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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆3部:記憶を求めて
35/149

29章:次なる目的地 シャロン=シュレジエン王国へ

「それにしても、長かったな」


 砂塵の神殿から出ると、腕組をしながら皇隆王は言った。今にも「遅すぎ」と馬鹿にしそうな雰囲気だった。

「……俺たちの傷を見て、なんか気付きませんか?」

 ヴァルバが不機嫌そうに言った。皇隆王は僕たちの体をじろじろ観察するかのように見て回った。

「ど、どうしたんですか!? その傷!」

 皇隆王の横にある小さな石に座っていたアンナが僕たちの傷に気が付き、大きな声で言った。

「おいおい、あの程度の罠でそんな大怪我するほど、お前たちはとんちんかんなのか?」

 皇隆王は笑いながら言った。

「そんなわけ無いでしょ! 僕たちは罠で怪我をしたんじゃないんです!」

「ん〜? じゃあなんなんだよ?」

 皇隆王は僕の肩の傷を見て、顔をこわばらせた。

「これは……剣や槍による切り傷か」

 さすがと言うべきか、皇隆王は簡単に悟った。

「切り傷? まさか、奴ら?」

 同じく横に侍っていたリサが言った。

「ああ。――ホリンだった」

「ホリン……あの長剣使いの男ね」

 王都でホリンと会った時、リサはいなかったが、どうやら奴のことは知っているらしい。


「ホリン……だと?」


 皇隆王が突然、気付いたかのように言った。

「陛下、知ってるんですか?」

 僕がそう訊くと、王は目を瞑った。

「そういうわけでは……いや、もしかしたら……」

 王は自問自答しながら、なかなか返答しなかった。

「もしかしたら、そのホリンという男……私の知人かもしれないと思ってね」

「知り合い……」

「いや、まだ確信はできない。まあ、そのことは王都に帰還してからちゃんと話そう。それより、例のものは見付かったか?」

 王は小さく首を振り、本題に戻した。

 例のものというのは男の強さの証、みたいなものらしい。僕はポケットの中からそれを取り出した。

「これですよね? これしかめぼしいものは無かったんですけど」

 金色に輝く、黄金の宝玉だった。これは、ホリンと戦ったあの広い広間の奥の台座の下に隠れてあった箱の中にあった。イデア王家の紋章が刻まれていたので、きっとこれだろうと思った。

「ふむ……さすがだ。よく、隠されている場所がわかったな」

 王はにこやかに言った。

「薄暗い広間の中で、小さな光が漏れていたら誰だって気付きますよ」

 大きくため息をつきながら、ヴァルバは言った。

「ハッハッハ、そりゃあたしかに。何はともあれ、これでお前たちをじじい共に会わせることができるってもんだ」

「そっか……これからおじいさんたちに認めてもらわないといけないんですね」

 アンナがうれしそうに言った。暑い中ずっと待ってたんで、少し疲れたようにも見える。

「そういうこと。よし、ルーテでゆっくりしてから王都に帰るとするか!」

 腕を空に伸ばし、王は叫んだ。なんだか、帰るのを1番喜んでいるのはこの人ではなかろうか?

「……ホント、子供みたいな王様だな」

 まだ痛みが残っている肩を抑えながら、ヴァルバは僕の耳元で小さく言った。僕は笑って応答した。


 3日後、僕たちはイデア王国の首都イデアに帰還した。なんだか、長かった……いや、ホント。それもこれも、あのホリンのせいだ。あいつにやられた傷跡が、風呂に入るたびに電撃が走っているかのようにヒリヒリするんだよ。まったく、ここ最近、いいことが無いなぁ。

 王城に入り、僕たちは皇隆王と共に大臣や重臣たちと行う会議の場である、『朝廷の間』に行った。すでに、そこには20人以上のおじいさんや、いかつい人が座っていた。ここには、一番奥の中央に国王が座る王座があり、そこを挟む形で両サイドに約10人ずつ、縦に並んでいた。入り口から右に武人のような人たち、左におじいさんたち。たぶん、王が言っていた「じじい共」というのはこの人たちのことなのだろう。

 王は王座にドスンと座ると、僕たちを手招きした。そして、右側に並ばせた。

「さて、今回は緊急の召集であるが、忙しいところ済まぬな」

 王は大きな声で言った。労いの言葉、みたいなものか。両サイドの人たちは礼儀正しく、一礼をした。

「横にいるのは、他国からの使者たちだ」

 王は僕たちを紹介した。すると、老人側の中の1人が一歩、前に出た。

「陛下、他国というとどこからですかな?」

「ん? ああ、ルテティアだ」

 王がそう言うと、辺りがざわついた。中には、眉間にしわを寄せている人もいる。

「王よ、我らの同志たちが逆賊ルシタニア家によって辱めを受けていることは、承知の上でありましょう? なのに、何故ルテティアの使者を我らに紹介するのです? 全く理解できませぬぞ」

「まあまあ、落ち着け。ルテティアからの使者っていっても、ルーファス王から直々に頼まれてきたわけではないんだ。彼らは、自分たちの意思でここまで来たのだ。ただルテティアから来たというだけで、ルシタニア家に関わる者たちではない」

 王はテキパキと答えた。なるほど、そういうふうに説明すれば、頭の固いおじいちゃんたちも納得しそうだ。

「ですが王よ、ルテティア人には変わりはないのでは? 彼らと同じ民が、我ら誇り高き砂漠の民を侮辱し続けているのですから」

 いかつい顔をしたおじいさんが言った。そこまで言われると、正直心苦しくなってくる反面、自分は何もしていないんだけどなぁと思ったり。

「まあまあ、いいじゃないか。そんな固いこと言うなよ、ジェイナー」

 本当に、王様には感じられないんだけど……大丈夫かな。ちょっと不安になって来た。

「あいつらはルシタニア家とは関係ない。ルテティアの人間でもない。何か問題でもあんのか?」

 その人の顔を覗き込むかのように、王は顔を前に出した。

「問題はないと言えばないですが……」

 おじいさんたちは口をごもごもさせていた。それを見た王は、小さく微笑んだ。

「それと、話は変わるが重要なことがある。彼らがフォルトゥナ神殿へ行った時、ある男に出会ったという」

 王はいきなり顔を真面目にした。変わり身の速さというか……なんというか。

「男、ですか?」

 ジェイナーという人が言った。

「その男、ホリンと名乗ったらしい」

 その瞬間、空気が凍りついたように感じた。少しだけ和やかに感じたこの会議の場が、『ホリン』という言葉が出たとたん、変わったのだ。

「ホ、ホリンですと!?」

「ああ。ソラ、その男の髪の色はなんだった?」

「髪の色……? たしか、黒でしたけど」

 辺りがざわついた。

「まさか、ホリンが生きていようとは……」

 意味ありげなことを誰かが言った。

「あ、あの、ホリンって……何者なんですか?」

 ヴァルバは礼儀正しく、手を上げて訊ねた。その問いに、おじいさんたちは誰が答えようかと迷っているのか、顔を見合せながら落ち着きが無くなっていた。


「……ホリンは、本名をホリン=マリクル=ディルムンと言うんだ」


 少しだけざわついた中、王が言った。

「ディルムン? どこかで聞いたような……」

 うーん、この世界に来てからいろいろな情報がありすぎて、いまいち思い出せないんだよな……。

「イデア王家の家名じゃないか!」

 ヴァルバが言った。ということは、ホリンはイデアの王族ということなのか?

「そう。ホリンは正統なる、ディルムン家に連なる剣士だったんだ。そして、俺の甥に当たる人間なんだよ」

 王は語り出した。

 ホリンは皇隆王の姉の子供らしく、現在24歳(生きていれば)だという。

「剣の腕が立ち、いずれこの国の一角を担う人物になるであろうと嘱望された。それに謙虚で、心優しく、誰よりも他人のことを考える人物だった」

 王が語るその顔は、過去を振り返り、楽しかった日々を思い出すかのようだった。

「だが6年前、ホリン公子の父……ウルク公ユンケル卿が陛下が聖なる儀式を行っている最中、暗殺しようとするという事件を起こしたのだ」

 ジェイナーおじいさん(?)が横から言い出した。

「あ……聞いたことがあるな。たしか……ウルク公が突然、叫びながら王に襲い掛かったとか」

「知っていたのか、ヴァルバ。……まぁ、全国に広がってしまった事件だったからな」

 その後、ホリンの父・ウルク公は国王暗殺未遂の罪で処刑されたのだという。

「……ホリンは最後まで、ウルク公の無実を証明しようとした。しかし、あらぬ噂が広がってしまったのだ」

「あらぬ噂?」

 僕がそう言うと、みんなが口をつぐんだ。そして、王がゆっくりと口を開いた。

「彼も……その暗殺計画に加担したと、風評が流れたんだ。もちろん、俺は信じなかった。だが……」

「彼の寝室から、計画のものであるとされる証拠などが、多数発見された。そのため、ワシたちはホリン公子の拘束に踏み切ったのだ」

 他の大臣が口にした。

「ホリンは連行されて行く最中、俺に怨みの言葉をまき散らしたよ。……まぁ、全てを決めたのは俺だったからな。あいつに怨まれるのも無理はない」

 小さくため息を漏らし、王は足を組んだ。

「その発言もあり、ホリン公子の死刑が決まった」

 ジェイナーさんが言った。

「ひどいですよ、そんなの……」

 アンナの言うとおり、傍から見ればひどい話だ。けど……。

「そうじゃな……ひどい決断じゃった。しかし、ワシらも苦渋の決断じゃったのじゃよ。多くの証拠があるのに、ホリンはそれを否定し続けた。しかし、その言葉を裏付けるものは無かったんじゃ」

 わけのわからない罪ってのはよくあることだ。誰かに陥れられたなど、真実は定かでないのだから。

「だからって、死刑なんて……」

「国王の親族だからといって、刑を軽くすることは、下々の民に示しがつかないのよ」

 リサは腕組みをしながら言った。

「そのとおり。……しかし、死刑執行当日の朝、ホリンは監獄から姿を消した。そこには、大量の血痕と怨みの言葉が印されてあったんだ。『ディルムン家に天罰を。皇隆王に、天罰を』……とね」

 嫌われたもんだ、と王は笑った。その笑いが、無理なものであることは誰にでもわかることだった。


「ホリン兄さんはそんな人じゃない!」


 突然、少女の大声が宮殿内に響いた。後ろを振り返ると、そこにはきれいな黒髪の少女が立っていた。

「ラ、ラルハ?」

 王がそう言った。黒い女性用のはかまみたいなものを着ていて、王と同じような装飾品を身に付けている。ということは、彼女が例の王女か?

「ラ、ラルハ王女、今は会議中ですぞ。入って来てはいけません」

「ホリン兄さんのことを悪く言わないで!」

 まるで駄々をこねる子供のように、王女は同じことを何度も大声で叫び続けた。

「誰か、ラルハを後宮へ!」

 王がそう叫ぶと、衛兵がどこからともなく現れ、王女を担いだ。王女は「離せぇ!!」と泣き叫びながら、担ぐ衛兵の頭やら顔やら、ぼこぼこに殴りつけた。それでも衛兵は負けず、宮殿の奥へと王女と共に消えて行った。王女の叫び声が、宮殿内に木霊した。

「すまないな……」

「いえ、いいですけど……」

 王はフーっとため息をつき、口を開いた。

「……あれは俺の一人娘でね。あいつが産まれた頃、俺は政務が忙しくてかまってやる暇が無かったんだが、それをホリンが補ってくれた。ホリンはラルハの兄のように、時には父のように、教師のように、あいつの相手をしてくれていた。だから、ラルハは誰よりもホリンになついていたんだ……」

 王はそこまで言うと、口を閉ざした。

「……さて、今日の臨時会議はこれで終了としたい」

 突然、王はそう言った。もちろん、おじいさんたちはびっくりして一斉に王の顔を見た。

「な、なぜですか? まだ、ルテティアに協力するかどうか決まっておらぬというのに……」

「まぁ、そのことは後日、話そうぜ。今回はもういいや」

 気分がわりぃし、みたいなことを付け加えた。さすがの大臣たちも、呆れつつ大声で言い始めた。

「お、王よ! 真面目に答えてください!」

「これは重大なことなのですぞ!? そんな適当なことで……」

「俺がいいって言ったらいいんだよ!」

 皇隆王は子供のように大声を上げて、そう言い切った。すると、周りの臣下の人たちが慌て始めた。

「陛下、そんな子供のようなことを仰いますな。一国の主である者がそんなことでは……」

「ああ、もう黙れ! 解散解散!! かいさーん!!」

 老人の言葉を遮り、王は言い放った。みんなはやれやれといった顔で、ぞろぞろとこの部屋から出て行ってしまった。

 残された僕たちは、同じタイミングで王の顔を見た。

「ま、いつもこんなもんだよ」

「いつもって……だったら、会議なんて必要ないのでは?」

 ヴァルバは苦笑いをしながら言った。

「そう言われてみれば、そうだな。ハッハッハ! 俺としたことが!」

 王は腕組をして、大笑いしていた。

「まあ、内緒にして事を起こすよりはマシだろ? 何にせよ、一応伝えたほうが何かといいじゃないか」

「そりゃあまぁ、そうかもしれないけど……」

 僕とアンナは顔を合わせ、苦笑いをした。

「ともかく、イデアはインドラに対処するために、諸国と話し合うことに賛成だ。それだけは、じじい共も分かってくれるからよ」

 王は微笑みながら言った。

 なんだか、達成感が沸々と湧いてきた。僕たちが、あの灼熱の砂漠を歩き、神殿で死に掛けてきたことは無駄じゃなかったんだ。…ま、割に合わないかもしれないけどさ。

「……ホリンのこと、悪く思わないでくれ。あいつが人を憎むのは、俺たちのせいだったのだから……」

「陛下……」

「そうしんみりするな、ソラ。あいつを止めるためにも、必ず我がイデアは協力する。……約束しよう」

 王はまさに、『王の顔』という顔をして言った。その言葉に偽りが無いということを、感じることができた。

「まあとにもかくにも、ようやくイデアを味方にできたね」

 リサは小さく微笑んでいた。そこには、何となく達成感を覗くことができる。

「ああ。あとは、会議の場所を作るだけだな」

「場所?」

 僕は首をかしげた。

「お前な、会議する場所っていうのは必要なんだよ。諸国の首脳たちが集まって話し合いをするんだ。それも、世界の滅亡に関わることをな。最も中立で、由緒正しき場所で、話し合いをしなければならないんだ」

「由緒正しき場所……例えば?」

 レイディアントに来て4ヶ月近く経つが、未だに2大陸の情勢というか、そういうのが把握できていない。

「ん? ん〜……そうだな。聖都ソフィアとか?」

「聖都ソフィアか。たしかに、あそこならルテティア国王もゼテギネア皇帝も納得するでしょうね。けど、皇隆王はどうかしらね〜?」

 リサは少しにやつきながら王の顔をチラッと見た。ここでOK言わないと、場の空気読めないわよ〜……みたいな目つきだな。

「……へーへ、どこへでも行ってやるさ。会議に出るって言ったんだからよ」

「フフ、お願いしますよ」

 王さえも手玉にとって……いるのかどうかわからないが、僕はここイデアに来て、リサの本性、つまり魔女の姿を垣間見た気がした。しかし、そんなことを考えた瞬間、リサの鋭い眼光が僕の額を貫いた。よし、憶測で考えるのはよそう! 自分の身の安全のために……。つか、僕が考えたことを悟ったのか? 女ってのは、妙に感がいいっていうか。



「さて、これからどうする?」

 ヴァルバが突然、言った。

「そうねぇ……あっ、そういえば大事なことを忘れてた」

 リサが「閃いたぁ!」みたいな動作をしながら言った。

「大事なこと? なんなんですか?」

「ほら、私さ、あんたたちとミレトスで別れた後、シュレジエンに行くって言ったでしょ?」

「ああ、そういえばそうだったっけ」

「で、ラーナ様に会って、あるお願いをされたのを忘れてたの!」

 リサは慌てながら言った。

「だから、なんなんだよ?」

 じれったいのが嫌いな僕にとって、「あるお願い」とかって言われると、ものすごく気になってしまう。

「ラーナ様から、ルテティア国王とソフィア教皇にあてた書状を預かってて、それを届けてねってお願いされたのよ」

「おいおい……んな大事なこと、よくもまぁ今まで忘れてたな。あんまり忘れっぽすぎると、男に嫌われるぞぉ」

 嫌味たっぷりなヴァルバのセリフが、リサの耳を通り抜けた瞬間、キッとヴァルバを睨み、ナイフを投げた。あまりの手の早さに、僕とアンナは気付かなかった。ナイフはヴァルバの顔をかすめ、後ろの壁に突き刺さった。ヴァルバは顔が凍り付いた。その額には、冷たそうな汗が……。

「あんまり余計なことを言わないほうが、女性にもてるわよ?」

 リサが恐ろしい笑顔を浮かべながら言った。

「ハ、ハ……そうします……」

 ヴァルバの顔は引きつっていた。女を怒らせると怖いことを、今まで何度も体験してきた僕にとって、リサの恐ろしさは同感だ。

「とにかく、そういうことで私はこれからルテティアに行くから」

 彼女はビシッと手を挙げた。さっきまでの怒りはどこに行ったのやら。

「……まぁいいけど、僕たちはどうすんのさ?」

「あんたたちは、一先ず先にシュレジエンに行ってくれない?」

「シュレジエン? どうしてさ?」

「ん〜……実はさ、ラーナ様があんたに会いたいって言ってるんだ」

 頭をかきながら、リサは言った。

「僕に? またどうして……」

 ちょっと、動揺した。だって、一国の主が一個人に会いたいって言ってるんだから。ただのもの好きとしか思えないし。

「ラーナ様に会った時、まぁ……あんたたちの話をしたのよ。そしたら、ぜひお会いしたいって言ってさ」

「……理由になってねぇだろ」

 僕は呆れながら言った。

「どうせ会議が始まるまであんたたちは暇なわけだし、いいじゃないの」

 と、彼女は僕の方をポンポンと叩いた。

「そりゃあそうだけど、シュレジエンって遠いんだろ?」

「この大陸の北にある、シュレジエン諸島にあるからな。かな〜りの距離だと思うぜ」

 ヴァルバの言葉には、お疲れモードが広がっているためか、少々めんどくさそうな感じが含まれていた。

「こっからだと、一ヶ月近くかかるんじゃないか?」

 王座にふんぞり返ってる皇隆王が言った。

「一ヶ月も!? そ、そんなにですか?」

「だってよ、ここは大陸の南端だぜ? 大陸の南端から北端を越えて、海の向こうだ。そのくらいかかるだろ」

「適当なんですね」

 アンナがクスクス笑いながら言った。

「魔法でも使えば、一瞬で行けるだろうけどな」

「魔法……」

 そういえば、リサは使えるんだっけ。空間転移の魔法を。

「今回は無しだ。ここへ来る前に、使っちゃったからな」

 ヴァルバがすかさず言った。

「私は別にいいよ? 一回や二回で魔力が尽きるようなやわな体じゃないからね」

 リサは微笑みながら言った。しかし、ヴァルバは首を横に振った。

「ダメだ。あんなもん、馬鹿みたいに乱用したら―――」

 そう言うと、リサはヴァルバの口を押さえた。そして、首を左右に何回か振った。「それ以上は言っちゃダメ」と言っているかのようだった。

「まぁいいさ。あんたがそこまで言うなら、今回はやめておくよ」

 リサは優しく言って、彼から手を離した。

「とにかくさ、シュレジエンに行って来てよ。ね?」

「とにかくって……ねぇ?」

 僕はアンナに振ってみた。

「……行くしかないんでしょうね」

 予想通りの反応とでも言えようか、アンナは苦笑いしながら言った。

「アンナがOKしたんだから、ソラもいいでしょ?」

「まぁ、暇になるよりはマシだし……いっか」

 それに、まだまだ見たこともない場所があるこの世界を歩いてみたい、というのも理由の一つなんだけど、緊張感が無いみたいなのでしまっておこう。


 こうして、次の僕たちの目的地は極寒の地シュレジエン諸島にある、シュレジエン王国になった。





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