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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆2部:真実への旅路
19/149

15章:ロンバルディア大海 潮風と共に

 船旅を始めて3日。

 この3日間、ずっと快晴で日照りが厳しく感じてきた。レンドの話では、ロンバルディア大陸は比較的温暖な気候で、特に貿易都市群のあたりは他の地域より早く、夏が訪れるため、6月の最初だとしても気温は夏並らしい。たぶん、30℃を超えているんじゃないか。

 この暑さで、アンナが少し辛そうだった。どうやら、アンナが暮らしていたフィアナ村があるルナ平原は、最も適度な気温がほぼ1年中続くらしく、この暑さが初体験だということ、慣れない船旅もありダウンしてしまったのだ。

 ヴァルバはアンナとは対称的に元気が有り余るほどで、他の船員の手伝いをしている。夜は相変わらず、酒を飲んだりしているけど。

 僕はというと、それなりに船旅に慣れてきたが、どうも塩のにおいというのがなかなか慣れない。体はべとべとするし。いちおう男なので、ヴァルバと一緒に仕事の手伝いをしていたが、ヴァルバほど役には立てず、夜にはへとへとになってしまう。この時初めて、自分には体力がないことを思い知った。…体でも鍛えようかな。そんなことをしみじみ感じた。


 しかし、海賊というのは本当にすごいと実感した。ロルグはマストのてっぺんに登って、船の周囲を見張っている。デルゲンは下に行ったり、上に来てレンドと何かを相談したり、忙しく動き回っている。他の人たちも何らかのことはしており、のんびりしている人などいなかった。

「レンド、王都まであとどのくらいかかるんだ?」

 舵の後ろにあるイスに座って海図を見ているレンドに訊ねた。

「そうだなぁ……。ランディアナに到着すんのはあと1週間くらいだから……せいぜい10日前後だろ」

 つーことは、ランディアナから王都まで3〜4日くらいか。

「ランディアナか…。あそこの都市は特殊だからな」

「特殊?」

 レンドはうなずいた。

「ランディアナは地上ではなく、海の上に造られた巨大都市なんだよ」

 そういえば、みんな「海上都市」だとかって言っていたな。ヨーロッパの方にも、そんな都市があったよな。なんて名称だったのか、いまいち思い出せないが…。

「ルテティア王家もあの町並みを愛しているらしくてな、噴水とかが作り出す造形はそりゃきれいで、建物もミレトスと同じような白いレンガでできていて、その配置がまた壮麗ですごいんだよ」

 海水が町全体を流れていて町中に人工の川や湖、そして王族や貴族の別荘があるところには、大きな滝があるらしい。これも、人工的に造ったものらしい。

 しかし、どうやって海水を都市中に張り巡らしているのだろうか? 水は高い所から低い所にしか行かないし、人工の滝があるっていっても、海上都市はきっと海を埋め立てて造った都市であるため、高低差は無いだろうし…。そもそも、この世界の文明レベルからしてそんなことができるとは思えないのだが…。まぁ、そこはランディアナに着いてからのお楽しみってことか。


 この船旅の間、僕は他の船員とたくさんの話しをした。レンドは海賊だと言っているが、どうやらそうではなしらしい。

「そもそも、海賊っていうのは、『海を荒らす荒くれども』なんだ」

 レンドにバカ面と言われていたルシファン(ルーシーと呼ぶけど)が説明をしてくれた。

「俺たちは見てのとおり海賊のなりをしているが、していることはいたって善良なことさ」

「善良なこと?」

「そうさ。海賊に襲われている貿易船を助けたり、難破した旅行船の人命救助、民からの要望で凶悪な動物を退治しに行ったり。まあ、お偉いさんからの要望もあるがな」

 そういえば、レンドが言っていたな。シュレジエンの女王様からの要望で、悪さをするセイウチを退治しに行ったとかなんとかって。

「そういうことをやって、俺たちはお金をもらったり、レンドの部屋に置いてある宝物とかをもらうのさ。まぁ、義賊みたいなもんさ」

 『義賊』。民のために動く集団で、彼らから人気があるため、王族からは疎ましく思われているイメージがある。……勝手な想像なんですけどね。

「けどさ、どうしてレンドは海賊って言ってんの?」

「ん? ああ、それは『義賊』と言われるより、『海賊』って言われるほうが強そうなんだと」

「強そう……?」

 よくわからない…。レンドって、馬鹿…かな。そんな単純な理由っつーのも珍しい。

「よくわからん信念だよなぁ」

 ハッハッハと、大きな口を開けてルーシーは笑った。

「…みなさんは、どうしてこのレンドさんの船に?」

 僕の隣に座っていたアンナが言った。

「えーと、俺は、俺の親父がルテティア海軍の軍人でな。親父と同じ軍人になろうと思ったんだが、頭が悪くてね。14歳のときに挫折しちゃったんだよ」

 ルーシーは、右ほほのあたりを手でかきながら、楽しそうに話した。

「それで、親とケンカしちゃって…路頭に迷っていた時にレンドと出会って、今こうしてるわけさ」

「…レンドさんの考えに心が揺れた、ということですか?」

 アンナがにこやかに聞いた。ルーシーは照れているのか、また右ほほをかきながら答えた。「まあ、そんなところさ」なんて、はぐらかしていた。照れながらも、はっきりとそう言えるってことは……レンドを信頼してるのだろう。そう、感じた。

「でも、この船に乗っている奴ってのは、全員レンドと出会ってこんなことをやってる奴らばかりだよな」

 ジョナサンが言った。すると、他のみんなも「たしかにな!」と言いながら、笑い出した。

「ジョナサンはたしか海賊だったんだけど、レンドに負けて、今こうしてるんだ」

「おいおい、サンガ。お前だってそうだろ? ていうか、俺と同じ船の海賊だったじゃねぇか」

「ハッハッハ、そうだっけか?」

 昔のことだから忘れちまった。そう言いながら、サンガは大笑いした。

「ロルグは、どうしてレンドと一緒に?」

 僕が、みんなの脇でイカの干物を食べているロルグに聞いた。

「俺はレンドの兄貴とは従兄弟同士になるんだ。ちっちゃい頃から俺の目標で、兄貴たちが海賊をやるってんで付いてきたんだ」

 まだ少年のロルグは、はにかみながら答えてくれた。

「……たしか、レンドとデルゲンとロルグと……ブリアンが最初のメンバーだったっけ?」

「あぁ…そう、だね」

 ロルグは、少し愛想笑いをしていたようにも思えた。

「おい、ジョナサン。……少しはロルグのことを考えてやれよ」

 突然、ルーシーが小さい声で言った。しかも、まじめな顔で。

「おっと……つい…。わりぃな、ロルグ」

「いや、気にしなくていいよ。…もう、昔の話だからさ」

 ロルグは引き続き、愛想笑いだった。

 …ブリアンという人は、この中には見当たらない。今のレンドの仲間ではないのか、それとも……。

 ダメだな…。勝手に想像してはいけない。他人の事情に入っていいことと、悪いことがある。たとえ自分が口に出さずに想像することではあっても、常識ある者として気に掛けない方がいい気がする。…無理に気を遣ってもらっても、逆にその人を苦しめることになるかもしれないのだから。

「…ところで、デルゲンってみんなの中で1番強いの?」

 僕が話を変えるために聞いた。『ブリアン』という人の名前が出たとたん、みんなの顔が沈んだからだ。

「ああ、そうだな。俺たちの中の切り込み隊長だからな」

 サンガがうなずきながら言った。

「あいつの槍さばきは、どっかの騎士なんかより上手いと思うけどな」

 そうジョナサンが言っていると、下の階段からデルゲンが上ってきた。

「お、噂をすればなんとやら」

「…何がだよ」

 デルゲンは苦笑しながら僕たちの輪の中に入って、座った。こうして見てみると、体つきが他の人に比べてすごいというのがわかった。背は僕と同じくらいだったのに、肩幅なんて1,5倍くらいありそうだ。他の仲間とは、漂っている風格が違う…ような。肩にある刺青がよりいっそう強く見せているような気がする。

「デルゲンって、どこで槍の扱い方を習ったんだ?」

 サンガが聞いた。

「おっ、それ、俺も聞きたかった」

 ルーシーが手を上げて言った。

「どこでって言われても…。そりゃあ、地元のシュレジエンだよ」

 シュレジエン。正式にはシャロン=シュレジエン王国。北方のシュレジエン諸島を領とする国。

「シュレジエンの男は、生まれたら槍の訓練をするのが掟みたいなものなんだよ」

「掟?」

「国を守るためにな」

 デルゲンが言うには、シュレジエンは建国された当初かなりの弱小国で、600年ほど昔にミッドランド帝国の属国〈アルクィン大公国〉に攻められ、王国の領土は王都の王城のみにまでなった。時のシュレジエン国王は降伏し、シュレジエンは王国でありながらアルクィン大公国という一介の諸侯に支配されることになったのだという。その後、ミッドランド帝国がルテティア公国に滅ぼされ、当時のルテティア公妃がシュレジエン王家の出であることも幸いし、王国となったルテティアの支援で国が再興された。そして、これから侵略されないためにも富国強兵に努めたらしく、「男の槍の訓練」はその1つらしい。現在は先代国王の偉業によって、2大国と不可侵条約を締結し、各国の中で最も平和な国になり、ラーナ2世女王が治めている。

「ラーナ様は、先代の85代アレクセイ14世の王妃様だったんだ。陛下が急逝され、王位後継者だった王子もすぐに急死。だから、ラーナ様が即位なされたんだ」

 シュレジエンはイデアに次ぎ、2番目に古い国らしい。本当かどうかはわからないらしいが、今から2000年前に建国されたのだという。『ガイア』でも、そんなに長く続いている国は、日本くらいだ(伝説の時代を含めるかどうかによるが)。

「まぁ……今は平和だから訓練する必要もないんだけど、やるのが基本…となってしまっているからな」

「じゃあ、レンドさんも槍は上手いんですか?」

 アンナが聞いた。そういえば、レンドもシュレジエン出身だよな。

「いや……あいつは槍を訓練するのが嫌いで、断固拒否したんだよ」

 と、デルゲンは苦笑した。

「いちおう、国の義務じゃないのか?」

 ジョナサンが言った。酒を飲んだせいか、彼は少し顔が赤い。

「義務…じゃないんだ。ただ、昔から続いてきたものだし『富国強兵』の慣わしがいろいろと違う形で、他の村とかにも根付いてんだ」

「…例えば?」

「例えば? …う〜ん、そうだなぁ」

 デルゲンは唸りながら、そこにあった酒を一口、口に運んだ。

「…たしか、南の村では、女性が乗馬を習うってのを聞いたことがあったな」

 絶対とは言い切れないっていう表情で、彼は言った。

「ああ。アンナくらいの年頃の女の子は、すでに馬を乗りこなすって聞いたな。あと、弓も習うらしいが」

「……私、弓なら扱えるんですけど、馬は無理です……」

 なぜだか、アンナはしょんぼりした顔で言った。

「…気にすることでもないんじゃない?」

 僕がそう言うと、アンナは困ったような顔をした。

「…あの村で、馬が扱えないのは私だけだったんです」

 フィアナ村に初めて行った時に、たくさんの馬がつながれていたが……なるほど、乗馬するための馬でもあったんだ。

「ソラ坊は、どこの出身なんだ?」

 僕はジョナサンのその問いに思わず、ビクッと、猫のような反応をしてしまった。さらに、何も口に入れていないのに、むせてしまった。

「…? どうしたんだ? ソラ坊」

 ジョナサンが、僕の顔をのぞきながら言った。僕はこの問いにどう言えばいいのか迷い、ヴァルバのほうをちらりと見た。助け舟が欲しかったのだ。けど、その期待は簡単に裏切られた。久しぶりに酒にありついたどこかの親父のように、ガバガバ酒を口に運んでいるヴァルバの姿がそこにあった。しかも、すでにデレンデレンに酔っ払っている。

 僕は呆れた。…役に立たねぇ奴だ、まったく。飲んだくれは嫌いだ。

 アンナのほうに目をやると、考えが浮かばないのか。苦笑いしながら首を左右に振っていた。

 あ〜……ったく、しょうがない。適当に説明しとくしかないよ。僕は腕を組み、考えた。何か、いい考えはないものか…。

 そうして考えていると、ヴァルバが突然、ゲラゲラと笑いながらしゃべりだした。

「ソラはなぁ〜、『ガイア』っつ〜ところからやってきたんだぜ〜?」

 …言っちゃった!? しかも、なぜか「すげぇだろ〜」と、自慢するところもないのに、自慢をしている。これだから酔っ払いっていうのは大嫌いなんだ! 父さんもなかなかの酒豪だったから、こういう姿は情けないとほとほと思う。

「ガイア…? どの地域だ?」

「お前、知ってるか?」

「知らんなぁ」

 みんな、顔を合わせて、「どこだ?」と言っていた。どうやら、『ガイア』という世界があるという伝説を知らないのだろう。でも、アンナも知っていたから世間一般に広まってるものかと思っていた。

「ソラは東方民族か?」

 サンガが言った。

「東方民族にしては…肌が白いと思うぜ? でも、黒髪に黒い瞳だしな」

 ジョナサンが僕の顔をまじまじ見ながら言った。

「それにしても、『ガイア』なんて地域は聞いたことがないな。どこなんだ?」

「どこって言われても……」

 サンガの問いの答えに迷った。人種は近いかもしれないけど、なんと言えばいいのだろう。「別世界から来ました」なんて言えないもんな。…まあ、隠す必要もないんだが、頭のいかれた奴と思われてもあれだし…。

 そうやって迷っていると、また階段から誰かが上ってくる音がした。みんな後ろに振り向き、誰が来たのかを確認した。それはレンドだった。

「なんだ…まだ起きてたのか? もう真夜中だぞ」

 部屋に行ってみると、僕とヴァルバがいなかったので、ここに上がってきたらしい。真夜中といわれても時計が無いので、時間が具体的にわからない。真夜中なんだから、12時くらいだろうか。

「なぁ、レンドは『ガイア』っていう場所を知っているか?」

 ルーシーが座ったままの大勢で上半身をそらし、自分の後ろに立っているレンドに訊いた。レンドは僕がどこから来ているのを知っている。なんて答えるんだろう…。

「『ガイア』っていうのは、ロンバルディア大陸のもっと東にある大地のことをそう呼ぶらしいんだ」

「ええ!!」

 この説明に、デルゲンを除いてみんな驚いていた。もちろん、僕やアンナも同じように驚いていた。デルゲンは声を発しなかったものの、顔は硬直している。デルゲンって意外とポーカーフェイスなのか、冷静な人間なんだ。

「ロンバルディア大陸とアルカディア大陸以外の大陸から来たのか!?」

 みんなが僕に詰め寄り、同じような質問を投げかけてきた。

「え? えっと…ええ〜……」

 僕が言ったわけではなく、レンドがうまく嘘をついたので、なんと言えばいいのかわからない。

「そうだって。けど、ソラはここに来る船が途中で嵐に見舞われて、あそこでの記憶が無いんだ」

「!!?」

 う、上手いな……嘘をつくのが。聞いている僕でさえ、驚いてしまう。

「そっか〜。ソラ坊も苦労したんだなぁ」

 ジョナサンはそう言うと、なぜか知らないが泣き始めた。もしかして、酒を飲んだら涙もろくなってしまうという、泣き上戸というやつか?

「俺もよ〜、若いころはいろいろと悪さばっかりして、親を悲しませるようなことをしたんだよ…」

 さっきの話とまったく違う話のように聞こえるんだけど…。……つか、若いころって言っても……ジョナサンはまだ24歳じゃなかったっけ。

 みんなは笑いながら、ジョナサンの泣き上戸をからかったり、なだめていた。こうして見ていると、やっぱり「海の男」という空気を感じる。ミレトスでの飯屋で見た男たちと同じような気がする。あそこでからんできた男たちも、きっとこんなふうに酒を飲んだり、仲間たちと大笑いするんだろう。

 そういえば、父さんが知り合いの人たちと酒を飲み合っている時も、こんな感じだった。もしかして、酒って人を和気藹々にさせる魔法の薬なのかもしれない。…けど、ヴァルバとかみたいな酔っ払いは絶対に認められないがね。


 その夜、僕はなかなか寝付けることができないので、みんなが寝静まった後、甲板に出て、1人でたたずんでいた。理由は、今日は月が満月だということ。ヴァルバとレンドのいびきがとんでもなくうるさいこと。これは1日目、2日目も同じだったのだが、酒を飲んだせいか、耳をふさいでもそのいびきから逃れることができない。

 1番の理由は今日、みんなといろいろな話をして故郷を思い出したからだ。いや、いつも気にかけているのだが…なんでだろう。頭から離れない。ぴったりくっついて、僕の耳元でささやいている。こういうときは、簡単に寝付けることなんてできない。

 この世界は簡単に言えば、「ファンタジー世界」。ゲームでよく見る、冒険があったり、仲間がいたり、武器があったり、海賊がいたり、いろいろな国があったり、魔法があったり、世界を滅ぼそうとする悪の秘密結社がいたり…。たった10日ほど前まで、僕は長束町で高校2年生として生活していて、何不自由の無い暮らしをしていて、ゲームもするし、遊ぶし、友達と過ごしていた。電気もあった。ガスもあった。きれいな水もあった。毎日、風呂にも入っていた。

 この世界にはそういったものが無い。そう、不便なのだ。何かと自分でやらなくてはならないことがある。なのに、なぜか人々の顔は豊かに見える。1日中仕事をしていても、みんなは笑顔を絶やさない。『ガイア』では見ることもできないものがたくさんある。あそこでは、多くの人は仕事の後、疲れ切った表情で世界を望む。

 ここで見えるもの。それは美しい建造物や風景とかではなく、『人』だ。

 『ガイア』のほうが見た目は豊かなのに、『レイディアント』のほうが豊かに見えるのはなぜだろう。あの世界よりも、この世界を美しいと……懐かしいと感じるのはなぜなのだろうか。

 『ガイア』は、僕の故郷なのに。


 故郷のみんなはどうしているだろう。今頃、夢の中か。

 みんなにも、この世界を見せてあげたい。『ガイア』には無いもの、それが確かに存在する世界なのだ。僕たち、『ガイア』の人々が忘れかけている本当に大切なもの。それが、ここにはある。

 本当の豊かさ、か。

 空を探しに来たのに、それなりの充実感がある。不謹慎だが……。

 ……空はどうしているだろうか……。僕と同じで、長束町を思い出しているんだろうか。この世界を見て、何を想っているのだろうか…。この夜の中、何を考えているのだろうか…。


 …泣いていないだろうか。


 怖い思いをしていないだろうか…。

 わけもわからず、知らない世界、知らない場所に連れて来られたんだ…。怖いに決まってるよな…。

 満月の夜。漆黒の闇夜でさえ、この世界は柔らかな黄色い光に包まれる。快晴のおかげで星たちが宝石のように輝くはずなのだが、その輝きさえ月の光は吹き飛ばす。

 海に映る月が、なんとも言えないくらいきれいだ。夜空に浮かぶ満月が、この深淵の海に落ちてきたかのように見えてしまう。

 昔聞いたことがあるけど、人が湖に映った月を拾おうとして、水の中に入るが、一向につかむことができない、というエピソードを聞いたことがある。その気持ち、なんとなく理解できる。だって、これほどきれいなもの、どんな宝石にも勝るとも劣らないのだから、何とかして拾おうとするのも無理はない。

 これを見てしまうと、自分が何を考えていたのかもわからなくなってしまいそうだ。そう、泣いていることも、簡単に止まってしまう。空も、泣いたらこれを見ればいいのかもな。きっと、涙は止まるはず。

 僕は、横に置いてある剣を手に取った。最近、剣を肌身離さず持ち歩いている。自分を守る道具であり、他人を守る道具でもあるからかもしれない。いざという時のために。


 ふと、何か音がしたような気がした。こんな静かな夜の海だから、その音がはっきりと聞こえる。これは…人声? しかも、何人もの声が聞こえる。

 僕は差し足忍び足で、音が聞こえるほうに近づいていき、船から下をのぞいた。


 そこにいたのは…海賊…!?




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