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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆EPISODEⅢ ――穿たれた空と、終わりのない旅路――
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第五部⑧ ~最後の戦いへ~


 シリウスはバルザック、ランスロット、そしてサリアと共に天空都市へと向かった。アイン=ロロはロスメルタたちと同伴し、レナと息子・ジュリアスも一緒に南へ向かうこととなった。


 大都カナン。

 かつてグラン大陸を支配していた大国・シアルフィ帝国の首都として栄えた場所であり、至上天帝カインはそこを地上の中心都市としていた。そのため、各エリアにある都市とは比べ物にならないほど発展しており、コンクリートジャングルとも揶揄されるほどの都市だった。

 その中心にある巨大なビルの最上階に天空へ通じる装置があり、それは天都・セレスティアルへ直行できるようになっていた。



 シリウスたちを見送ったロスメルタは、そのビルを見つめながら目を瞑った。

 私には、私のやるべきことを……しなければ。

 決意を胸に秘め、彼女は踵を返した。しかし、その直後に気付く。()()()()()()()()()。いや……()()()()だ。


「……レナ?」



 ――――――――――――――――――――――





「ランスロット」

「なんだ?」

 長い通路を歩く最中、シリウスは訊ねた。そこは天空都市群を繋ぐ、長い長い通路だった。

「あなたはなぜ、帝国のために戦おうとしたんですか?」

「それはまた、難儀な質問だな」

 ハハハと、ランスロットは笑った。

「単純に、私が貴族の生まれであり、軍人だからさ。物心ついた時から、自分は父や祖父のように軍人になるのだと思っていた。軍人ならば、国に忠誠を誓うのは当然だろう?」

 難しいと言っておきながら、まるでのどまで出かかっていた言葉のようにスラスラと彼は言った。

「……それが、祖国というものなんですかね」

 シリウスはため息交じりに、そう言った。

「僕は国のためではなく、自分のために生きてきたように思う。……兄さん――いえ、兄上を帝位に戻すことで、自分の存在意義を獲得できるように思っていましたから」

 祖国――ティルナノグは、僕たちを苦しませてきた。この国でなければ――皇族でなければ、もっと違った生き方ができたんじゃないかって思う。

「理由が必要なのか?」

 ランスロットは立ち止まり、言った。シリウスたちも、彼の方へ向き直った。


「理由など必要あるまい。理由を求めれば求めるほど、本来あるべき姿を失う。目的が変わることだってある。周囲に理由を求めてはならない。君は君であるために、戦う。そうじゃないか?」


 自分が自分で在るために――

 きっと、それが究極の理由なのだ。だけど、人は理由を求めずにはいられない。


 誰かを失う哀しみを無くしたいから……。

 誰かを求める苦しみを無くしたいから……。

 

 いつだって、理由を求めて彷徨い続ける。時折、心の奥底が深淵よりも暗く、途方もない孤独感が満ち満ちているのがわかる。

 それが意味もなく、怖いのだ。

 強がっているだけで、僕は弱い。みんなが思うほど、強くないのだから――。


「こら」


 その時、サリアがシリウスの後頭部を軽くはたいた。まるで悪い虫を除けるかのように。

「悪い癖だよ、それ」

「え?」

 わかっていない彼の顔を見て、サリアはわざとらしくため息をつく。知らぬ間に地雷を踏んでしまった――と、シリウスは焦ってしまった。

「何を考えてるのかわからないけど、どうせ消極的なことでしょ?」

 やれやれ、とサリアは呆れていた。

「……あなたは、あなたでしかない。それ以上でも、それ以下でもないよ」

 彼女はシリウスの胸に、そっと触れた。触れたら壊れてしまいそうなものに触ろうとするほどに優しく、それでいてはっきりとした感触を確かめながら。


「ね? シリウス」


 サリアは真っ直ぐ彼を見つめ、微笑んだ。

 シリウスは思う。彼女の表情は――なぜだか、胸の奥を締め付ける。それは切なさを伴うもので、知る由もない自分の深層心理の奥底、或いは別人であった時の記憶にあるかのような、不確かな記憶の中にあるものだった。だけど、それが何なのかがわからないのだ。


 その時――


「二人とも、危ない!」


 バルザックの声が、通路内に響き渡る。シリウスは咄嗟にサリアを抱え横へ倒れこむのと同時に、閃光が彼らを掠めた。その閃光は一瞬にして天井と床を裂き、崩れていった。

「……お前たちは……!」

 “敵”のいる方向を見て、ランスロットは目を大きく開いて呟いた。その先にいたのは、二人の男たちだった。皆、白い軍服を羽織っていたのだろうが、それはまるで闇のような暗さを混ぜ込んだような黒さで塗りつぶされており、それらから放たれているであろう微かに香る臭いには、腐乱した血のそれが纏わっていた。


「ガラハッド……ガルハール……」


 ランスロットは、そう呼んだ。その名に、シリウスたちは聞き覚えがあった。

 ペンドラゴン家の“三神将”――ガレス、ガラハッド、ガルハール。

 ランスロット共に戦地を渡り歩き、数多くの武勲を立ててきた部下であり、友の名だった。


 しかし、彼らの姿はランスロットの知る()()とは、かけ離れているものだった。


 肌の色は腐敗しているかのように青黒く変色し、眼球はむき出しになり瞳の色がどこにもなく真っ白で、それの表面を赤々とした血管が枝のように広がっていた。頬はやせこけ、あちこちから表皮が剥がれ落ちて腐葉土のような筋肉の線維がむき出しになっていて、炭のように黒い血があちこちから垂れ流されていた。


 そこに立っているのは、人ではない。()()()()()()()()()


「死……ね」


 ガルハールに似た()()は、手をシリウスたちの前に広げた。そこから闇色の光が飛び出し、うごめきながら彼らを襲った。


「――クリスタルシェル!」


 サリアの声と共に水晶のような光の膜がドーム状になり、シリウスたちを覆った。闇色の光はそれに阻まれるも、諦めず光の膜を覆おうとしていた。

「巫女、私に任せろ!」

 ランスロットはそう言うと、剣を抜き天井にかざした。


「白き樹海、氷霧の檻に震えて沈め――紅蓮の氷河“レイシヴェルサ”!」


 詠唱と共に剣の氷のような刀身から水色の光が拡散されると、巨大な氷の壁が奴らに向かって突進していった。闇色の光もそれに押し戻されていった。

「……ランスロット卿、彼らは……!?」

 バルザックがそう問うと、ランスロットは前を見据え、剣を下ろした。

「私の部下だ。顔は多少見覚えがある程度になっているが……見間違えるはずがない」

 ランスロットは歯ぎしりをするほどに食いしばり、拳も強く握りしめた。

 私だけが、間に合ったというのか……!


「シリウス、サリア、バルザック! そなたたちは先へ進め!」


 ランスロットは数歩前へ出て、剣を構えた。

「……私を助けるために、彼らはああされてしまったのだ。私が責任をもって、彼らを()()!」

 救う――それはおそらく、言葉そのものの意味ではない。あの呪縛から“救う”……そういった想いが込められていた。

「で、でも……!」

「私を誰だと思っている? 我がペンドラゴン家は、帝国の剣であり矛――その象徴だ。二対一だからと言って、負けんさ!」

 シリウスの言葉を遮り、彼は得意げな表情を浮かべて言った。

「……わかりました。行こう、二人とも!」

 シリウスの言葉にサリアたちは頷き、彼らはランスロットを置いて先へ進んだ。




「この程度では、効かんだろうな」

 フッと、ランスロットは微笑む。ペンドラゴン家は、代々氷雪系の魔法を得意としてきた一族。家長のみに使用が許される剣――“霊剣アロンダイト”に内蔵されている“核”も氷雪系のエレメンタルである。しかし、その高い戦闘能力と潜在エレメンタルから皇室より危険視され、彼らのフェイルセイフとして育成されたのが、炎熱系の魔法を得意とする一族――すなわち、“三神将”だった。

 ランスロットの放った魔法の氷塊は崩れ落ち、大量の水蒸気が立ち上っていた。それらを吹き飛ばすように、奴らの周囲を炎が渦を巻いて広がっていった。


 ガラハッド、ガルハール。

 

 本当であれば、私がそなたたちのような姿になっていた。私を少しでも生き永らえさせるために、あのような姿にされることをわかって、ガルザスに懇願した。


 ――我々を先にやれ――


 なぜ、私を助けたのか……いや、簡単なことなのだ。それが臣下である、己の使命だから……。


「閣……下……、こ……ロし……」

 うめき声のようなものが、彼らの口から零れる。

「……今、楽にしてやる」

 ランスロットは小さく頷き、アロンダイトの切っ先を彼らへ向けた。











 



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