは、他の壁に衝撃波を飛ばし、大きな穴を開けた。
「……ワイらを止めたいなら、グラン大陸の天空遺跡に来い」
2人は僕たちの方へ向き直り、エメラルドグリーンの瞳をぎらつかせながら、微笑んだ。
「まもなく、アトモスフィアは復活する。はようせんと……お前らの負けやで?」
そう言い残し、奴らは外へと消えた。