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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆EPISODEⅢ ――穿たれた空と、終わりのない旅路――
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第五部⑯ ~絶望と希望~


「ようやく、会えたと思ったら……今度は私が死ぬようだ」

 ランスロットは仰向けで、傍にいるアムナリアに語り掛けた。

「……助けられず、すまない。結局、私は何もできなかった」

「そんなことないわ。いつも……励ましてくれたのは、あなただった。あなたがいなければ、私はきっと自殺していた」

 アムナリアは今にも零れそうな涙をこらえながら、そう言った。その言葉に、ランスロットは優しく微笑みかける。

「……これを」

 彼は剣を彼女に差し出した。それは霊剣アロンダイトだった。

「私の生きた証、ペンドラゴン家の証だ。君に……持っていてほしい」

「ランスロット……」

 アムナリアは頷き、彼からその剣を受け取った。そして、彼の手を強く、強く握りしめた。

「ありがとう、アムナリア。君に出逢えたことが、私の人生で最も幸福な出来事だった」

「……大げさよ」

「そうか? そうでもないさ。私にとっては……」

 二人は微笑んだ。そして、ランスロットは静かに息を引き取った。


 ランスロット=ウェル=ペンドラゴン。享年33歳。

 彼は未婚で子供もいなかったため、ペンドラゴン宗家は断絶する。

 聖書には、アイオーンに付き従った“聖騎士ランスロット”の記述があるが、ペンドラゴン家であるとは記されていない。

 アムナリアとは従兄妹同士に当たり、彼女をガルザスから救うために彼の忠実な配下として行動するも、それが結果として世界を混乱させたことに対し大きな悔恨の念を抱いていた。


 アムナリアに託された“霊剣アロンダイト”は、彼女の一族が受け継いでいくこととなる。




 ―――――――――――――――――――




 ティルナノグ帝国は終焉を遂げた。それと同時に解放軍ソティスは解散し、各地の解放軍もまた同様に解散した。僅かに生き残った天空都市の貴族――天空人は地上へ降り、グラン大陸の僻地へと逃げるように移住していった。

 地上はどうなったのか。

 歴史書には記載がない。聖書にもはっきりとしたことは記載されていない。

 実際は、次の通りだ。


 地上は再び、戦乱の世へと変貌したのだ。


 世界を支配していた帝国が崩壊したことで、各地の解放軍は解散したが、正確には“国を創った”と言うのが正しい。

 三大陸は未曾有の大戦争へと突入し、血で血を洗う戦いが続いた。



 シリウスは絶望した。



 世界を救うために戦った。そのために兄を殺した。レナさえも。

 なのに、世界は安定するどころか混乱してしまった。それならば、まだティルナノグ帝国の在った頃の方が平和だった。

 荒れ狂う世界を見、シリウスは言った。


「違う」


 シリウスは天空帝都から、地上の様子を見て呟く。否定するように、顔を振って。

「こんなの……僕が求めていた世界じゃない」

 頭を抱え、掻きむしった。頭皮に爪が食い込むほどに。


「こんな……こんなの、僕が望んだ世界の姿じゃないぃぃ!!」


 大声を上げ、喚き散らすシリウス。それを止めようと、バルザックが彼を羽交い絞めにしようとした。両足を失ったサリアは車いすで動けぬまま、ただ苦悶の表情を浮かべることしかできなかった。

「シリウス、落ち着け! 頼むから……!」


「ふざけるな……ふざけるなァ! なんで、なんでなんで、なんで殺し合うんだよ!? 僕が、僕がたくさん殺したのに! なんでまた殺すんだよぉ!? なんで……なんでぇぇぇ!!」


 皆がもう殺さないようにって、戦ったのに。僕のしてきたことは、何にもならなかった。何一つ、地上の民に伝わっていなかった。


 僕のしてきたことは、大事な人たちを殺しただけだったんだ。



 シリウスは毎日、うなされた。その度に半狂乱になって叫び、最後は自傷行為に走るようになった。彼の力を抑えられる人はおらず、共にいたバルザックもサリアも、精神を摩耗していった。



 そんなある日、シリウスはあることに気付く。

 それは“紺碧の間”に鎮座する星の遺産――セレスティアルのことについてだった。

 セレスティアルにはタイムリミットが迫っていたのだ。それは元々カイン=ウラノスが仕掛けたもので、本来であれば残り2000年近くの猶予があるはずだった。しかし、ユリウスがそれを極端に早め、ほんの数年となっていたのだ。

 だが、この時のシリウスにそれを止めようとする気概はなかった。

 滅びるならば、滅んでしまえばいい。ありのままを受け止めればいいのだ。人は僕を裏切った。当然の罰だ。もちろん、自分にとっても。


 そんな時。


 ある日の夜、悪夢にうなされるシリウスの顔に、柔らかい手が触れた。ハッと目覚めたシリウスは気付く。自分を見つめ、顔を何度も触れてくる乳幼児に。


 ――ジュリアス。


 まだ世界の歪さも、穢れも知らない人間。それはジュリアスだけではない。生まれてくる新たな命は、全て同じなのだ。


 僕が決めるなんて、できない。


 ジュリアスを抱きしめ、彼はそう思った。そして、静かに泣いた。ただただ、泣くしかなかった。

 自分の運命を呪った。でも、呪うだけなのだろうか――と。

 僕が生きているのは、多くの人の支えがあったから。どうしようもない人間がいるように、そうでない人間もいるのだ。

 世界は様々な色でできている。僕が――僕だけが、世界の命運を定めていいはずがない。


 まだ、その時ではないのだ。




 そして、彼は一つの計画を立てた。


 




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