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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆4部:運命に抗いし者ども
65/149

55章:襲撃! 護るべきもののために

「な、なんだ!?」

「どうしたのだ!!」

 揺れは収まったが、みんなはざわついていた。何が起こったのか、皆目見当が付かない。



「陛下ァ! 大変でございます!!!」



 大声を響かせながら、数人の兵士が謁見の間になだれ込んで来た。息を切らせながら皇帝の近くに行くと、片膝を付いて一礼した。

「どうした? 何が起こっているのだ!?」



「て、敵が――このアヴァロンを襲撃してきました!!」



「敵……だと!?」

 皇帝は驚き、玉座から立ち上がった。

「敵はどこだ!? ルテティアか!?」

「そ、それが……わからないんです」

 困惑した様子で、兵士は言った。

「わからないだと? なぜだ!?」

「見たことも無い服装をしておりますし、軍旗も掲げていないので……」

 軍旗さえも……ということは、国ではない? ゼテギネアは複数の国による連合国家のため、反乱が良く起きると聞いたが……。

「敵は、すでに城の近くまでやって来ています!」

 他の兵士が言った。

「カーレル元帥は!?」

「そ、それが、まだアヴィニョンに滞在中でございまして……」

 兵士たちはオロオロとした様子で言った。

「すぐに呼び戻せ!」

「は……ハッ!」

 足をばたつかせながら、兵士は出て行った。

 襲撃してきた奴らがルテティアではない。と言うより、国王や宰相が殺されたルテティアが、こんなすぐに襲ってくることは考えられない。いや、そもそも、遠く離れたこの帝都に直接、襲撃してくること自体が考えられない。じゃあ、一体……?

「親衛隊は陛下をお守りし、後宮へ! 城にいる兵士は、城門の前へ行って敵の侵入を防げ! レイン卿、そなたが指揮官として行ってくれ!」

「ハッ!」

 ヴァルバは混乱するこの広間の中、冷静且つ大声で命令を下した。



「……まさか、インドラじゃあ……」



 デルゲンがぼそっと呟いた。

「インドラだって……?」

 たしかに、襲ってくる奴らと言えばあいつらしか思い当たらないけど……。

「だけど、なんで?」

「……あいつら、ソフィアでの会議の折、各国の首脳を一網打尽にしようとしていた。だけど、ゼテギネアだけは来なかったから、殲滅することができなかった。だから……強硬手段に来たのかも」

「!!」

 リサの言うことも尤もだ。そうとしか、考えられない。

 奴らなら放っておくことはできない。これ以上、犠牲者を出すわけにはいかない!

 僕はバルドルの力を解放した。その瞬間、僕の髪の色はいつもの黒ではなく、青へと変化した。その力で、僕は自分の手錠をぶち壊した。

「ソラ!? 何をするつもりだ!」

 それを見て、ヴァルバが叫んだ。

「奴らなら、普通の兵士じゃあ太刀打ちできない! 僕も協力してやるってことだ!」

「だが……」

 彼は迷った様子で、顔を振る。



「ヴァルバ! ここは手を組もう!」



「……何?」

「ここは一時休戦し、協力しよう! 相手がインドラなら、協力しないとダメだ! 僕たちは犠牲者を出したくない。……それは、お前も同じだろ?」

 ヴァルバは僕を見つめた。僕も、同じように視線を向けていた。


 ――そう、目指すことは同じだ。


「……わかった! 頼む!」

 ヴァルバはうなずき、微笑んだ。

「閣下! 囚人ですぞ!?」

 一人の兵士が、声を上げた。

「囚人もくそもあるか! あいつは……あいつらは、俺の仲間だ!」

「か、閣下……」

 少しだけ、ジーンと来てしまった。こんな時に、いちいち感動させるようなことを言わないでほしいもんだ。

「空! 私も行くよ」

 軽くストレッチをしながら、リサはこっちに来た。

「もしシュヴァルツたちが来ていたら、あんただけじゃあ敵わないかもしれないしね」

 作戦遂行に、幹部の奴らは絶対に来ている。きっと、奴らも……。

「……そうだな、行こう」

「おいおい、俺たちも参加するぜ!」

「それより、手錠を外してくれよ」

 デルゲンは笑いながら両手を差し出した。そうだった、これじゃあ戦えないもんな。僕はレンドとデルゲンの手錠を掴むと、引きちぎるかのように破壊した。うーん、我ながらこの力はすごいもんだ。

「ヴァルバ! 俺たちの武器を貸してくれ!」

 デルゲンが言った。ヴァルバは、広間に飾ってあった豪華な槍と斧を手に持ち、僕たちに向かって投げた。デルゲンは槍をキャッチできたが、レンドは斧をキャッチできなかった。

「……取れよ」

 僕は冷たい視線でレンドを見た。

「馬鹿! 危ねぇだろ!?」

 と、彼は苦笑した。

「ところで、ソラの武器は?」

「大丈夫。ここにあるから」

 僕は手をかざし、心の中でその名を呼んだ。



 ――ティルフィング、と。



 すると、青い光が一瞬にして僕の右手に集結し、剣の形を成していった。久しぶりに見る、聖魔の神剣の姿だ。

「これは……」

 レンドは剣を見つめながら言った。そっか、僕以外、見るのは初めてだったな。

「聖魔の神剣ティルフィング……アイオーンが携えたっていう、伝説の剣だよ」

「……空が、自分を取り戻した証だよね」

 リサはニッコリと微笑んだ。ああ、たしかにそのとおりだ。自分を取り戻し、多くの人を救うために手に入れたもの。それがこの剣だ。

「よし、じゃあ……」

「待って!」

 僕は声がした方に振り向いた。空だ。

「? どうした?」

「あの……」

 言葉がうまく出て来ないのか、視線があっちに行ったりこっちに行ったりしている。

「お前はここにいろよ」

「い、いえ、その……気を付けてくださいね」

「わーってるよ。そう易々とやられるかって」

 僕は笑いながら言った。バルドルの力を手に入れたんだ。ちょっとやそっとでは、負けるつもりなんか無い。

「…………」

 それでも眉を八の字にしている彼女に、僕は軽く撫でてやった。

「な、なんですか!?」

 いきなし撫でられたので、彼女は困惑している様子だった。

「ん? いや、相変わらずちっさいなぁ〜って思って」

「い、いきなり何言ってんですか!」

 顔を赤くして、いつになく大きな声で彼女が言った瞬間、僕はニコッと笑った。

「よし、大丈夫そうだな」

「え?」

 目をパチクリさせている彼女は、まだ顔が赤い。

「少しは楽んなったろ? んじゃ、行って来るよ」

「そ、空さん……」

 僕は笑顔で握りしめた手を彼女に向けて出し、親指だけ立てた。


「どうか、気を付けて……」

 神妙な面持ちのアンナが言った。

「アンナ、ヴァルバがお前を守ってくれる。きっとな」

 勇気付けようと、僕は彼女の背中を軽く叩いた。それと同時に、彼女は小さく微笑んだ。そして、僕たちは走り出した。

「ヴァルバ! ちゃんとやんなさいよ! 空ちゃんとアンナにケガを負わせたら、後で承知しないからね!!」

 外への扉へ向かう途中、僕の隣にいるリサが言った。

「言われなくてもわかってるよ!」

 多くの人がごった返す中、横目でギリギリ、ヴァルバが見えた。視界に入った瞬間、彼が微笑みながらうなずくのがわかった。


 ――任せたぞ。


 そう行ってくれた気がした。

「外は扉を出て真っ直ぐよ!」





 城門から出ると、外は月明かりと兵士たちが携えているたいまつの炎で、闇夜が照らされていた。そして、戦をしている声が響いてくる。さらに、城壁などが崩れる音、人の悲鳴も木霊する。

 ゼテギネアの兵士と戦っているのは、黒い服装……やはりインドラの下っ端、グルヴィニアたちだ。剣を振りかざし、兵士を殺している。少し離れた所で、暗黒魔道士が詠唱をしている。

 都のあちこちから、黒煙が昇っている。帝都民も巻き込んでいるのだ。遠くから、民衆の悲鳴が聞こえる。家々の明かりは付けられ、慌てている様子が伺える。

「……城門の所は、人が多すぎて入ることもできなさそうだね」

 リサは落ち着いた声で言った。城の内部に通じる城門の前に、もう一つ巨大な城門があって、そこに大勢の敵味方が入り乱れているのだ。

「じゃあ、ここは兵士たちに任せよう。あの様子だったら、まだ時間はある。その間、市街区の方に行って民衆を助けよう」

「たしかに、ソラの言うとおりだ。でも、どうやって行くんだ? 城壁が高すぎて、行くことができないぞ?」

 城壁は20メートルくらい。だけど、この程度なら飛び越えれるだろう。僕は普通にジャンプする要領で、ジャンプしてみた。

 僕は簡単に、城壁のトップに辿り着いた。幅が狭いので、僕は少しバランスを崩してしまった。

「おっとっと……ホラ、来いよ」

 僕は手招きをした。レンドとデルゲンは、苦笑いをしている。

「「んなの、できるわけねぇだろ!」」

「な、なんだよ……」

 2人は僕を指差し、声を揃えて叫んだ。

「私はできますよっと」

 彼女も同じように、空高く舞い上がり、僕の側に着地した。

「…………」

「ま、あんたたちはそこで頑張ってね」

 リサは笑顔を振りながら言った。レンドとデルゲンは、ため息混じりに、苦笑いしていた。

「おっと、その前に……」

 リサは地上へ降り立った。

「念のため、エスナをかけておくよ。ホラ、空もこっち来て」

 僕は同じように、下へ降りた。一応やっておかないと、万が一暗黒魔法を受けた場合、死んじゃうからね。


「……あまねく精霊よ、その庇護の下、邪悪なる意志を退けたまえ……神聖なる大海の雫――エスナ」


 青い光たちがリサの手から離れ、僕たちを包み込むように四方へと散った。暖かい光が、僕たちの内側へ染み込んでゆく。

「……これでよし、と。んじゃ、ここは頼んだよ」

「ああ、任せとけ」

「そんで、何かあったらこれを上空に打ち上げて」

 リサは腰に付けた、小さなバックから何かを取り出した。

「これは?」

 レンドはそれを受け取り、まじまじと眺めた。ピンポン玉くらいの大きさで、ざらざらした表面だ。

「打ち上げ花火みたいなもんよ。上空へ飛ぶ時、音を発してわかるようになっているの」

「……なるほど」

「じゃ、任せたよ」

「ああ。そっちも、気を付けてな」

 デルゲンの言葉に、僕とリサはうなずき、再び城壁の上へとジャンプして上った。





「ひどいな……」

 ここから市街区を眺めると、人々が通で入り乱れ、悲鳴を上げているのがわかる。あらゆるところから、波打つ炎たちが猛威を振るい、住居を破壊している。立ち上る黒煙が、この闇夜をいっそう深めている。

「……ともかく、行こう」

 大きく跳躍しようとした瞬間、リサに足蹴りをすねに喰らわせられた。

「あのね、どの方向に行くか決めなさいよ」

「け、結構痛いんですけど……」

「いいから、早く決めろっつの」

 だったら自分で決めろよ……と思いつつ、僕は再び帝都を見渡した。

「……あっちだな」

 僕は第8市街区の方を指差した。

「たしか、あそこの城門は1番夜遅くまで開いてるって聞いた。あそこから、入っているような気がする」

「……なるほど。じゃ、行こうか」

 僕はうなずき、城壁から飛び降りた。


 降り立つと、兵士とグルヴィニアたちが戦っていた。

「なんだ!? 上から人が!」

 グルヴィニアたちが気付き、僕たちに向かって来た。

「僕は左の方をやる。リサは……」

「言われなくても、わかってるよ」

「さいですか」

 ため息交じりにそう言うと、リサは右のグルヴィニア達へ突っ込んでいった。それぞれ、4,5人のグルヴィニアがいる。全員、剣を持って僕たちに襲い掛かった。

 振り下ろされる剣。あまりにも遅く見え、僕は難なく避けた。そして、ティルフィングで敵の横っ腹を切り裂いた。

 悲鳴と共に、グルヴィニアは倒れた。血がかかる前に、僕はそいつから離れて他の敵を見据えた。

 自分が殺したことと自分の力に戸惑いつつも、僕は流れるように他のグルヴィニアたちへ向かった。

 まるで、ゲームのようだ。スローモーションのように敵の動きが見え、簡単に避けれる。そして、一瞬で間合いを詰め、敵を切り裂く。そうすれば、簡単に倒れる。1人、2人――4人。ティルフィングを右へ、左へ、上へ、下へ。敵がバタバタと倒れてゆく。

 僕は実感した。これが、調停者……バルドルの力ってやつだ。たしかにすごいが、同時に危うさを潜ませている。

 気が付けば、リサもグルヴィニアをやっつけていた。

「……速いな、リサ」

「まぁね〜」

 リサは腰に手を当て、片手をブラブラさせて陽気に答えた。彼女の周りに、身動き一つしないグルヴィニアたちが倒れていた。

「……殺したのか?」

「ううん、気絶させただけ。それに足の骨を折ったから、目を覚ましてもどうにもできないよ」

「……さすがだな。僕は……殺すことしかできなかった」

 そう呟くと、リサは顔を振った。

「しょうがないよ。あんたの武器は、私と違って剣だもん。攻撃すれば、死に至る可能性は高い」

「…………」

「ホラ、行こ。助けを待ってる人がいるんだからさ」

 リサは僕の背中を押してくれた。力を手に入れたのは、素直にうれしい。自分が、ようやく自分になった証なのだから。けど、この力のために殺さなければならないことがある。インドラを止めるために、世界を守るために、奪わなければならないこともある。そういうことは、わかりきっていたはずなのになぁ……。




 第8市街区。他国の人や、商人たちが通る場所。しかし、今は逃げ惑う大勢の民衆の後ろから、剣を携えたグルヴィニアたちが襲い掛かる。

 僕とリサは住宅を屋根づたいに急行し、グルヴィニアたちの前に降り立った。

「!? 誰だ、貴様ら!」

 グルヴィニアたちは追いかける足を止め、僕たちを睨んだ。

「誰って……えと」

「説明する必要なし!」

 と、リサは僕に再び足蹴りをした。ま、またすねを……。

「リリーナだ! あの女、リリーナだぞ!」

 グルヴィニアたちはざわつき始めた。今がチャンス。そう思い、僕は突撃した。

「!!」

 グルヴィニアは驚いていたが、もう遅い。駆け抜け際に、そいつの左足を切り裂いた。完璧な感触。敵の左足が、斬れた。

「ギャァァ!! あ、足がぁぁぁァ!!!?」

 通に転げ回り、叫び声を上げている。リサも、他の敵の方に突撃していた。


「豪嵐の大気、我が魂となりて駆け抜けよ! 奥義――爆烈衝弾!!」


 リサは両手を引き、一気に押し出した。そこから、巨大な衝撃波が弾き出された。その衝撃波は、敵をなぎ倒す風となった。グルヴィニアたちは、将棋倒しのように前から後ろへ倒れていき、さらに10数メートルも吹き飛ばされていった。


「さらにぃ〜……大地をも震わす、破壊の振動! 轟け、閃波・剛爆!!」


 爆音を響かせる衝撃波が、再び敵陣へと駆け抜ける。強烈な衝撃波を2度与えることで、敵の意識を断ち切ろうとしたんだ。

「やるじゃないか!」

「よそ見してないで、他の敵をやっつける!」

「わかってるよ!」

 素早く僕は敵陣を駆け抜けた。敵は血しぶきを上げながら、バタバタと倒れてゆく。後ろに気配がし、一回転しながら後ろの敵の胸を切り裂く。横へ移動し、さらに他の敵に斬りつける。噴出してくる血が自分にかかる前に、別の所へ移動し、敵に斬りつける。ホントに、すごい速さだ。ティルフィングも、紙切れのように軽い。本当に、自分でないみたいだ。だけど、ちゃんと意識はある。


 ――これこそが、調停者だけに与えられた力。


 僕は1つ、あることをやってみようと思い、手をかざした。今なら、聖魔術を使うこともできるはずだ。心の奥に渦のように流れている言葉を選んで繋ぎ、言霊にして放つ。

「獰猛なる殺戮の嵐……永遠の命を捧げよう。広がる、あまねく命を奪うがいい」

 緑色の波紋が僕を中心に広がり、そこから光が立ち昇るようにして僕のかざした手に集う。



「疾風の帝王――ガヴァルゲノス!!」



 詠唱が終わった瞬間、前方にいたグルヴィニアたちの足元に、渦を巻く風が動き出した。それは、見る見るうちに巨大化した。通を埋め尽くしていたグルヴィニアたちが獰猛な風に切り刻まれつつ、悲鳴を上げながら上空へ昇ってゆく。

「おお〜〜、すっげー」

 リサはまるで上空にいる鳥を眺めるかのように、その光景を見つめていた。緊張感が無いというか、なんというか。

 殺戮の嵐は数百人のグルヴィニアたちを巻き込み、音も無く消え去った。舞い上がったグルヴィニアたちは、数十メートルの高さから、地上へと叩きつけられた。たぶん、今ので生きていた奴も死んでしまっただろう……。

 恐ろしいくらいに、巨大な破壊力を持つ聖魔術。とても、人間が生み出したものとは思えない。

 僕は、自分の掌を見つめた。

 ……どこをどう見ても、普通の人間の掌にしか見えないんだけどな。昔、親戚のオジサンに手相を見てもらったら、「生命線が短い」なんてことを言われたっけ。あの時は、真剣に悩んだもんだ。30代で死ぬんじゃないかってさ。僕は思わず、ほくそ笑んでしまった。

「何笑ってんの?」

「……いや、別に」

「??」

 リサは頭にクエスチョンマークを浮かべていた。こんな時に、平和な頃の自分を思い出しても仕方が無い。

 この通の敵は、一通り殲滅した。僕たちは、戦う姿を呆然と眺めていた民衆たちを、安全な場所へ避難するように言った。

「……よし、これでここは大丈夫だな」

「うん」

 その時、花火が打ち上がる時のような音が、月が光る夜空へ響いた。これは……レンドたちに渡したやつのものだ!

「何かあったんだろうか?」

 そう問うと、リサは帝城を見据えた。

「わからない。ともかく、戻ろう」

 僕たちは急いで、帝城も門の所へ急行した。




 そこでは、まだ戦いが繰り広がれていた。しかし、どうも様子が違う。さっきまでは一進一退の攻防だったのに、今はグルヴィニアたちに押されている。

 僕たちは城壁に上り、レンドたちを探した。そして、門の手前にいる2人を見つけた。2人は攻撃を受けたのか、地面に這いつくばっている。僕たちはすぐに駆け寄った。

「大丈夫か!?」

 レンドは、口から一筋の血を流していた。体のあちこちにも、傷が見受けられる。

「ソラ……あ、あの女が……」

「あの女……?」

 レンドはある場所を指差した。その方向に目をやると、一人の人間が上空に浮かんでいた。あのシルエットは――



「ミランダか!?」



 聖霊術師ミランダだ! やはり、幹部の奴が来ていたか……。

「こんなところでお出ましかよ……やれやれ」

 めんどくさそうに、彼女はため息をした。

「リサ、なんだか嫌そうだな」

「当たり前じゃん。あいつ、いちいち魔法使うから嫌なんだよ」

 魔法使うのはお前も同じでしょ。

「……ミランダのスレンダーボディに嫉妬してるのかと思っ――」


 ボゴッ!


 リサの後ろ回し蹴りが、僕の顔面に命中。衝撃で、僕はしりもちを付いてしまった。

「い、いってぇ!!」

「嫉妬なんかするか! 私の方が美人だ!!」

「そ、そういうことを言ったわけじゃなくて、体つきがだな……」

「待て! ソラ! ……それ以上言うと、殺されるぞ」

 デルゲンは僕の肩を掴み、肩で大きく息をしながら言った。……傷を負って辛いはずなのに、わざわざ警告してくれるなんて……サンクス。

 ミランダは僕たちに気が付いたのか、空中に浮いたまま、こっちに近付いて来た。


「お久しぶり。会いたかったわ」


 と、彼女は腕を組んで微笑んでいる。

「……私は会いたくなかったけどね」

「フフ、私もあなたには会いたくはなかったわ」

 ミランダの言葉に、リサの口が引きつく。これはヤバい……。

「落ち着け。挑発なんだから……」

「わかってるよ!」

 僕は軽く裏拳を食らわせられた。か、完全に挑発に乗っている。わかってるのに、怒っている。

「んで? 帝都に何の用なのさ?」

 リサは邪悪な笑顔で言った。それを見て、ミランダはニコッと微笑んだ。

「……教えない」

「何よそれぇ!!」

 馬鹿にしてんのか―!! リサは腰に手を当て、かっこよくミランダを指差した。ミランダは思わず、口に手を当てて笑い出してしまった。た、たしかに、今のポーズのリサは面白い……。

「どうせ、すぐにわかるわよ。私たちの目的なんてね……」

 ミランダは僕に目をやった。

「……とうとう、覚醒しちゃったのね」

 燃え盛る炎の明るさに当てられて、彼女の灰色の髪が輝いているようにも見える。

「結局、あなたも力を求めたってことね……」

「……護るための力だ。ただ破壊し、殺戮を行うためだけのものじゃない」

「どうだか。余りあるものを持つ人間は、最終的に暴走する。それが、人間というものよ」

 蔑むかのように、彼女は口元に手を添えて笑った。

「……たしかに、そうかもしれない。けど、僕にはリサたちが……みんながいる。仲間がいたから、僕はここに立ってる。だから……僕はもう迷わない」

 彼らの声があったからこそ、僕は僕として存在できている。それを忘れてしまえば、僕は再びロキに蝕まれてしまうだろう。

「仲間? フフ、歯が浮くようなセリフを吐くのね」

「何?」

 ミランダは顔を振った。

「そんなもの、必要無い」

「……樹やシュヴァルツたちは仲間じゃないのか?」

「……同志よ。同志であって、仲間じゃない。最初から仲間意識なんて持っていないもの……」

 ミランダは僕から視線をそらした。仲間じゃない。仲間じゃないなら……どうして、樹の理想に賛同したんだろう。どうして、協力するんだろう。同志も、仲間じゃないのか?

 その時、後ろから爆音が轟いた。後ろに振り向くと、帝城の1階の所から、土煙と共に壁が音を立てて崩れている。

「な、なんだ?」

「だから、すぐにわかるって言ったでしょ?」

 僕はミランダの方に向き直った。

「……私たちの狙いは、遺跡の場所が記された古書を手に入れること。それは、皇帝ゼナン5世が持っていると聞いたからね……」

「…………しまった!!」

 まずい……1階には、空とアンナがいる! 僕は帝城内部へ走り出そうとした。その時――



「!!」



 僕の前に、轟音と共に雷が落ちた。

「そうはさせない」

 後ろへ振り返ると、ミランダの周囲に黄色い光が唸りながら漂っている。

「あなたたちを用が済むまでここで食い止めるのが、私の役目」

「くっ……!」

 1階に襲撃してきたのは……きっと、シュヴァルツたちだ。あの壁を破壊でき、確実に任務を遂行するやつといえば、あいつらしかいない! だとすれば、普通の人間では太刀打ちできない。僕たちじゃないと……!

「今度は、前のようにはいかない……」

 ミランダは空中で手を夜空にかざし、詠唱を始めた。

「ほとばしる紫電の光……空を泳ぐ竜の如く、その逆鱗を大地に降らさん……」

 バチバチと雷鳴が轟く。



「破壊の光よ――フェルデラン」



 ミランダのかざした手から、黄色い光が彼女の手から離れて空中に浮かび、そこから雷の音を響かせながら、一匹の龍となって大地へ降り注いだ。


「光れ、宝石の如く! クリスタルシェル!!」


 薄く青い光の壁が、僕たちを囲むようにして発生した。これは、リサの魔法だ。僕とリサなら魔法を避けることができたが、レンドとデルゲンがここに倒れているのだ。

 さらに、いくつもの雷が降り注ぐ。しかし、リサの魔法防御壁によって一切通さない。だが、身動きもできない。

「くそっ! ミランダにかまってる暇なんかないってのに……!!」

 そう思った時、誰かの気配がした。そして、僕たちを襲っていたいくつもの雷が、消え去ってしまった。

「何!? 禁呪の印が消えただと……!」

 僕は期待を込め、後ろに振り向いた。そこには――あの仮面男が立っていた! どうやら、彼がアンチ・マジックをしてくれたようだ。

「漆黒の剣士……!」

 ミランダは彼を睨んだ。ミランダは、現れる度に奴と会っている。

「…………」

 漆黒の剣士は、城を指差した。

「……行けって言うのか?」

 僕がそう訊ねると、漆黒の剣士はうなずいた。そうか……ここは、俺に任せておけということか。

「ソラ、俺たちは……まだ動けない。2人で、空ちゃんたちを……!」

 デルゲンが、傷付いた体を起こしながら言った。

「……わかった。行こう、リサ!」

「うん。二人とも……後でちゃんと治療してあげるからね!」

 リサはうなずき、僕たちは帝城内部へと走って行った。




「させるか! 雷光の刃よ、ライトニングブレード!!」

 ミランダは空中から再び魔法を唱え、発動した。しかし、漆黒の剣士がその魔法の前に立ちはだかり、氷の魔法でそれを防いだ。

「くっ……! 漆黒の剣士、貴様!!」

 ミランダは歯ぎしりをしながら、再び印を結んだ。

「……ククク……」

「何がおかしい!!」

 ミランダがそう言うと、漆黒の剣士は人差し指を立て、左右に揺らしながら「チッチッチ」と舌を鳴らした。




「愚かな奴だ」




「『雷光天使』を操れる程度のお前が、この俺に勝てるとでも思ってんのか?」

「!! 貴様、なぜそれを……!!?」

 漆黒の剣士は、初めて言葉を口にした。ミランダはそのことよりも、雷光天使のことを知っていることに驚きを感じた。

「俺に勝てれば教えてやるよ。尤も、一般人のお前に負けるつもりなんかねぇけどな」

「な、なんだと……!!」


「さぁて、楽しい楽しい殺戮ショーの始まりといこうか!!」


 漆黒の剣士が持つ、水晶のような刀身を持つ片刃の剣が青く煌めく。そして、一瞬にして宙に舞い、空中にいるミランダへ切りかかった。

「なっ――――!!!!」 





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