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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆EPISODEⅢ ――穿たれた空と、終わりのない旅路――
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第五部⑭ ~ユリウス~


 ティルフィングが、切り裂いた。

 彼を。


「……ぐは……」


 その場にユリウスは仰向けに倒れる。これ以上ないくらいに、切り裂かれた傷口から鮮血が溢れ出ていた。


 サリアを斬ろうとした刹那。

 ユリウスの振り上げた剣と右腕が消し飛んだ。それはバルザックが長時間かけて詠唱し、解き放った“消滅魔法”だった。


「やれっ! シリウス!」


 バルザックの言葉と同時に、シリウスはユリウスの背後に移動していた。

「ああああああぁ!」

 彼はティルフィングを振り下ろした。それはユリウスの核エレメンタルを破壊するほどだった。


「俺は……死ぬのか」


 大の字で、ユリウスは倒れていた。今までの殺意が嘘のように、彼はまるで原っぱに寝そべる少年のようだった。

「何も――成し得なかった。何も」

 独白。

「俺はなぜ、生まれたんだ。どうせなら……普通の人間として生まれたかった」

「…………」

 シリウスは、既に剣を置いていた。ユリウスとレナの返り血で、真っ赤に染まった“聖剣”を。

「天帝の血なぞ……いらなかった。なぜ、俺なんだ……? なんで……」

 どうして“ユリウス”だったのか。

 俺でなくとも、よかったじゃないか。なぜ俺でなければいけなかったんだ?

「……親家族、兄弟で殺し合う。それが、天帝なのだ。呪われた一族……滅び去ってしまえばいいものを」

 ユリウスはゆっくりと、シリウスに目を向けた。シリウスは何も言わず、顔を伏せていた。


「……お前も……辛かったな」


「え……」

 ユリウスの言葉に、シリウスは顔を上げた。なぜ、そんなことを。

「こんな兄で……すまない」

「え……え?」

 どうして、この期に及んで謝るんだ。シリウスは、やめてほしかった。謝ってほしくない。謝るということは、自分の罪を認めたということだ。


 兄に――兄殺しをさせるほど僕を追い込んだ兄上に、そんなことをしてほしくない。


「俺が兄でなければ……お前は、立派な天帝になれていた。俺がいなければ、お前がたくさんの争いごとに巻き込まれることなんてなかった。お前はいつも、俺を支えようとしてくれた。だから、いつも傷付けられた……」

 今までの彼の状態が嘘のようだった。それだけ、異質に感じるのだ。

「俺のために……すまない……シリウス」

「兄、上……」

 ユリウスは小さく微笑み、上空を見上げた。幼き日々、憧れた空の青さはそこにある。思春期を過ごしたクイクルムの淡い青空も、あそこにある。手を伸ばせば、届きそうだった。

 何もかも忘れて、何もない場所へ行こう。

 そこでまた、新しく始めよう。

 権利も義務も存在しない、楽園で。

 君たちと。


 ああ、眠たくなってきた。


 早く、君の声が聴きたい。

 柔らかな指先に触れたい。

 そのきめ細やかな髪を撫でたい。

 君の幼くも艶やかな唇に口づけをしたい


「もう……楽になれる。俺は……」



 ――疲れたんだ――



 ユリウスは死んだ。魂がようやく安寧の地を探し当てたかのように、彼は微笑んでいた。





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