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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆EPISODEⅢ ――穿たれた空と、終わりのない旅路――
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第五部③ ~ノーレイアの会戦~


 懐妊したレナは、ロンバルディア大陸へ戻ることを拒んだ。

 シリウスたちは戦が激化する前に、なるべく安全な場所で出産が出来るようにと考えてのことだったが、彼女はその善意に見向きもせず、己の妄想を吐き出すだけだった。


「私もあの女のように、辱められて殺されてはかないません」


 それがリタを指すものだということは、誰にでも理解できた。その言葉は、エンヴィーのものではない。彼女本人の言葉だった。ずっと抱いていた羨望と嫉妬。リタのいた場所に、自分がいるという優越感。それは、出産をすることで叶えられるのだ――と。


 それから半年後、彼女は男の子を出産した。

 名はユリウスから取り、“ジュリアス”と名付けられた。

 この子供こそが、後にソフィア教を拓き、ソフィア教国の礎を築いた“ジュリアス1世”である。


 それから、レナは体調を崩していった。元来、あまり体は強い方ではなかった。出産を経ることで、命を削ったかのように彼女の顔色は悪くなっていった。



 ――――――――――――――――――



 帝国軍は拡大しきった戦線から軍を撤退させ、主要都市で軍を再編。50万以上の兵力で、ソティスの正規軍を叩こうとした。

 軍を指揮するのは、ペンドラゴン家の“三神将”と謳われる、帝国軍少将「ガレス=バース」。彼は西方司令官だったが、ソティス撃破のためにグラン大陸へと戻ってきたのだ。

 ガレス軍とシリウス率いるソティス正規軍は、ノリクム地方のノーレイアで相見(あいまみ)えた。後年、「ノーレイアの会戦」と呼ばれ多くの犠牲者が出たことで有名となった。




 ノーレイアはロムルス地方に近く、ノリクム地方の中心都市として栄えている場所だった。山岳地帯が少なく、ガリア地方より広がる草木の少ない大地の上を、コンクリートで埋め尽くしていた。


 ガレス少将は、軍を多面展開していた。平坦な場所であるが故に、見晴らしがよすぎるため軍を集中させるのではなく、分散させたのだ。その陣形は巨大なひし形がいくつも並ぶ形になっており、どんな方向から攻撃されても対応できるようになっていた。もちろん、それは各隊の熟練度が高くなければできない。

 その陣形の様相を、上空からの無人偵察機で見たシリウスは感嘆した。さすが“三神将”と謳われる将軍だと。

 正面からの特攻しては、自軍の被害が大きくなる。兵力もあちらが圧倒的なため(ソティス軍・正規軍は約30万ほど)、戦いが長引けば長引くほど不利である。

 シリウスは考えた。圧倒的多数に対し、勝利するには“奇襲作戦”であると。すぐさま北上を続けるロスメルタ軍へ連絡をし、作戦を告げた。




 それから7日後、ソティス軍はガレス軍へ正面から突撃した。激しい戦闘が繰り広げられるも、ソティス軍は日没前に撤退を始めた。追撃を行うことで戦線が伸びることを懸念したガレス少将は、追撃を中止。ノーレイアの南2キロの位置に軍を駐留させた。

 それからソティス軍は10日連続で、同じ行動を行った。すぐに撤退を始めるため、ガレス少将の側近たちはそろそろ追撃を開始するよう進言する。しかし、ガレス少将は今まで帝国軍を打ち負かしてきたシリウスには、策があるのではないか――と思案していた。こちらをおびき出させ、そこを挟撃するのか。或いは、薄手になったノーレイアを別動隊が奇襲する可能性も否めない。

 どちらにせよ、主要都市を制圧させないことが当面の目的である以上、追撃する必要はないとガレス少将は判断した。

 この間、ソティス軍は昼ではなく夜に攻撃を仕掛けるようになり、夜戦が多くなっていた。

 そういったソティス軍の攻撃に対し、我慢の限界に達したガレス少将の部下・アインス大佐は追撃を行うことを再度進言。兵の鬱憤を多少吐かせるのも必要と判断したガレス少将は、アインス大佐に1万の兵を預け、追撃の命令を出す。

 この時点で、開戦してから2か月が過ぎていた。


「とうとう、あちらさんも出てきたな」

 偵察機の映像を確認しながら、白髪の壮年男性――シリウスの戦友・カラバーンは言った。

「ガレス少将の軍は血気盛んだと聞いていたから、痺れを切らすのも時間の問題だと思っていた。でも、たぶん一個師団程度しか追撃させないだろうね」

 こくりと、シリウスは頷きつつ言い放った。

「ロスメルタとレーグたちは?」

「ノーレイアから東へ10キロ地点。あと1時間で、サリアの用意した魔法が発動する」

 シリウスはそう言って、時計に目をやった。深夜1時過ぎ……今夜が最初で最後のチャンスだな。

「よし、じゃあ俺は持ち場に着くとしよう。シリウス、指揮はは頼んだぞ」

「うん。大丈夫、きっとうまくいくよ」

 シリウスが笑顔で言うと、カラバーンは彼の胸に拳を置いた。

 彼が出て行ったあと、一人、シリウスは執務室で目を瞑った。


 必ずうまくいく……。

 ロスメルタ、レーグ……。どうか、無事で……!




 撤退するソティス軍を追撃する途中で、アインス大佐軍の前方で大きな爆発が起きた。それはアインス軍を包囲するようにして起き、まるで巨大な堀となった。

 それと同時に、ノーレイアへロスメルタたちが襲撃を行った。彼女たちの突拍子もない出現に、ノーレイア防衛軍は混乱した。なぜなら、彼女たちは“上空”からやってきたのだから。

 実はロスメルタたちには、飛空艇が与えられていた。それは、バックボーンであるアイン=ロロから秘密裏に手に入れていたのだ。


「今だ! 全軍、転進し本陣を目指せ!」


 シリウスの大号令と共に、撤退していたソティス軍は反転して敵軍陣営へと突撃した。


「まさか、空から来るとは……!」

 背後にあるノーレイアに立ち上る噴煙や悲鳴を見ながら、ガレス少将は悔しさのあまり歯を強くかんでいた。

 ノーレイアは混乱している。指揮系統はうまく機能しないだろう。それを取り返そうにも、前方からはシリウスの軍が来ている。挟撃されれば、兵力に勝っていようと敗北は必至。ここは、やむを得んだろう――。

「将軍、このままでは全軍総崩れになります!」

「……致し方あるまい。ノーレイアは放棄し、包囲網から脱出を図る。各師団は分散させ、後方のイメリアにて軍を再編する」

 ガレスは早々に退却を決断した。今の段階であれば、ノーレイアを失う程度で済む。ここでこの大軍を失ってしまっては、後々の戦いに影響を及ぼしかねない。ノーレイアは重要な拠点だが、数に利を失うわけにはいかない――。



 その時、闇夜の中天に光がほとばしる。

 大地を一瞬照らしたそれは、閃光となって地上に降った。まるで、巨大な光の柱が立つように。


 それは神の雷――そう呼ばれる、天空都市の兵器だった。




 







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