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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆3部:記憶を求めて
41/149

34章:ユートピア 聖なる血脈、我らが主の誓約



「……ラ、ソラ………」


 どこからか声が聞こえる。もしかしたら、僕を呼ぶ『あの声』だろうか。

「ソラ……ソラ……」

 いや、違う。あの感じじゃない。男性の声だが、あれよりも暖かい感じがする。

「ソラ……私の声が聞こえるか……」

 この、声は……


「……クロ、ノス……さん……?」


「私がわかるか?」

 僕はゆっくりと目を開いた。そこには、ジニーまで案内してくれたあのクロノスさんの顔があった。

「ど、うして……うっ!」

 その瞬間、体中から痛みを感じた。頭もガンガン叩かれているかのような痛みを感じる。どうやら、木にぶつかって気を失った後、さらに転げてあちこちをぶつけてしまったのだろう。

「待て、動くな。打撲がひどい。今、治癒術をかけてやる」

「治癒、術……?」

 口がうまく動かない。出血をして気を失い、しかもこの寒さだ。体が凍りついたかのようだ。


「命の言霊、光の恩恵に――ヒール」


 クロノスさんは僕の腹の部分に手をかざすと、治癒術を行った。その掌から淡く、白い半透明な光が出てきた。

 ……暖かい。以前、ルテティアで治癒魔法をかけてもらったが、あの時よりも効果が高い気がする。痛みがどんどん引いていっている。

「……よし、このくらいでいいだろう」

 クロノスさんは手を閉じ、静かに息を吐いた。まだ、少しだけ痛みは残っているけど……すごい、体はあっという間に動くようになってる。

「大丈夫か?」

「……あ、はい。おかげさまで」

 僕はペコリと一礼した。クロノスさんはフッと微笑み、辺りを見渡した。

「どうやら、君は妖精たちを探しているようだね」

「……どうしてわかったんですか?」

「この森に来るということは、彼らに用事があるということだろう? そもそも、このような森には用事がないと来ないしね」

 クロノスさんはチラッと木から落ちてきた雪を見た。

「まさか……いるんですか? 妖精って」

「彼らを妖精と呼ぶならそうなのだろうな」

「???」

 僕は頭をかしげた。

「……彼らは、君たちが妖精と呼ぶから妖精と呼ばれるのだ。そうだろ?」

「はぁ……まぁ、たしかに」

 すると、クロノスさんは僕に背を向け、前方に歩き出した。

「あの、クロノスさん……どこに行くんですか?」

 僕は立ち上がりながら訊ねた。

「君も、彼らに用事があるのだろう?」

「そうですけど、君もって……?」

「以前、私が言っていた友人とは、彼らのことなのだよ」

 たしかに、ジニーでの別れ際、クロノスさんはそう言っていた。


「ついでだ。案内しよう」


「ほ、本当ですか!?」

 僕はすごくうれしくなった。いるはずがないと思っていた、妖精がいる場所へ連れて行ってくれるのだから。まぁ、多少なりとも疑念はあるのだが……うーん、なぜかこの人は嘘を付いていない気がするんだよな。直感的に……?

 僕はクロノスさんの後を付いて行った。数メートルほど歩いていると、だんだん辺りの霧が濃くなっている感じがした。いや、気のせいじゃない。濃くなってきている。

「あの……霧が濃くなってきていませんか?」

「そのようだな。だが、この霧が彼らの住まう場所があるという印なのだ」

「そうなんですか?」

 アレンの言っていた通りだな。というか、霧の奥にいるというのが正しいなんて、なんか拍子抜け。

「……そろそろだ」

 いっそうと霧が濃くなったところで、クロノスさんは言った。少しずつ先へと足を進めると、辺りが見えなくなってしまった。淡い光が、僕を包みだした。

 ……あれ……この感じ、いつか感じた記憶がある。

 どこだったっけ……思い出せない。

 そうこうしている間に、シュレジエンの寒さを感じなくなってきた。代わりに、ほのかな草の香りが漂ってきた。



「着いたぞ」

 僕は辺りを見渡した。すると、さっきまでも濃霧が、潮が引くかのように消えていき、今度は緑色の雑草が生い茂る大地が目の前に広がった。

「……おおおぉぉ……」

 思わず、声が漏れた。それほど、美しかったんだ。ここまできれいな緑の草原を、僕は産まれてこのかた見たことない。こんな草原が、存在するなんて思わなかった。風に撫でられ、小さく揺ら揺らと動く、緑色の波。その一つ一つが、人10人分、いや100人分の心を奪うだろう。



「あ、人だ」



 後ろから、子供の声が聞こえた。僕は反射ですぐさま振り返った。すると、そこには小さな妖精…………妖精!?

「おーい、人だ、人が来たぞぉ」

 妖精が大きな声で言うと、どこにいたのか、何人(匹?)もの妖精たちがわらわらと僕たちの周りに集まってきた。

目をこすり、もう一度よく見ると、妖精は掌サイズの小さな体で、人間と同じ四肢と頭を持っている。もちろん、髪も生えている。耳は尖がってて、背中には薄い色をした透明な羽があった。しかも、その羽の色はみんな違う。赤だったり黄色だったり。だが、どれもが透けている。

「人だ。珍しいな、人が来るなんて。何年ぶりだ?」

 フワフワと浮いた、薄紫色の羽を持つ妖精が言った。

「知らなーい。ていうか、人が来たことあるの?」

「ややや、最近来なかったっけ? 妙に髪の長い女っぺーとか」

 ガヤガヤと、辺りが騒がしくなってきた。なんだか、人間の野次馬集団みたいだ。


「あ――!! クロノスじゃんか!」


 一人の妖精が飛び上がり、クロノスさんを名指しした。

「ホントだ! クロノスだ!!」

 波紋が広がるかのように、僕たちを囲んでいた妖精たちが「クロノスだ!」と言い始めた。う、うるせぇ……。

「おーい、クロノス! ミリアに用事があるんだろ!?」

 薄き緑色の羽をした妖精が言った。

「ああ、そうだ。呼んでくれないか?」

「オッケー!」

 すると、その妖精はピュ―ンとどこかに飛んで行ってしまった。妖精が多すぎて、その妖精がどこに行ったのかわからない。というか、多すぎだよ。だって草原が見えないからな……。

 1分も経たないうちに、妖精が帰ってきた。すると、大きな妖精が上からさっそうと現れた。ピンク色の半透明な羽を持ち、他の妖精に比べるととんでもなく大きい。とは言え、アンナより20センチくらい低いくらいだが。大きな目に翡翠色の瞳をしていて、服を着てない女の姿……う、目のやり場に困る。僕はとっさに、目線を斜め下に逸らし、口元を右手で覆った。

「よぉ、クロノス。遅かったな」

「ああ、すまないな」

「……ん? こいつ、人間か?」

 ミリアという妖精は、僕を指差した。

「ああ、そうだ」

「どうしてここに入れたんだ? ただの人間はここには入れないんだぞ」

 と、僕の目の前に顔を出して言った。入れないんだぞって言われても……僕が分かるわけないだろ。

「……ふーん、なるほど。そういうことか」

「…………?」

 ミリアは勝手に納得し始めた。僕を下から上まで、じろ〜っと見る。

「これは珍しいな。『純血』じゃないか。だろ? クロノス」

「そのようだな」

 と、クロノスさんは小さくうなずいた。

「……あんた、知ってただろ?」

 ミリアは不敵な笑みを浮かべた。僕は二人が妙に納得し合っているのに対し、苛立ちを覚えた。

「なんだよ、教えてなかったのかよ?」

「私が教えることのほどでもあるまい」

 と、クロノスさんは逃げた。

「な、なんなんだよ? 僕について……何か知っているのか?」

 僕は目線を元に戻した。……が、やはりミリアを直視できない。

「あんた……何も知らないの? 何も知らないでここまで来たっての?」

「……知らないのは関係ないだろ」

「関係あるよ。自分のことだろ!?」

 そう言って、ミリアは僕に顔を近づけた。だから……近づくなっての!

「と、ともかく、どういうことなんだ? 教えてくれよ」

 僕は顔を赤くしながら、視線を上空に変えた。ええぃくそ! これでは僕が馬鹿みたいじゃないか!

「……いいの? クロノス」

 彼女は横にいるクロノスさんに目をやった。

「いいと思うよ。知るも知らぬも、全ては彼自身だ。その時が来れば、自ずと知ることになる」

 クロノスさんは腕組をして言った。

「じゃあ、今が知るべき時ってこと? 私が教えるこの時が、その時なのかい?」

「さあな」

 クロノスさんは腕を組み、顔を小さく振った。

「ふん、相変わらずだな……あんたのその性格!」

 クロノスさんの態度に、ミリアはイライラしている。

「……お、おい。結局僕は一体――」

 僕がそう言い掛けると、ミリアはキッと僕を睨んだ。

「うるさいなー! 静かに待ってろ。後でちゃんと教えてあげるからさ」

「あぁ!? んだよそりゃ! いいから教えてくれよ! 僕は自分のことが知りたいから、ここまで来たんだ!」

 妖精の森に来たのはそういう理由ではないが、シュレジエンに来たのはそれが理由だったから。

 ミリアは僕の気迫に、少し押されていた。

「……わ、わかったよ」

 ミリアは頭をかきながら言った。どことなく、めんどくさそうに見えた。

「まずは、この場所から説明するよ」

「はぁ? なんでここの? 僕のことから……」

 その瞬間、僕はミリアに顔を蹴られた。というより、空中に舞った彼女の足の裏が顔面に直撃。

「そこから説明しないといけないの!」

 何がいけないのか、わかんねぇっての。横で、クロノスさんがクスクス笑っている。


「オホン。この場所はあんたたち人間によって、妖精と呼ばれている者たちが住んでいる場所。ここはもっと別の次元に存在する空間だったんだ。それが、一つの世界が2つに分かれた時、非常に不安定な時空間が生じちゃって、そこにここは引き込まれた。そして、この場所は2つの世界の間に位置することになったの」

 ミリアは人差し指を立てて説明し始めた。

「ちょ、ちょっと待った!」

 僕はどすこい、みたいに手を出した。

「んぁ? 何よ?」

「世界は元々一つってのは……本当なのか?」

 ラーナ様から聞いてはいたが、あくまで後世の人々の考え。正しいかどうかはわからない。


「……そう、世界は一つだった。遥か古まではね……」


 ミリアはどこか哀しげに、横目でクロノスさんを見た。

 そうか……だから、植物やら食いもんやらは同じだったんだ。それで納得。

「んで? ここのことは理解できた?」

「……狭間の世界、ってことなのか?」

「簡単に言えばね。でも、ちゃんとした名前があるのよ? 『ユートピア』っていうんだからね。覚えておきなさいよぉ?」

「はぁ……」

 なんじゃそら……。ミリアは一息ついて、説明を再開した。

「2つの世界が分かれてしまった後、時空の歪みから生じた穴……ワームホールっていうものが両世界にあって、そこから2つの世界は繋がってる。そして、ここにも繋がってるの。あんたたちがレイディアントと呼んでいる世界のワームホールは、あの森ってわけ」

「なるほど」

 じゃあ、ガイアのワームホールは、あの山ということか。なぜか扉だったが。

「んで、ワームホールに入ると、体を構成する分子と元素……つまりエレメンタルが分離する。普通の人間なら分離した後、不安定な場所であるここでは再構築されないの。再構築されないまま、もう一つの世界に行っちゃうのさ」

「つまり、ワームホールに入っても、普通の人間ならここを知らぬ間に通り過ぎて、もう一つの世界似に行っちゃうってことか?」

「そゆこと」

 ミリアはグッと親指を突きたてた。

「でも、例外もある。普通の人間は、分子とエレメンタルの割合が6:4なの。ガイアの人間に至っては、元素なんて存在しない。けど、中にはその逆もいるのさ。体のほとんどがエレメンタルだけで構成されている人間は、ここを通り過ぎるんじゃなく、再構築される。今のあんたやクロノスのようにね」

「じゃあ僕は……ほとんどエレメンタルでできてんのか?」

「ほとんどつっても、3:7くらいだけどね」

 知らなかった。……待てよ、たしか……ガイアの人間はエレメンタルを持っていなかったはず。じゃあ…僕はレイディアントの人間……?

「もう、ほとんどいないはずなんだけどね。クロノス以外でここに来た人間は、リサくらいだよ」

「リ、リサ!? リサも!?」

「何、あんた知り合いだったの?」

「あ、ああ……」

 あいつも、僕と同じような存在ということか……。

「……どういった人間が、ここに入れるんだ?」

 そう問うと、彼女は人差し指を自分の顎に当て、上空を見つめたへの字に曲がった唇が子供っぽい。

「んーと、簡単に言えば……潜在エレメンタルをたくさん持ってるやつだよ。ホラ、あんたたちが〈永遠の巫女〉と呼んでる人間とかもだよ。あんたは違うけど」

「永遠の巫女……?」

 空もか……。ん? ということは、もしかして……。


「な、なぁ……リサも、巫女なのか?」


「そうだよ。知らなかった?」

 そうか、そうなのか……。あいつの、強大な魔力。巫女の伝説と同じだもんな。

「じゃあ、僕はなんなんだ? 巫女でもないのに、どうして?」


「そうだね。……ん〜〜……」


 ミリアは僕の体を上から下へと、ゆっくりと見始めた。考える眼球が、上下に動いている。

「……わかんない」

「はっ?」

 ミリアは顔をブンブン振りまわした。

「わかんないよ。あんたみたいなタイプ、初めて見たんだもん!」

「……なんじゃそりゃ……」

 結局、わかったのは小さいことだけじゃないか。聖魔の力のこととか、知ることができると思ったのに。


「だけど、あんた……教皇に似てるね」


「教皇……?」

「うん。エレメンタルが同じなんだよ、その一族と」

「教皇の一族? どういったエレメンタルなんだ?」

「……言っていいのかな?」

 ミリアは困った顔をクロノスさんに向けた。クロノスさんは目を閉じ、何の反応も示さなかった。

「ミリア、教えてくれ!」

 僕は彼女にずいと詰め寄った。ここまで来て、話さないってのは生き地獄にも等しい!!

「ん〜〜、わかったよ。でも、気を悪くしないでよ?」

 僕はうなずいた。つばを飲む音が聞けてきた。


「あんたのエレメンタルは……『創造と破壊』――有と無、正と奇。……あんたたちの世界の言葉で言えば、『聖魔』と言うのかな」


「それって……」

 いつか聴こえた〈声〉と、ラーナ様が言っていたものと同じだ。

「一つのエレメンタルの中に、相反する二つの属性を持つ特殊なものだよ。これは代々教皇家にしか現れないんだけどね」

「教皇家……?」

 僕とどういう関係があるんだ? だって、僕は……ガイアで育ったのだし。いや、もしかしたら……。


「……創造と破壊は常に同じ。破壊は創造、創造は破壊。2つは表裏一体。カードの表と裏。どう使うかは、自分次第なのだよ」


 クロノスさんが、閉ざしていた口を開いて言った。

「ソラ、君が憎しみや破壊衝動に囚われれば、破壊の面が出るだろう。逆も然り、だがな」

「…………」

 ラーナ様が言っていた、〈聖魔の神剣〉が現す、2つの側面。それに、創造と破壊は表裏一体。ということは、やはり〈リュングヴィ〉とも……。

「一つ訊いてもいいかな?」

 俯いていた僕に、クロノスさんが不意に問いかけた。

「君は、どうしたいのだ?」

「えっ?」

 言葉の意味がわからず、僕は当惑した。

「君は、自分のことが知りたくてここに来たと言った」

 たしかに、そう言ったけど……。

「真実を知って、君はどうしたいのだ?」

 真実? 僕は数度瞬きをした。


「自分のことを知って、何をやりたいというのだ? 君にはないのか? その『答』が」


「…………」

 僕は、自分を知ってどうしようとしたのか。この世界に来たのは、空を救うため。けど、自分を知ることは……。


「君は、一度ガイアに戻ったほうがよいだろう。帰れば、君の道が見付かるかもしれない」


「……え?」

 僕は度肝を抜かれた。……帰る? ガイアに?

「君が知りたい〈真実〉のいくらかは、あそこにあるやも知れぬ。ここで知るより、そこで知った方が君のためにもなるだろう」

「……自分を知ることに……」

 追い求めてきたもの。自分は何なのか。何者なのか。

「……でも、帰れるんですか? リサは二度と帰れないみたいなことを言ってましたけど……」


「それは嘘だ」


「嘘?」

 僕は肩を落とした。ショックと言うより、気が抜けて。

 リサは、嘘を言っていたんだ。もしや、あいつは僕の決心を鈍らせないためにあえて嘘をついたのだろうか。……考えられる。あいつは、そういう奴だ。そこまでの決心がないと、インドラと戦うことなんてできない。

「ここは二つの世界の狭間。レイディアントからここに繋がっているように、ガイアもここに繋がっている。ユートピアならば、どちらの世界にも行くことができるのだよ」

「……なるほど」

 たしかにその通りだ。そもそも、ガイアからは行けたのにレイディアントからじゃあ行けなくなるってのはおかしな話だもんな。よくよく考えればわかる話なのに、うまいこと騙されたな。

 それにしても帰れるのか……ちょっと現実味が湧かないが……。

「さて、どうするのだ?」

 考えている僕の顔を眺めながら、クロノスさんは言った。

「……僕は一度、戻りたいと思います」

 僕は顔を上げた。

「両親に訊きたいことがありますし、みんなに……伝えたいことがあるから」

 ラーナ様とお話をして、思い出したこと。大切なことを。

 クロノスさんはニッコリと微笑んだ。

「フム、わかった」

「……けどさぁ、ワームホールに入って元の世界に戻れるとしても、不安定だからどこに放出されるかわかんないよ? あんたなら知ってることだろうにさ」

「はっ?」

 やばい。日本ではなく、アメリカやアフリカに放出されたらどうしよう。それを考えると、ゾッとした。

「そこのところは大丈夫。私がワームホールを安定させる。……とは言え、長い時間ワームホールを安定させることはできないだろうな」

「というと?」

 ミリアは首をかしげた。

「私が安定させていられる時間はせいぜい48時間。最低で44時間だ。だから、44時間以内に戻ってくるならば大丈夫だ」

「44時間………か。たぶん、十分です」

 しかし、どうしてクロノスさんはそんなことができるんだろう? どうして巫女でもないのに、ここに入れたのだろう? 疑問が残る。だけど、今はそんなことは気にしていられない。

「ワームホールはあそこだ」

 クロノスさんは天を指差した。その指が指す方向に、青い渦があった。

 ……いやいや、あそこまでゆうに10メートルはあるぞ!? どうやって行くんだ?

「ぐずぐずしてないで、行くんなら早く行きなさいよ」

 ミリアは急かすように、僕のケツを蹴りやがった。

「……あのな、どうやってあそこまで行くんだよ? お前みたいに、僕は飛べるわけじゃねぇんだよ!」

 ミリアはため息をついた。ヤレヤレという顔をしやがった。む、むかつく……。

「目を閉じ、深呼吸をして、『飛べる』と連呼してみな。あんたには、そういう力が備わってんだからさ」

「はぁ? んなので空が飛べたら苦労――」

「いいからやる!!」

 再びミリアの蹴りがケツに命中。何すんだよと思いながら、性格がどことなくリサっぽいのが笑える。

 僕は言われるままに、しぶしぶ目を閉じ、深呼吸を始めた。


(僕は飛べる……飛べる、あそこまで飛べる……)


 心の中で、何度も何度も呟いた。


(飛べる、飛べる……)


 その心の声に合わせて、別の声が重なった。この声は…以前の…。


(飛べ、飛べ、僕は飛べる………)


 そして、僕は目を開き、力いっぱいジャンプをした。すると、想像を遥かに超える高さをジャンプした。あのフォルトゥナ神殿で、怪しさ満点の仮面男がジャンプした時のように。



「うっそぉ!?」



 驚いている間に、僕は青い渦へ一直線。その中へと吸い込まれるかのように。






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