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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆2部:真実への旅路
25/149

21章:深淵の研究所 小さな亀裂、闇の咆哮に



※一部、残酷なシーンがあります。

苦手な方はお気を付けください!






 宰相は、僕たちに武器を渡してくれた。僕と伯爵は剣。ヴァルバは槍。アンナは、唯一扱える弓。僕の剣は、宰相が兵士に没収されたものをわざわざ持ってきてくれた。

 どうやら、宰相は牢獄の番人に多額の金を渡し、脱走を見逃してくれるようにしてくれたらしい。僕たちが牢から出て、出入り口から出るとき、引き止めようとしなかった。しかし、他の囚人たちが出て行く僕たちを見て、大声で叫んでいた。たぶん、「お前たちだけ卑怯だぞ」みたいなことなんだろうな。

 地下牢から出ると、同じような部屋に出た。牢に連れてこられたときは、目隠しをされていたので、この部屋は見ていない。あちこちに武器が置いてあることから、兵士たちの部屋なのかもしれない。奥の部屋からは、誰かの叫び声がする。もしかして、拷問でもしてるんだろうか。そう考えると、怖くなってきてしまった。もし、宰相が来てくれなかったら、僕も拷問をされて、殺されるかもしれなかったんだ。

 どうしてか、この部屋には兵士がいなかった。宰相が言うには、この時間帯は兵士たちの訓練時間なので、待合室には誰もいないのだという。いるのは番人をする兵士だけで、この兵士さえ買収しておけば、脱走なんて軽いものらしい。……そんな大事なことをばらしてもいいのかしら……なーんて思ったりするけど、それもこれも全部馬鹿国王のせいだっつーの。


 その兵士たちの待合室から階段を上り、出てみると、さっきまでのじめじめした感じのない部屋に出た。1階に出たらしい。

 すぐそこのドアを開けると、中庭、とでも言うのか、壮麗な風景が広がっていた。色とりどりの花が咲き誇り、大理石の通路と壁に、青く光る魔法石。中央にある噴水が、ランディアナにあったものより遥かに大きく、派手なものだった。建物の中とは思えない。

「……おや? ここは中庭だったか」

 宰相が辺りを見回し、言った。

「宰相……地下魔法研究所は、ここから行くと、遠いのでは?」

 伯爵が言った。苦笑いしている。

「え……? 間違えたんですか?」

「ソラ君。私は方向音痴でね。慣れ親しんだ王宮でも、迷ってしまうのだよ」

 ニッコリと微笑んで宰相は言った。そんな笑顔で言われても困るのだが。

「しかし、地下魔法研究所に行くにはここからの方が安全だ」

「なんでですか?」

「正規ルートがあるんだが、そこは警備が厳重でな。今回は、非常用の出入り口から入る」

「非常用……? そんなもの、あったのですか?」

 伯爵が訊ねた。

「元老、宰相、王族のみ知っている秘密の出入り口がある。それは緊急用のためのもので、地下に通じるようになっている」

 宰相はゆっくりとうなずき、続けた。

「地下には軍事会議室や魔法研究所などがある。そのルートを使えば、行くことができるのだよ」

「けど、方向音痴って今さっき言いましたよね?」

「……ここからも行くとことはできるのだが、少々、遠回りする羽目になる」

「だ、ダメじゃないですか」

 宰相は鼻先をポリポリとかいていた。

「まあ、こちらの警護兵たちは君たちが牢獄に入れられたということを知らないから、逆に好都合かもしれん」

 本当かなぁ。微妙に、不安感が心の中を流れた。

すると、一人の兵士がこちらに来た。僕たちは慌てて隠れようとしたが、宰相がそれを止めた。「ここは任せとけ」みたいな顔をして。

「おや、これは宰相様。どうなされたのです?」

 何も知らないかのように、兵士は言った。

「少し、王宮の中を散歩しようと思ってね。この中庭はとても美しいから、ついつい見とれていたんだよ」

「そうですか。…そちらの方々は?」

 兵士は僕たちに目を向けた。

「私の部下たちだ。初めて王宮に来たから、この中庭も見せてあげようと思ってな」

「そうでございますか。……陛下に見つからないようにしてくださいよ?」

「はは、わかっているよ」

「では、失礼致します」

 兵士は一礼して、歩いて行ってしまった。

「ほら、大丈夫だろ?」

「ハハハ……」

 みんなは顔を合わせ、苦笑いをした。考えていることはたぶん同じだ。宰相は意外と適当な人なんだ、と。


 中庭は王城の「王の間」の奥にあるらしく、ここは本来、大臣や宰相、将軍格の人たちでないとは入れないらしい。さっき、兵士が陛下に見つからないようにと言ったのは、そういうことなのだ。

 反対側のドアを開け、大きな通路をまっすぐ進み、階段を下り、またドアを開けると物置部屋みたいな場所に出た。

「宰相、ここは?」

 伯爵が言った。

「ただの物置か?」

「いや、ここに隠し通路がある」

 宰相は左の隅に置かれている木箱をどかし、床に敷き詰められたレンガに手を当てた。すると、そのレンガがへこみ、左手側の壁に通路の入り口みたいなのが現れた。

「こ、これは?」

「これが、その非常用の出入り口につながる通路だ」

 非常用の通路につながる道は、この王宮に20個くらいあるらしい。いろんな場所にいても、いざというときになったら使えるよう、いろいろな場所に作られたとか。

 通路の中にみんなが入ると、宰相は入り口の方に戻り、通路の壁にあるレンガを押した。すると、今度はさっき開いたところが閉まった。どちらからでも、開け閉めできるようにできているらしい。しかし……どういう原理なんだろう。この時代の技術にしては、あれだしなぁ……。

 通路は最初はほぼ下り坂で、どんどん下に降りて行った。途中で、上に向かう道があったが、あれは出口に通じているらしい。

 右に、左に回って行くと、枝分かれした場所に出た。

「あみだくじか?」

「ソラ……違うと思う」

 ヴァルバはため息を漏らした。

「それぞれの場所に通じる道だろう。この中に、魔法研究所に通じる道があるはずなんだが……」

 宰相は辺りを見回し、何かを探している。非常用の通路だからか、通路や壁はちゃんと舗装されていない。ところどころ、崩れかけているところもある。

「……ふーむ……」

 宰相はかがみ、地面を見渡した。地面はあの地下牢の中のように、真っ黒でじっとりとしている。

「……これか」

 宰相が何かを見つけた。

「何があったんですか?」

 アンナも前かがみになり、訊いた。

「ここ、わかるかい?」

 宰相が指したところに、何かが刻まれていた。暗くて見にくいが……文字のようにも見える。

「これは……古代文字ですね?」

「さすが伯爵」

 2人は顔を合わして、笑顔をして見せた。しかし、僕たちにはわからない。

「古代文字ってなんですか?」

「古代超高度文明を築き上げた、ティルナノグ帝国の末期に使用されていたと云われる文字のことだ。王侯貴族、幼い頃の英才教育でこの文字を習わされるのさ」

「……じゃあ、これはなんて書いてあるんですか?」

 僕は指差した。そこには、筆記体のようにスラスラと書かれていた。

「『研究』と書かれている。きっと魔法研究所のことだ」

「じゃあ、この先にあるかもしれないってことですね?」

「……ああ」

 僕たちは薄暗いその通路を進んだ。最初の通路よりも幅が狭い。2人は入れるかどうかの幅だ。

 さっきとは違い、平たい通路だった。ただ少しだけ曲がっていて、それが延々と伸びている。

「こんな通路、いつ作られんたんだろう」

 もしものことを考え、アンナは最も安全な真ん中を歩かせた。前を宰相が、後ろをヴァルバが歩く。そして、僕と伯爵がアンナを挟む形で歩いた。

「……ルテティアが、ソフィア教皇より王位を賜ってから作られたものだったと思うが」

 宰相が思い出すように言った。

「ということは、600年前……だったっけ?」

「ソラ、よく覚えてたな。おりこうさん」

 後ろで、ヴァルバが笑いながら言った。

「う、うるさいな」

「……まだルテティアが大国ミッドランドの諸侯の1つでしかなかった頃、当時の都だった今の王都は、今では想像もつかないほど寂れていた都市だったそうだ」

 ミッドランド帝国による、厳しい支配政策。それに加え、自然災害による食糧難。そのため、ミッドランド帝国の特権階級の人間たちしか贅沢はできない時代だったらしい。

「時の魔王と謳われたアルヴィス1世による、アルカディア大陸侵略。それに伴う、民に対する増税。……国民の怨嗟の声は天に届き、魔王は暗殺された。そして、ルテティア公ウィリアム1世が挙兵し、ミッドランドを滅ぼした。その後、初代国王となった彼はミッドランド帝国のように攻められたときのことを考え、この隠し通路を作ったとされる」

「……王都が攻め滅ぼされても、国の中枢を担う人たちが生き残れば、国家を再興できる、という考えだったということか」

 この通路のことを知っている人たちの地位のことを考えれば、そうなのかもしれない。



 通路をずっと進むと、ようやくドアが見えてきた。

 宰相がゆっくりとドアを開け、中を確認する。

「……どうやら、ここのようだな」

 地下魔法研究所。伯爵が言うには、独立機関『呪術研究院』の置かれている場所で、研究・実験は全てここで行われているらしい。

「じゃあ、ここでどうすればいいんですか?」

 僕は宰相に訊いた。

「今まで、ここに部外者が入ったことは無い。先月、干渉可能の法案が可決され、陛下にも承認が得られたとはいえ、即日施行というわけにもいかず、未だ誰も入ったことが無いのが現状だ」

 じゃあ、僕たちが初めて足を踏み入れるということか。

「それじゃあ、どこに研究や実験の結果が記されたものがあるかもわからないんじゃあ……?」

 不安を感じながら、僕は言った。

「……あるとしたら、ここの最も奥にあるステファン卿の執務室だ」

「こんなところにあるんですか?」

 伯爵が驚いたように言った。

「普通、大臣の執務室というのは王城の中にあるものなのだ。だが、ステファン卿は陛下に嘆願して、執務室を自分が責任者を務める魔法研究所の奥に設置したのだ」

 つまり、誰にも研究・実験の結果を見せないようにするために、そういうふうにしたということか。

「奥っていうのはけっこう大雑把だけど、どこら辺か把握できないよりかはましだな」

 ヴァルバが苦笑いしながら言った。

「……さて、諸君。ここからは、君たちだけで先に進んでもらう」

「宰相さんは来ないんですか?」

 アンナが言うと、宰相はフッと微笑んだ。

「私はこれから、君たちの処分に関する会議に出席せねばならないのだ」

 僕はあんぐりした。な、なんじゃいなそら……。

「その場に私がいないと、怪しまれるだろう?」

「まぁそうですけど……」

「ソラ君、自信がないような顔をするな。君には、仲間たちが付いているじゃないか」

 仲間……か。その時、初めて実感した。

 自分を支えてくれる人。自分を救ってくれる人。

 友であり、仲間。和樹や啓太郎、美香……修哉……そして、海。

「……そうでした。宰相、これまでありがとうございました」

 僕は一礼した。

「頼むぞ。君たちがステファン卿が罪を犯したという証拠を見つけなければ、この国は、いずれやつに食いつかされてしまう」

「……わかりました」

 伯爵が大きく一礼した。

「それと、ヴァルバ君」

「……なんでしょう?」

「ソラ君と、アンナさんを守ってやってくれ」

 宰相はヴァルバの胸に手を置き、言った。

「大丈夫です。任せてください」

 ヴァルバはニコッと笑った。

「……アンナさん。君のお姉さん、リノアンさんが見つかることを、私も心から祈っている」

「…ありがとうございます…」

 そして、宰相はもと来た道を引き返して行った。




 地下魔法研究所。

 今まで、神秘のベールに包まれてきた『呪術研究院』の人たちが研究や実験を行っているところである。

 非常用の通路から入ってみると、そこは地下なのに明るい場所だった。巨大な空間に、変な機械みたいなものも置かれている。こんな時代に、こんなものがあるとは到底思えなかった。

 仕事をしている人たちは、みんな白い服を着ていてマスクもしている。病院の看護師や、医者みたいな格好だ。魔法のことを研究しているのなら、みんな黒い衣を着ていると思ったんだけど。ほら、錬金術……とかなんかを研究する人とか、変なドリンク作ってる魔女とかさ。

 細い通路を見つからないよう、かがみながら進み、別のドアを探す。この細い通路はまるで水路のように細く、いろんな場所に張り巡らせてあった。

 突き当たりを左に曲がると、一つのドアがあった。

 ゆっくりとドアを開け、中をのぞくと、今度は広い通路があった。


「……あなたたち、誰ですか?」


 後ろから、人の声がした。僕たちは一斉に後ろに振り返ると、白衣を着た女性が立っていた。

「ここの施設の人じゃないですよね……?」

「……ちっ」

 ヴァルバが彼女の背後に回り、両手を手で押さえた。すると、伯爵が片手で彼女の口を押さえた。彼女に、剣の先を向けて。

「君は、ここの研究員かね?」

 伯爵が、冷たい口調で彼女に言った。

「……!!」

「うなずくかどうかしろ。そうしないと……わかるね?」

 剣先をチラつかせ、彼女を脅す。けど、殺す気は無いと思う。……たぶん。

 女性は小さくうなずいた。

「ならば、ここの最高責任者の執務室もわかるだろう? どこだ?」

 女性は震えながら、怯えている。

「……この通路の奥か?」

 ヴァルバが訊いた。すると、女性が小さくうなずいた。

「……よし、わかった」

 すると、ヴァルバが彼女の首筋の辺りにチョップをした。女性はそのまま力無く、ぐったりとして倒れた。

「ヴァ、ヴァルバ? 何を……?」

「気絶させただけさ。殺す必要なんてないからな」

 いちおう、僕たちは彼女が見つからないようにすぐそこの部屋に入った。

 部屋に入ると、多くの書物が積み重ねられていた。題名には、ほとんど『魔法』の二文字が書いてあった。

「……ここらの書物は、別に研究には関係ないな」

 ヴァルバが無造作に取り出した本を1度開き、すぐに閉じてそこらへんに放り出した。

 女性をその部屋に置き、僕たちは通路に出た。さっきまでの薄暗い感じではなく、どこかの病院のように明るかった。壁、床、天井が全部真っ白ということもあるが、天井に備え付けられている魔法石が、電気のように光っているからだろう。

 僕たちは少し走りながら、通路を進んだ。不思議と、通路には誰もいなかった。

「……誰もいないな」

伯爵が言った。

「たしかに。……誰もいないというのはありがたいけど、それはそれで、気味が悪いですね」

 僕は横目で辺りを見渡した。

 とにかく、通路を走った。


 すると、突き当たりにドアが見えた。見るからに、他の部屋のドアとは異質のドアだった。ちょっと豪華というかなんというか……。

 伯爵が静かにドアノブをつかみ、ゆっくりと引く。

 開けてみると、部屋の奥に大きな机が置いてあり、その上にたくさんの書物や書類が置いてあった。そういう机が置いてあるところから、ここはたぶん、ステファン卿の執務室だろう。

「……ここか」

 伯爵が辺りを見渡しながら、静かに言った。

 壁には大きな本棚が置いてあり、そこには魔法に関する本が、溢れんばかりに置いてあった。1つ、手にとって開いてみたが、わけのわからないことばかり書いてあったので、すぐに閉じた。

「ここに置いてあるものを見ても、結果が書かれたようなものは1つも無いな」

「……そうですね」

 いくら探しても、それらしきものは見つからない。

「普通、責任者が保管したりするもんじゃないのかな」

「別の場所か?」

 伯爵がかがみながら言った。

「どうでしょうね……」

 ヴァルバはため息をつきながら言った。あるもんだと思って来てみれば、何も無いときの虚脱感は、分からなくもないけど。

 そうしてあきらめかけたとき、僕がある変なところを見つけた。机の後ろの壁にうっすらと、線が見えたのだ。長方形で、高さは僕の身長くらいだろうか。いや、そこのドアと同じような形だ。

 もしかして、もしかするかもしれないので、その壁を恐る恐る押してみた。すると、ドアくらいの大きさに壁がへこみ、音も無く地面に沈んでいった。


「あ、あれ?」


 突然のことに、僕はその場に硬直した。そして、壁が消えたその先に広い空間が現れた。

その奥には、大きな部屋が広がっていた。少し、うっすらとしていて何かが見えるが……はっきりとは見えない。

「……何したんだ? ソラ」

 呆然と立ち尽くす僕に、ヴァルバが近寄ってきた。

「ただ、ちょっと壁を押してみたら、こんなことに……」

「これは、非常用の通路の開閉のシステムと同じようなものか?」

 そうか……くぼみみたいな所を押したりすれば、隠し扉が開く仕組みなのか。

「隠し部屋ってことは、公爵にとって他人に見られたくないものがこの中にあるって事ことだろ」

「……入ってみよう」


 薄暗い部屋に入ると、あの王の間くらいの広さだろうか。かなり広い。暗くてよく見えないが、巨大な機械みたいなものが置かれている。……人が入れるくらいのカプセルのようなものが付いてあるのが見えた。所々にボタンやら、何かを入れるような穴がある。

「伯爵、これってなんなんでしょうか?」

 僕がそう言うと、伯爵は機械を見上げながらこっちに来た。

「……こんなもの、初めて見た。しかし、暗いな……。灯りでもないと、はっきりわからない」



「じゃあ付けてあげましょう」



 いきなり、灯りが付いた。天井から、魔法石の光が出てきた。突然の光の出現に、目をつむってしまった。

 ゆっくりと目を開けると、機械が姿を現した。そして、入り口の方に3人の男が立っていた。その中に、見たことがある人物が混ざっていた。


「……ステファン卿!!」


 伯爵が叫ぶ。そう、ここにいるはずのないクテシフォン公爵がそこに立っていた。

「ど、どうしてここに……?」

 僕がそう言うと、公爵はほくそ笑んだ。僕はやつのその顔が大嫌いだ。嫌悪感を漂わせる。

「どうして、か」

 クックックと笑いながら、公爵はなかなか続きを言わなかった。

「お前たちのしようとしていることなど、全てお見通しなんだよ……」

「……なんだと!?」

 伯爵がダンッと片足を踏み出した。

「牢に入られたとしてもいずれ脱出し、ここに忍び込んでくるだろうとふんでいたのだよ。だから、私が自分の領地であるクテシフォンに帰ったと、噂を流したのだよ。きっと、君たちを助けようとする輩がいるはずだと思っていたから、この情報は絶対に君たちに伝わると計算してね……」

 公爵は、金色のひげをいじりながら続けた。

「……すると、まさか投獄された初日に脱走するとはな。どうせ、レオポルトが手助けしたのだろう」

 奴が現れた瞬間、ほんの少しだけ宰相が何かをしたのかと思ったが……公爵の言動からすると、宰相は関係ないみたいだ。……宰相、疑ってすみませんでした。心の中で平謝り。

「きゃつめ、私に協力するなどと言いながら陛下の前で露見の危険性があるようなことを言いおって……」

 どうやら、宰相が公爵に表面的に付き合っていたことを本人は全く気付いていなかったらしい。へん、ざまぁみさらせ。

「……だが、あんな小童なんぞどうだっていいわ。いずれ、何らかの嘘の失態でも陛下に進言し、処刑してくれる」

 カッカッカと笑いながら、公爵は言った。

「……それで? 僕たちをもう1度牢獄にでも打ち込むつもりか?」

「ハッハッハ。そんなことはしない」

 公爵はニヤニヤしながら、僕たちを見渡した。

「……君たちは、この部屋を見て何か気付かないかい?」

 僕たちは部屋を見渡した。といっても、この部屋にあるのは巨大な機械みたいなものが、4つ置いてあるだけ。

 ……機械?

「この機械、なんなんだ? ……ここで、何をしていた?」

 僕がそう言うと、公爵はまた不気味な笑顔をして見せた。

「ソラ……君だったかな? そうだよ。私はここであることをしていたのさ……」

「ある、こと?」

「……『呪術研究院』が設立された理由を、君たちは知らないだろう? カルヴァン卿、そなたさえも」

「…………」

 伯爵は何も言わなかった。

「いや、本当のことを知っているのはワシを含め、数人しかおらぬがな……」

 陛下さえも知らないと、また笑い出した。

「ここは噂で知られているように、古代魔法や古代技術の復活を達成するために設立された場所だ。……しかし、それは表面的な理由だ……」

 公爵はゆっくりと歩き出し、機械のそばに立った。


「『永遠の巫女』を研究するためだろ?」


 ヴァルバは大きくも、冷静な声で言った。

「……ほぅ、知っていたか……」

 公爵はあの微笑みで、ヴァルバを見つめる。

 やはり……か。こいつがアンナのお姉さんや、空を……!

「……カルヴァン、貴様の言を毎回のように退けていたのは、インドラのことが陛下に知られ、『永遠の巫女』のことを捜査されるのを防ぐためなのだよ」

「何?」

「もし、貴様が陛下に進言するようなことがあれば、どうしようかと思っていたが……陛下はほとんど貴様の言を信じてはいなかった。あんな簡単に、ワシの言葉が信用されるとはな。所詮、貴様のことなどただの杞憂だったか」

 公爵の言葉の中に、伯爵をあざ笑っているニュアンスが含まれていた。伯爵はそれを感じ取ったのか、怒りで体が震えている。

「貴様、侮辱するか!!」

「そういきり立つな……。ワシの話は、まだ終わってはおらんのだ」

 伯爵を制止するかのように、公爵は彼の前に手を広げて差し伸ばした。

「ワシは、インドラの者たちと協力をして暗黒魔法と禁じられた魔法、そして伝説の天空魔法の復活を目指した」

 その言葉を聞いて、僕はあることを思い出した。

「まさか、インドラが暗黒魔法を扱えるのはお前がここで秘密の研究をしていたからか? 暗黒魔法を復活させ、奴らが扱えるようになったのも、お前の仕業なのか!?」

 僕の大きな声にも、公爵は全く動じていない。

「……そうだと言ったら?」

 公爵は冷ややかに言った。

「絶対に許せない! 暗黒魔法は少しでも喰らえば、必ず死に至らしめる最悪の魔法だぞ!? 大勢の人が死ぬかもしれないんだぞ!? それがわからないのか!!?」


「それがどうした?」


「!!」

 公爵はサラッと言った。思わず、僕は目を見開いた。

「くその役にも立たない人間なんぞ、死んでもよいではないか。世界には大勢の人がいる。数え切れないほどのにな。その1%ほどの人間が死んだとしても、私には何の関係も無い」

 公爵は吐き捨てるように言った。

「お前……本気で言ってるのか? 本当に、そう思っているのか!?」

「何を言っている? お前にこそ、何の関係も無いではないか」

「関係なくなんか無い!!」

 僕はすぐさま反論した。

「……関係無い。なぜなら、お前は『ガイア』という別世界から来た人間だろう? この世界の人間がどうなろうと、知ったことではないのではないか?」

 公爵は「すっとぼけたことを言うな」という感じの顔で、僕を見る。それが……僕は信じられなかった。当たり前のことが、通じていないのだから。

「ワシだったらそう思うぞ? 『自分はこの世界の住人ではないから、この世界の人がいくら死のうとどうだっていい』と思うがな」

「ソラさんはあなたとは違う!!」

 突然、後ろからアンナの大きな声が聞こえた。

「ソラさんは、人を殺すことなんて簡単にできる人ではないんです!!」

「……何?」

 初めて、公爵の顔から笑みが消えた。

「あなたとは違う。あなたみたいな、人の命の重さの重要さもわからない人とは違うんです!!」

 アンナの大声が、この大理石の部屋に木霊する。

「何を言う。国民を守る我々が、どうしてそこらにいる人間のことを心配せねばならないのだ? 命の重要性? なんだ? それは。国民の命など、上級貴族である私の命に比べればほこりに等しい」

 僕は頭を振った。人の言葉とは思えない。

「ステファン! 同じ貴族として、貴様の言動はおかしいぞ!?」

 伯爵が叫んだ。

「どうしてだ? 何がおかしい?」

「……貴族の命は、庶民と同じ価値を持っている! いや、そういう価値で言い表せるものではない! 何よりも尊い、何よりも大切なものが命なんだ! どんな人間であれ、それの重さは変わらない!」

「ハッハッハ。どこかの教科書にでも書いてあるようなセリフだな。到底、同じ貴族のセリフとは思えんな。……いや、伯爵である貴様なんぞ、公爵であり魔道大臣であるワシに比べると、庶民と同じ価値しか持たぬか……」

 つまらなさそうに、公爵はため息をついて言った。

「貴様ぁ!!」

 伯爵は剣の柄を握り、飛び出した。向かう先は、公爵だ。

「ステファン!!」

 公爵の名前を叫びながら、突進して行った。

「……屑が」

公爵は変な構えをして、何かを言い始めた。

「魔の淵より出でし、忘却の炎よ。我が敵を塵と成せ」

「伯爵! 伏せろ!!」

 突然、ヴァルバが叫んだ。すると、公爵の手が光り始めた。


「……ヴォルカニック!」


 公爵の手からほとばしる光は赤い光となり、何かが出てきた。それは、真っ赤な炎だった!

 炎は渦を巻きながら、走って行く伯爵とぶつかるように飛んで行った。そして、伯爵はそれを避けることができず、真正面から受けてしまった。

「ぐああぁぁぁ!!」

 伯爵はそのまま炎に押されていき、壁に叩きつけられた。渦を巻いていた炎が消えても、伯爵の体に燃え移った炎は消えなかった。

 伯爵は叫びながら床をゴロゴロと動き、火を消そうとするが、なかなか消えない。僕たちは駆け寄り、熱いのも我慢して消そうとした。そして、何とか火を消すことはできたが、伯爵の服は焼かれ、肌が火傷でただれていた。伯爵は、かすかに声を出しているだけで、すでに動けなくなっていた。

「私が魔道大臣となった理由をお忘れか?」

 公爵は、ゆっくりと僕たちの方に近づいてくる。

「5属性の精霊を操り、最高位のマージである『セイジ』の称号を持つ者だぞ? それを忘れたのか?」

 公爵はニヤッと笑った。魔法なんて初めて見た。こんな場面じゃなったら、ワクワクしたかもしれないけど、今はそんな気分じゃない。最悪の気分だ。

「…く、そ……!!」

 伯爵は力を振り絞り、悔しそうな声を出した。

「伯爵、しゃべらないほうがいいです……」

 アンナが心配そうに言った。彼女の手は、フルフル震えている。

「所詮、無知な貴族よ。高貴であるワシに盾つくから、こういうことになるのだ。身の程を知れ」

「てめぇ……!!」

 僕はキッと奴を睨んだ。

「東方の者よ。貴様のような卑しい民族が、そのような口を利いてはならんのだぞ?」

「貴様のほうが、卑しい人間にしか見えないけどな」

 ヴァルバの口元は笑っているが、目元は笑っていない。憎しみのこもった、憎悪の炎が渦巻いている。僕はゾクリと、寒気を感じた。

「……何だと?」

「自分が高貴だと? どこが。世界の人たちに聞いてみろ。お前みたいな汚物と同程度の人間なんて、貴族である資格も無い、と言われるさ」

「……貴様、ワシを侮辱するか!?」

 公爵が怒りをあらわにした。すると、奴は再びさっきと同じ行動をした。

「……蒼空に満ちし冷気よ、極寒の刃となり、悪しき命を切り刻め……」

 公爵が再び印を結んだ。まずい、また魔法を使うつもりだ。とすると、あれは詠唱か?

「させるかよ!!」

 ヴァルバが一気に踏み出し、槍で公爵を突いた。しかし、公爵は間一髪でそれを避けた。

「ぬぅ……邪魔をしおって……!!」

 公爵の周りを衛兵のような2人が取り囲み、ガードしている。衛兵にしては、来るのが遅いんじゃないかと思ったり

「……さて、公爵さんよ。話がまだ済んじゃあいないだろ?」

「何?」

 ヴァルバは肩に槍を置き、微笑しながら言った。

「お前の目的はなんだ?」

「……目的だと?」

「そうだ。インドラに暗黒魔法を伝授し、『永遠の巫女』を研究するその目的は一体なんだ?」

 ヴァルバは腕を組み、言った。

「ヴァルバ……そいつの目的は国の実権を握ることじゃないのか?」

「はっきりしないから、訊いているんだ」

 僕の問いに、彼はすぐに返してきた。

「クックック。ヴァルバ、と言ったか? 貴様もなかなかの切れものよのぉ」

 公爵はうれしそうに笑いながら、手を叩いた。


「そう。ワシの目的は、世界の覇王となることだ……!」


「覇王……だと?」

 公爵は手を広げ、続けた。

「『永遠の巫女』を覚醒させ、聖杯の封印を解き、邪神を復活させる。そして、ワシは神の力を得るのだ。そして、この『レイディアント』の……絶対的な支配者となるのだ!!」

 言い切ると、公爵は大声で笑い出した。天を仰ぎ、大きく手を広げるさまは勘違いした権力者にしか見えない。

 馬鹿だ。ただの馬鹿だ。

 絶対的な支配者だと……? そんなの、なり得ない。

「……そのためにリノアンをさらい、禁忌とされたことをしたというのか?」

 ヴァルバは冷静に問う。

「……ほぅ、知っておるのか。そうか、そこにいる娘はリノアンの妹だったか」

 公爵はひげをさすりながら言った。

「クックック。そこの娘が言ったとおり、ワシはリノアンを行方不明ということでさらい、この地下で禁忌とされた『魔道注入』を行った。……なぜならば、きゃつは『永遠の巫女』としての素質を持っていたからなぁ……」

「………………」

「やっぱり、お姉ちゃんは……」

 アンナは想像していたこととはいえ、ショックを隠しきれない。

 想像していたとおり、アンナのお姉さんは空と同じで『永遠の巫女』であるがために、さらわれた。

「だったら、なぜ『永遠の巫女』に魔道注入をする必要がある? あれらは、生まれながらにして常人の域を逸しているほどの魔力を持っている。それを、さらに強化する意味はなんだ? あまりにも増えすぎた元素は、やがて肉体の限界を超え、分子から乖離する。……それくらい貴様も知ってるはずだろ?」

 な、何を言ってるんだ? ヴァルバ……お前、一体何を知っているってんだ?

「…………」

「答えろ……ステファン」

 公爵はニヤリとして、口を開く。

「『永遠の巫女』は、確かに生まれながらにして常人では扱えぬほどの元素を持っている。だが、そのままでは聖杯を覚醒させることはできん。……なぜだかわかるか? それは、聖杯に必要な魔力は一般的に存在するエレメンタルではないのだ」

「……基本属性と光陰2元素とは違う……ということか」

 ヴァルバは言った。

「そう。それらとは別に、古代ティルナノグ文明期に存在した特殊なエレメンタルが必要なのだよ。それを『永遠の巫女』は潜在的に持っているが、古の盟約によりそれは覚醒できないようになっている」

「古の盟約だと……?」

 ヴァルバは目を細めた。

「そればかりはワシも知らん。だが、わかっているのは巫女の元素そのものが鍵だということだ。だが、肉体の檻にある元素は外界の出てくることは敵わない。……そこで、魔導注入を行うのだよ」

「!! そうか、やっぱりな……!」

 ヴァルバは小さく歯ぎしりをしながら言った。

「ど、どういうことだよ!?」

 僕は理解できず、すぐに訊ねた。

「先ほど、ヴァルバとやらが言ったではないか? 『増えすぎた元素は、分子から解離する』と」

「…………?」

 すると、公爵は不気味な笑みを浮かべた。

「魔導注入を行い、魔力……体内の元素量を増やす。そして、乖離現象を起こす。そうすることによって、『永遠の巫女』の元素が結晶化して外界に具現化する。そう、これこそが聖杯の鍵となるのだよ!」

 ということは……つまり……。

 僕は、嫌なことを知った。それを口に出したくなかった。


「……お姉ちゃんは、どこ?」


 僕たちは、アンナの方に顔を向けた。

「お姉ちゃんを、どこに連れて行ったの!?」

 アンナは立ち上がり、言った。

「私のお姉ちゃんを返して! 唯一の私の家族を返して!!!」

 アンナの必死の叫びが木霊する。けど、僕にはわかっていた。この男には、そんな言葉は届かないということを……。

「ハッハッハ……。アンナ、だったかな? 貴様の姉なんぞ、もうここにはおらぬわ!」

「えっ……?」

 公爵は笑いを抑えられないのか、手でお腹を押さえている。


「……貴様の姉の覚醒は完了した!! すでに、聖杯の覚醒をとくための鍵となり、肉体は消滅したわ!!」


 ガッハッハッハと、公爵はアンナの目の前で大笑いをした。アンナは怒りか、あるいは悲しみかで、体を震わせている。……どうやら、後者のようだ。アンナの目から、多くの涙が流れ始めた。



「う……う、うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーー!!」



 アンナは泣き叫んだ。僕には、どうすることもできなかった。

ヴァルバの言ってることを照らし合わせれば、納得できる。肉体の限界を超え、リノアンさんのエレメンタルの結晶は具現化し、彼女の肉体は消えた……。


「……公爵」


 ヴァルバがアンナが泣き叫ぶ中、小さい声で言った。しかし、僕にははっきりと聞こえた。

「貴様のしてきたこと……後悔するんだな」

「……なに?」

 ヴァルバは小さく首を振り、公爵を見据えた。

「お前さえいなければ……お前さえ、こんなことをしなければ……!」

 彼の手が震えている。伝わる。ヴァルバの怒りが……。

「貴様を……殺す。肉体も、何もかも……微塵も残してはやらん!!」

 ヴァルバは持っていた槍を公爵に向けた。槍の先の光が、小さく輝く。

「ヴァルバ……」

「ソラ、手を貸せ。……アンナのために、そして多くの民のために、このヘド面の男を倒すんだ!!」

 ヴァルバは僕を見ず、そう言った。僕は体が震えてきた。怖いんじゃない。どうしてかわからないけど、少しうれしいからだ。

「……ああ。僕も、絶対に許すことができそうにない!」

 僕は腰に差してあった剣を引き抜いた。レンドの船が海賊に襲われた時以来だ。

「貴様らごときが、ワシに盾つくというのか?」

「当たり前だろ。僕は、人を侮辱する貴様を……人の命をゴミのように考えているお前を、絶対に許さない!! その不細工な面を、もっと不細工にしてやらぁ!!」

 怒りで、口から火が出そうだった。公爵はほくそ笑み、僕たちを見渡した。

「貴様らなんぞに、ワシを殺すことなんぞできるはずない!!」

 そう言うと、公爵は印を結んだ。


「ヴァルバ!」

「また詠唱を開始したか。いいか、ソラ」

 ヴァルバは僕の肩を抱き、小さく言った。

「俺が公爵の前にいる2人の衛兵をどうにかする。お前は一気に走りこんで、あの2人の間を滑りぬけろ。そして、公爵を殺せ!」

 僕はうなずいた。ヴァルバより僕のほうがガタイが小さいし、小さい動きができるから、滑りぬけるのは僕が妥当だろう。

「……行くぞ!!」

「ああ!」

 僕が最初に走り出した。その後に、ヴァルバが続く。すると、公爵の前にいた衛兵2人も飛び出してきた。

「…鮮麗なる清き風よ…」

 詠唱が進みだした。……走れ!!

 衛兵が大剣を振りかぶったその隙に、僕は走った勢いでスライディングをした。もし、タイミングが遅かったら敵の攻撃をまともに受ける。

 危機一髪、二人の衛兵の間を何とかすり抜けられた。立ち上がった勢いで後ろを振り向くと、ヴァルバが槍で衛兵1人の首を突き刺していた。

「ソラ、行けぇー!」

 ヴァルバの声に押されるように、僕は公爵のところに走った。公爵は目をつむり、詠唱をしている。

 よし、間に合う!

 僕は走りぬける勢いで、剣を振りぬこうとした。だけどその時、僕の中に一つの光景が浮かんだ。


 ――海賊を殺した光景だった――


 血に塗れた剣。

 血塗られた僕の体。

 殺したという事実に、恐怖で震えた僕の心。

 

「―――!!」

 僕は……その、ほんの一瞬の光景で……手を止めてしまった。


「……ゲイルファング!!」

 その瞬間、刃のような風が僕を包み、まっすぐ吹き飛ばした。僕は壁に叩きつけられた。そのときは、ぶつかった痛みだけしかなかったが、自分の体を見てハッとした。……体中、刃物で切り刻まれたかのように、ズタズタにされていた!

「ぐっ……!!」

 傷に気付いた瞬間、全身にビリビリする痛みが走った。カッターか何かで、指を切られたときのように。

「ソ、ソラさん!」

「ソラ!!」

 ヴァルバは2人目の衛兵を斬っていた。しかし、僕を心配して公爵に背を向けてしまったのだ。

「馬鹿が! フリーズランス!!」

 氷結の槍が、一閃してヴァルバの体を貫いた。

「ぐああぁぁぁ!!」

 ヴァルバの痛みによる叫び声が響いた。僕は一瞬、体が硬直した。胸を刺されたと思ったからだ。しかし、ヴァルバはとっさに避けたのか、氷でできた槍は右腕に突き刺さっていた。

「ぐっ……く…!!」

「クックック……ヴァルバよ、ワシが詠唱破棄をすることができぬと思ったのか?」

 公爵は不敵な笑みを浮かべながら、倒れこんでいるヴァルバに近づいて行った。

「くそ……詠唱破棄できなかったのは、炎熱系だけか……!?」

「そのとおり。ワシは、氷水系と嵐風系は得意なのだよ」

 ヴァルバは悔しそうな声を出しながら、その場で、大きく呼吸している。氷の槍が腕に刺さったため、大量の血が流れ出ていた。僕の体も、ヴァルバ以上ではないが、今まで流したことがないくらいに血が流れている。

「読みが浅かったな。ククク……」

「こ…、の野郎……!」

 くそ…。体が痛くて、上手く動かない。

「……さて」

 公爵はヴァルバの横を通り過ぎ、僕のほうに向かってきた。僕は自分がやられると思った。しかし、そうじゃなかった。公爵は、僕の隣にいるアンナのほうに行き、彼女の腕を引いた。

「いたっ……!」

「フフフ…。なるほど、母に似てかわいらしい顔立ちをしておるなぁ……!」

「……! どうして、お母さんを……!?」

 アンナは振りほどこうとする手を止めた。

「どうして? もちろん、お前の母は前の姉と共にここで研究体として、私が連れて来たからだよ」

「え……?」

「な、なぜ、巫女の母まで、さらう必要がある……?」

 ヴァルバが小さな声で言った。それでも、公爵には聞こえたようだ。

「『永遠の巫女』は、巫女である者の血族にも巫女の素質を持っている可能性があるのだよ。だから、この娘の母……エリザベスもここへ連れてきたのさ。貴様も連れて行こうと思ったのだが、お前はほとんど魔力を持っていなかったな」

「……じゃあ、お母さんは生きて……?」

「いや、もういない」

 公爵はグイとアンナを引き寄せ、不気味な笑みを浮かべながら、アンナにとって最悪の言葉を言った。


「お前の母は魔道注入に体が耐えられず、6年前に死んだ」


「……し、ん……」

「エリザベスは体中の毛穴から血が吹き出し、一瞬で肉の塊と化したわ!!」

「……嘘……」

 アンナは顔を左右に振りながら、何かを言っている。

「……嘘……」

「お前の母は、もうこの世にはいないんだよ!!」

 人間じゃ、ない。僕の心が暗転する。

「う、そだ………嘘だーーーー!!」

「嘘ではない! 貴様の母親は死んだ後、ワシが魔法で焼き尽くし、もう血肉の1つもこの世に残しておらんわぁ!!!」


「やめてぇぇぇぇーーー!!」


 アンナは公爵の手を振りほどき、その場に崩れた。そのまま、大声で泣き始めた。

「…貴様……それでも、人間か……!?」

 伯爵がボロボロの体で言った。

「なんだ? カルヴァン、まだ生きていたのか? あの魔法は上級炎熱系魔法だったんだがなぁ」

 伯爵を見下し、吐き捨てるかのように言った。まるで、唾棄すべき存在であるように。

「貴様のような下流貴族、そこで寝そべっていろ。お似合いだ」

 公爵はまたアンナのほうに向き直った。

「……君の父、ダグラス卿は私の上司だったんだよ」

 再びアンナの手をつかんで、無理矢理立たせた。

「君の父は、いつも反対していたなぁ……。私が、古代魔法や暗黒魔法を研究することを」

 涙顔のアンナは、目を見開いた。

「さらに、この機関を設立するのに猛反対しおってな……。さすがの馬鹿国王も、主席隊長の言を無視することはできず、長い間邪魔されたのだよ。……だから、殺したのさ」

「!!!」

 殺した……? だって、戦死って…。

「お父さんは……戦死したんじゃあ……?」

「違うんだよ……。私が暗殺者を大金をはたいて雇い、聖都の近くで軍略を練っている彼を殺させたんだよ。あたかも、敵軍が暗殺したかのようになぁ!!」

「……どう…………して……??」

 アンナの体が震える。少女の心が……ズタズタにされていく。目に見えない『心』が、目に見えない『ナイフ』で切り刻まれていく。何の躊躇いもなく。

「どうしてかって!? ダグラスが邪魔だったからだよ! 私の研究に対して、文句ばかりを言っていたからなぁ!!!!」

 公爵はアンナから手を離し、大声で笑った。

「そん……な……!」

「あいつさえいなければ! 巫女の素質を持つリノアンをもっと早く研究体にできたんだ! しかし、遅れたとはいえ、愉快だ。実に愉快だった!!」

 こんなの、人間じゃない。なぜか、僕の体に刻まれた傷の痛みが、遠退いていく。

「もう…やめて……やめてえぇぇ!!!」

 アンナはこれ以上聞きたくないと言わんばかりに、両耳を手でふさいだ。

「ハッハッハ! お前をもう1度検査すれば、エレメンタルが自然発生しているかもしれん。……魔道注入をしてみようか?」

 公爵はアンナの顔を覗き込んだ。そして、体を震わせるアンナを見て再び笑い出した。

「お前たちがランディアナに来たということを聞いて、予想していたぞ! こうなるということを!!」

「ど、どうしてランディアナに来たと……?」

「冥土の土産に教えておいてやろう。貴様らが泊まった宿の社長ミーシャは、ワシの娘だ!」

「…………!!」

 だから……雰囲気を感じたことがあると思ったのか。ということは、ミーシャさんが……僕たちをこいつに密告した。そういうことかなのか!?

「さて、愉快になってきたところで実験といこうか」

 公爵はアンナの腕をつかみ、機械のところに行った。

「この機械が、魔道注入を行う機械だ。アンナ、貴様もこれでリノアンと同じように、『永遠の巫女』という崇高な存在になれるかもしれんぞ? うれしいだろ!? なぁ? うれしいだろう!?」

「いや、いやぁ!!」

 アンナが叫んだ。そして、自分の腕をつかんでいる公爵の手を、ガブリと噛んだ。

「ぎゃあぁぁ!!」

 公爵の叫び声が響いた。公爵はアンナから手を離し、噛まれた手を宙に上げた。

「く、くそ、貴様ぁ―――!!」

立ち尽くすアンナを、平手打ちした。アンナは、そのまま倒れこんだ。

「貴様……愚民の分際で、このワシに傷を負わすとは!! もうお前などどうでもいい…………殺してやる、殺してやるわ!!」

 公爵は腰帯の細剣を引き抜き、アンナに突きたてようとした。僕はとっさに、そこに飛び込んだ。


 ズボッ


 妙な音が耳に響いた。なんだ? 聞いたことも無い音だ。それに、何かが体を通っているような感じもある。

 目の前には、目を見開き、仰向けになり、僕のお腹の辺りを見ているアンナがいた。アンナが見ている先を見てみると、白い線みたいなものが、僕の腹の辺りから出ていた。


 これは…なんだ?


 なかなか、理解することができなかった。すると、その白い線みたいなものが、ズルリとした音を立て、消えた。すると、せきを切ったかのように、白い線があった辺りから真っ赤なものが出てきた。


 …血?


 真っ赤な血が、倒れているアンナのところに降り注ぐ。それを頭で理解したとき、体の力が抜けた。ズルッと、アンナの上に倒れこんだ。

「ソラさん…? ソラさん!!」

 アンナの叫ぶ声が、耳元で聞こえる。なんだろ、どんどん聞こえなくなっていく気がする。

「やだ…ソラさん!? やだ、やだ!」

「ソ、ソラ…!!」

 ヴァルバの声も聞こえる。けど、すごい遠くから聞こえるようにも感じる。そんなに、離れていないはずなのに。

「クックック。下賎の者が、無様な姿だ」

 人間じゃない男の声が聞こえる。聞きたくもないのに。

 くそっ……!

 あの時、迷わず剣を振り抜いていれば……こんなことには……!!

「…せめて、高貴なワシの手で、葬ってやろう。うれしく思うがいい…」

 


 ちくしょう……気が遠くなる。

 どうして、剣を振り抜かなかった?

 どうして殺さなかった?

 僕のせいで、みんなが……みんなが……!!


 何を迷う必要があるんだよ……

 あいつは……あいつは……!



 ――憎めばいい――



 えっ?


 ――憎めば、殺せるさ――


 憎……む?


 ――そうすれば、何の躊躇いもなく殺せる。ヒトを――


 憎めば……憎めば、あいつを……


 ――そうだ。聴こえるだろう? お前にも、この羨望が――




 消えろ


 やめてくれ……


 なんだ……?

 声が聴こえる……


 朽ちていった者たちの……怨嗟の声が……


 殺せ

 消えろ

 殺せ

 消えろ


 やめろよ……

 そんなことを、するな……!


 やめてくれ……!!


 グルグル回る……


 死ねよ

 ぐちゃぐちゃに潰してやる


 切り刻んでやる

 肉片が一切残らないほどに……


 殺せ

 憎め

 殺せ


 ハハハハハハ!!

 そうさ! そうやりゃぁいいんだよ!!

 ズタズタにして、血みどろになっちまえ!!


 滅尽滅相

 そうやって、俺たちは繋がってる


 殺し合って、憎み合って――


 殺して殺して殺して殺して殺して殺して

 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ


 やめてくれ……

 もう、やめてくれぇ!!


 ……何もかも、消し去ってやれ……

 血に塗れ、罪深きその剣が……


 これ以上……僕は…………

 やめろ……やめてくれ……

 やめろぉ!!!



 視界が、ぼやける


 声が聴こえる


 遠い昔の声が――














 

 なんでそんなに暗いの? あんた。

 ……ひどい言いぐさだな。



 俺は……ただの実験道具に過ぎないんだよ。

 何言ってんのよ。私も、あなたも……あいつらも、同じ人間よ。



 一緒に掴むのさ。私と、お前で……



 原初の人類……知っているか? 君は、その人類と同じなんだよ。

 君は……世界を新たな繁栄に導く道標になるんだ。



 わかってる。大丈夫よ。きっと……信じていける。ずっと……



 一緒に、空の見える場所に出よう。こんな所から……

 …ええ。あなたと一緒なら……どこへでも……



 ………見ない……で………



 世界を変えてやろう。お前の力は、そのために与えられたものなんだ。



 堕ちた者たちの願い、か……。皮肉なものだな……

 俺は……お前の言うとおり、神になったというのか……?



 カイン……きさ……ま………!!

 あと、もう少しのところで……! プロジェクト…ジェネ……シス…を……



 お前が……!! お前があいつを……!!

 うあああぁぁぁぁぁ!!!!!



 俺は……ただの操り人形だったってことか……。何のために…ここまで………

 ハハ………ハハハハハ………



 余は叔父上の操り人形なんかじゃない!!

 じゃあ、この国の帝ってのはなんなんだ!? ただの飾りだと言うのか!?


 

 僕は……兄上に付いて行く。兄上を独りにはさせないよ。

 だって、独りでいるには……この世界は広すぎるからさ……

 


 そうだな……私たちは、決して独りじゃない。

 誰かと共に支えあって、この世界は成り立っている……



 お兄様……よろしいんですか?

 ガルザス閣下も、話せば……



 違う!

 余は……ただ、この世界の人々のために……



 中途半端な意志が、奴らを破滅へ追い込んだのさ



 どうして………どうしてだよ………?

 どうして、殺されなきゃならなかったんだ!!



 この血が……? そうか……私のこの血があるからか……!!

 ……神々に祝福された一族だと……? 呪われた一族じゃないか……



 これは……!! あなたを突き動かしているのは……憎しみだけなのか……?



 兄さま!! お願い、もうやめてぇ!!!!



 ……もう、何もかも無くなってしまえばいい……

 私は……なんのために生まれてきたというのだ……?

 生きているだけでは……毒でしかない……



 これは…僕が望んだことか? 兄上を殺してまで救った結果がこれか……?

 こんなの……こんなの、僕たちが目指した世界の姿じゃない……!!

 



 なぜ、人はこんなにも穢れているんだ……!?









 ――言霊が消える――









「うわああぁぁぁぁぁああ!!!??」




 その瞬間、何かが弾けた。

「な……!?」

 公爵の動きが止まる。細剣を振りかざしたところで、ピタッと。

「ソラ……さん?」

 僕の体の奥底から、ほとばしるように何かが……ナニカガ溢れ出てくる。一体、これはなんだ? 何かが、僕を呼んでいる。

「あの傷で立てるはずが無い……。き、貴様、化け物か!?」

 なんだろう。力がみなぎってくる、とでも言うのだろうか。今まで重く感じていた剣が、急に軽くなったような気がする。体の傷の痛みも、全然感じなくなってしまった。

 ……どういうことだ? 僕の体は、公爵を殺せという、コロセという命令に従い、動いているような気がする。

「この……化け物がぁ!!」

 公爵はおもむろに僕に剣を振ってきた。すると体が反応し、その細剣の横っ腹を叩くように、僕は剣を振っていた。そして、公爵の剣は半分から上が木っ端微塵に砕け散った。

 公爵はその剣を見て、震えだした。どうして震えているのか、僕には全くわからない。

「く、くそぉ!」

 公爵は、僕から遠ざかるように走り、離れたところで印を結んだ。


「……喰らえ! フリーズランス!!」


 氷の刃が瞬時にそこに作り出され、僕に向かって飛んできた。けど、どうしてか全く怖くなかった。

 僕は無意識にその刃を、空いている左手で受け止めた。すると、氷の刃は僕を貫くことができず、そのまま崩れ去った。

「な、なんだ、と……!?」

 公爵は信じられないのか、驚愕の顔をして、僕を見ている。

「エ、エレメンタルで作り出された、魔法の造形物が、いとも簡単に崩れるとは……。どれほどの魔法耐久度を持っているというのだ!!」

 公爵は後ろを向き、出口のほうに走り出した。僕はそれに反応し、瞬時に公爵の前に移動した。人間とは思えないスピードで。

「な、なんだと!!?」

 驚き、慌てふためく公爵。僕はそれを冷静に見ながら、剣を振った。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 横一文字に、公爵の胸を切り裂いた。どうやら浅かったらしく、致命傷にはならなかった。それでも、公爵はとんでもないくらいの声を上げている。

「ひ、ひいいいぃぃ!!」

 そのままその場に倒れ、僕を見て怯えている。

「大袈裟に痛がるなよ。たいした傷じゃねぇだろ……? ……お前が今まで他人に与えてきたものに比べれば、さ……」

 どうしてだろう。言葉が勝手に出てくる。これは僕の言葉なのか、それがわからない。けど、たしかに僕の口から出てきている。

「ククク……ほら、その苦しみの檻から解放してやるよ……」

「…ソラさん…?」

 アンナは僕を見つめていた。


「……死ね……」


 公爵は目を真っ白にした。倒れたまま後ろに下がろうとするが、上手く体が動いていない。

「何逃げてんだ? いつ、逃げていいって言った……?」

 

 …シネ。

 

 僕は剣を公爵の左足に突きたてた。そして、そのまま右に切り裂いた。

「ぎゃああぁぁぁ!!!!!」

 公爵の悲鳴が、鳴り響く。

 公爵の左足は骨が切断され、筋肉でかろうじて繋がっているという状態になった。

 次に、公爵の脇に剣を突き立てる。再び、公爵の悲鳴が木霊する。そして、さっきと同じように横に切り裂いた。すると、公爵の右腕が、ちょうど肩の辺りから斬れてしまった。

 あれ? 取れちゃった。ギリギリで繋ぎ止めようと思ったのに……失敗。


「ギヤアァァァアアァ!!!?! ギィ…ガアアァァァァアッァァ!!!!」


 公爵はずっと叫び続けている。まるで、断末魔の叫びのようだ。

 血まみれになっていく公爵の姿を見て、僕は自分でも驚くほど冷静な精神状態を保っている。いつもなら、こんな大量の血を見ただけで気を失いそうになるっていうのに、今の僕はどうしたんだ?


 なんだ……この湧き上がるような高揚感は……?

 破壊衝動…?


 

 ああ、そうさ。それこそ、俺たちの『真の姿』だ!!


 

「ククク………ハハ……アーハハハハハハ!!」

「ソ…ソラ……?」

「そうだ! それでいい!! もっと叫べ………もっと泣き叫べ!! ハーハハハハハ!!!」

 別の何かが聞こえてくる。僕の力を解き放て、と。

 怒りに身を任せ、力を解放し、目の前の邪悪な人間を殺せと、何かがささやいている。

 ハハハ、そうさ、それでいいんだよ。これが、あるべき姿さ……! 僕たちはそうやって殺し合って、殺し合って殺し合って……ハハハハハ!!! 

 僕は剣を振り上げた。今度こそ、公爵の息の根を止める。僕はそのまま、振り降ろそうとした。

 その時、何かが飛んできて、僕の体をつかんだ。すると、僕の体は静止した。剣も、途中で止まってしまった。よく見ると、そこにいるのはアンナだった。

「ソラさん、もうやめてください!!」

 アンナが言った。……やめる? 何を?

 僕はそれが理解できない。

「それ以上やったら、死んじゃいますよ!」

「戯言を……。いいんだよ、別に死んだって…。命は……まだ腐るほどある……。殺しきれないほどになぁ!! ……ククク……ハハハハ!!」

 笑える。くそ笑える。何が死んじゃいますだぁ?

 生命は、殺し合って進んでいくんだ。殺し合い、憎み合い、歴史を築き上げていくんだよ!!


 俺たちはそうやって笑顔になれるのだ……!!


「もう、やめてください!! お願い……!」

 アンナが僕に顔を向けた。その目は、強く、勇ましく、潤んでいた。と思えば、雨粒が窓を滴るように、涙が溢れてきていた。



「――――!?」



 何かの衝動に動かされる、僕の動きが止まりそうだった。自分で、そう思った。


 コロセ


 …え?

 また、何かが『ささやいた』。


 ハヤク、コロセ

 コロセ


 けど、アンナが……


 コロセ

 セイマノチカラヲモッテ


 ……セイマの力?


 コロセ

 コロセ


 なんだよ、それ?


 オオイナルチカラ

 セイマノチカラ

 リュングヴィノチカラデ

 コロセ

 コロセ

 コロセ

 コロセ

 コロセ

 コロセ

 コロセ

 コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセェ!!!!!!!!


「死ねぇぇ!!!!」

 僕はアンナの手を振りほどき、剣を振り上げた。

「……!! ソラさん、やめてぇぇ!!」

 すると、突然、奥の壁が崩れ去った。





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