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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆3部:記憶を求めて
28/149

23章:ルシタニア王宮 隠された想い、真実の声とは

 BLUE・STORY

 Episode4 第3部「記憶の空」


 ああ、きっとそうなのでしょう――

 私たちは、その夢を追い求め続ける

 砕け散った翡翠の記憶――

 この願いが、想いが……

 あなたに、届くだろうか……?





第3部は、ちょこちょこ伏線回収です。

というより、ラストで回収ですかね。




 気が付くと、そこはどこかの部屋だった。天井はとても高い。ゆうに5メートルはあるだろうか。

 自分の意識がはっきりした瞬間、体中に痛みが走った。

「いぃっっ!! いってぇぇ……!!」

 あまりの痛みに目を開けられず、声を出してしまった。な、何の痛みだ? ヒリヒリする。切り刻まれたみたいだ。

 少し収まってきたので、目を開け、辺りを見渡す。そこには、煌びやかな家具が置いてあり、金ぴかに光っている。これって、どこかの貴族の部屋だろうか。けど、伯爵の家じゃないことはわかった。ここまで豪華な家ではなかったし。ここは、なんというか別格としか思えない。

 すると、僕はベッドの端に何かがあることに気が付いた。よく見ると、それはアンナだった。ものではなく、アンナだった。

 ベッドに腕を乗せ、その腕に顔を置き、熟睡していた。スースー、と寝息をたてている。目には、涙の跡が見えた。よっぽど泣かないと、こんなふうにはならないだろう。

 ここにいるのは、どうやらアンナだけらしい。……ヴァルバはどこにいるんだろう。そういえば、あいつも大怪我をして……。



 ――今回は返してやる。ほらよ――



「っっつ!!」

 一瞬、電流のような頭痛が走る。久しぶりだな……これ。

 頭痛のおかげで、思い出した。

 僕は公爵に魔法で切り刻まれた。その後、変な声が聞こえてきて、公爵をズタズタにした。

 そして、シュヴァルツがやって来て……公爵を……。

 どうやら、あれは現実だったようだ。僕の体の傷が、その証拠だ。このホリンの斬撃でやられた場所、肩の辺りから腰のところまで一直線に斬られた。あの一撃で、『変な感覚』に襲われていた僕は、倒れてしまったんだ。

 

 あの『変な感覚』。

 

 なんだったんだろう。頭のずっと奥から、何かがささやいていた。コロセって……。けど、あの呼ぶ声……ずいぶんと前から聞いていたような気がする。ただ、僕が聞こうとしなかっただけで、前からささやいていたんじゃないか?

 奥底で、小さな声で。

 考えても仕方がないのかもしれないけど、あれがリサの言っていた『力』なんだろうか。


 ……あの暴力的な力が、僕の力?


 公爵の腕や足を切り裂いても、何も感じない。動じない。あれだけの大量の血が溢れていくのを見ても、ただ、冷静に眺めていた。…なんていうか、自分と違う『誰か』が僕の体を使って、動いていたようにも感じる。その自分の行動を、第3者のように眺めていた。


 だから冷静だった?


 違う。あれは僕だけど、僕じゃない何かが完全に僕を支配していた。体の動きも、精神さえも。



 ――お前には過ぎた玩具だ――



 お前は……誰だ?

 僕の中で、何をしている?

 お前は一体、何のために……?



「ん……」

 アンナがもぞもぞっと動き始めた。いきなり動き出したので、僕は身動きができなかった。

「あ……れ……?」

 寝ぼけているのか、目が半開きのまま辺りを見渡した。僕を見ても、何の反応もない。

「アンナ?」

「……ん?」

「おーい、起きてるか?」

 僕はアンナの顔の前で手をチラつかせた。

「……ソラさん? ソラさん!?」

 アンナはギョッとして、僕を見た。

「そ、そうだけど。どうしたの?」

「よ、よかった……」

 そう言うと、アンナは突然、涙を流し始めてしまった。何もしていないのに、いきなりこうなるとどうすればいいのか全くわからない。

「ど、どうしたんだよ? いきなり」

「だ、だって……」

 アンナはぐずりながら続けた。

「ソラさん、あれから……3日間、ずっと寝たっきりで……。いくら呼びかけても全然起きなくて……」

 3日間ずっと寝ていた? そんなに寝ていたのか……。そんなに長く寝ていたのに、何の夢も見ていない。意識が消えて、真っ暗になって、目を開けてみればこの場所にいた。それだけで、3日も経ったのか……。

「けど、よかった。本当によかったです……」

 アンナはもう涙で、上手くしゃべれなくなってきている。涙を拭いても、すぐに流れてくる。

「よかった……。本当に……」

 その姿を見て、僕はあることを思い出した。前にも、こんなことになったよな。僕が山で気を失って、空と海が泣いちゃったりして……。

 アンナも、僕のことを心配してくれていた。きっとこの3日間が、とても長く感じたんだろうな。僕にとっては、一瞬だったけど……。

「アンナ、ありがとう。心配してくれて」

 そう言っても、アンナは何も言わない。ただ、泣きながら、鼻水をすすっている。泣くと、どうしてか鼻水も出てくるもんだ。

「お、おい。アンナ、もう泣くなって」

 僕がそう言うと、アンナは僕に抱きついてきた。ベッドが大きいため、1メートル以上離れていたが、アンナはベッドに飛び乗った。

「ちょ、ア、アンナ?」

 突然のことで、またもや体が硬直してしまった。

「私、うれしかった……」

「え、え?」

 どうすりゃいいのかわからず、僕は焦っている。

「ソラさんは、私を守ってくれましたよね……」

「…………」

 ああ、そうだ。彼女を庇って、公爵の剣が僕を貫いた。その中で、僕は後悔した。どうして、殺さなかったのか。

 死を予感するというのは、ああいうことなのだろうか。

 後悔して、後悔して……。どんどん、堕ちていく感覚だった。僕としての〈存在そのもの〉が、夜の海に沈んでいくかのようだった。

「本当に、うれしかった……」

 アンナが僕を握る力を強くした。苦しくはないが、自分の心臓の心拍数が早いことに勘付かれそうで、焦っている。

「だ、だってさ……前に決めたんだよ」

 僕は1度せきをして、息を整えた。

「ヴァルバがが言ってた。僕は護られる側ではなく、護る側だって」

 彼女は顔を上げた。

「だから、とっさにああしたまでだ。まぁ、さすがに死ぬかと思ったけど」

 僕は小さく苦笑いをした。

「……もう、あんなことしないでください」

 彼女は僕の手を掴み、祈るように持ち上げた。

「ソラさんが死んじゃったら、自分が死ななくても……うれしくなんかない……」

「………………」

「だから、あんなこと……2度としないでください……」

 アンナはそう言うと、僕を真剣な眼差しで見つめた。彼女の眼にたまった涙は、雫となってほほを伝っていく。

 僕は優しくアンナの頭を撫でた。

「……わかった。もう、あんなことはしないから。だから、もう泣くなって。せっかくのかわいい顔が、崩れちゃうからさ」

 そう言うと、アンナは顔を真っ赤にした。

「なんて、冗談」

「ソ、ソラさん!」

「ハハハ」

 すると、いきなりドアをノックする音が聞こえた。アンナはすぐさまベッドから下りて、すぐそこにあるいすに飛びついた。顔を真っ赤にしてるとこが、見ていて面白かったりする。

 ドアが開き、誰かが入って来た。

「お、目が覚めたか?」

 それはヴァルバだった。いつもどおりの顔をひょこっと出して。

「ヴァルバ……」

「なんだ、元気そうじゃないか」

 そう言うと、ヴァルバはのっしのっしと歩み寄ってきた。すると、今度は宰相が入って来た。

「やぁソラ君。気分はどうだね?」

 宰相お得意の笑顔で、訊いて来た。

「宰相……あれ? ここって、もしかして宰相の屋敷ですか?」

「いや、私の屋敷はこんなに豪華ではないよ」

 宰相は歩きながら、この大きな部屋を見渡した。

「え? じゃあ……」

「ここは、王宮の寝所だ」

「お、王宮!?」

 驚くのは当たり前だろ。だって、3日前に国王に地下牢に打ち込まれたんだぞ? どういう経緯で、ここにいるのかもわからないから余計混乱する。

「……どうして僕はこんなところで寝ているんですか?」

 そう言うと、宰相はベッドの近くにあったイスに座った。

「実は3日前、あそこで公爵が惨殺されたことにより、一時は君たちが犯人なのではと思われたが、カルヴァン卿がステファン卿の魔法を受けた証拠があったことや、私が居合わせたこともあり、君たちの誤解は全て解かれたのだよ。そしてその謝罪として、君たちに対する高等治癒機関の使用および、王宮での完全治療、1000万セルトが送られることになったのだ」

「は〜……なるほど。さらに1000万…………えぇ!? 1000万セルト!?」

 僕はあまりのことに、飛び起きた。

「ハハハ。君は、面白くなるほど当たり前の反応を見せてくれるね」

 宰相は頭を抱えて笑い出した。なぜか、自分が恥ずかしくなってきてしまった。

「さて、ソラ君も目を覚ましたことだし、本題に入るとしよう」

 宰相は笑いが収まると、2度くらい目をこすり息を吐いた。そして、僕たちを見回した。

「本題? なんですか?」

「君たちの、これからのことについてだ」

 そして、宰相は淡々と説明し始めた。


「ステファン卿、いや、もう公爵ではなかったな。大逆の罪人ロベスピエールの事件のこともあり、陛下もカルヴァン卿の言うことを無視するわけにはいかなくてな」

 宰相は完璧に公爵を呼び捨て状態。今更と言えば今更だが、ステファンねぇ……。あいつ、本当に死んだんだな……。この時、初めてあいつが死んだことを実感した。

「陛下はインドラという組織を認識し、やつらの目的が邪神の復活ということならば、他国とも協力して対策を練らねばならぬ、と申してな」

 それで、他国に使者を送ることになったらしい。

「ヴァルバ君とアンナさんから聞いた話では、リサはシュレジエンへ向かったと聞く。そうだね?」

「あ、ハイ、たしかにそう言っていました」

「……いくらリサとはいえ、一般人が一国の首領に会っても正式な協約は結ばれない。だから、ルテティアからの正式な使者を送り、協約を結ばねばならない。しかし、それはソフィア教を信仰している国だからこそできるのだが、イデア王国はそうもいかない」

 たしか、イデア王国は独自の神を信仰しているんだったか。

「……違う宗教だからですか?」

 ヴァルバは壁にもたれかかりながら、宰相の話を聞いていた。

「それもあるのだが、まぁ……話は邪教のことになる」

 邪教とは、今から約700年前、ロンバルディア大陸で信仰された宗教のことで、大国ミッドランドがそれを信仰したらしい。

「邪教において奉じられている神は邪神ロキ。ソフィア教の主神である光神と相反するものであり、敵対するのは納得がいく。しかし、イデアで信仰されている神とは関係が無いのだよ」

「ああ……そう言えば、以前そんな話を聞きましたね」

 ミレトスで、リサたちが言っていた。

「イデアの神様はソフィア教とは関係ない。つまり、ソフィア教と敵対する者……邪神やインドラなんてどうでもいいってことさ」

 ヴァルバが言った。

「……邪神のことがどうでもいいっていうのは、なんだか冷たい人たちのように感じます」

 アンナが小さく言った。

「まぁ全員が全員、そういった人たちということではないのだ」

宗教のこともあるが、他にもあるらしい。

「……今までイデアとルテティアは、この王国が建国された時は友好関係を築いていた。なぜだかわかるか?」

「ええっと、たしかミッドランド王国によって一時滅ぼされていたイデア王国の復興を手助けした、から?」

「そう、御名答」

 宰相は指を鳴らして僕を指した。前に、ヴァルバが説明してくれたっけ。

「イデアが再興されて、400年前までは友好関係を築いていた。だが13代国王の時代に領土拡大政策が実行され、西の大陸諸国やイデア、さらにシュレジエンにまで侵略したのだ。その時、当時のイデア国王である恵霊王を卑怯な手口で殺したため、ルテティアはイデアの民から恨まれることとなったのだ」

「……たしか、ルナ戦争っていうやつでしたっけ?」

 ヴァルバが言うと、宰相はうなずいた。

「そういうこともあり、以来ルテティアとイデアは険悪な仲となり、通商関係の使者以外はイデアに入国することさえできない状態となった。戦争を仕掛けられることがないのが、唯一の救いだがな」

 イデアの軍力はルテティアに比べると小さいもので、戦いなんて挑まないのだという。したらしたで、逆にやられるだろうし。

「そこで、君たちにイデアへ行って国王に謁見し、インドラのことについてお話してもらいたい」

「……僕たちがですか?」

「俺たちがルテティア人ではないから、ですか?」

「御名答。ソラ君は別世界の人間といっても、見た目はイデア人。ヴァルバ君も限りなくイデア人。アンナさんは………まあ、何とかなるだろ」

 なんとかなるって……本当に、大雑把な人だなぁ。

「……どうだ、やってくれぬか?」

 宰相は一転、真面目な表情に変わった。

 やってくれと言われても、どうしよう。たしかに、インドラの脅威を他国に伝えなければならない。そのためにルテティアに来た……というのもあるが、ここには空とインドラに関する情報があると思ったからこそ、来たといっても過言ではない。

 しかし、イデアに行っても空のこと、インドラのこともわかりそうにない。意味がないような気がする。自分がこの世界に来た目的と、あんまり関係ないと思う。


 けど、それでいいのだろうか。


 自分の目的と関係がないからって、世界の脅威となることを他国へ伝えることを拒むのは、なんというか……かっこ悪い。いや、事情を知っている人間として、恥ずかしい。事情を知っているからこそ、インドラの暗躍を食い止めるために、しなければいけないことがたくさんあると思う。

 ……表裏一体の考えが、頭の中で渦巻く。自分にとって利益のないこと。今、この世界のためにできること。

……どちらを取ればいいのか。

「私は、もちろん行きます」

 アンナがいち早く言った。その発言に、僕が戸惑ったのは言うまでもない。

「俺も行くぜ。やらなければならないこと、だしな」

 ヴァルバはニコッと笑って、言った。

「……ソラ君は? どうする?」

 宰相が急かすように言った。と言われても、さっきまで迷っていたのにすぐに結論を出せるはずなんてないよ。

「……い、行きます」

「そうか。わかった」

 力無く答えてしまった。勘がいい人だったら、僕が迷っていることを察知するだろう。

「それでは、君たちは一先ず陛下にお会いしてもらいたい」

「……陛下に?」

「ああ。陛下は、今回のことを詫びたいとおっしゃられている。特に、アンナさん。そなたに」

 宰相はアンナをじっと見つめ、言った。

「私に、ですか?」

「……ダグラス卿のこと。ロベスピエールのこと。一国の首領として、そしてロベスピエールに意思がなかったとはいえ協力した者として、陛下はそのことをひどく悔やんでおられて、どうしても、謝罪の意を示したいとおっしゃっておられるのだ」

 そっか……。今回のことで、最も心を傷つけられたのは、アンナだ。残酷な真実を伝えられ……殺されそうになって。

「…………」

「お願いできぬか?」

「……わかりました。行きます」

 アンナは大きくうなずき、言った。その顔に笑顔なんて浮かんでいなかった。



 僕はこの病人のような服を脱ぎ、置いてあった服を着た。どうやら、僕が着ていた服のようだ。ズタズタにされたはずだが、きれいに直されていた。わざわざ同じ服を取り寄せたのだろうか? まぁ……王族の考えることだ。いちいち無駄な労力でも使ったんだろうさ。

 部屋を出て、宰相の後を付いて行った。どこもかしこもレッドカーペットが敷かれていて、両側の壁には何枚もの絵が飾られていた。お金持ちの人って、必ずと言っていいほど絵を飾る。こういったものが何百万っていう値段なのに、よく買うよなぁ。食料とか、日常に不可欠なものを買ったほうが損をしないと思うんだけど。

 長い廊下のようなものを通り、ドアを開けると、最初に城に入ったときに出た場所に出た。中央にはあの大きな階段があり、その奥に王の間へと続く扉があった。あそこで、国王が待っているらしい。

 扉が開けられると、初めて謁見した時のように、奥の真ん中の玉座に国王が座っている。両隣にある2つの玉座にも、女性と男性が座っていた。若いようなので、王子と王女、といったところか。

 僕たちは前に進み、前回よりも国王に近い場所に止まった。大体、2メートルくらいだろう。もし、僕が暗殺者だったら国王は殺されてしまう。ということは、国王はやはり謝罪する意思がある、ということなのかも。

「陛下、お連れ致しました」

 宰相が一礼をした。

「うむ。ご苦労」

 宰相はもう1度一礼をして、前回の立ち位置に戻った。

「…ソラ=ヴェルエス、ヴァルバ=ダレイオス、そして、アンナ=カティオ…いや、アンナ=ケルヴィン。これまでのことを、すまなく思う。……申し訳ない」

 国王は玉座から降りて、僕たちと同じ目線の高さで、謝罪をした。

「ワシがステファンの愚行の数々に気付かず、奴の好き勝手を許してしまった」

 国王は顔を伏せていた。

「本当にすまぬ……」

 最後には、頭まで下げてしまった。一国の主にここまでされてしまったら、僕としてはうろたえてしまう。

「彼らに、例の謝礼金を」

 国王は近くの召し使いみたいな人にそう言うと、後ろの扉から大きな宝箱を持ったメイドさんが出てきた。まさか…。

「お詫びとして、1000万セルトをそなたらに差し上げよう」

 1000万セルト……。1セルトはきっと1円より価値があるだろうし……。

 メイドさんは右端に立っていた僕に頭を下げながら渡してくれた。

お、重い。下手したら、死ぬまで生きれる金じゃねぇのか?

 すると、隣に立っていたヴァルバが大きくため息をついた。しかも、誰にもわかるように。


「……まったく、どうして権力者はこうなのかねぇ」


「なんだと?」

 国王がギロッと僕たちを睨んだ。

「陛下、俺とソラに対してはその程度の謝罪で済みます。いや、過ぎる謝罪になるかもしれません」

 ヴァルバは淡々とした言葉遣いだった。それにしても、丁寧な言葉遣いだな。僕には無理だよ、きっと。

「しかし、アンナに対してはその程度の謝罪で済むのでしょうか」

「…………」

 国王はきょとんとした顔つきだった。

「おわかりになられませんか、やれやれ……」

 ヴァルバは再び大きくため息をついた。たぶん、このため息で、そこらへんに立っている大臣たちを敵に回したな……。僕は思わず苦笑いをしてしまった。

「ヴァルバ殿、陛下に対して無礼では……」

 ヴァルバは、そう言う大臣の言葉を手を差し出して遮った。

「アンナはステファン=ロベスピエールによって父を殺され、母と姉と別れさせられ、さらに彼女たちは禁忌の術によって殺されてしまいました。これは、陛下が奴を信頼し、権力を与えたがために起きたことでございます。大きな精神的苦痛を受けたアンナに対し、もっと誠意ある謝罪を行うのが国を治める者のあるべき姿ではないでしょうか?」

 ヴァルバが言い終わると、辺りはざわついた。すると、大臣の1人であろう男が足で強く床を踏み鳴らし、前に出た。

「貴様! 陛下に無礼であろう!? 何様のつもりだ!」

 ヴァルバはくるっとその男のほうを向いた。

「……俺は、陛下にアンナに対して誠意ある謝罪をしてくださいと求めている。それはなぜか? 陛下はそれ相応の罪を犯したからだ。ステファンの愚行をみすみす見逃し、アンナの家族を奪ったことに加担しているも同然。アンナは気弱で、心優しい少女のため、誰かに悪いことをされても少々謝罪されると優しく許してしまう。しかし、今回のことはそうはいかない。一国の主が、自らの部下が犯した死罪にも勝る愚行に対し、謝罪を行うのは必然。この国の法律であれば、陛下は処刑になります。しかし、国王である陛下が処刑されるということはあってはならぬこと。ですから、陛下にはアンナに対する大きな謝罪を求めているだけです。それのどこが無礼なのでしょうか? できれば教えてくださいませんか、財務大臣」

 ヴァルバの睨みに、財務大臣はたじろいだ。

「それに、あなたがステファン=ロベスピエールから賄賂を受け取り、私腹を肥やす代わりに彼に魔道大臣に就任させるよう陛下に進言したことは、すでに全国に広まっているほどの噂がありますが……そこのところも教えてくれませんかね?」

「う……」

「な、なんじゃと!?」

 陛下も驚愕している。

「ステファンが大臣に就任されたのはいつですか? 宰相閣下」

「……新暦1991。今から10年前のことだ」

「アンナの父、ダグラス卿がステファンの差し向けた暗殺者によって殺された年ですね? もしかして、大臣はそれにも加担していたのではありませぬか?」

「な、何をありもしないことを!?」

 財務大臣はヴァルバの前に進んできた。

「き、貴様! もう許さん! 陛下の御前でこれほどの侮辱を行った罪、万死に値する!!!」


「ふざけるな!」


 ヴァルバは大きな声で言った。

「お前のような権力やお金に目がくらみ、くだらないことをするせいで、傷付く人がいるんだぞ!? 家を失い、大切な家族を失う人もいるんだぞ!? それがどれほど悲しく、辛いことか貴様にはわからないのか!!?」

 ヴァルバは叫ぶように言い放った。壮麗としたこの広い王の間に、あちこちで跳ね返りながら響いている。

「まだ14歳の少女が、さらわれた姉がまだ生きていると信じて、ここまで来た。そして、とんでもない事実をそれを行った本人の口から聞かされたアンナの気持ちが……貴様らにわかるのか!? ……いいか? 権力を持つ者は民を護らなければならない。それが王侯貴族として生まれた者の義務だ! その義務を果たせなかった貴様らこそ、万死に値するんだ!!」

 そして、財務大臣はその場にしりもちをついて倒れてしまった。

「……そして、陛下」

 ヴァルバは陛下のほうに向き直った。

「陛下は謝罪の意思を、お金で済ませようとした。謝罪というのはそもそも、金で表せられるものじゃない。最初にも言ったが、俺やソラに対してはそこまで大きな謝罪は求めない。だが、俺たちには想像すらできない、絶望を味わう羽目になったアンナに対して、お金で済ませようというのはどういうことだ!? それが、謝罪する人間のすることか!? お金で、苦しめられた心は癒されないんだ! ……貴様の重臣たちがそれを認めても、俺は絶対に認めないからな……!!」

 ヴァルバはそう言い放った。国王は怒りなのか、体を震わしている。

「き、貴様……」

「なんだ、陛下は謝罪する意思が無いと? それが、ルテティア王国を治めるルーファス8世陛下がなさることですか? それだから、先の戦争でゼテギネアに負けてしまうのですよ。ベルセリオス6世が死ななかったら、あなたはすでに死んでいる」

「くっ…ぐ………!!」

 国王は握りこぶしを、何度も小さく振っている。


「ヴァルバ殿、それまでにしておいてください」


 すると、玉座に座っていた男性が立ち上がった。きれいな顔立ちで、若いように見えるが、もしかしたら宰相と同じくらいの年齢かもしれない。

「ア、アルベルト……」

「…ヴァルバ殿、そなたの気持ちは承知した。しかし、仮にもルテティアの国王である我が父にそこまで言うと、さすがに取り返しのつかないことになりかねない」

「…………」

「……ですが、父上。失態を犯したのは我々、上に立つ者たち。民を護るべきの者が、それと反対のことを犯した。ならば、王族である我らが頭を下げねばなりませぬ」

 アルベルト王子は段を下り、しゃがんだ。

「……アンナ殿。そなたとそなたの家族に、心よりお詫び申し上げる。どれほどのことをしても償いきれぬが、こうする他、謝罪の意を示すことはできぬ。そなたたちが求めるものがあるのならば、それを与えよう。なんなりと申されよ」

 アルベルト王子は、深く頭を下げた。

「私も、謝罪しよう」

 今度は宰相までかがみ、頭を深々と下げた。

「さ、宰相?」

「……ソラ君。私は十数年前のロベスピエールや、それを取り巻く状況を知らなかったとはいえ、私は今はルテティアの宰相だ。宰相であるからこそ、謝罪をしなければならない。そうだろ?」

 宰相の言葉に、ヴァルバの強張った顔も和らいだ。さすがのヴァルバも、宰相を謝らせるつもりはなかったんだろう。


「あ、あの! もう……いいです」


 突然、アンナが叫んだ。

「アンナ……」

「ヴァルバさん…。もう、いいんです」

「だが……」

 アンナは顔を横に振りながら、続けた。

「私は……もう十分です」

「十分……?」

「もう、いいんです。だって、これから自分にできることがあるんじゃないかって、気付いたから」

「…………」

 アンナはくっと頭を上げた。

「お姉ちゃんやお父さん、お母さんのことは、確かに辛かった。けど、私はこれからお姉ちゃんとお母さんのような、魔道注入の被害者を出さないために、イデアへ危険を伝えに行くことができるんです……」

 アンナは自分で大きくうなずいた。「だから……」

「だから……もういいんです」

 優しく微笑む彼女の奥に、悲しみが見えた。それに気が付いたのかどうかはわからないが、ヴァルバは彼女から顔をそらした。

「――俺は――――だ」

 ヴァルバは何かをつぶやいた。けど、僕は気付かなかった。



 その後、国王は謝罪したが、ヴァルバの望むようなものではなく、すぐに王宮へ逃げていくように下がっていった。宰相と王子と女性の人以外はみんな同じように消えて行った。

「……すまないね。父上に代わり、私がもう1度謝ろう。本当に、申し訳ない」

 アルベルト王子はもう1度、アンナに頭を下げた。

「も、もういいんです」

「……ヴァルバ殿の言うとおり、心が本当に優しい人だ」

 王子はフフっと微笑んだ。

「しかし、父上も困ったものだ。未だに、ステファンのことを気にしておられるのだろう」

「どうして、陛下はステファンを特別扱いするんだ?」

 ヴァルバは今も怒った顔をしている。あの国王の態度が、やっぱり許せないんだろう。まあ、それは僕も同じだが。

「陛下とステファンは、幼馴染だと聞いた」

 ロベスピエール家は元をたどれば王家の流れを組む一族で、建国当初から王家を支えてきたという。だから代々最高の爵位を世襲し、何かしらの大臣となるらしい。

「陛下が即位した23年前、陛下の即位に反対する勢力が陛下の暗殺などを企てたとき、陛下を身をもって守り、その勢力を排斥したのはステファンなのだ」

「……そうだったな。あの頃、私はまだ幼かったが………ステファンが父上に尽力したのは、偽りではない」

 だから、国王はステファンを最も信頼していたのだ。

「私も幼い頃に暗殺されそうになり、彼に助けてもらったことも多々ある」

「…陛下は宰相である私より、ステファンを信じていらした。だから、今回のこともたくさんの証言、証拠があるにせよ、信じることがなかなかできないのだ」

 宰相はうなずきながら言った。

「だったら、宰相はよくステファンを押しのけて宰相になったんですね」

「ソラ君、なぜかというと私が常人を遥かに超える頭脳を持っているからだよ」

「へ……?」

「おいおい、レオ。何を言っているんだよ」

 王子が苦笑いをしながら言った。

「ハハハ、冗談だ」

 2人は、同じように笑いあった。あれ……。もしかして、この2人って。

「もしかして、アルベルト王子と宰相って、幼馴染ですか?」

 すると、2人は少し笑いながら僕を見た。

「そうなんだよ。私とこいつは、同じ場所で勉強していた仲なんだ」

「殿下、恥ずかしいから止めてください」

「何を? お前、私と同じ教室で勉強していたと言うことが恥ずかしいとでも言うのか?」

「いやいや、そういうわけではないですよ。ただ、幼い頃の話をされるのは、本当に恥ずかしいんですよ」

「…今と違って、泣き虫だったから?」

「……」

 宰相の動きが止まった。図星を突かれたようだ。

「うわ……宰相、なんだかかわいらしいですね」

「ソ、ソラ君、かわいいとか言わないでくれ。あの頃は、自然と出るものなんだよ」

「ハハハ。まあ、こいつはその頃から神童ぶりを発揮していてな。聞いたかもしれないが、最年少で中央議員となり、軍では大将にまで上り詰めた男だ。そもそも宰相というのは中央議員120名と、将軍5人以上、公爵5人以上の承認が得られないと就任することができない。ま、ステファンはあまり人望のある人ではなかったし、な」

 だから、宰相は今の地位にいるというわけか。

「まあ、話を変えよう」

 王子はゴホンと咳き込んだ。

「今回、君たちにしてもらいたいことはレオから聞いていると思うのだが……」

「イデアへ行き、インドラのことを伝えることですね」

 僕がそう言うと、殿下はうなずいた。

「ああ、そうだ。ルテティアからの使者は一部を除き、イデアへ入国することができないからね。事情を知っている一般人は、君たちだけだ。……陛下に代わり、君たちにお願いしたい」

「……もちろん、行きますよ。さっき、決めたことですし」

「ええ」

「…………」

 ヴァルバは押し黙ったままだ。腕を組み、横をじっと睨んでいる。

「ヴァルバ殿は?」

「……もちろん、行きます」

 ヴァルバはうなずいて言った。

「そうか。じゃあ、そのことについていろいろと決めようか」



 その後、出発の日時など、いろいろと話し合った。

 出発は1週間後。なぜなら、ヴァルバと僕の怪我がまだ完治していないからだ。僕は『物理障壁』とやらのおかげで傷は浅く、さらに『自然治癒』というのが発生していたらしく、傷の痛みはあるが、ほとんどふさがっているらしかった。

 ヴァルバは平気そうにしていたが、かなり傷が深かったらしく、王室のほこる『高等治癒機関』の治癒術では完治させることはできなかった。いちおう、1週間ほど治療しようということだ。

 僕は1日ほどで、傷の痛みを感じなくなった。部屋で寝ているのも暇なので、何をしようかと王宮の中をブラブラうろついていたとき、ある人に呼び止められた。

「……ソラさん、でしたよね?」

「え? あ、はい。そうですけど……」

 この人、王子と一緒にいた女性だ。もしかしたら、王妃様か王女様かと思ったが、あまりにも若いので前者だろう。

「私はレイフェーゼ。この国の王女です」

「あ……、どうも」

 僕は一応、ぺこりと頭を下げた。

 わっかいなぁ……。何歳だ? 下手したら、同い年かもしれない。まぁ、空たちに比べたら大人だけど。

「お兄様があなたを探しておられました。来ていただけませんか?」

「え? 王子……殿下が?」

「ええ。お暇ならどうでしょうか?」

「えぇ……と、じゃあお邪魔します……」

「では、付いて来てください」

 王女様はニッコリと微笑んだ。ていうか、今の僕のセリフが変だったもんだから、笑ったんじゃないか? なんか恥ずかしいなぁ、もう。

 しかし、王女様っていうのはそこらの人とは別格というくらい、服装や装飾品が派手だな。ああいうところに、国民の税金がかかっていると思うと、少し嫌になる。この人や殿下はいい人のように見えたから尚更だ。

 王女様が案内してくれた場所は空中庭園、とでもいうんだろうか。色とりどりの花が咲き乱れ、透明なドームで覆われていた。なのにこの庭園の中には鳥たちがあちこちを飛び回り、鳴いている。その鳴き声は、心地いいものでしかなかった。こんな時代に、こんなものがあるなんて信じられない。中世ヨーロッパ程度の文明だと思っていた。まぁ、魔法がある時点でかなり違うところが出てくるんだろうけど。

 その庭園を少し進むと、公園のような場所に出た。そこの中央に定番の噴水があり、その近くに殿下が立っていた。

「お、来たな」

 すると、ベンチに誰かが座っているのに気付いた。それは、アンナだった。

「あれ? アンナも呼ばれたの?」

「うん。ソラさんも?」

「ああ」

 殿下のそばに行くと、殿下は僕を見ず、噴水を眺めた。

「これからあと6日ほど君は暇だろ? 実は私も公務が終わり、暇なんだよ」

「はぁ……暇、ですか」

 僕はあんまりいい予感がしなかったので、やる気の無い返答をした。

「それでどうしようかと思っていたとき、レオに相談したんだ」

「レオ……宰相ですか?」

「ああ。彼が『ソラ君はなかなか面白い。剣術などを一緒にやってみてはいかがでしょうか』というので、そうしようと決めたのだ」

「……ん? 剣術?」

 すると、殿下は剣を抜いた。

「ちょ、殿下!?」

 僕はとっさに10歩くらい後ろに下がった。

「まあまあ、逃げるなよ。これは見た目は剣にしか見えないが、人を切ることはできないから、大丈夫だよ」

「じゃ、じゃあ、突くのは……」

 僕がそう言うと、殿下はきょとんとした顔をした。

「あ、それはどうかな。とんがってはいないが、もしかしたら刺さっちゃうかもね」

 殿下は剣を見ながらニッコリと笑った。

「じゃあ危ないじゃないですか!」

「こら。剣を怖がってては、彼女を守れないだろう?」

 殿下はその剣でアンナを指した。

「な、何言ってんですか!?」

 僕は顔を赤くした。僕とアンナはそういう関係じゃないのに。そして、アンナも顔を真っ赤にして、伏せていた。

「あれ……違うのかい? レオがそんなことを言っていたんだが」

「さ、宰相めぇ……」

 ちくしょう。あの宰相、初めて見たときはクールで真面目な人だと思ったのに、かなりのいたずら好きと見える。

「ま、そのことは後々聞くとしよう。どうだ? 一緒に剣術を磨こうとは思わないか?」

「え?」

「君はこれからたくさん、戦うこととなるだろう。だから、君が探している人を助けだせるようにもなるために、腕を磨かなければならない。……しかも、男なんだから強くないといけないだろう?」

 殿下は剣をくるくる回し、鞘に収めた。中国雑技団みたいな技に見えた。

「はぁ……まぁそうですね」

「なんだ? その力のない返事は」

「はい?」

「よーし。その根性、叩きなおしてやろう! 特訓だ、特訓。よし、こーい!!」

 殿下はまた剣を抜き、ぶんぶん振り回し始めた。

「ちょ、殿下!」

「ホラ」

 殿下は僕にもう1本の剣を渡してくれた。それは、殿下が持っている剣と同じく、切れない剣だ。

 ええい、しょうがない。やるしかないでしょう!

「おりゃ!」

 そして、僕と殿下の特訓が始まった。殿下はけっこう腕がいい。僕が言うのもおかしな話なんだけどね。

どうやら王子であるために、小さい頃からそういった訓練を受けてきたらしい。剣術、槍術、弓術、魔術、兵法術、帝王学など、たくさん学んできたという。王族として生まれた人間の宿命だという。

 望まずに選ばれてしまったのに。



「あなた、きれいな顔立ちね」

 王女はアンナに微笑みかけながら言った。アンナは照れながら、顔を左右に振った。

「あ、え? そ、そんな……王女様に比べれば、だめですよ」

「まあ、謙遜しちゃって」

 王女はフフッと笑った。真っ白な肌が、太陽の光を受けている。

「……あの、王女様。失礼だと思うんですけど、おいくつですか……?」

「いくつに見える?」

 王女は意地悪そうに言った。アンナは空を見上げ、少し考えた。

「えっと……22歳くらいですか?」

「いいえ、19歳よ」

「はぁ〜…大人っぽいですね……」

「あなたは、おいくつ?」

「まだ14歳です」

「……それにしては子供っぽいわね」

「……よく言われます」

 アンナは苦笑いをした。自分が子供っぽい顔立ちということを気にしているようだった。

「フフ、正直ね。……あなた、ソラさんのこと、どう思ってる?」

 いきなりの質問に、アンナは目を見開いた。

「どうって……えと、あの……」

 困っている様子の彼女を見て、王女は小さく笑った。

「言わなくていいわ。見ててわかっちゃったから」

「ええ? わかるんですか?」

「だって、顔に出ているもの」

「う………そんなぁ」

 アンナは顔を真っ赤にしていた。

「かわいいわね、ホントに」

 王女はまるで、どこかの公園で遊んでいる子供に対して言うような口ぶりで言った。

「ところで、ヴァルバさんのこと訊いてもよろしいかしら?」

「ヴァルバさん、ですか?」

 アンナは顔を少し横に倒した。

「ええ。彼、どこの人?」

 アンナは空を見上げながら、う〜ん、と唸った。

「一応ルテティア人らしいんですけど、イデアの人とのハーフらしいです」

「なるほどね……」

 王女はあごに手を当て、考えるそぶりをした。

「……? 何か、気になることでもあるんですか?」

 アンナは王女を覗き込みながら言った。

「彼……どこかで見たことがあると思ったの」

「そう、なんですか? あ、旅人って言っていたから、もしかしたらこの王都に来たときに見かけたのかもしれませんね」

 ソラと王子の剣がぶつかる音が響く。王子がソラを手玉にとっているように見える。

「そう……。あの目の色、もしかしたら……」

「え?」

「……いや、なんでもないわ」

 王女はフッと笑った。

「???」

「けど、ヴァルバさんって本当に25歳? お兄様と同じくらいにしか見えないんだけど」

「アルベルト殿下と? 殿下って、おいくつですか?」

 王女はソラたちを見ながら、微笑んだ。

「ソラさんと特訓している姿を見て、何歳くらいに見える?」

 アンナは王子を見て、少し考えた。

「そうですね……25歳くらいかな?」

「宰相と同じ、36歳よ」

「ええ!? ほ、ホントですか!?」

 アンナは、驚きで思わず声が大きくなった。

「若作りでしょ? レオポルトも見た目は若いしねぇ。もしかして、2人して変なものでも飲んだのかしら」

 王女は笑いながら言った。アンナも、思わず笑ってしまった。

「アハハハ。そうかもしれませんね。……じゃあ、ヴァルバさんは36歳くらいに見えたってことですか?」

「だって、それくらいに見えない?」

「ま、まあ、そうですね」

 アンナは仲間であるヴァルバに対して、うんとはうなずけない。

「……ヴァルバ=ダレイオスねぇ……」

「……??」

 王女は意味深につぶやいた。アンナには、何もわからなかった。





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