第五部④ ~別れ~
神の雷――それは“インドラ”と呼ばれる、帝国の誇る兵器だった。
かつて、初代帝国宰相であるフェイウス卿が開発した、恐るべき兵器の一つである。天空都市群の核である“セレスティアル”のエネルギーを利用し、大地に降らす閃光。兵器が利用されたのは、開発された当初の一度のみ。一瞬にして大地を破壊し尽くしたと伝えられていた。
ガルザスは、それを使用したのだ。
自軍の兵もろとも葬り去ることを確信して。
「神の雷……なんと美しい光よ。我らが統制主――アベルの遺した、最高の兵器だ」
ノーレイアは壊滅し、都市を守っていた帝国軍だけでなく、撤退を開始していたガレス少将も巻き込まれた。無論、都市に住む多くの人々も。
帝国側の犠牲者は少なく見積もっても30万人以上。
この作戦を知らされていなかったランスロット卿は、ガルザスに対し詰め寄るも、逆に兵権を取り上げられ幽閉されてしまう。
「レーグが……死んだ……?」
ボロボロの服装で、ロスメルタの言葉にシリウスは現実を受け入れられなかった。
「私を助けるために……私に……転移魔法を……」
溢れ出す涙を堪え切れず、ロスメルタはその場に崩れた。
兄に等しく、師にも等しかった従兄のレーグ。自分の護衛を務め、常に護ってくれていた。どんな状況であろうと、私を見捨てなかった。
抑えきれない嗚咽。シリウスの執務室で、彼女の叫び声が響き渡る。彼女のレーグを信頼していた想いの大きさそのものを、現すかのように。
「ロスメルタ……奥で休もう。ね?」
サリアはしゃがみ込み、彼女を優しく抱きしめ囁くように言った。しかし、ロスメルタはそれすらも否定するかのように、首を振る。
「私が生きる資格なんて……ないのに。レーグがいなかったら……私は生き残ることが、できなかった。私一人じゃ……何もできないの。……何も、できない……のに。自分を犠牲にしてまで、私が生きる価値なんて……」
泣きじゃくりながら、ロスメルタは言葉を放つ。過去の想い出が、灯が宿るようにして脳裏に浮かぶ。いつだって、レーグは私を支えてくれていた。強い人であれと――私を導いてくれた。道標を失った自分は、どこへ向かえばいいのかわからない。
レーグのいない世界は、想像を絶する闇だったのだ。
サリアはより強く、彼女を抱きしめた。
「そんなことない。……そんなことないよ……ロスメルタ」
サリアは目を瞑り、顔を振った。
「あなたが生きてくれることが、レーグさんの……何よりの希望なんだと思う。だから、あなたに生きてほしいって……助けたのよ。だから、価値がないなんて……言わないで」
「……でも……」
「あなたは私の友達。そんなあなたに価値がないなんてこと、あるわけない……」
「サリア……」
レーグ=リアンガヴラ――
享年、28歳。
ソフィア教における教典では、彼を“英雄フィン”の従者として記している。そして、こう綴られている。
――初代教皇アイオーンを助け、人の世を切り拓いた英傑であり、イデアの地に田畑を授けた――




