50章:ゼテギネア帝国へ 隠れた少女の願い
2月8日。僕たちは、アルカディア大陸の大国――神聖ゼテギネア帝国へ行くことにした。なぜそうなったのかというと、僕が聖域から帰って翌日のことだった。
「さて、これからどうする?」
レンドの船の中で、寒さを凌ぎながら、デルゲンが言った。
「奴らを食い止めるにしたって、どこへ行けばいいのかさっぱりだからな」
ため息交じりに、ヴァルバは言った。
「そうだな……あいつらはどこに行ったんだろ? リサ、思い当る所はないか?」
僕はリサに振った。彼女は腕を組んだまま、うーんと唸っていた。
リサはこの世界のことをよく知っている。あいつらが、どこに行くのかというのもきっとわかると思った。
「……たぶん、グラン大陸へ行ったんだと思う」
床の木目を睨みつけたまま、彼女は言った。
「グラン大陸? どっかで聞いたような……」
「ソラさん、聖地の図書館にあった書物に書いてあった、あれですよ」
「アレ? ……ああ、あれか」
北の大陸のことだ。リュングヴィ――カインが生きていた約一万年前、どうやらその頃はまだ現在のように永久凍土の大陸ではなく、緑が溢れ、多くの国々が戦争を繰り返していたようだ。シアルフィ……王国だか帝国だか、なんかあったよな。
「一応説明するけど、グラン大陸っていうのはシュレジエン諸島の北にある、永久凍土の大陸のことよ。今から一万年以上も昔、あそこには多くの国が割拠して、争っていた。その後、カインによるティルナノグ帝国によってグラン大陸は平定され、あそこに眠る特殊な鉱石を使って、ティルナノグは天空石を作った」
「あそこで作ったのか? へぇ……興味深いな」
ヴァルバは「なるほど、なるほど」と、うなずいていた。
「そして、グラン大陸の一部を剥ぎ取り、浮遊大陸を建造したといわれてる」
「大地を剥ぎ取って? んなのできるのかよ?」
レンドは頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。
「まぁ、実際に見たわけじゃないからなんとも言えないけど、あったのは事実よ。最後の天帝ユリウスによって、浮遊大陸と天空都市は壊滅、封印された。その時の破壊で、グラン大陸には天変地異が起こり、雪が年がら年中降るようになったとも云われてる。本当かどうかは知らないけどね」
ロキの力を持っていたとされる最後のティルナノグ天帝ユリウス……彼は、樹と同じ「闇の調停者」だった。
リュングヴィ――カインの〈怒り〉そのものだったあいつは、ユリウスのことを〈できそこない〉と言っていた。……ならば、天変地異を引き起こすほどの力とはどういうものなんだろう? そして〈闇の調停者〉として覚醒している樹が、その封印されたユリウスが持っていた〈ロキの力〉を求める理由は、なんなんだろう。調停者としての樹の力は、ユリウスと同等の力を持っているはず。だったら、封印されてる力を求めなくてもいいはずなのに……。
「グラン大陸……か。行くにしたって、どうやって行くんだよ?」
レンドは尋ねた。ラーナ様は以前、言っていた。あそこの大陸に行くには、普通の船では難があると。
「……そうねぇ……」
リサは天井を仰いだ。
「普通の船じゃあ、大陸の回りにある氷河に阻まれて行くことはできないだろうし……」
「俺の船だったら行けるんじゃあねぇか?」
「無理だな。改造すれば行けれるとは思うが……何せ、お金が無い」
デルゲンは肩を落とした。
「……いちおう金はあるぜ。ルテティアからたんまりともらったからな」
たしか、ステファンの研究所をぶっつぶした時だったかな。
「おお! 数百万セルトありゃ、立派な装甲を付けた船にできるぜ!」
ヴァルバのおかげで、レンドのテンションが大幅にアップした。
「これで俺の船も立派になるぜ! うひょひょひょ」
気持ち悪い笑い声が、耳から耳へと通り抜けた。そんなに嬉しいのか? レンドくん……。
「しかし、改造に半年近くはかかるぞ? それじゃあ間に合わないよ」
デルゲンの言葉に、レンドは意気消沈した。どうも、気持ちの浮き沈みが激しいやつだな……。
「うーん、この世界に丈夫な船を持っている国はないのか?」
僕はみんなに訊ねた。ガイアなら、南極とか北極に突き進めるくらいの船はあんのに。
「丈夫な船、か……もしかしたら……」
デルゲンは自分の顎に手を当て、呟き始めた。
「……ゼテギネアにはあるかもしれない」
「ゼテギネア? 何でまた」
レンドは首をかしげた。
「知らないのか? ゼテギネアは、2大陸の中で最も工業が発達している国だ。造船技術も各国よりは断然いいはずだ」
「じゃあ……ゼテギネアには氷河をものともしない船があるかもってことだよな?」
僕が言うと、デルゲンはうなずく。
「たぶんな。絶対とは言えないが……期待できると思うぜ? 昔から、ゼテギネアはルテティアとの戦争の折、海上での戦いではほとんど負けなしだったと言われる。あれは優れた造船技術がある証拠さ」
ゼテギネアか……2大陸の中で、唯一足を運んだことのない国だ。ここソフィアの北に位置する、大国。
「……ゼテギネア……か……」
僕はその言葉を聞き逃さなかった。ヴァルバが小さく呟いたんだ。
「ヴァルバ?」
そう言っても、ヴァルバはボーっとしている。
「おい、ヴァルバ?」
ヴァルバはようやく目をぱちくりさせ、反応した。
「どうしたんだよ?」
「あ……いや、気にしないでくれ。ゼテギネア、ね………うん。なるほど」
「…………」
どうも、ヴァルバはおかしい。レンドとヒソヒソ話をすると「なんか、隠し事でもしてんじゃないのか?」と、彼は言う。
隠し事か……。たしかに、ヴァルバはまだ何かを隠している気がするのは、否めない。ゼテギネア出身だということや、年をごまかしていたっていうのもあるし……どうして、ロンバルディアを旅していたのかも教えてくれないし。
……ゼテギネア出身ということと関係しているのかもしれない。あるいは、過去のことで、もう足を踏み入れたくないのか……。
とはいえ、ヴァルバの怪しさは今に始まったことではないので、今更気にしてもしょうがない。それに、ヴァルバのことだ。ただの杞憂かもしれないし。
「んじゃ、次はゼテギネアへ参りますか」
こうして、僕たちはゼテギネアへと向かった。
ソフィア教国最東端の港町ペルルークから、船で海を北上し、工業都市といわれるアルツヴァックへ向かう。アルツヴァックは工業が盛んな町で、帝国の造船を一手に担っている。そこへ行き、残りのお金を全部使えば、船の一つや二つ買えるんじゃないかという、安易な考え(リサの提案で疑問視されたが、文句を言うと殴られてしまうので、何も言えず。とはいえ、現状ではこれしか方法が無いのもたしか)なのである。
工業都市アルツヴァックは、船で約10日程度かかるだろうと思われる。場所は、アルカディア大陸の東の海岸線沿いの、ちょうど真ん中に当たる。その都市から西北西へ行くと、ゼテギネアの首都アヴァロンが見えてくるらしい。アヴァロンはこの2大陸の中の都市で、最も大きな都市であり、2大陸の中で最大の人口を擁する巨大都市なのだという。今まで見てきた都より、遥かにすごいのだとか。
ゼテギネアへ行くにあたって、僕はこの国のことをいろいろ訊いてみた。ただ、みんなが知っている範囲でのものだが。
神聖ゼテギネア帝国――帝国とはいっても、連合国家。簡単に言えば、昔のドイツ帝国のようなものだ。中心となる国……ここではフィンジアス王国の王が皇帝として、周辺の7王国・4大公国・4公国を従えている。全部で16ヶ国で構成されている。連合国家とはいえ、皇帝であるフィンジアス国王と、そこの貴族にかなりの権力が握られているのは確かだ。ちなみに、〈ゼテギネア〉というのは、大昔から帝都アヴァロン周辺の地域を漠然と〈ゼテギネア〉と呼ばれていたことに由来するらしい。聖地カナンの図書館にあった歴史書にも、〈アルカディア大陸の大国・ゼテギネア連合王国〉とかいうのが載っていた。
フィンジアス王国が成立したのは、新暦1557年(今は新暦2002年)で、1890年にゼテギネア連邦を成立させ、その盟主に。そして新暦1897年、宿敵ヴェルティナ帝国を滅ぼし、神聖ゼテギネア帝国として成立。他の参加の国は「ガザランド王国」、「ハイデルベルグ王国」、「シーザ王国」、「カパトギア王国」、「ネヴァルド王国」などのことである。全て、元々は独立した一つの国家だった。今も独立していると言えば独立しているが、実際にはほとんど支配されているようなものである。諸侯が集まって、帝国議会というものがあるものの、最終的な承諾は皇帝や帝国宰相(フィンジアスの首相)によるので、あまり意味が無いといわれる。
武力によって諸国を屈服させたためか、やはり反乱は毎年のごとく発生しているのだそうだ。工業などで発達した国なので、軍事力も1番大きいのだが、ルテティアに勝てないのはそれと平行して発生する反乱の鎮圧に、兵を向けているためであるという。つまり、反乱さえなければゼテギネアはルテティアに勝てるだろうと言われている。ただ、ここ数年は非常に平和になっているらしい。それもこれも、先代皇帝ベルセリオス7世と宰相ベオウルフによるものだとか。
以前、ヴァルバが言っていたように、土地柄的には豊穣な南部(ソフィア辺り)に比べ、国土のほとんどを占める中部・北部は、作物が育ちにくい厳しい環境にある。温暖な気候を持つロンバルディア大陸とは対称的に、アルカディア大陸は全体的に寒い。ソフィア教国は南部に位置するため、日本と同じような環境だった。帝都より北は、毎年冬になると豪雪により、地方の村々が被害にあっているらしい。そのようなため、食料は他国からの輸入に頼らざるを得ない。ここのところも、ルテティアに勝てない理由の一つだと思う。
最も盛んなのは、前述したように工業。帝都周辺の山々には特殊な鉱石が数多くあり、造船・武器開発などがよく行われている。ルテティアと同盟している時は、造った船や武器などをかなりの高値で売りつける。鉄鉱石などの生産力が無いルテティアは、最大の敵国にして最大の貿易国ということだ。
現在の皇帝は6代ゼナン5世で、フィンジアス22代国王。まだ12歳と、子供である。今から5年前、先帝がはやり病により急逝し、一人息子のゼナン5世が即位したのだという。先帝の弟である叔父ベオウルフが数年の間、摂政兼宰相として政権を握っていたそうだ。今から18年位前にも、後継者問題で争いが起こり、一時帝都は暴徒であふれかえったとか。しかも皇室出である一国の王が、皇帝暗殺罪で一家全員処刑されたらしい。これが原因で、ルテティアに勝っていた戦争を破棄し、休戦条約を結ばざるを得ない状況に陥った。……この国では帝位を手に入れるため、血なまぐさい争いが頻発しているようだ。
ソフィア教国に程近い都市は、そのほとんどが豊穣な南部に位置するため、帝国で最も食料が確保される地域らしい。以前、レンドが言っていたソフィア教国の魔法都市ガリオンヌに近いため、魔法も盛んなのだとか。
この南部に帝都を置けばいいと思ったのだが、どうも帝都アヴァロンは、由緒正しき都であるらしい。創世時代の国の首都だったとか、ティルナノグの天空都市の一つだったとか(それが本当なら、空から地上へ落ちたときの衝撃で、都市は崩壊したはずだけど)、ティルナノグが崩壊した後、2大陸を唯一、統一したといわれるアヴァロン帝国の都だったとか……頭の固い上層部は、遷都を絶対に許さないらしい。意味のわからない意地だが。
そもそも、首都は海に程近い場所にしたほうが、何かと繁栄するんだよね。日本の東京もそうだし、中国の北京、アメリカのワシントンD・C、イギリスのロンドンも然り。まだ文明が発達していない時代には、内陸部に都を定めるのがどうも2つの世界共通なようだ。まぁ、元は同じ時間軸の世界。似てしまうのは致し方ない所か。
1週間が過ぎ、ひどい雨が降ってきたため、近くの岸辺に停泊した。
この日、出発する頃から雲行きが怪しいと思っていたのだが、とうとう、どしゃ降りになってしまった。風も出てきて、波の勢いも強くなってきたので、念のため碇を下ろして様子を見ることに。
「ゼテギネアに行く」ということが決まってから、やはりと言うか、ヴァルバの様子がおかしい。一日中、ベッドにねっころがって天井を眺めたり、甲板へ出て海を長い時間眺めていたりして、ボケーっとしている。話しかけても、「ああ……そうだな……」と、まさにうわの空。
ゼテギネアと関係があるのだろうか? 僕は、ヴァルバと1番長い付き合いであるリサに訊いてみることにした。
「……あいつ、詳しいことは教えてくれないんだよね」
レンドの船の船室で、最も大きな部屋(ちょっとしたバーみたいなところ)に、僕とリサはテーブルを囲んで話した。
「……たしか、イデアの砂漠で知り合ったんだっけ?」
「そうそう、懐かし〜」
と、彼女は天井を見上げて笑った。
「私がシュヴァルツたちを探す旅をしている途中、イード砂漠で出会ったんだよね。行き倒れてさ」
そのことを思い出しながら、リサはくすくすと笑い出した。
「今にも死にそうだったから、あいつを空間転移の魔法でイデアまで連れて行ってやったんだよ」
その魔法を使うところを見てしまったので、ヴァルバはリサが伝説の一族の人間なんじゃないかと、疑ったという。
「まっ、そこまで隠しておくことじゃないから、あいつには教えたんだ」
「……だからアースとかの魔法を使うと、リサの体に障害が出るんじゃないかって心配してたんだ」
まぁね、と彼女は微笑んだ。
「それを教える代わりに、ヴァルバのことも教えてもらおうと思ったんだけど、あいつは断固として教えようとはしなかった。教えてくれたのは、自分の年齢と自分の出身地だけだった」
「……お前は、最初からあいつの年齢と出身地は知ってたんだ」
「……ゼテギネアのどこ出身なの? って聞いたら、あいつ、すごい暗い顔するんだよ。いや、暗いというより厳しい顔かな」
「厳しい……?」
「もしかしたら、嫌な想い出があるのかもね。故郷に近いところに行くことによって、その辛いものが浮かび上がってしまう……それが、きっと嫌なんだよ」
リサは小さく息を吐き、続けた。
「だけど、だからと言って、今更ゼテギネアへ行くのを止めるわけにはいかない。嫌なことがあるからって、私たちの最終的な目的は、果たさなければならない」
「……そうだな」
「今は、放っておいてやろうよ。あいつも、いい歳だ。きっと、ちゃんと心の整理をしてくれるさ」
リサは立ち上がり、棚にある飲み物を取りに行った。
心の整理、か。
自分は、リュングヴィと戦うということによって、完全に自分の考えを固めたと言える。大切な存在である空を助けるために、そして、滅ぼされそうになっているこの世界を守るために、実の弟・樹を倒さなければならない。それが、どれほど辛く、苦しいものなのか、僕は覚悟することができた。自分の未来を、自分の手で切り拓くためにも。
ヴァルバの決意とは、どういうものなんだろう? あいつが、インドラと戦う理由は、僕たちと一緒に旅をする理由は、なんなんだろう。
「……なあ、リサがあいつらと戦う理由っていうのは、どうして?」
自分と僕、2つのコーヒーを、リサは持って来てくれた。
「いきなり、どうしたの?」
ちょっと驚いた様子で、彼女はイスに座った。
「ふと、気になってさ」
「……私が、あいつらを止めたい理由……」
リサはテーブルに膝をつき、コーヒーをすすった。僕も、同じようにしてコーヒーをすすった。もう少し、砂糖を入れた方が良かったかも。
「……以前、言ったよね。私の両親は殺されたって」
リサはカップを置き、頬杖を付きながら僕を見つめた。
「……私の両親は、あいつらに殺されたんだ」
「それって……」
シュヴァルツとバルバロッサが……?
リサは答えを待たずして、小さくうなずいた。
「お父さんのお兄さんが、あの2人の父親でさ」
リサは、幼い頃の思い出を語りだした。
「あの2人は、私より10歳も年上なの。だから、もう26……27歳かな。2人は、私が小さい頃からいつも一緒に遊んでくれた。格闘術の天才だったから、森へ遊びに出かけても、不安は無かった。強かったもん」
リサの言い方には、2人のことを〈兄〉と慕っていたような雰囲気が含まれているようだった。もちろん、彼女の笑顔にも、それが含まれている。
「……生まれつき、2人は天才でさ。ラグナ格闘術の全技・全奥義を習得した。17歳くらいの頃で、すでに一族の中で1番強くなってて……」
「……ちょっと質問なんだけど、ラグナ格闘術って何?」
僕は挙手して言った。目をパチクリさせたリサは、説明していなかったことに気が付き、苦笑した。
「えっと、ラグナロク一族に伝わる護身・殺人術のことよ。武器を持たなくても、敵と戦えるようにっていうことで編み出されたものらしいけど。……体内の元素を利用して、ソリッドプロテクトとマジックシールドを一時的に強化、攻撃力・スピードを増大させて、相手を粉砕する」
殺人術……恐ろしい。たしかに、シュヴァルツのパンチは、一撃で僕のあばら骨を3本粉砕したもんな……。
「私は6割くらいしか習得できなかった。あの2人のように、体格に恵まれているわけじゃなかったし……」
と、彼女は付け加えた。6割って……十分すごいのではないだろうか。リサは女なわけだし。
「2人は魔法の鍛錬も欠かさず、双方も突出した人物になった。そして……6年前のあの日…………」
「……いい? リリーナ。あなたは、ここに隠れているのよ」
リリーナ――リサの母親は木造建築の家屋の、ある場所にリリーナを入れた。
「お母さん……でも…………」
「私たちが戻るまで、絶対に出たちゃダメよ? わかった?」
泣きそうになっている、まだ10歳の少女の頭を、母親は優しく撫でた。
「大丈夫……。始祖サリア様が私たちを御守りしてくれるから……ね? 心配しないでいいんだから」
母親は優しく微笑みかけた。自分の不安に気付かれないよう、娘を安心させるために。
「……うん」
リリーナは涙を拭きながらうなずいた。それを確認すると、母親はリリーナがいる箱にふたを置いた。そして炎が上がる外を睨み、走って行った。
リリーナは何が起こっているのか、少しだけわかっていた。
10分……いや、まだそこまで経っていない。ほんの数分前に、誰かの叫び声が響き渡った。それを聞き、リリーナの父親は厳しい顔をしながら外へ出て行った。何が起こっているのかわからないリリーナと、彼女の母親はある言葉を耳にする。
「シュヴァルツとバルバロッサが……!!」
男性の大声が轟いた。そして、2人は悟った。「この騒ぎの原因は、あの2人……」と。リリーナの母親はさっきの叫び声のこともあり、2人が何をしたのかを悟った。だが、リリーナだけはまだその2人が何かをしたという、漠然としたことしかわかっていなかった。いや、わかっていながらも、それを実際に見たわけではないから、違うのかもしれないと、自分に言い聞かせていたのだ。
再び、誰かの叫び声が木霊した。それを聞き、リリーナの母親は彼女を隠れさせ、外へと向かったのだ。
暗い、大きな箱の中でリリーナは険しい顔をしながら、プルプルと震えていた。
なぜか怖い。どうしてかわからないけれど、恐ろしさが体に巻きついている。その恐ろしさに連動して、原因不明の寒さも感じる。
「ギャアアァァァァ!!!!」
断末魔の叫びが、この村落を覆う。否応にも、それはリリーナの耳に届いてしまう。
リリーナはカタカタと、地震の初期微動によって震える家屋のようになってしまった。先ほどの断末魔の叫び声により、彼女を覆っている恐怖と寒さが増してきたからだ。
再び、誰かの叫び声が耳に入ってきた。リリーナはいよいよ怖くなり、耳をふさいで、怖い何かが起こっていることを忘れるために、今日のことを思い返した。
今日はお兄ちゃんたちと山へ行った。設置しておいた木の箱に、スズメが巣を作ったかどうかを確かめるためだ。1週間ほど前に自分で木の箱を作り、お兄ちゃんたちに 肩車をしてもらい、木の上部にそれを付けた。木の箱には穴が開いており、スズメが入れるようにしている。この季節は、スズメや他の鳥たちが寒い地域からやってくる。リリーナは今か今かと、スズメが巣を作るのを待ちわびたが、今日見てみてもスズメは来ていなかった。
バルバロッサは、落ち込むリリーナの頭を優しく撫でてくれた。
「そのうち、来るって。せやから、泣きそうな顔すんな」
「こういうのは、気長に待たんとな。リリーナ、忍耐が大事やで」
シュヴァルツはそう言うと、バルバロッサと共に笑顔を向けてくれた。その笑顔に、リリーナもつられて笑顔になってしまった。この2人の笑顔には、他人を惹き付ける。一つのパーソナリティなのかもしれない。
それから、リヴェル川へ行って……
ドゴォォォ
炎が爆発する音により、リリーナは記憶の中から現実へ戻ってきた。そして、家屋が崩れていく音もそれに続いて響いてきた。
何が起きているのだろう。
小さな好奇心が、リリーナの心の中にできた。
外で、何が起きているのだろう。お兄ちゃんたちが何かをしたのだろうか。あるいは、火事でも起きたのだろうか。窓から見えた外には、闇夜を照らす真っ赤な炎がメラメラと揺れ動いていた。
「帰ってくるまで、絶対に出ちゃダメよ?」
好奇心の裏側で、母が言った言葉が脳裏に浮かぶ。帰ってくるまで……? それは、いつまでなのだろう。もし、明日まで帰ってこないとしたら、ずっとこの狭い箱の中にいなければならないのだろうか。
それは嫌だった。暖かいベッドで眠りたいし、トイレにも行きたい。何より、外で何が起きているのかを……知りたい。
リリーナは、音を立てないようにゆっくりとふたを開けた。真っ暗だった箱の中に、赤みがかった光が少しだけ注いできた。恐る恐る、顔を覗かせる。窓の外に大きな火柱たちが昇っていた。
箱から右足を出し、次に左足を出し、辺りを見渡す。いつもの自宅。けれど、お父さんもお母さんもいない。
外から人が騒いでいるような声が、ほんの少しだけ聞こえてくる。時に、爆音が耳を襲ってくる。……爆弾でも使っているのだろうか。
恐怖と好奇心が交叉しながら、リリーナは足を進ませた。一歩一歩進むたびに、木造の床がギシギシと、音を立てる。
出入り口である扉までまで辿り着き、リリーナは息を呑んだ。心臓の音が聞こえる。心拍数が高い。
怖い。怖いけれど……好奇心がそれを乗り越えている。
リリーナは、扉をゆっくりと開けた。
扉を開けた瞬間、熱波が襲って来た。火傷をするほどではないが、息苦しいくらいだった。
口に手を当て、煙たさを減少させながら辺りを見渡す。自分の家の周りにある家は、ほとんどが崩壊している。崩壊しているガラクタの中で、炎が猛威を振るっていた。パキパキと、木が焼かれる音が聞こえてくる。すでに黒く焦げ、炭となっているものもあった。
「がぁぁーー!!」
「キャアァァァ!!」
男性と、女性の叫び声が聞こえた。リリーナは、声が聞こえた方向に顔を向けた。
あっちは、長老……おじいちゃんの家だ。
リリーナは走り出したかった。けれど、そんな勇気は無かった。やっぱり、怖い。この闇夜とそれを焦がさんばかりの炎たち。そして誰かの叫び声。何が起きているのか、幼いリリーナでは分かるはずもない。そのために、わからないことによる恐怖心が出てくる。だが、それと同時に好奇心が湧いてくる。
大きく息を吐き、リリーナはおじいちゃんの家へと向かった。普通に歩く速さで。
おじいちゃんの家も他の家と同じように、炎が包み込んでいた。その炎の前で、何人かの人影が見えた。素早く、動いている。誰だろう……。
ゆっくりと、足を進ませ、そこにいるのが誰なのか、リリーナは理解した。
―――お兄ちゃんだ。
それに、お父さんと伯父さんがいた。何かを叫びながら、4人は動き回っていた。その周りに、何かが倒れているのが見えた。顔をこっちに向けていないし、少し暗いために、誰かわからない。だけど、わかったことがあった。
その人たちの周りに、血が流れていた。
――リリーナは、そこで何が起きているのか、少しずつ理解し始めていた。
……お母さん?
リリーナは、倒れている中の一人の服装を見て、わかった。あれは、私のお母さんだ。
どうして?
どうして、血を流しているの?
リリーナにはわからなかった。だけど、早く行かなくちゃということはわかった。疑念と恐怖で震える足を動かし、倒れている母の元へと駆け寄る。
「お母さん!」
母を呼びながら、リリーナはかがんだ。
「お母さん! お母さん!」
と、何度も母を呼ぶ。そして、ようやく母は目を開け、リリーナの顔を見た。
「リリーナ………どうして……待っていなさいって…………言った……じゃない…………」
母の言葉は切れ切れだった。口から血が垂れていた。今、気が付いた。母の体には、多くの傷があったのだ。服は裂け、皮膚も裂け、真っ赤な血が流れていた。誰がこんなことを……。
だが、自分の周りの様子を理解すれば、容易にわかることだった。
「早、く………逃げ……て…………!」
「でも、お母さん、傷がひどいよ! 早く、手当てをしないと!」
リリーナは辺り見渡した。その時、目に入ってしまった。
「死ねぇ! 獣牙閃!!」
お兄ちゃん――シュヴァルツの声が聞こえた。そして、その拳が――誰かを貫いた。
「が……は……っ!!」
体を貫かれたのは、父だった。シュヴァルツの左腕が、父の胴体を貫いていた。
「一瞬の油断が命取りやったなぁ!!」
「グッ………シュヴァル、ツ……!」
父の体から、ゆっくりとシュヴァルツの腕が抜かれた。せきを切ったかのように、父の腹部から、大量の血液が流れ出た。
お父……さん……。
「レオン!! ……シュヴァルツ、貴様ぁ!!」
伯父がそこへ行こうとした。しかし、その前にバルバロッサが立ちはだかった。
「行かすかぁ!!」
「クッ……!」
伯父――ヴァロンは、右手を引いた。
「大地を駆ける、魔狼の咆哮! 奥義、魔翔爆霊波!!」
ヴァロンの手から繰り出された、いくつもの真っ黒な衝撃波がバルバロッサを襲う。しかし、それを彼は瞬間移動のような動きで避け、伯父の背後に回った。
「なっ……!」
「天空に浮かぶ、死の星よ――その軌跡を刻め! 奥義、死天滅影閃!!」
バルバロッサは素早い連撃を繰り出し、ヴァロンを襲った。軽く当てただけなのに、彼の体中の穴という穴から、まるで火山が噴火するかのように血が噴き出した。
「あ……が…………!」
伯父はそのまま、地面へ倒れた。そして、まったく動かなくなった。
「……最強のラグナロク戦士、か。所詮、雑魚やったか」
バルバロッサは吐き捨てるように言った。
「兄上……!!」
体を貫かれた父は朦朧とする意識の中、ヴァロンを呼んだ。
「バルバロッサ……貴様ら、己の父を殺すとは……! それでも、誇り高きラグナロクの戦士か……!!」
父の言葉に、2人は笑い出した。
「何が誇り高きラグナロクの戦士やねん。反吐が出るわ」
「……その口を、命もろとも潰してくれるわぃ!!」
シュヴァルツはもう片方の拳に、光を集結させた。
「神に抗いし愚かな魂よ、今こそ混沌の夢を希わん! 塵になれ! パニッシュ!!」
放たれた光は、父の体を覆った。
「グアアァァーー!!!」
光は父を貫き、巨大な発光を引き起こし、消えた。父と共に。
「お父さん!!」
リリーナは、気付かぬうちに叫んでいた。
少女の声に、シュヴァルツとバルバロッサは、ゆっくりと彼女の方向へ顔を向けた。
「……リリーナ……」
2人は、少しだけ驚いた顔をしていた。そして、シュヴァルツがゆっくりと、近付いてきた。腕に、父の血を付けたままで。
リリーナは、震えたまま動くことができなかった。いつもの2人ならば、すぐに名前を呼ぶ。だが、今は雰囲気がまったく違う。
この惨状は……お兄ちゃんたちがやったことなんだ。おじいちゃんも、お父さんやお母さんも、伯父さんたちも、この村の人たちも。
「…………」
シュヴァルツは無口なまま、リリーナに近付いてゆく。恐ろしさのあまり、リリーナは今にも泣き出してしまいそうだった。
その様子に気が付いたリリーナの母親は、傷付いた体に鞭を打ち、リリーナの前に両手を広げて立ちはだかった。
「シュヴァルツ……!」
シュヴァルツはリリーナの母の前に立ち、2人を見下ろした。シュヴァルツは、190cmを超える巨漢である。燃え上がる家屋を背にしてたつ彼の姿から、強大な威圧感と恐怖が流れてきた。
「お願い……! この子は……この子だけは……! 私の、代わりに……」
リリーナの母親は絶え絶えの声で言うと、両手で娘を抱きしめた。体を張って、守ろうとしているのだ。それを見ても、シュヴァルツは何も言わない。口を開かず、ただ2人を見つめていた。そして、ようやく瞬きをして口を開いた。
「……叔母上、ワイらのここでの目的は、終わった。聖杯は……手に入れた」
リリーナの母親は何も言わず、彼を睨みつけていた。
「……リリーナに危害を加える気は、あらへん」
「なら……この子を逃がして。私を…………殺してもいいから…………!!」
リリーナは今にも泣き出しそうだった。けど、泣けれなかった。理由はわからない。ただただ、母の温もりが心地よかった。
「……瀕死の相手を嬲り殺すほど、ワイらは残酷やない」
「これだけのことを……して……おきながら、残酷じゃ……ないですって……!?」
母は怒りで大きく震えていた。今にも、彼に飛び掛りそうだった。
「んなことは、どうでもええ」
シュヴァルツは、手をかざした。
「シュヴァルツ、何するつもりや!?」
バルバロッサが叫ぶ。リリーナの母親は、娘を抱きしめる力をもっと強くした。娘が、離れないようにしようと。危害を加えられまいと。
「……殺すわけやない……」
シュヴァルツがかざした掌に、緑色の光たちがこぞって集まってくる。
「……深淵に眠りし、妖精の歌声……我が祈りとなり、次元の狭間を彷徨う哀れな魂を導き給え…………遥かなる空の果てへ――リ・アース」
シュヴァルツの掌から放たれた光は、2人を包み出した。
「お兄……ちゃん……………」
リリーナは光に包まれ、視界から消えようとしているシュヴァルツを呼んだ。
「……リリーナ…………さよならや。元気でな……」
シュヴァルツの顔は、切なさを伴ったものだった。リリーナの瞳に、その顔がしっかりと焼きついた。
緑の光はいっそう力を増し、2人を完全に包み、そのまま天空へと上り始め、大きな発光を放ち、どこかへ消えていった。
「………………」
シュヴァルツは、上空を長い間、見つめていた。
「……行くで。もう、聖杯は手に入れたんやからな」
「…………わーっとる」
「……………」
リサの目には、薄っすらと涙が浮かんでいた。
「それで……リサのお母さんは?」
「……飛ばされた場所で、すぐに死んじゃった。たぶん、空間転移の魔法に肉体が耐えられなかったんだと思う」
リサは、ルテティアの中東部にある山に飛ばされていたらしい。母の遺言で、王都へと向かうことにした。行くまでの間に獣に襲われたり、崖から落ちたりと、ひどい怪我をしてしまった。だから以前、宰相のレオポルトさんはやって来たリサの体には、ひどい傷があったと言っていたんだ。
「……そして、私はあの2人への……復讐を誓った」
コーヒーをテーブルに置き、リサは言った。
「一族のみんなは……全員、あの2人に殺された。聖杯を奪うため……自分たちの仇となる者たちを予め……」
同じ一族ならば、自分たちの能力に匹敵するやもしれない。危険な因子を、早々に潰しておいたってことか……。
「聖杯は……お前たちのところにあったのか?」
そう訊ねると、彼女は小さくうなずいた。
「……ラグナロクが世俗から離れ、二千年もの長い間、隠れるように住んでいたのは……聖杯グラールを隠し守るため……」
一族の中から裏切り者が現れるとは、誰も予想だにしなかったと……リサは付け加えた。それと同時に、彼女は歯を食いしばった。
「あの2人は、絶対に許さない! 私の運命を捻じ曲げ、関係の無い人たちの命をも奪う、あの2人を……!」
握り締める拳に、リサは力を入れた。
「……リサは、復讐のために今まで戦ってきたのか?」
僕は落ち着いた声で訊ねた。
「……最初は、そうだった。憎しみだけが、私を突き動かした。壊滅させられた故郷にあった、格闘術の書物を死ぬほど読んで、必死に習得した。魔法も禁呪も……聖魔術も、覚えた」
ラグナロクでは、女性はラグナ流格闘術は習得してはならないらしい。体内元素を無理やり肉体に付加するため、体をかなり酷使してしまう。それを、リサは憎しみという力を借りて、乗り越えた。
「……だけど」
リサの声は震えていた。さっきまでの怒りはどこにいったのか、いつの間にか彼女は辛い表情だった。
「本当は、憎んでなんかいない。憎んでなんか、ないんだ」
顔を振るリサ。それと同時に、後ろで結っている金髪の髪が揺れ動く。
「私にとっては……優しくて、頼りになる兄のような存在だった。小さい頃から私の面倒を見てくれて、遊び相手になってくれて、山で迷った時にも……日が暮れるまで、私を探してくれた。帰る時には、いつも肩車をしてくれてさ……」
想い出を語る時はうれしくも、やはり辛いのか……声を震わしている。
「だから……あの2人がどんなことをしても、憎めない。でも、2人がしてきたことは、許されることじゃない。あんたの弟を唆したのも、きっと2人の仕業だ。空ちゃんをさらい、あんなふうにしたのも、アンナのお姉さんを殺したのも、あの2人なんだ。レンドの仲間だったブリアンを殺したのも、2人だ。みんなは、あの2人を憎んでる。だから、私だけがあの2人を憎まないわけにはいかない。優しいころの面影をいつまでも追いかけては……2人を倒せない」
俯いたまま、彼女はテーブルを叩いた。
「憎まなきゃ! 憎まなきゃならないの! じゃないと、私は戦えない……。お母さんやお父さん……一族のみんなに、申し訳ない……」
そして、テーブルに彼女の涙が落ちて行った。
憎めないと、戦えない。いや、リサの場合はそうじゃない。
幼い頃、自分の兄同然だった2人が、その幻影を残して各地で暗躍していた。多くの命も奪った。この世界を危険にさらしているのも、あの2人が原因だ。
僕も、2人を許すことができない。けど……
「……シュヴァルツとバルバロッサにも、信念があるんだよ。僕たちと同じように」
「信念……?」
彼女は顔を上げた。まだ、そのほほに涙が残っている。
「……あいつらは、言っていたよな。〈遥かなる未来に、この星は人間によって滅ぼされる〉って。あいつらは、何らかの方法でこの星の未来を知って、滅亡の未来から救おうとしている。それが、どんな方法だとしても」
「…………」
「だから、僕たちはあいつらと闘う前に、話をちゃんと聞かないといけないんだ」
「……?」
いつもの強い少女ではなく、まるで……泣きじゃくった後の空や海のように、リサは僕を見つめる。
「あいつらが世界中の命を滅ぼすという、とんでもないことをしようとするには、それを決心した理由がある。〈滅亡の未来〉をどうして知ったのか。どうして、他の方法を選ばなかったのか。僕たちは、闘う前にそれを確かめなくちゃならない。それを……僕たちは知る権利がある。もしかしたら…………本当に、もしかしたら、僕たちは分かり合えるかもしれないしさ」
小さい希望。絶対に分かり合えないのかもしれない。けど、リサの話を聞くにシュヴァルツとバルバロッサは昔から、残酷な人間じゃなかった。樹も、残酷な奴ではなかった。3人とも、むしろ優しかった。人を思いやれる人間だったんだ。それがああいった理想に繋がるには、〈星を救いたい〉ということ以上に、何かがあるはず。
僕は、知りたい。
「……憎まないといけないみたいに言うなよ」
僕は微笑んだ。
「お前が戦う理由……それは、2人を止めたいってこと。それでいいじゃないか。大切な人が間違ったことをしていると思ったのなら……止めなきゃ」
「空……」
それは、自分にも言えることだ。
「……じゃあ、私は……2人を憎まなくても、いいのかな……?」
「ああ。きっと、ね。シュヴァルツとバルバロッサが、リサにとって大事な存在だったなら……」
「…………」
大事な人が、大事な人を殺した。でも、憎めない。だけど、憎まないと戦えない。きっと、リサはそうやって悩みながら、2人を探したんだろう。そして、ようやく見つけて………どうすればいいのか、またわからなくなっていったんだ。
「ありがとう……空……」
「ハハ、らしくないな」
「……そうだね」
と、彼女はまぶたに付いた雫を手で拭い、笑顔になった。
人が生きていくのに、何らかの糧となるものがある。誰かと一緒にいたい、誰かを守りたい、世界が好き、世界が憎い……。
糧は、千差万別。考え方も、千差万別。
きっと、ヴァルバにもあるんだろう。僕たちと一緒に旅をする、理由。奴らを止めようとする、その決意が……。
だが、物語の中には嫌なことが起きる。
それは、きっと良いことよりも多い。
できればそこから逃げたい。けど、現実がそれを許してはくれない。
運命に抗う――
答えは、必ずしも期待するものではない。